超能力登校レースでカーストが決まる学校を『デコピン』の能力で生き抜けってバカじゃないの? 作:一般通過生徒T
「私と登校決闘をしなさい! 東雲珠姫!」
どうしてこうなるの?!
翔さんの庇護下に入ったのに、クラスメイトから突然登校決闘を申し込まれてしまった。
なんでこの人、私の名前をちゃんと覚えているんだ?
私はこの人の名前覚えてないのに。
いや……そんなことはどうでもいい。
今はこの意味わかんないクラスメイトを退けるのが先決だ。
私は、話が膨らんで変な方向に行かないよう、冷たくあしらった。
「嫌ですけど?」
しかしクラスメイトは、断るのが分かっていたとでも言うように、不遜な態度をとってきた。
「断っても登校順位は変わらないわ。直接勝負しなくても、私の登校が先なら、あなたは私の要求を飲まざる得ないの」
登校決闘しなくても言うことを聞かせられるくらい軽い要求……? なら、そもそも登校決闘を提案する必要がないじゃないか。きっと裏があるに違いない。
「わざわざ登校決闘を言い出すってことは、本当のところ、制度を使わないと飲ませられない要求なんでしょ。どっちも同じと思わせておいて、勝負に乗らせるための口車でしかない。違う?」
こういう奴の考えることなんて大体いつも同じだ。だってドラマでみたもん。
お前の企みなんてお見通しだ! ってね。
「違うわ」
え、違うの?
「え、違うの?」
心の中だけで思ったつもりが、つい声に出た。
しかも、読みが大外れ。
これじゃあ私が間抜けみたいじゃんか。
恥ずかしくて赤面していると、クラスメイトはなんでもないように述べた。
「いきなり言っても不公平だし、守らない可能性があるから。それでしょっぴかれるのは貴女だけど、少し寝覚めが悪いの。だから宣戦布告したってわけ」
「私が嫌がるような要求なんですか?」
どんなことさせたいんだろう。パシリとか?
「私の要求は簡単よ。あなたに小鳥遊先輩と会って欲しくないだけ。その日だけ特定の人に会うなという要求なら、別に登校決闘しなくても飲ませられるわ。それを毎日繰り返すのよ」
「な、なんで?」
私と翔さんを遠ざけたいなんて、そんなに私の邪魔をしたいの?
私、なんか恨み買うようなことした?
不思議に思っていると、クラスメイトは若干顔を赤らめた。
え、そんなに怒ってるの?
そう思っていたら、不思議な事を言われた。
「……小鳥遊先輩が妹を作ったのが気に入らないのよ」
「妹ってなに?」
あの人の姉妹になんてなった覚えはないけど。師匠と弟子だから、どっちかというと弟じゃない?
まぁ私は女だから弟もおかしいけど。
「この学校で下級生の教え子を取るってことは、姉妹契約を結ぶって事なの。まさか知らないなんて言わせないわよ」
「え、知らないけど」
そんなこと言ってなかったし。
「登校の手解きを受けている貴方がなんで知らないのよ!」
そんなこと言われても……姉妹制度があるなんて教えて貰ってないし。そんなのがあるならあるで、翔さんも言ってくれればよかったのに。
「知らないものは知らないよ。そんな契約結んでないから」
「……だとしても貴女が小鳥遊先輩に教えを受けているのは事実よ。それをやめて欲しいの」
「嫌ですよ。だいたい、なんでやめなきゃならないんですか」
「ズルいからに決まってるでしょ!」
私が拒否した瞬間、食い気味に反論してきた。
ズルいって……まぁたしかに、一番の人に教えてもらうのはズルいかもしれないけど。
それも事情があったからだし、好きであんな状況になった訳じゃない。それをズルいなんて言われると、なんだかムカつく。
「言うに事欠いてズルいだなんて。私がどれだけ苦労してるか知らないくせに」
「そんなの知らないわよ。貴女が私の気持ちを知らないようにね」
急に登校決闘とか言い出すやつの気持ちなんて知るか。
それにしてもこの子、よく登校決闘なんて知ってるな。
一年生の中には、まだ登校順がカーストに響くと知らなくて、ゆっくり来る子もいるのに。
確かこの子は、私より前に教室にいた。
人が少なかったから覚えてるんだ。
名前は……知らないけど。
「そもそも貴女の名前も知らないのに、なんでそんなに敵対的なんですか?」
「……そういうところが気に入らないのよね」
「質問に答えて貰ってないんですけど」
「私は真澄(ますみ)恭子(きょうこ)。敵対的なのは、ぽっと出で小鳥遊先輩に擦り寄ってるからよ」
「そうしないと人生詰むから仕方ないんだけど」
こっちも好きで師事してないやい。
そうしないと退学になる可能性があるんだって。
「……事情は知らないけど、とにかく私の方が先に登校したら、貴方には放課後に小鳥遊先輩と会わないよう要求するわ」
まずい。
ゴリ押しで来られると手解きも受けれなくなる上に、庇護も受けれなくなる。そうしたらあの女がちょっかい出してくるに違いない。
それだけは避けないと。
「一ヶ月」
「なに?」
「一ヶ月頂戴。そうしたら、今後いっさい翔さんと関わらない事を賭けて登校決闘してあげる。それまでは会わないことを要求しないで」
これは苦肉の策だ。どうやら真澄さんは私より速いみたいだし。詰んでるのを先延ばしにするだけ。
それでもやらないよりかはマシだ。
練習すれば可能性は出てくるかもしれないし。
しかし、私の目論見は辛くも消え去った。
「……翔さんですって? 随分仲が良さげなのね。気が変わったわ。その登校決闘、受けてあげる。ただし期間は一週間後よ」
「なっ、短すぎる!」
「私は明日でもいいのよ?」
くっ……短いけど仕方ない。猶予ができただけマシだ。
「……わかった。一週間後の今日と同じ曜日に登校決闘ね」
「約束よ。まぁ、せいぜい頑張りなさい。無駄に終わるだろうけどね」
こいつ、絶対負かして吠え面かかせてやる……。
「今のままじゃ十中八九、珠姫ちゃんが負けるだろうねえ」
そうかあ、負けるかあ。
……って。
「翔さんがそんなこと言わないでくださいよ! やる気削げちゃうじゃないですか!」
放課後、翔さんに相談したら、開口一番とんでもないことを言われた。
もっと、こう、教え子を気遣うとかない訳?!
「気休めを言ったところで仕方ないしね。だいたい、今日もその子が先に登校していたんだろう?」
「そうですね。でも今日の一回だけですよ? まぐれじゃないですか?」
たった一回だったら、たまたま調子よかったとかあるかもだし。まぁそれは私にも言えることだけど。
「真澄恭子ちゃん、だっけ。たしか内部進学生だよ、その子」
「内部進学生、ですか?」
なにそれ。この学校に内部進学とかあるの?
「ボクもそうだったけど、早くから能力が発現している子は、中学から附属校に通うんだ」
「付属校って、中学生なんて見かけませんでしたけど?」
「多感な時期に自分より上の能力者を見せると、何をしでかすか分からないからね。安全上の理由で、基本的に高校生と交わるのは禁止されているんだ。建物は壁で区切られて簡単に行き来できないようになってるし、入り口は山の反対側さ」
「そういえば景色悪いところがあるなと思ってましたけど、あっち側に中学校があったんですね」
「ちなみにそこにも同じ校則がある。だから登校決闘も知ってたんだと思うよ」
「へー。附属中学とかあったんですね……って、人のことズルいとか言ってたけど、あっちの方がズルいじゃない! 早くからこの登校に慣れてるってことでしょう?!」
「そうだね。しかも結構有名人だったよ。一年生から上位をキープしていたしね。だからボクも二つ歳が違うけど知ってるんだ」
「……それ、結構やばくないですか?」
「だから言ったでしょ。今のままなら珠姫ちゃんが負けるって」
「そんな〜。なんとかならないんですか〜。退学は嫌ですう〜」
嘆きながら翔さんの足元に縋ると、彼女は困ったように笑った。
「ボクと会えなくなったからって別に退学にはならないと思うけど」
あまりにもみっともなく縋りついたものだから、もはや苦笑いだ。
でも翔さんは考えが甘い。
自転車奪うと見せかけて退学を要求して来たあの性悪女が、何もしない訳ないんだ。
「翔さんと離れたら、あのパラソル女は絶対やり返して来ますって! だって性格悪そうだもん!」
加えてああいうプライドが高そうなのは、一度コケにされたら執念じみた気迫でやり返してくる。ドラマやアニメではそういうお決まりだもん。
「性格悪そうって。それこそ、大善(だいぜん)さんに聞かれたら退学に追い込まれちゃうよ?」
「翔さんが言わなきゃ大丈夫です。それより、一週間後の登校決闘でなんとか勝つ方法はないんですか!?」
翔さんはしばらく考え込んだ後、やがて私によく分からない指示を出して来た。
「ここから全力で、あの木に向かって能力を使ってみて」
指で示されたのは、十メートルほど先の木だった。
太くもなく細くもなく、『森にたくさん生えている木と言ったらこんな感じ』というのを具現化したような木だ。
意図は分からないけど、きっと威力を見るんだろう。
よーし、頑張って折っちゃうぞ!
デコピンの姿勢を取って、思いっきり指を弾く!
「おりゃあ!」
気合いをいれて掛け声を出したけど、あまりに気合が入り過ぎたのか、衝撃に耐えられなくて後方にすっ転んでしまった。
なんと一回転後方でんぐり返し。
こんなの武道の練習でもしないよ。
「大丈夫?」
翔さんが、すっ転んだ私に声をかけながら手を差し伸べてくる。その手を掴みながら、私は興奮気味に翔さんへ捲し立てた。
「大丈夫です。それより、今の威力なら木の一本や二本は折れたんじゃないですか?!」
「残念だけど折れてないねぇ」
そう言われて木の方向を見れば、少し大きな窪みができていただけ。
折れるには程遠そうだった。
「そ、そんな……全力で打ったのに……」
なんの為に打たされたかは知らないけど、威力を見る目的だったなら大変しょぼいことが露見してしまった。
私の能力は何ならできるんだ、一体。
こんなんじゃがっかりされて見捨てられる。
そう思ったけど。
「うん。これなら十分使えそうだね」
どうやら、翔さんは違う意見みたいだった。
……ほんとにぃ?
「でも折れませんでしたよ」
「むしろ折れた方が危ないよ。それより、今回の作戦だけど――」
その後彼女から伝えられたのは、荒唐無稽な作戦だった。
能力の確認で十分だって言った理由も分かったけど……こんなので本当に勝てるのかなあ?