超能力登校レースでカーストが決まる学校を『デコピン』の能力で生き抜けってバカじゃないの?   作:一般通過生徒T

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遊びが遊びじゃないってバカじゃないの?3

 

 

 続く土曜日、翔さんは私の部屋に来て、無理矢理引っ張り出そうとしてきた。

 

「嫌だあ! いきたくない! どうせまたトレーニングなんだ!」

 

 休日まで誘いにくるとか本当にふざけてる!

 いつ休めると言うんだ!

 

「今日は違うから! ちゃんと遊びに出かけるから!」

「昨日も一昨日もそう言ってトレーニングだったじゃないですか! 嘘つき!」

「今日は本当なの! 信じて!」

「今日はってことは昨日まではやっぱり嘘ついてたんだ!」

 

 私が猛烈に抗議すると、横合いから声が飛んできた。

 

「うるさいわね。早く行くわよ」

 

 そう言って私の身体を能力で浮かせる恭子ちゃん。

 なんと敵が二人になった!

 しかも能力まで使うなんて!

 よほど私をいじめたいらしい。

 泣きながら外に連れて行かれていると、何やら人通りの多いところに出た。

 今更だけどこの格好恥ずかしいな。

 部屋着だし、靴も履いてないまま無形ストレッチャーで運ばれてるし。

 

「もう自分で歩きたいんだけど私の靴は……?」

「忘れたわ」

「ちょっと!」

 

 文句を言うと、何やら足に覆い被さる感覚。

 足元を見ると、翔さんが私の靴を履かせてくれていた。

 

「はい、ちゃんと持ってきてるよ」

 

 さっすが翔さん。

 恭子ちゃんと違って用意がいい。

 

「誰かさんと違って気が利くなあ」

「……私がいつでも能力を解けるということを忘れないことね」

 

 このままだと本当に解除してきそうだったので、慌てて地面に降りた。地面と熱い抱擁なんて交わしたくない。

 

「それで、今日はどこに行くんですか?」

「内緒だよ」

「もうここまで来たら逃げないから教えてくださいよ」

「まぁもう着いたんだけどね」

 

 目の前にあるのはスーパーマーケット。

 確かにトレーニングする場所ではない。

 でもここで一体何を……?

 不思議がっていると、恭子ちゃんが疑問に答えてくれた。

 

「今日は私たちの歓迎会をしてくれるそうよ」

 

 歓迎会!

 

「最初からそう言ってくれれば逃げなかったのに!」

「トレーニングだったら逃げるんだ?」

「そりゃもちろん」

 

 私が言い切ると、翔さんは悲しそうな顔をした。

 

「ボクたちと一緒にいるのは嫌?」

 

 う。そう言う聞き方はずるい。

 

「い、嫌じゃないですけど」

 

 でもトレーニングは嫌だ。

 歯切れが悪かったからか、恭子ちゃんがつっかかって来た。

 

「登校決闘に負けたらこうやって遊ぶこともできなくなるのよ? この日常を大事にしたいなら、トレーニングは必要な努力だと思うけど」

 

 まるで私が怠けてるみたいに言われて、少しカチンと来た。

 

「そりゃ強い能力の人たちは良いよね。将来も約束されててさ。私なんか衝撃波を飛ばすだけだよ。こんなのでどう自信を持てって言うのさ」

 

 強くあたっても、恭子ちゃんは怯まない。

 

「気持ちは分かるわ。私も昔は使えない能力扱いされていたから」

「嘘はやめてよ。私の上位互換のくせに。そんなこと言われると余計惨めになる」

「本当よ。私も前はこんな能力じゃなかったし。最初はせいぜいドライヤーくらいの風しか出せなくて馬鹿にされてた。努力して今みたいになったのよ」

 

 そうなんだ……恭子ちゃんにもそんな時期があったんだ。

 

「……私も頑張ったら恭子ちゃんみたいになれるかな?」

 

 恭子ちゃんは少し間を空けて、一言。

 

「なれないわ」

 

 うん、うん、わかってるよ。

 一回否定して、立ち直らせる言葉を言うんだよね。

 知ってるよ、お約束だもんね。

 そう思ってしばらく続きの言葉を待ってたけど、恭子ちゃんは口を開くことがなかった。

 

「あ、あれ?」

「どうしたの?」

「続きの言葉は?」

「そんなものないわよ」

 

 えっ。ここは慰めてくれる流れじゃないの?

 創作だったら名シーン集にいれられる部分だよ?

 

「ちょ、ちょっと。ここは一回否定した後に勇気づける言葉で後押ししてくれるところじゃないの?」

「いちいち臭いこと言わせようとするのが癪に触ってやっぱりやめることにしたの」

「そんな! そしたら私やさぐれたまんまだよ!」

「そうだけど、別に良いかなって思って。なんか面倒くさくなってきたし」

「ひ、ひどい! 恭子ちゃんのひとでなし!」

「私がひとでなしなら、あんたは意気地なしよ。たかだか能力が弱いぐらいで何? そんなの登校成績下位の子は皆抱えてる悩みよ。それを登校成績トップの翔先輩に見てもらえる幸運に恵まれたのに、トレーニングが嫌ですって? 舐めるのも大概にしなさいよ」

「そ、それは……」

 

 知り合って日は浅いけど、ここまで怒る恭子ちゃんは初めて見た。

 今まで律儀で優しい側面しか見えてなかったから、ちょっと怖い。

 少し怯えていると、恭子ちゃんはなおも言い募る。

 

「私はあなたが来なくなっても別に良いけどね。翔先輩を独り占めできるし。あなたが退学したら気にかける必要もなくなって楽だし。でもあなたは本当にそれでいいの? 落ちこぼれて、ドロップアウトして、底辺を這いずる人生が嫌だったから翔先輩に縋ってるんじゃないの?」

 

 その通りだ。だからあんなに必死に頑張ったんだ。

 

「……退学だけは絶対嫌」

「なら、トレーニングが嫌だって甘えたこと言ってる場合じゃないんじゃない? あなたと、いわゆる落ちこぼれ組との差なんて、良い師匠と頼れる友達がいるかどうかの違いくらいしかないんだから」

 

 臭いこと言うのを避けたくせに、自分で頼れる友達って言ってるのが少し笑える。

 でも、恭子ちゃんの言うとおりだ。

 

「ありがとう。トレーニングくらい嫌がってちゃダメだよね」

「そうよ。怠けたら私たちが一緒にいる意味なんてなくなるんだから」

 

 ふんすと胸を張る恭子ちゃん。

 でも私は一つ言いたいことがある。

 

「確かに頑張らなきゃって感じたけど、思ってた励ましの言葉と違った……特に、恭子ちゃんにはなれないの部分」

「何? あなたはあなたにしかなれないとでも言って欲しかったの?」

「それだよ! そういうのが欲しかったの!」

「はぁ。夢見すぎよ。そんな恥ずかしいこと言うわけないでしょ」

 

 その時だった。

 あらぬ方向から声が飛んできた。

 

「――ならば私が代わりに言ってあげましょう。あなたはあなたにしかなれませんわ。落ちこぼれのあなたにしか、ね」

 

 振り返ると、そこには金髪ドリル髪がいた。

 

「あ、パラソル女!」

 

 ふっと吹き出す恭子ちゃん。

 青筋を浮かべるパラソル女。

 しかし恭子ちゃんは笑いの沸点が低いな。

 なんて考えてたら、パラソル女が口を開いた。

 

「いちいち勘に触る小娘ですこと。まぁいいですわ。用があるのはあなたではありませんの」

「私じゃない?」

「探していたのはそこの登校主席様ですわ。あなたを倒す用意ができましたの。勿論、受けてくださいますわよね?」

 

 翔さんとの間に沈黙が落ちる。

 空気がヒリついて、静かなのに騒がしいと錯覚してしまう雰囲気だ。

 まさに龍虎の睨み合いというのがしっくりくる。くるのだけど……居丈高なパラソル女に、私は指摘した。

 

「かっこつけてるところ悪いんですけど、ママチャリに乗ったまま言われても締まらないですよ」

 そうなのだ。

 パラソル女はなぜかママチャリに乗っているのだ。

 それを咎めても、彼女はなおも自信満々で。

 

「あら。私のトマホーク一号は素敵でしょう? 私に何も恥じることはありませんわ」

 

 ここまで堂々とされるともはや何も言えなくなる。

 これ以上突っ込めないでいると、翔さんが本題に入った。

 

「それで? ボクを倒す用意ができたって言ったけど、登校決闘の申込ということでいいのかな?」

「そうですわ。主席ともあろうかたが、まさか拒否致しませんわよね?」

「嫌だと言ったら?」

「そこの腰巾着どもに標的を変えるだけですわ。それはお嫌でしょう?」

 

 くっ……やっぱり私たちは足手纏い扱いなんだ。

 悔しいけど、少し頑張った程度で覆せないのは分かりきっている。だから、翔さんが承諾するのを黙ってみているしかなかった。

 

「わかったよ。いつするんだい?」

「そうですわね。週明けの月曜日とかどうでしょう?」

「ずいぶん早いね。何か理由でも?」

「楽しそうにパーティーのご相談をされていたので、雰囲気をぶち壊して差し上げようと思いまして。余韻に浸れる間もなく、絶望に打ちひしがれる姿が楽しみで楽しみで」

 

 嫌味なやつ!

 お嬢様ってのはこんなのばっかりなんだろうか?

 しかし、翔さんが気になったのはそこではないようで。

 

「まるでボクが負けるみたいな言い方するんだね?」

「ええ。積年の恨みを晴らさせてもらいますわ」

「ちなみに登校決闘の要求には何をかけるつもりなんだい?」

「退学なんて野暮なことは言いませんわ。長く屈辱を味わっていただくために、私の下僕になっていただこうかと思っていますけれど」

 

 私の時は言ったくせに!

 内心憤っていると、翔さんがらしくない事を言い始めた。

 

「良い加減鬱陶しいから、大善さんが負けたら退学して貰おうかな」

「あらあら、過激ですこと。いいでしょう。それくらいのリスクがあれば、あなたが負けた時の言い訳も出来ませんものね?」

 

 これで引かないって、相当自信があるんだな。

 

「ふーん。これでも怯まないってことは、何かしら策があるってことだね。卑劣な手段じゃないといいけど。例えば、この二人を人質に取るとか」

「そんなこと致しませんわ。私はそこの木端など眼中にありません。片方は潰してやりたい気持ちもありますが、あなたを引きずり下ろせればその溜飲も下がります。そう言う意味では感謝しているんですのよ? 万年孤高だったあなたのウィークポイントになってくれて。感謝いたしますわ、自転少女」

 

 なんか自分から転んでるみたいで嫌なネーミングだな。そう思っていたら、翔さんが煽った。

 

「弱者ほどよく喋るとはこの事を言うのかな?」

 

 珍しいな。翔さんがここまで敵意をむき出しにするなんて。

 けれど、パラソル女はどこ吹く風だ。

 

「これで月曜日に負けたら恥ですわよ、絶対王者様?」

「言ってなよ。勝つのはボクだから」

「そうですか。では、月曜日を楽しみにしていますわ」

 

 それだけ言って、パラソル女は自転車を漕ぎ出そうとした。

 だけど、その前に私は言うことがある。

 

「あの、ちょっと待ってください」

「なにかしら?」

 

 パラソル女は、漕ぎ出す寸前の姿勢で止まった。

 お嬢様がして良い格好じゃないね。

 と、それは別にいいんだ。

 

「ぴったりのタイミングで現れましたけど、まさか私たちの後をつけていたんですか?」

「……だったらなんだと言うんです?」

「いや、登場するタイミング見計らいながらママチャリで追いかけて来ているのを想像するとマヌケだなって。車で登場した方がまだかっこつきましたけど、呼べなかったんですか?」

「寮暮らしと言えど、車くらい簡単に呼べますわ。それがなにか?」

「それなら、自転車が気に入ってウキウキで出かけたくなっちゃったってことですよね? きちんと乗れるようになったから嬉しかったんですかね? この年でそんなにはしゃいで恥ずかしくないんですか?」

「〜〜! 別にいいでしょう! 私の自由ですわ!」

 

 憤りを言葉にできないと言った様子のパラソル女に、トドメを刺してやった。

 

「お嬢様なのに? 優雅さのカケラもないですね」

「余計なお世話ですわ!」

 

 憐れむような空気に耐えられなかったのか、パラソル女はすごい勢いで漕ぎ始めて離脱を図った。

 が、自転車初心者がそんなことをしたので、バランスを取れずに倒れてしまった。

 立ち上がる時に、きっ、と睨んでくるパラソル女。

 

「この屈辱忘れませんわ! 覚えてらっしゃい!」

 

 今度は倒れないようにスピードを抑えて漕ぎ出すパラソル女。

 やっぱりお嬢様にしては随分ひょうきんな格好だな。

 少し勝ち誇った気持ちになっていると、恭子ちゃんが話しかけてきた。

 

「あんた、そういうところが恨み買う原因なんじゃないの?」

「でもスッキリしたでしょ?」

「そりゃあ、まあ」

「ならいいじゃない。気を取り直して食材買いに行こうよ」

 

 彼女と一緒にスーパーに入ろうとしたけど、後ろについてくる人影はなかった。

 振り返ると、翔さんが謝ってきた。

 

「ごめん、アレの後じゃ楽しくパーティーって気分でもないんだ。悪いけど、ボクが勝った後に祝勝会も兼ねてまた改めてやるでもいいかな?」

 

 私が口を開く前に、恭子ちゃんも乗っかった。

 

「そうですね。あの女の思惑通りになるのは癪ですけど、遊んでたから負けたなんてなったら、申し訳が立たないですし。月曜日までの二日間は、特訓した方が良さそうですね」

 

 せっかく楽しいイベントだったのに、パラソル女のせいで台無しになった。

 許すまじ、パラソル女。

 そして、恭子ちゃんの提案に乗り、残り二日は翔さんの特訓に付き合うことになった。

 

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