超能力登校レースでカーストが決まる学校を『デコピン』の能力で生き抜けってバカじゃないの? 作:一般通過生徒T
一悶着あった翌日。
開門の五分前に山下の校門前へ来てみれば、そこには人だかりがあった。
人が多すぎて校門が見えなくなってる。
まさかこれ、全員私たちの勝負を見に来たのかな?
だって、なんかすごい見られるし。
昨日も、教室で噂されてたしなぁ。
ここまで人がいると、全然前に進めないかも。
私が目当てなら、道を開けてくれないかなぁ。
なんて思っても、どいてくれる様子はない。
それにしても、真矢様とやらはどこにいるんだろう。
持って来た自転車に立ち乗りして、人の群れを観察してみる。
すると、校門を遮る鉄の門扉の前に、やたら目立つ金髪ドリルがいた。
あれは昨日絡んできた真矢様とやらに間違いない。
まさか……取り巻き総動員して、私の進路を妨害しようってわけ!?
そう思っていたのだけれど、まもなく開いた門扉によって私の考えは否定された。
なんと主役である私を無視して、皆一斉に山道を登り始めたのだ。
私も負けじと漕ぎ出したけれど、人が多すぎて前に行けない。
この人たち邪魔だなぁ!
そう思った私の願いが通じたのか、人の群れはどんどん森の中に入っていった。
よく見れば真矢様とやらの姿も見当たらず、気がついた時には周りにいた全員が森の中。
山道を登っているのは私だけになった。
まさか……昨日上級生を見かけなかった理由って、こういうことなの?
でも、何のために森の中に……。
考えてもわからないけれど、今は勝負の時だ。
誰も見当たらないのは不安だけど、足で自転車に勝てるものか。しかも電動自転車だぞ。
そう思いながら必死に漕ぎ続けること十五分。
山道を一人で登っていると、急な不安感が襲って来た。
いまだに誰もみかけず、己との勝負のようになっている。
あれだけいたはずの人が、この道を選ばず森の中を選んだ。
きっとなにか理由があるんだと思わずにいられない。
それでも……この勝負に負けたら自転車を取られちゃう。
こんなふざけた勝負で取られてたまるもんか。
意地で漕ぎ続けていた甲斐があってか、山頂の校門が見えてきた。
やった、誰もいな……くないな。
一人、森から出てきた生徒が私の前を行く。
とても……とても嫌な予感がする。
あの生徒が一番乗りだと思いたい私の心は、校門を通過した時に否定された。
校門をくぐれば、十数人の生徒が校舎に向かっていくのが見える。
もうこんなに来ているなんて……。
思い出すのは、昨日の言葉。
あの真矢様とやらは、なんと言っていた?
たしか、四番目に登校したとかなんとか……。
嘘だと思いたい気持ちを否定するように、パラソルテーブルが中庭になびいていた。
ゆっくり近づくと、真矢様とやらが余裕の表情で紅茶を嗜んでいる。
その光景を見て思ったことはただひとつ。
負けた悔しさでも、自転車より速いことに対する恐れでもなく――。
「――まさか、こんな時間から来てずっとここにいるんですか? 暇なんですか?」
わざわざこの時間からここにいる暇さ加減への憐れみだった。
言われたことが理解できないといった様子の彼女は、凛とした顔から一転、ぽかんと口を開けたまぬけな表情をする。
お嬢様でもこんな顔するんだなぁと思っていたら、彼女が口を開いた。
「随分余裕ですけれど、その態度がいつまで続くかしら? あなたは私に負けたんですのよ?」
「……それは見たら分かりますよ。これだけ生徒が来てる中、余裕で紅茶を飲まれてちゃね。もう一度言いますけど、暇なんですか?」
「私より遅くくる生徒をながめながら紅茶を飲む時間を至福の時としているのです。それを暇だなんて、人聞きの悪い」
「……その行為自体が大変悪趣味で人聞き悪いと思いますけどね」
言われたことに思い当たることがあるのか、彼女はごまかすように咳払いをする。そして、やおら口を開いた。
「……私のことはいいのですわ。そんなことより、勝負の結果です。約束はお忘れではないでしょうね?」
「これだけ余裕で勝たれたら負け惜しみを言う気も起きませんよ。自転車は約束通りあなたにあげます」
本当はあげたくないけど仕方ない。
余裕で勝てると思っていた私の慢心だ。
授業料としておとなしく献上しよう。
そう思っていた私の言葉を否定したのは、他でもない、自転車を要求した彼女だった。
「なにか勘違いしていませんこと? 私が賭けの対象に選んだのは、お互いの要求です」
「だから、自転車でしょう? 今日からこの乗り物はあなたのものです。何も知らない下級生から強盗まがいに接収して、さぞ気持ちがいいでしょうね」
負け惜しみで嫌味を言ってやったけど、続く彼女の言葉で私の考えが甘かった事を知った。
「――いいえ。私が望むのはあなたの退学です」
「は?」
「聞こえなかったのですか? あなたには、退学していただきたいと言ったのです」
「そ、そんなこと言われたって困ります! 退学したら、超能力免許貰えなくなるんですけど!」
急に横暴な要求をされて、思わず声がうわずった。
焦る私の様子を見て、こんな要求をした悪魔は満足そうに微笑んでいる。
「ですから、それが目的です。舐めた口を聞いてくれたお馬鹿さんには丁度いいお灸ではないですか?」
「昨日は退学だなんて言ってなかったのに! 自転車が欲しいんじゃなかったの!?」
声を荒げて食いかかっても、悪魔は涼しい顔だ。
「賭けるのはお互いの要求と私は言いました。その時からあなたには退学して欲しいと思っていましたのよ? それに、私はきちんと忠告いたしました。校則をよく読み込むように、と。登校決闘の場合は退学要求なども認められると書いてあるはずですが?」
慌てて生徒手帳を確認すれば、確かにその趣旨が書いてあった。
「そ、そんな……」
身体から力が抜けて、地面にくずおれる。
ここを退学したら、もっと厳しい施設に行かなきゃいけなくなってしまう。
ここですらやっていけるか不安なのに、これ以上だなんて。
終わりだ、何もかも。
一体何がいけなかったんだろう?
勝負に乗ったこと?
素直に自転車をあげなかったこと?
それとも生徒手帳を読まずに自転車通学してしまったこと?
どれも間違いではないだろうけど、招かれた結果は間違いであって欲しかった。
こんな簡単に退学が決まるなんて、今でも信じられない。
ただの口約束なんか無効だと思いたいけど、この学校は校則からして異常だ。
それに、皆して必死に登校順を競っている。
道じゃない道を行くのだから相当だ。
それだけ、この学校では登校順に重きを置いているのだろう。
こんな横暴が許されていいのかとも思うが、超能力者なんてイカれの集まりだ。だから、それを育成する機関もイカれなんだろう。
意味のわからない校則がその代表例だ。
そして、校則に乗っ取れば、私の退学は決まったも同然。
どうしよう……。
いくら使えない超能力と言えど、免許がなければダメなのに。ここを追い出されたら、刑務所のような施設に行くしかなくなる。
噂では、かなり厳しいらしい。
この学校でもこんなにイカれてるのに、これ以上なんて想像したくないよ……。
でも、この悪魔は謝っても許してくれなさそうだし、交渉の材料もない。
私の力ではもう無理だ。
退学が覆らなさそうなことに絶望していると、何やら口論するような声が耳に入ってきた。
「なぜあなたが出しゃばってくるんですの!?」
「この子は新入生なんだろう? それをカモにするのはいささかフェアじゃないと思ってね」
私を退学させようとした悪魔を諭しているのは、ミディアムボブとでも言うような髪型をしたボーイッシュな雰囲気のお姉さんだった。
女学園の王子様と言うのがぴったりで、大変人気がありそうだと、どうでもいいことを考えてしまう。
――それにしても。
話を聞いている限り、あの悪魔はこの人に頭が上がらないみたい。
今も、告げられた言葉に悪魔はおよび腰だ。
あんなに威張っていたのに、押し負け始めている。
「この不届き者は、私のことをただ早く来ただけとおっしゃったのですよ? 許せる訳ないではありませんか」
「事実じゃないか。それでも早く来たことにこだわるなら、それこそボクの言うことは聞かないとね」
「なっ、登校決闘に口出しすると言うのですか!?」
「入学したばかりの新入生にふっかけておいてよく言う。それならボクと退学をかけてサシ勝負するかい? 四番手さん」
ボーイッシュさんがそう言った途端、悪魔は苦虫を突っ込まれたような顔をした。大変不本意なんだろうけど、彼女はなんとか飲み込んで、声を絞り出す。
「っく……わかりましたわ。今日のところは引いて差し上げます。ですが、覚えておきなさい。私の邪魔をしたこと、いつか必ず後悔させますわ」
悪魔が去ると、取り巻きの人たちも慌てて後に着いていく。
どっか行った、ってことは退学しないでいいのかな?
一応、助けてくれた人にも確認してみよう。
「……あの! 私は退学しないで済むんですよね?」
「あぁ。大丈夫だよ。また突っかかられたら、ボクに相談して。守ってあげるから」
「守る、ですか。失礼ですが、どんな権力があればあの悪魔を黙らせることができるんですか? もしかしなくても凄い人ですよね?」
ボーイッシュさんの素性が気になって尋ねてみると、彼女はなんてことないように答えた。
「別に凄くなんてないさ。ただ、毎日最初に登校しているというだけ」
毎日最初に登校している。
つまり、イカれた校則のある学校で、頂点ということだ。
「毎日最初に、ですか……それはまた、凄まじいですね」
自転車通学しても何十人と先に登校していたのに、その中のトップ。
どうやらすごい人が助けてくれたみたいだ。
「本当はカーストなんて興味ないけど、遅く登校すると周りの人が鬱陶しくなるからね。一番に来れば誰も逆らえないでしょ?」
それに、どうやら身を守るために早く来ている様子。
あの悪魔のように誰かを従わせるためとかではなく、自己防衛のため。
それが極まり、一番をキープしている。
まさに私の理想像と言えた。
そうと分かれば、あとは決まったようなものだ。
私は意を決して、ボーイッシュ先輩に話しかけた。
「あの、お願いがあるんですが」
「なにかな?」
「早く登校するための指南をしてください。身を守るためという貴方の目的に、感銘を受けたんです。私も、私利私欲ではなく、自己防衛の手段として早く登校したい。そのために、一番早く登校できるあなたの力を借りたいんです!」
一息にそう言うと、彼女は困ったような顔をした。
「まいったな……ボクが速いのは能力頼りだからで、人に教えられるようなことは少ないんだけど……」
「それでもお願いします! いくら少なくても、私でもできることはありますよね?」
「うーん……ボクのはちょっと特殊な能力だから他の人に応用はしにくいんだけど……」
なおも渋るボーイッシュ先輩。
このままでは頷かないと悟ったので、趣向を変えてみることした。
「教えられることは少なくてもいいんです。あなたと一緒にいる、ということが大事なので」
「ボクといることが大事?」
ボーイッシュさんは不思議そうな顔をした。
よし、興味を持ってくれてる。これならまだ押せそうだ。
「はい。一人でいたら、いつあの悪魔に絡まれるかわからないですし、あなたの目が届く範囲にいれば守ってもらえると思ったんです」
「なるほどね……ボクの肩書き目当てというわけか」
この反応は、どうだろう。
正義感が強そうだから情に訴えかけたけど、しくじったかもしれない。
断られたらヤバいのは本当なので、ここで畳み掛けるために泣き落としに移った。
「ダメ、ですか……?」
潤んだ瞳で彼女を見つめると、困ったような顔をして、狼狽えていた。
「わあ! 泣かないで! ちょっと疑っちゃっただけだから! ほら、一番だと絡まれることは少ないけど、利用しようと近づいてくる人もいるからさ。まぁ、キミが同じじゃないと言えば嘘になるけど、放っておくと危ないのは事実だもんね」
「そうですね。助けてもらった上に心苦しいのですが、こうでもしないとまたあの悪魔に絡まれて結局退学になりそうなので……」
ボーイッシュ先輩は少し悩んだ後、意を決したように口を開いた。
「……うん。わかったよ。しばらくキミの面倒を見よう。とはいえ、朝は一番に登校しないと面倒なことになるから、見るのは放課後になるけど。それでもいい?」
「構いません! 見てくれるだけでもありがたいです!」
やった! ダメ元だったけど、オッケーを貰えた!
「それじゃあ、名前を教えてくれるかな? ボクは小鳥遊(たかなし)翔(しょう)。キミは?」
なんか男の子っぽい名前だな。私の名前と真逆だ。でも、見た目に似合ってるかも。私なんて若干名前負けしてるしね。ちょっぴり恥ずかしいけど、名乗らないのは失礼なので自分の名前を口にした。
「私は東雲(しののめ)珠姫(たまき)です」
「なら珠姫ちゃんって呼んでいい?」
「はい。よろしくお願いします、小鳥遊さん」
「翔でいいよ。そっちの方が仲良さげで牽制になるでしょ?」
「わかりました、翔さん」
「これからよろしくね」
「はい、ありがとうございます!」
よし! この学校で最上位カーストの人と仲良くなれた。
一時はどうなることかと思ったけど、結果よければ全てよし、かな。
これで、登校順も鰻登り間違いなし!