超能力登校レースでカーストが決まる学校を『デコピン』の能力で生き抜けってバカじゃないの? 作:一般通過生徒T
「これは……正直言って登校順の上位狙うのは難しいかもね……」
「そんな〜」
放課後になって登校の手解きを受けていたんだけど……。
肝心要の能力がやっぱりヒドいみたい。
「衝撃波を飛ばせるだけだとね……どうしても風の能力者の劣化になっちゃうかな……」
そうなのだ。
翔さんが言う通り、私の能力は、デコピンで衝撃波を飛ばすだけというもの。
本当になかった方がマシなくらいの能力だ。
「そうですよね。やっぱりこの能力ゴミですよね……」
わかってはいた。わかってはいたけれど、やっぱり人に言われるとへこむ。それが、毎日一番に登校するという、校内で一番能力の扱いに長けてるも同然な人に言われると余計に。
「で、でもほら、登校には使えるかもよ? 障害物を排除したり、相手が掴んだ枝を折って妨害したり」
「え、登校ってそんな物騒な感じなんですか!?」
相手が掴んだ枝を折るってなに? ただの登校じゃないの?
「これでもマイルドな方だよ。この校則は、身体能力と超能力の向上を目指すためと言われてるけど……真の目的は、能力者同士のいさかいで流血沙汰とならないためにあるらしいんだ。その証拠に、直接的な能力バトルは禁じられてる。相手を直接能力で攻撃して故意に怪我させるのは登校中でもダメなんだ」
あ、そこらへんはキチンと配慮されてるんだ。
校則あんまり読み込んでなかったから知らなかった。
能力者同士を戦わせないためってのはなんとなく理解してたけど、徹底してるんだなあ。
「ふざけた校則だと思ってましたけど、意外と考えられているんですね。あ。でも、相手が掴んだ枝に攻撃するのはありなんですか? そもそも枝を掴むってのが意味わからないですけど、怪我させちゃうなら同じなんじゃ?」
枝を掴むってなに?
パルクールでもするの?
「その辺はグレーゾーンではあるんだけど、それくらい対処できない方が悪いって流れだね。直接的に物理攻撃さえしなければ、わりと何やっても許されるんだよ。ちなみに、生徒の大半はパルクールで登校するんだ。険しい山道だとそうなるみたいだね」
あ、やっぱりパルクールなんだ。
障害物を駆使しながら道なき道を行くパルクールは確かにこの登校と相性良さそうだけど……それなら、私も翔さんに教わればある程度身につくかも。なんたって一番に登校する人だし。
「なら、私にもパルクールのコツを教えてください!」
意気揚々とお願いすれば、翔さんは苦い顔をした。
「……ごめんね。ボクはパルクールを教えることができないんだ。なにせ、登校する時に一度もしたことないからね」
パルクールを一度もしたことがない?
それなのに一番に登校してるんだ。
って、それじゃあ、師事した意味なくない?
本当に庇護下に入れるだけしかメリットないの?
なんとか活路を見出そうと、翔さんに質問した。
「それなら、なんだったら教えてもらうことができますか?」
「登校する時に使えそうなコースかなあ。ボクは使わないけど、地上を行く人たちがどのルートを使うかはよく見えるんだ」
最悪何も得られないかと思ってたけど、コース取りを教えてもらえるのは助かるなあ。
それにしても、なんか引っかかる言い方だ。
「地上を行く人たちって、変な言い方するんですね」
「あぁ。ボクの能力は空中飛行なんだ」
「パルクール教えるのが無理って言ってた理由がわかりました」
なるほど。そんな能力なら一位になるのも納得だ。なんたって、障害物だらけの道を無視して一直線にゴールを目指せるんだから。
登校では最強の能力なんじゃないの?
……まぁ、全然参考にならないこともわかったけど。
師事する人ミスっちゃったかもね。
残念がってる雰囲気が出てしまっていたのか、翔さんは申し訳なさそうに謝罪してきた。
「ごめんね。こんなボクじゃ頼りにならないよね……」
いけない。
確かに教えてもらう内容はあまり無いかも知れないけど、ネームバリューはピカイチなんだ。
ここで見捨てられでもしたら、名前を借りられなくなる。
ここはなんとか機嫌を取らないと。
「いえ、道が分かるだけでもかなり助かります。今から教えてもらえますか?」
「わかった。じゃあ、一回下まで降りて、登り直してみようか。道を覚えるために登りと下りで同じルートに行こう」
この後、日が暮れるまでルート覚えの練習に付き合ってもらった。
翔さんの能力が空中飛行だと分かった時はどうしようかと思ったけど、本人の面倒見がいいから、意外となんとかなりそう。
結局この日は、翔さんに教えて貰った効率良いルートを三往復したところで、帰路に着いた。
翌朝。
開門十分前に山下の校門に行くと、相変わらず人がひしめき合っていた。
勝負の時は勘違いしたけど、これ皆登校のためだったんだね。
勝負の観戦だと思っていたのが恥ずかしいよ。
それにしても、十分前でもこんなにいるなんて。
この人たち何分前からいるの?
そして、私と勝負した金髪ドリル髪は、今日も門の前に陣取っている。
いくらベストポジションを取りたいからって、どれだけ早く来てるんだあの人。
やっぱり上位の人はああいう涙ぐましい努力が必要なんだ。
そう思っていたら、後ろから声をかけられた。
「やぁ、珠姫ちゃん。おはよう」
この学校で私に声かけてくる人なんて一人しかいない。
「翔さん。おはようございます。というか、こんな後列にいて大丈夫なんですか?」
「うん。開門してから登校だからルールは守るけど、人を飛び越えちゃいけないとは校則に書いてないからね」
そりゃそうだ。
そんなピンポイントな校則あるわけない。
というかそうか。飛行能力だからわざわざ前に陣取る必要ないんだ。
ずるいなあ。
「私もそれくらい使える能力がよかったですよ」
「……きっと珠姫ちゃんの能力も工夫次第でなんとかなるよ」
「例えばどんなですか?」
活用方法があるなら教えて欲しい。
そんな気持ちで詰め寄ると、翔さんは困ったように頰をかいた。
……やっぱりこの能力に活用方法なんてないんだ。
そんな風に落ち込んでいるうちに職員がやってきて、門を開けた。
それと同時に、先頭にいた人たちが坂道になだれこむ。
その様子を見ていた翔さんが、ふわりと浮いた。
「門が開いたみたいだ。じゃあ、ボクも行くね」
質問に困って逃げたな、これは。
でもまぁ、私に付き合わせて登校順を下げられても困るしね。
虎の威を借るためにも、あの人には一番でいて貰わないと。
人の波が流れ始めたので、私も彼女らの後をついていく。
森の中に入ると、各々通りやすい道を選んで散って行った。
とはいえ、人数が多いから私の前にもまだ沢山の人がいる。
障害物は前の人が避けてくれるから分かるけど、道の先が人で見えないから足場に気をつけなきゃいけない。
これなら確かに、枝を伝った方が速そうだ。
パルクールが使われている理由の一端をかいま見た気がする。
先の見えない足場を通るより、見える枝を伝う方が確実性は高い。
しかも地面にいる人たちを追い越せるから、順位も上げやすい。
なるほど、理に適っている。
まぁ、私はパルクールとかできないけどね。
昨日教えてもらったのも地上しか使わないルートだし。
三回しか見てないからうろ覚えだけど、なんとなく道は覚えてる。
それに、そのルートと思わしき道を先輩たちが通ってくれてるから分かりやすい。
正直自転車より速く登校できるなんてあり得ないと思ってたけど、こっちは直線的に学校へ向かっているから、私の速度でも同じくらいな気がする。
コース取りだけでこの速度。
登校を極めてる人はもっと速い。
そりゃ負けるわけだ。
つくづく、自分が無謀な事をしたんだと分かってくる。
退学にならなかったのは、単に運が良かっただけだ。
まぁ、そもそも絡まれたことが運悪いから、相殺されてるけど。
でもまぁ、悪いことばかりじゃない。
翔さんの庇護下に入れたし、これから練習を重ねていけばそこそこの順位は確保できるはず。
その証拠に、順調に進んだ今日の登校は、三百位以内に入れた。結構疲れたけど、ルートが良かったのか私の体力でもなんとか走り切れたし。
中学の頃に武道をやってたおかげもあるかな。
まだまだ順位を上げられる余地はありそうだし、今も悪くはない。
登校の校則に気がついてない一年生を加味しても、全校生徒約千人の中の三分の一以上はなかなかなはず。
私なんて無能力と変わらないしね。
それを踏まえれば上出来だろう。
ちなみに詳しい順序が分かるのは、生徒手帳を持ったまま校門を通ると、何番目に登校したか記録されるから。
専用のスマホアプリで順位まで分かる。
この辺は徹底してるんだねぇ。力の入れ具合が半端じゃない。
まぁ兎にも角にも、私は優秀な師匠を手に入れたわけだ。
初日から悪くない成績だし、無難に生きていくにはちょうどいい。
程よく頑張れば、学校生活は安泰なはず。
そう、思っていたのだけれど……。