悠久の彼方より   作:時-トキ-

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第6話

無言の行進の果てに、その部屋はあった。

他の和室とは明らかに異なる、重厚で禍々しいほどに古い木製の両開き扉。

その佇まいを見ただけで、ここがこの屋敷の心臓部であり、不可侵の領域であることが嫌でも伝わってきた。

おばあちゃんが扉の前に立ち、その細い手をかける。

彼女が軽く触れただけに見えたが、分厚い扉はまるで自らの意志で目覚めたかのように、音もなくゆっくりと左右に開いていった。

扉の先には、底知れない沈黙の闇が広がっていた。

おばあちゃんが躊躇なくその闇へと足を踏み入れ、みんなも慣れた様子で後に続く。

「参りましょう、鈴さん」

伊織さんの低い声に背中を押され、私は意を決して扉の向こう側へと足を踏み入れた。

一歩、境界線をまたいだ瞬間────目眩を覚えた。

廊下から見たときは完全な暗闇だったはずの室内が、中に入った途端、光源もないのに柔らかな淡い光で満たされていたのだ。まるで一瞬で異世界へと空間転移してしまったかのような、強烈な違和感。

慌てて振り返ったが、そこには確かに、さっきまで歩いていた板張りの廊下が繋がっていた。

「鈴」

部屋の奥から、おばあちゃんの厳かな声が響く。

「こちらへおいで」

彼女は自分のすぐ隣に来るよう促し、私は気圧されたまま無言でその指示に従う。

おばあちゃんは私が隣に並んだのを確認すると、部屋の最奥に鎮座する、古びた両開きの厨子(ずし)をゆっくりと開いた。

その中に納められていたのは、私の拳よりも一回り大きな、歪みのない真ん丸な球体だった。

世間一般でいう『水晶玉』のようなもの。

けれど、それは透明なガラスなどではなく、内部が奇妙に濁っており、その濁りはまるで生き物か液体のように、どろどろと不気味に揺らめいていた。

「これは……?」

「宝玉(ほうぎょく)だよ」

おばあちゃんは私の手を取り、そっとその球体の上へと導いた。

言われるままに手のひらを宝玉へと近づけた、その瞬間。

パチパチッと、激しい静電気が走ったかのような鋭い痛みが走り、私は思わず「痛っ」と手を引き戻した。

驚いておばあちゃんを見上げると、彼女はふっと寂しげな、悲哀を帯びた影を瞳に落として微笑んだ。

「この世の『邪気』を吸い上げ、浄化し続けてきた宝玉の力が……今、急激に弱まり始めている」

唐突に語られた世界の危機のような話に、私は怪訝な表情を浮かべる。

けれど、周囲を取り囲む四人の男たちは、冗談を聞くような気配は一切なく、凍りついたような真剣な面持ちでその言葉を聞き入っていた。

「見ての通り、内部の濁りが抑えきれなくなっている。このままでは遠からず、この世は『陰(いん)』の力で溢れかえってしまうだろう」

「お館様。昼間、鈴さんに『邪』の気配が急接近したと、当麻くんが報告しております」

伊織さんが一歩前に出て、おばあちゃんに告げた。

おばあちゃんは深く、重々しく首を縦に振る。

「奴らは気づいているのだ。『巫女』が、この地に足を踏み入れたことに」

その言葉に、男たちが一斉に息を呑んだ。

部屋を満たす空気が、ずしりと重く、肌がひりつくほどの緊張感で満たされていく。

完全に私一人が置いてけぼりだった。

あまりの非現実的な会話に、頭が追いつかない。

「あの……」

たまらず声を上げると、みんなの硬い視線が一斉に私に集中した。私はそのおどろおどろしい視線の圧力に、思わずもじもじと身体を縮こまらせる。

「鈴、どうしたかね?」

「あの、宝玉とか、陰とか邪とか、さっぱりわけのわからないお話なんですけど……。私、ここにいてもいいんでしょうか? 何かの、その……怪し…、いえ、宗教の儀式か何かで、私がお邪魔虫なんじゃ……」

「何を言っているんだい。お前こそが、この場所において最も不可欠な『要』なのだよ」

「……え?」

間抜けな声が出た。私は仰け反りながら目を丸くし、みんなの突き刺さるような視線の中で立ち尽くす。

「お前は、本物の『巫女』なのだからね」

「巫女って……あの、神社にいる白と赤の着物を着た、お正月に初詣とかで見る、あれ、ですよね?私が? なんでですか? 私、そんなバイトに応募した覚えはありませんけど!」

「お前は、この宝玉と『対』をなす存在なのだよ。その身に宿る力が、宝玉を呼び覚ます」

おばあちゃんの言葉に、さらに眉をひそめる。

何か言い返そうとしたけれど、何から突っ込んでいいのかすら分からず、口を半開きにしたまま完全にフリーズしてしまった。

「お館様。鈴さんはまだ何も知らされずにここへ来たのです。いきなり核心を話されても、理解し難いでしょう。どうでしょう、まずは私から順を追ってご説明差し上げてもよろしいでしょうか?」

伊織さんの助け舟に、おばあちゃんは彼の顔をじっと見つめ、少し考えてから深く頷いた。

「それでは伊織、お前に任せます」

おばあちゃんはゆっくりと宝玉の厨子を閉めると、そのまま静かに部屋を去っていった。

主がいなくなった室内に、伊織さんは私を床に座るよう促した。

私が腰を下ろすと、当麻も、史耶も、、武さんも、それぞれゆっくりと周囲に腰を下ろした。

 

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