超能力登校レースでカーストが決まる学校を『デコピン』の能力で生き抜けってバカじゃないの? 作:一般通過生徒T
「はぁ……はぁ……もう無理ー!」
「まだ半分だよ。ほら、がんばって。もっといけるでしょ?」
「これ以上はいけません!」
「えー、こんな程度でバテちゃうの? 体力ないなぁ」
「突起が思ったよりもキツくて無理ですう」
「まだもっと凄いのが控えてるのに。ほら見てよあれ」
「む、無理い! あんなのやったら壊れちゃう!」
「大丈夫、ちょっと足腰立たなくなるだけだから」
「ちょっと!? 今でもかなりしんどくて腰ガクガクなのに!」
柔らかいマットレスの上で大の字になりながら翔さんに抗議するも、続く無慈悲な言葉で地獄へ突き落とされた。
「ほら、喋る余裕があるならもう一回いくんだよ」
「ひいいー」
無理矢理起こされた私は、再び地獄の挑戦をさせられた。
凸凹が私の内側を刺激する。
あたりが悪く、痛さと気持ちよさが襲ってくる。
その刺激にひっくり返った私は、またマットレスの上に身体を落とした。
「また半分もいってないよ。これじゃあ身に付けるのはまだ先だね」
「本当にこんなことして意味あるんですか?」
「あるよ。一回できたんだから、次もできるさ。今度はもっと長い距離でね」
「だからって、ボルダリング場で崖登りなんてしなくても……ハーネスついてるから安全とはいえ、凸凹あるからすごく上りにくいんですよ」
「実際の崖の足場の悪さはこんなもんじゃないんだよ? それに、失敗したら最悪死ぬ。練習は過酷な方がいいに決まってるよ」
そう。私たちは今、ボルダリング場で垂直登りの練習をしている。
本来なら、壁に取り付けられた突起物を伝って天辺まで行くスポーツ場だ。
だけれども、私たちは手を使わずに、ボルダリング用の壁を登っている。
私が恭子ちゃんとの登校決闘でやった崖登り。
その話を聞いた翔さんが、今後もできるようにしようと練習を提案してきたのだ。
その為に、擬似的な練習ができるここに来た。
崖登りは、できるようになれば確かに武器になる。
なるけど、遊びに出掛けてやることなの?
そう尋ねたら、能力開発より楽しい遊びなんてあるの? と翔さんに返された。
どうやら翔さんは能力オタクらしい。
そして恭子ちゃんは翔さんのイエスウーマン。
私に味方はいなかった。
ついでとばかりに、彼女も崖登りしている。
あっちは足を踏み外しても多少浮けるから登り切れており、今は上級者用の反り立つ壁に挑戦中だ。
私は初心者コースですらつまづいているというのに。
ルートを見極めて突起物を避けているけど、どうしても踏んでしまう時がある。
これが尖ってるやつもあって痛気持ちいいんだ、また。足ツボがどんだけ凝ってるかって話だね。
踏まないのが一番なんだけど、私の加速はどうしても直線的になるから、踏まざるを得ない。
その度に襲いくる甘い痛みが、集中力を削いでくるのだ。
練習ですらこんな調子なのに、本番で使えるのはいつになるやら。
「もう帰りたいよー」
「登校決闘ふっかけられて退学してもいいなら強制しないけど」
そう言われると弱い。
私のウィークポイントを分かってる。
「わかりましたよ! やりますよ! やればいいんでしょ!」
「次は外からちょっかいかけるね。実戦では当然妨害が入るだろうし」
「あのー、前言撤回していいですか?」
私が弱気に言うと、翔さんは満面の笑みをたたえた。
「ダ、メ♡」
ハートマークがつくような甘ったるい声色で、私を地獄に突き落とす否定の言葉をつむぐ。
「翔さんの鬼!」
「なら金棒もつけないとね。恭子ちゃーん、おいでー」
げ、余計なこと言ったかも。
後悔してるうちに、恭子ちゃんがこっちに寄ってくる。
「はい、なんでしょう?」
「今から珠姫ちゃんをいじめ……じゃなくて、実践になぞらえて妨害するんだけど、一緒にどう?」
今いじめるって言おうとした!
私が講義する前に、恭子ちゃんが口を開く。
「もちろんやります。今日のお礼をたっぷりしなきゃね」
「お、お手柔らかに……」
結果から言うと、恭子ちゃんは全然手加減してくれなかった。
背中にぼこぼこ風を当ててくるわ、横から強風で殴りつけてくるわ、やりたい放題だった。
翔さんの方はというと、視界にちらちら入ってくるだけ。
こっちはこっちで何をしたいんだ。
「もう! 恭子ちゃんやりすぎ!」
「あら? 実戦の妨害はこんなものじゃないわよ? 命が惜しかったら慣れておくことね。あなたの為なんだから」
「……本音は?」
「朝の仕返しができてすっきりしたわ」
「ふーん」
ムカついたので、衝撃波をおでこに当ててあげた。
「いたっ……やり返せないからって暴力はダメでしょう?」
「今度は恭子ちゃんの妨害してあげるから登りなよ」
「あら、できるものならやってみなさいな」
やってやろうじゃない!
そう意気込んだけど、恭子ちゃんが風を纏うせいで、こっちの妨害が全て無効化される。
「ず、ずるい!」
「なにかしたかしら?」
くそー! 足を滑らせて落ちればいいのに!
風を思いっきり吹き飛ばす勢いで、指に力を込めた。
「このぉ! 落ちろぉ!」
瞬間、恭子ちゃんの身体が重力に従って床付近まで落ちた。
ハーネスが身体を支えたけど、急に引っ張られてちょっと苦しそうだった。
落ちればいいのにとは思ったけど、まさか本当に落ちるとは思ってなかったからびっくりした。
「ご、ごめん。本当に落ちるとは思ってなくて……」
「別にいいわ。それより、ちょっと翔先輩と話したいことがあるから、一人で練習しててくれる?」
うわ、これ怒ってるやつだ……。
きちんとした謝罪すらもさせてくれず、二人でどこかに行ってしまった。
ひとりぼっちになった私は、手慰みに壁を登る。
二人が戻ってきたのは三十分後くらい。
何を話してたかは秘密らしく、いい時間だということで解散になった。
その日はただただ壁を登り続けて、放課後が終わった。
そして明くる日。
「またこんなに濡れて! ダメでしょ! しかもまた半分しかいけてないし」
「水着は濡れるためにあるんですよ。むしろ濡れちゃいけない水着ってなんですか」
「この特訓では濡れたらダメなんだよ! ほら、もっと早く発動して、次!」
「うわあ沈むうう」
今度はプールに来ていた。
何をやらされているかというと、能力を使った水面走り。
他のお客さんに迷惑がかかるからやめましょうと言っても、今日は貸切りだからと一蹴された。
実はお金持ちの子だったんだね、翔さん。
公共の場で能力使うのはダメなんじゃと抵抗しても、昨日と同じで能力者御用達の施設だから大丈夫と切り捨てられる。
近くに能力開発学校があるから、この辺り一帯はそういう施設が多いらしい。
だからこういう使い方も一般的なんだと。
「ほら、休んでないで次だよ! これくらいできなきゃ川の逆走なんて夢のまた夢だから!」
別にそんなのできなくても飛び越えられるだけで十分なんだけどなぁ。
そう言っても、翔さんは聞いてくれず、ひたすら水面走りをやらされた。
昨日の壁走りといい、私を忍者にでも育てたいのかこの人は。
ちなみに恭子ちゃんは足裏に風を纏わせてすいーと滑っていた。ずるい。
そして、私は勢いが足りず落水。
プールに浮かびながら翔さんに文句を言う。
「これって本当に役に立つんですか!?」
「立たないかもね」
「えっ。じゃあなんでこれやってるんですか!?」
「なんでって、楽しいでしょ?」
た、楽しいかなあ。
うーん。能力使ってるから訓練って気持ちになって、遊びって感じはしない。
でも物語では、こういう修行っぽくない修行パートが後で効いてきたりするしなあ。きっとこれも役に立つ、はず。
きっと。おそらく。たぶん。
それにしても、翔さんの感性は不思議だ。
やっぱり強い能力だと使うのも楽しいのかなあ。
私は未だにゴミ能力だと思ってるから、そんなに楽しくないんだけど。
「正直言うと、あんまり楽しくはないですね」
「えー、自分の能力が開発されて行くのって楽しくない?」
やっぱりこの人、能力オタクだ。
「私のはゴミ能力だから、ちょっと使い道が増えたところで意味ないですよ」
そう言うと、翔さんはちょっと怖い顔になった。
「自分の能力をいつまでもゴミ能力なんて言って。自分の素質に真剣に向き合わないとダメだよ」
「そうは言っても、こんなの全然役に立たなくないですか?」
「それ恭子ちゃんの耳に入れちゃダメだよ。その能力に負けたんだから」
「でも昨日のは正直マグレですよ?」
「それでも負けは負けだから。珠姫ちゃんいわくのゴミ能力に負けた恭子ちゃんは、救い用のないゴミ能力ってことになる」
流石に言い方が酷くない?
「いくら翔さんでも言葉が過ぎるんじゃないですか?」
「ボクが珠姫ちゃんに思ってるのはその感覚だよ。いくら相手が自分だからって、その腐し方はひどいよ」
「……そう言われたらそうですけど」
「とにかく、自分の能力を過度に卑下しないこと。わかった?」
「……わかりました」
渋々納得したけど気持ちは晴れず、水面走りにもあまり身が入らなかった。翔さんはそれでも構わず挑戦させてくる。
結局この日は、端から端まで走り切るまで帰れなかった。
そしてまた明くる日。
「うー、もう無理、これ以上開かない!」
「ほら、もっと股を広げなきゃ! こんなに固くして! みっともないと思わないの!?」
「人間そこは固くなるものなんですよ!」
「ボクはこんなに柔らかいけど?」
「……知りません」
「普段からストレッチしてないからだよ。身体を柔らかくしておかないと怪我するんだからね」
今度は体力作りのためにジムに連れてこられた。
この間の勝負でバテていたのが気になったらしい。
最後まで走りきれないと勝てるものも勝てないよとド正論をかまされたけど、気持ちは別。
なんで放課後までこんなことしなきゃいけないんだという気持ちでいっぱいだ。
遊びに行こうって誘われたのに、やるのは毎回トレーニング。昨日だって、途中で心が折れたのにやめさせて貰えなかった。
ここまで来るともう分かる。
翔さんにとっての遊びはトレーニングなんだ。
充実した器具を使って、走り込んだり筋力を鍛えたり。
翔さんが思いのほか重いウェイトをあげてたのはびっくりしたけど、私もやらされるのは違うでしょ。
普段こんなことしないから、筋肉痛みたいになって、本当にしんどかった。
筋トレマニアはよく筋肉痛のことを筋肉が喜んでいるとかいうけど、一般人の場合は、殺人鬼に襲われて悲鳴を上げてる感じだろう。こんなの筋肉の叫びだ。私の筋肉が人間だったとしたら、有名絵画のムンクの叫びみたいな絵面になっているに違いない。これはそう、どうしてこんなことしやがったと言う、筋肉の、文句の叫びだ。
もう次はついて行くまいよ。
今日は金曜日だしね。来週からは行きませーん。
そう思っていたのだけど。