巨木の下に居たのは、ましろちゃん…のはずだ。
彼女は夜空のような黒に白いフリルのついたドレスを見に纏っていた、ドレスにところどころ星を模した装飾がついている。
彼女の綺麗で艶やかな銀髪はドリルのように編み込まれ、頭には小さな王冠が乗っている…。
この髪型にこの服装、俺はこの子を知っている、この子は前世ハマっていたゲームの推しキャラの…。
「ブラム・プラネタリア…」
「現世さん、来てくれてありがとうございます…そして今まで騙していてすいませんでした」
ましろちゃんが頭を下げるものの、服の装飾が多いからかバランスを崩しそうになっていた。
「僕は、男性からの告白を断り続けている現世さんにお近づきになりたくて女の子のフリをしていた卑怯者です、けれど現世さんに対する想いは本物です、その想いを聞いてくれませんか?」
「話は聞くよ、けどその服装…もしかして君は…」
「はい、小学3年生の頃に1年だけ貴女と同じクラスで過ごして、現世さんと一緒に絵を描いていました」
「あの時の男の子か、ブラムの話をしたのは君だけだったからね…覚えてるよ」
「僕はあの時現世さんに話しかけられたことで救われました、イラストレーターを目指そうと思ったのも貴女がきっかけでした、1年共に過ごしていて貴女に恋をしました」
もしかしてその初恋を今まで引きずってるのか?重い…とは思う、けれど姿が女の子だからだろうか、ここまで一途に思われているのは悪い気はしない。
「貴女の見た目も、学校では素を隠して演技しているところも、時々見せる可愛らしい行動も全て好きですが、何よりも僕みたいな男にも話しかけて一緒に遊んで笑ってくれた貴女が大好きです、付き合って欲しいとまでは言いません、まずは再びお友達になってくれませんか?」
結構素を出して遊んでいた時のことを特に好きだと言ってくれるのは心に響く物があって、こんなにも長く思っていてくれたことは好ましくて、女の子になってでも近付きたかったという気持ちの大きさも理解できて…悪い気はしない、むしろ好意的に見ている自分がいる。
ここまで好きなのに再びお友達からという律儀なところも好ましい。
俺は恋をしたことがない、ましろちゃんを好意的に見ているのは恋なのか友人としてなのかもよくわかっていない、友達からと言ってくれるのはとても助かる…んだが。
相手が俺に恋愛感情を持っていると知った上で、それを見て見ぬ振りして友人として付き合うのは不誠実だと俺は思う、だから素直に恋というものが理解できてないというくらいは伝えてから…友達に…。
返答を考える時間が長過ぎて不安になったのか、ましろちゃんの顔が真っ青になっている。
ごめん!考えるのに夢中で配慮できてなかった!
と返答をしようとしたところで気づく、ものすごく体調が悪そう、これ衣装が暑すぎて熱中症にでもなってるのでは!?
「え…と、ましろちゃん大丈夫?」
「だい……じょ…ぶ……で…す」
「大丈夫じゃないよね!えと、とりあえず保健室!?救急車かな!?」
「え…まっ…」
言葉を全て言い終える前にましろちゃんは倒れてしまった。
ましろちゃんが倒れてしまい慌てていると、どこかに隠れて見ていたらしい結衣さんが駆け寄ってきた。
「お兄ちゃん大丈夫!?とりあえず女の子の姿で保健室や救急車は不味いので…科学実験部の部室に連れて行きます!現世さんも…手伝ってくれますか…?」
「協力します!」
結衣さんと共にましろちゃんを科学実験部部室に連れて行くと、部長の松戸君がましろちゃんの処置をしてくれた、何があったと察してついてきた柚葉だったが部室には入りたくないようで、外で待機している。
松戸君は俺達が連れてきたましろちゃんを見た時心配そうにしていたし、俺が部室に入っても追い払うこともなく、むしろましろちゃんを連れてきたことに対してお礼も言われた。
噂ほど悪い人には思えないな。
あ、でも松戸君が出してくれたお茶は流石に飲む気しない、ちょっと怖い。
結衣さんも手をつけていないのでこの対応は間違っていないのかもしれない。
そのまま俺と結衣さんは部室内で意識を失っているましろちゃんの様子を見ていた。
ましろちゃんはそろそろ男に戻るらしく、下着姿に布団をかけた状態で寝かされていた。
俺に想いを告げるためだけにあの衣装を用意して着てきたのだろう。
ブラム・プラネタリアが実在しているかのような再現度だった、ブラム・プラネタリアは俺の前世に存在していたキャラクターでこの世界には存在しない、そのため衣装を取り寄せるといったこともできなかったはずだ。
つまり手作りかオーダーメイドでこのクオリティの物を作ったということになる、それに加えて暑すぎて倒れてしまうくらいに無理をしてあの場に立っていた。
そこまでしてくれたんだ、何か少しくらい返してあげても良いかもしれない。
「ブラム・プラネタリアのコスプレ、完成度が高くとても良い物を見させていただきました、このクオリティであれば何かしらのご褒美があっても良い、そう思いませんか?」
「え…何をする気なんですか!?現世さん!?あ、あれを…?まぁそれくらいなら良いの…かな?でもお兄ちゃんには刺激が強すぎるような…」
頭の下に何か柔らかい感触を感じながら目を覚ます。
僕は現世さんに想いを伝えて、返事を待っていたら気分が悪くなって…。
次第にはっきりとして行く視界に映ったのは間近に迫る現世さんの顔だった。
「目が覚めたみたいですね、無理して起き上がらなくて良いですよ」
この状況…膝枕されてる!?なんで!?
というか僕、もう男に戻ってて…男の状態で!?なんで!?
「おや、顔が赤いですね、まだ体調が治っていないのですか?」
「それは…その…」
「ふふっ…冗談ですよ、これは素晴らしい物を見せていただいたお礼と思っていただければ」
お礼!?急展開に思考がついてこない…。
「君は昔の俺が初恋のようだし、こっちの話し方の方が良いかな?」
「え、あ、はい。どっちも素敵だと思いますがこっちの方が好みです…」
現世さんが僕の頭を撫でてくる、もう死んでも良いかもしれない。
「君が返事を聞く前に倒れてしまったからね、それだけは伝えておこうと思って」
僕は黙って現世さんの言葉を待つ。
「俺は君のことを好ましく思っているし、再び友達になれるなら嬉しいと思っている」
「それは…僕としても嬉しいです」
「けれど君が俺に向ける好意は友情だけではない、ということも俺は理解している」
「それは…でも友達になってくれるだけでも嬉しいので…」
「俺は男からの告白を断り続けているが、別に女の子が好きなわけでもないんだと…思う、俺は生まれる前から恋という物を経験したことがなくてね、恋だとか愛だとかはわからない、恋愛対象が男性なのか女性なのか、またはどちらも行けるのか、自分でもわからないんだ、だから今君の好意に応えることは出来ない」
「わ…かりました」
「それでも俺を好きであり続けてくれるのであれば、もうしばらく待っていて欲しい…つまりはまだ結論が出せないから保留させて欲しいってところかな」
「いつまででも待ちます!だって僕は小学生の頃から現世さんのことが好きだから…!」
「美夢…」
「え?」
「ましろちゃんの中身が祐希君だと知った上で友達になるんだから、いちいち呼び名を変えるのも大変だろ?名前で呼んでもらって構わない……名前で呼んで…欲しい」
「み…美夢さん…」
「うん、友達としてよろしく、祐希君」
「はい!よろしくお願いします!」
「あ、ましろちゃんとしての君のことも好きだから、これからも時々女の子になってくれると嬉しいな」
「は、はい...頑張ります...」
恋人になれたわけではない、再び友達に戻っただけだ、けれど男の自分を受け入れた上で友達になってくれた、それに僕の好意に対しても結論が出せるまで保留と言ってくれたのは、僕の好意に真摯に向き合おうとしているからだろう。
それに膝枕までして撫でてくれているのは、少し前までの僕からしたら考えられないような進展…だよね?
それに気持ちも伝えられて嘘をつく必要も無くなって肩の荷が降りたような気がする。
「体調はもう平気?えっとここの部長の松戸君が何か色々と処置したから平気とは言ってたけど」
「え、あはい!大丈夫です!重かったですよね!すぐ退きます!」
ずっと美夢さんに膝枕されたままだったことに気がついて慌てて起き上がる。
そうすると美夢さんは困ったような顔をしながら倒れてしまって…。
「足が痺れちゃった…慣れないことはするもんじゃないね」
どこか抜けているその発言に思わず笑ってしまった。
「君の言葉に応えたいからと言って、他の人には席を外してもらってるんだけど…足の痺れが治るまで…その…2人きりでこのまま話さないか?…なんて色々とお互い言いたいこともあるだろうしさ!あ、でもその前に服は着てね、見てるこっちも恥ずかしいし...」
「すいません!すぐ着ます!」
こうして美夢さんと友達として話せる関係に戻れてよかった…関係を深めるまでは時間がかかるかもしれない、もしかしたらこれ以上先に進むことは出来ないかもしれない、けれど全てを話して受け入れてもらえた上で友達になれたのは心から嬉しかった。
次回でエピローグの予定です。
ここで終わらせるか悩んではいたので少し蛇足かもしれない。