超能力登校レースでカーストが決まる学校を『デコピン』の能力で生き抜けってバカじゃないの? 作:一般通過生徒T
あれから翔さんと特訓の日々を重ね、真澄さんとの登校決闘当日を迎えた。
向こうは今日までお行儀良く手を出してこなかったけれど、それだけ約束にきっちりしているということだ。
もし結果に背いて翔さんと会ったりなんてしたら、どうなる事か。
ここで会えなくなるのは絶対ダメだ。
なんとしてでも勝たないと。
今日は気合いを入れて開門三十分前に来たから、なかなかいい位置を取れている。真澄さんの姿は見当たらない。ひとまずアドバンテージは取れたみたいだ。
それにしても、私より前にいる人たちは何時からいるのかな?
あのパラソル女ももういるし。
よほど登校に入れ込んでいるんだろう。
一回待つだけでも暇なのに、毎日とかよくやるよ。
いつもより待つ時間が長くて退屈してきた頃、真澄さんがやって来た。
翔さんも来ていたけれど、わざわざ後ろに下がりたくないし、向こうに来てもらうにも人の密集率が高すぎる。
翔さんもそれが分かっているのか、軽く手を振ってくるだけに終わった。
手を振りかえして、改めて状況を把握する。
周りにはいつもより気迫のこもった上級生たち。
前にいるってことは、それだけカーストキープに必死だってことだ。森に入るまでは流れに乗るけど、そこから先は無理についていく必要はない。
これはあくまで真澄さんとの勝負だからだ。
上位な方がいいことには変わりないけど、今回の目的は彼女に勝つこと。
結果的に上位を取るのは構わないけど、無理に順位をくり上げる必要はない。
勝つこと以外は全て雑念だ。
そのために作戦も練ったし、暇になることが分かっていて早く来た。
できることはやった。
あとは勝つだけだ!
気合いをいれていると、係の先生たちが門の横にある出入り口を通過した。
開門までもうすぐだ。
やがて先生たちが門を動かし始める。
開門した瞬間、周囲の圧力が増した。
うっ……上級生たちの圧がすごい。
いつも後ろから見ていたけど、実際前に来てみると順位にかける意気込みが違う。
ぎゅっと人だかりが凝縮し、開門した瞬間前に流れる一つの生き物へと変わった。
まるでお風呂の栓を抜いた時みたいに、少しずつ、けれど確実に流れていく。
流動する部分は激しく、それ以外の部分は緩やかに。
私は二者のうち、激しく動く流れの中にいた。
ぶつかり上等と言わんばかりに、周りの生徒たちが押し進んでいく。
まさかこれほどまでに後ろと違うとは。
登校上位の人たちの気迫を甘く見ていた。
前へ前へと、水が激しく流れるように進んでいく。
その流れは、あっという間に森の前まで来ていた。
まるで私まで早くなった錯覚に陥るけど、違う。
無理矢理押し出されているだけだ。
このままじゃまずい。
そう思ったけれど、気がつくのが遅かった。
森に入って道幅が広くなり、圧力が和らぐ。
あまりに唐突で、スピードの落差に戸惑い、たたらを踏んだ。
そこにぶつかってくる後続の生徒。
私は完全にバランスを崩し、地面に膝をついてしまった。
ヤバい……!
せっかく前に陣取ったのに、これじゃあ意味がない!
その証拠に、真澄さんの背中が見えた。
もうここまで来てるなんて……!
慌てて立ち上がって、後ろを追いかける。
せっかくのリードがなくなった形だ。
想定外だったけど、まだ策はある。
予定通りのルートを辿って、挽回を目指す。
なぜか真澄さんも同じ道を行ってるけど、向こうは大丈夫なんだろうか?
この先には川があるんだけど。
山の上に湖があって、そこから流れてきているものだ。
向こう岸には学校への近道がある。
それは事前に確認済みだ。
ただし、ここに橋はない。
遠回りすれば橋もかかってるけど、かなりのタイムロスだ。
まさか真澄さんは知らないのかな?
そう思っていたけど、甘かった。
まもなく見えてきた川を、真澄さんは強烈な風に押し出されることで飛び越えた。
どうやら彼女は風の能力者らしい。
やだなー。やってること被るじゃん。
でもそうは言ってられない。
ここで成功させなきゃ、無理矢理川を渡ってずぶ濡れになっている人たちに仲間入りしてしまう。
この日のために練習したんだ……!
走り幅跳びの要領で勢いをつけ、水上へ踏み切る。
落水する前に、斜め後ろに両手を向けて……撃つ!
弾き出された衝撃波は推進力となって、私の身体を向こう岸に至らせた。
あの時に翔さんが確認したかったのは、能力の反動だ。
普通に使うなら反動が凄まじいくせに木の一本も折れないゴミ能力だけど、こと登校においては人を傷つけずショートカットに使えるすぐれもの。
ついでに相手が掴んだ枝を狙い撃ちして妨害もできる。
登校においてはまぁまぁ使える能力だったのだ。
……まぁ、真澄さんの方が上位互換っぽいけど。
風を操るとかずるくない?
私も強い能力が良かった。
作戦はうまく行ったけど、想定外だったのは彼女の能力だ。
まさか同じルートをとれるなんて。
これじゃあ差が縮まらないよ。
……でもなんとかするしかない。
それにこの先は道が開ける。
ただし斜面が少し急で、本来ならば登るのに一苦労するという特徴があった。
ここで、私の能力の出番第二弾だ。
後ろに向かって連続発射することで、推進力とする。
ただデコピンするだけで発動できるから、そう簡単にスピードが衰えない。
能力がしょぼい反面、発動の手軽さが売りだから、ブースターとしてはうってつけだ。
さっきまでの道は木が多く道がくねっていて使いにくかったけど、ここは開けているから別だ。
そら、真澄さんに追いついた。
「追いつきましたよ!」
「あら、同じルートだったのね。それに濡れてない。あの川を飛び越えられる能力ってことね」
「あなたもね! あなたが風の能力者ってことは分かってますから! 先に行ったあなたには、私の能力はわからないでしょうけど」
私がアドバンテージを主張すると、真澄さんは鼻で笑った。
「現在進行形で種明かししておいてよく言うわ。例えば、こうすればあなたは能力を使えないんじゃなくて?」
彼女がそう言った瞬間、私の手に何かがまとわりつく感覚があった。
柔らかくて、無形状のような、不思議な感触。
だが、坂を登る今は違和感など気にしていられない。
そう思ってデコピンをしたが、指から放たれた衝撃波は、勢いを失ってかき消えた。
「な、なんで!?」
私が動揺していると、真澄さんは勝ち誇ったように解説した。
「私の予想通りね。あなたは衝撃波を打ち出して反動で加速している。なら、手に風を纏わせて空気の流れを乱せば使い物にならなくなるでしょう?」
「そんな……」
加速ありきでこのルートを選んだのに。
封じられたら普段よりタイムが遅くなる。
この状態でようやく真澄さんと並べているというのに。加速を封じられると勝ち目がなくなる……!
絶望的に相性が悪いことを心の中で嘆いていると、真澄さんは更に追い打ちをかけてきた。
「加えて、私よりしょぼい能力のあなたがそれをできるってことは、私にもできるのよね。使い方、教えてくれてありがと」
そう言った瞬間、彼女は加速した。
加速を封じられた私と、加速を手に入れた彼女。
勝負がどうなるかなんて、結果は分かりきっている。
真澄さんの背中が、どんどん離れていく。
……嫌だ、負けたくない。
ここで負けたら退学ルートに一直線だ。
そんな悪い考えが頭を占めた。