私は
【こんにちは。私はアビドス高等学校の
この度は、先生にお願いしたいことがあり、連絡させていただきました。
単刀直入に言いますと、今、私たちの学校は追い詰められています。
それも、地域の暴力組織によってです。
こうなってしまった事情は、かなり複雑ですが……どうやら、私たちの学校の校舎が狙われています。
今はどうにか食い止めていますが、そろそろ弾薬などの補給が底をつきます。
このままでは、暴力組織に学校を占拠されてしまいそうな状況です。
それで、今回、先生に弾薬などの支援要請をしたく、連絡させていただきました。
支援いただきたい物資は添付ファイルをご確認ください。
先生、どうか私たちの力になっていただけませんか?】
私はチナツから届いたメールを読み終えると、椅子に深くもたれかかった。
「……暴力組織に、学校が襲撃されている、か」
『はい。内容から判断すると、かなり切迫した状況だと思われます。学校が暴力組織に攻撃されているなんて……ただ事ではなさそうですが……何があったんでしょうか』
アロナの声にも、いつもの明るさはなかった。
私は原作知識から、アビドス高等学校にこれから襲いかかる出来事を思い返す。
──そして、言われなくても、答えは決まっていた。
「アビドスに出張するよ、アロナ」
『──っ!? すぐに出発ですか、先生!? 流石は大人の行動力です! かしこまりました! すぐに出発しましょう!』
私は直ぐに数日分の生活必需品を、リュックの中に入れながら、準備を整え始める。
そして──、
『そういえば、先生! アビドス自治区は大きくてですね! 街のど真ん中で道に迷って遭難する人がいるくらいだそうですよ! けど、まさか──大の大人である先生が遭難するだなんて、えへへ』
何か意味深に、勝手に遭難フラグを立てているアロナの声を聞いていると、原作知識を思い出して、少し不安になってくる。
(原作通りだと、
まあ、そのおかげなのか。
道の真ん中で倒れていた所を、アビドス高等学校に所属する
果たして──この私は、その原作の流れを踏襲するべきなのだろうか。
これこそが、ゲームをプレイしていた時に見た事がある、メインストーリーVol.1の始まり方だ。
その後、先生がアビドスの生徒達と出会い、彼女達が抱えている問題を知り、そして──。
「……けど、本当に、同じようになるのかな」
『先生? 何かおっしゃいましたか?』
「いや、何でもないよ、アロナ」
私は苦笑して、リュックのファスナーを閉じる。
私は原作知識を持っている以上、アビドスで遭難する必要などない。
何なら連邦生徒会長が残したオーパーツである、スーパーアロナちゃんに頼めば、目的地までの最短ルートだって簡単に検索できるはずだ。
わざわざ砂漠の中で迷子になる必要なんてないんだ。
「アロナ。アビドス高等学校までの最短ルートを検索できる?」
『もちろんです! 先生のためなら、アロナちゃんにお任せください!』
アロナの声が、どこか誇らしげに弾む。
そして、すぐにタブレットの画面には、簡素な地図が表示される。
そこには、アビドス自治区を示す広大な領域と、その中にぽつんと表示された目的地があった。
『この赤い丸印が、アビドス高等学校になります!』
「了解、ありがとう、アロナ。やっぱり頼りなるね!」
『えへへ〜。もっと褒めてくれてもいいんですからね!』
私はアロナが示したルートを頼りに、アビドス自治区へ向かうことになった。
シャーレを出発する前に、私は念のため、数日分の水や食料は用意した。
さらに、予備の通信機器と簡易的な救急用品も詰め込む。
そして──支援の目的である『弾薬』などの物資も、リュックに入れれるだけ詰め込む。
その他の持ちきれない物資は、連邦生徒会に一報を入れ、アビドス高等学校に届くように発注は済ませた。
原作の先生が、どの程度の準備をしていたのかは詳細には知らない。
ただ、私は同じ轍を踏みたくなかった。
「これだけ準備しておけば、流石に大丈夫だろう」
『先生、念のためにもう少し水を持っていきませんか?』
「ん? 数日分はあると思うよ?」
『けれど、アビドス自治区は広大な砂漠地帯です。遭難した場合、水分不足が一番危険ですから』
「……アロナ」
『はい? どうされましたか、先生?』
「それ、遭難する前提で話してない?」
『……そ、そんなことはありませんよ!!』
アロナの声が、わずかに上ずった。
私はシッテムの箱に映るアロナをじっと見つめながらも──これから向かうアビドスに思いを馳せる。
チナツからの手紙は、決して無視できる内容ではなかった。
アビドスの生徒達が、暴力組織から学校を守るために戦っている。
けれど、弾薬が底をつきかけ、このままでは学校が占拠されようとしている。
それだけ聞けば、私が取るべき行動は決まっていた。
──助けに行く。
原作知識があるからではない。
彼女達がこれからどんな運命を辿るのかを知っているからでもない。
ただ、助けを求めている生徒がいる。
──それだけで、私が動く理由としては十分だった。
「……行ってきます」
私はシャーレの執務室を一度だけ振り返り、扉を開けてシャーレの外へ出た。
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──数日後。
私は、街のど真ん中に立っていた。
砂の被った住宅街。
照りつける太陽。
遠くに見える蜃気楼。
道路の先に、白いかかしが見えそうだ。
「……アロナ」
『はい。どうされましたか、先生?』
「ここ、どこ?」
『アビドス自治区です!』
「いや、そうじゃなくて……」
私は手元の端末──シッテムの箱を見る。
通信状態は悪い。
地図情報は断続的に途切れている。
現在位置を示すマーカーは、数秒ごとに大きく移動していた。
「現在地が分からないんだけど?」
『えっと……せ、先生。遭難しました!』
「……うん、知ってる」
その言葉を最後に、私は道路の真ん中で力なく倒れた。
『せ、先生!? い、嫌です! 先生!! 大丈夫ですか! 先生!?!』
最初は順調だったんだ。
しかし、アロナが地図で示した場所は──砂嵐に巻き込まれて、電波が不調となり、位置情報が狂う。
その結果が数日間の遭難だ。
(ま、まさか、原作知識があっても遭難するとは……)
これは『世界の強制力』というものがあるのだろうか。
そんな馬鹿げた考えが頭に浮かぶ。
「……
大人として──なんとも情けない話だが、もうそれだけが、私に残された救いのように感じる。
もしも、世界の強制力があるのなら、せめて、ここだけは原作通りにしてほしい。
私は薄れゆく意識の中で、そんなことを考えていた。
アビドス自治区の真ん中で遭難し、道端に倒れ、そして──。
風に乗って、さらさらと砂が流れていく音。
その向こうから、誰かが自転車を漕ぐ音が近づいてくる。
──キキーッ!!
頭の上で鳴り響いたブレーキ音に、私は重たい瞼を、ゆっくりと開いた。
視界の端に、誰かの姿が映る。
──白い髪の毛だ。
私は、かすかに息を吐いた。
(っ。シロコだ。シロコが来てくれたのか!)
私はそう確信した。
きっと彼女は、私を見つけてくれた。
何とも情けない姿だが、それでも命の危機には変えられない。
原作と同じように──、
「……そこの大人、大丈夫か?」
(……へ? な、何だか、声が違うような?)
自転車から降りた少女が、倒れる私の顔を覗き込んでくる。
──白い髪。
──
──そして、
──シューッ、シューッ。シューコーッ。
ガスマスクから発せられる息遣いが、とても大きく聞こえる。
その人物は、私の記憶にある砂狼シロコのものではない──というより、この人物は、まさか。
「……もしかして、熱中症か?」
私の脳裏には、一人の女の子が思い浮かぶ。
その人物は本来──、
ブルーアーカイブのメインストーリーVol.3 『
──その名も、
(ア、
トリニティ総合学園の補習授業部に所属する少女。
──
私はアビドス自治区にいる彼女を見て、心の中で絶叫したのだった。
ん。先生は『何だよぉおもおおお、またかよぉおぉぉおおおおっ』て叫んでいる時が一番輝いてる。