不思議だった。
その手のひらからじんわりと伝わってくるのは、どこか懐かしいような、張り詰めた心がほどけていくような、圧倒的な安心感だった。
その人物に導かれ、連れてこられた見知らぬ土地、不気味なほどに静かな古びた屋敷。
そこで初めて彼らと───仲間たちと出会った。
間違いなく初対面のはずの顔ぶれだった。
それなのに彼らの姿を目にした瞬間、胸の奥に強烈な懐かしさが去来する。
ずっと昔から知っていたような、固い絆で結ばれていたかのような、奇妙な既視感。
あたたかな空気のなかで、思わず「ただいま」と、そんな言葉が口をついて出そうにさえなった。
そして私はその場所で初めて知ることになる。
自分の中にある重い宿命と、その背後に眠る神獣の存在を。
やがてその不思議な土地が、自分の中に眠っていた本能を呼び覚ましていった。
ふと視線を向ければ、風もないのに周囲の草花が激しく波立つように揺れる。
そっと手を伸ばせば、まるで自らの明確な意思を持つかのように、瞬時に木々の枝葉が生き生きと伸び広がる。
周囲の森がざわめき梢を鳴らす音は、まるで太古の昔から自分を知る者が、その帰還を歓迎するように優しく動き出すのだ。
最初はただの偶然だと思おうとした。
自分の心が壊れて、奇妙な気の迷いを見せているだけだと、現実から目を背けようとした。
だが、違った。
私が心の底から強く願えば、すべての植物がその声に応え、忠実に従うのだ。
鬱蒼とした巨木たちが、自分の確かな意志によって統制され、うねりを上げる。
足元の土を割って芽吹き、恐ろしいほどの速度で急速に伸び、まるで見えない敵を縛り上げるかのように複雑に絡み合う。
それはまるで、この広大な森そのものが、自分自身の手足の一部にでもなったかのような、悍ましくも万能な感覚だった。
人間には到底持ち得ない、大自然の生命力を完全に支配する圧倒的な力。
その眼前に広がる覆しようのない奇跡の光景が、残酷なまでに、しかし決定的な現実となって自分に突きつけられる。
自分はやはり、普通の人間ではないのだ、と。
では、自分は一体何者として、この世に生を受けたのだろうか。
混沌とする私の脳裏に、あの屋敷で告げられた言葉が重々しく響き渡る。
「お前の中の力は、巫女を守るために再びこの世界に降り立ったのだ」
───『青龍』。
その真実の響きが、自分の魂の鎖を解き放った。
ついに知ったのだ。
自分という存在の本当の正体を。
なぜこの異形の身体、青い鱗を持って生まれてきたのかを。
何のために、この広大な大自然を動かす強大なる力をその身に宿しているのかを。
自分は決して、意味もなく、呪われた化け物として偶然に生かされていたわけではなかった。
遥か遠い昔から連綿と続いてきた、巫女を守るという過酷な宿命のために生まれ、その大いなる役目を果たすためにこそ、この世に生かされていたのだ。
その宿命の重さは両肩に重く、深くのしかかる。
だが同時に生まれて初めて、否定され続けた自分の呪われた存在に、確かな意味と居場所を見出すことができた、至上の救いの瞬間でもあった。
もう決して独りではない。
この異形の身体を持ち、人とは違う苦しみを抱えて生きてきた痛みを、心の底から理解し合える本物の仲間が、すぐ傍にいる。
そしてこの命の全てを賭してでも、何としても守り抜くべき、かけがえのない大切な存在が、今、目の前にいるのだ。
その決意の先に。
『私』の笑顔が客観的な目線で見えた───。