何かがおかしいブルーアーカイブ   作:千ノ宮チノ

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「サキは鉄帽を被っているよな?」
「……な、何だ、アズサ先輩?」
「もしや、ヘルメット団からの刺客──アビドスの裏切り者!?」
「そ、そんなわけないだろ!?!?」



第13話:カタカタヘルメット団襲来

 

「うへぇ〜。これで先生も、おじさん達と仲間だねぇ」

 

 そう言って、ホシノはいつものように気の抜けた笑顔を浮かべた。

 その姿を見て、私は胸の奥に溜まっていた緊張を、少しだけ吐き出す。

 

 その次の瞬間だった。 

 

 ──ダダダダダダッ!!! 

 

「っ!? じ、銃声?」

 

 突然、校舎の外から銃声が響き渡った。

 その音を聞き、教室の空気が一変する。

 

 チナツは直ぐさま、窓際へ駆け寄り、銃声の鳴った方角を確認すると──、

 

「先輩方! そして、先生! 武装集団が校門に接近してきています! あれは……カタカタヘルメット団です!」

「あいつら……! また性懲りも無く!」

 

 サキはそう言うと、鉄帽を深々と被り直す。

 そこには、先ほどまでの豪快な笑顔は、もうない。

 

 彼女の視線は鋭く、窓の外を睨みつけている。

 

「先生──窓からは離れてください。流れ弾が当たっては、危険ですから」

「っ……! あ、ありがとうね、ノア」

 

 ノアはそう言うと、私の手を取った。

 そして、窓から離れた廊下側へと私を引っ張っていく。

 

「先生はこちらに」

「え、あ、うん」

 

 ノアの動きに迷いはなかった。

 彼女もまた、戦うための顔をしていた。

 

「ホシノ先輩──私は何時でも出れる」

 

 アズサが銃を構えながら、ホシノへと声をかける。

 

「りょうかいー。頼りにしてるよ、アズサちゃん」

 

 ホシノは、のんびりとした声で返事をした。

 そして、窓の外へ視線を向ける。

 

「へぇ〜、ヘルメット団め〜、おじさんと先生の会話を邪魔するなんてね」

 

 その言葉とは裏腹に、彼女の目は笑っていないように見える。

 

「──みんな、行くよ!」

 

 そのホシノの言葉を皮切りに、他の四人が元気良く返事をする。

 そして──教室の外へと、アビドスの五人は駆け出していった。

 

「っ──私も皆のサポートをするよ!」

 

 私は慌てて彼女たちの後を追った。

 その途中で、シッテムの箱を起動する。

 

「アロナ!」

『──っ! 先生、戦術指揮モードですね!』

 

 アビドスの皆の足の速さは早い。

 

 私が校舎の階段を降りて、校庭に出る頃には、アビドスの皆とヘルメット団が対面している状況であった。

 

「おい! アビドスの連中!」

 

 ヘルメット団の先頭に立つ生徒が、ホシノ達を指差しながら叫ぶ。

 

「今日こそ、この学校を俺たちのものにしてやるからな!」

「アビドスはもう終わりだ!」

「大人しく学校を明け渡せ!」

 

 次々と、ヘルメット団からは声が上がる。

 そんなヘルメット団に対して、アビドスの皆は冷静に銃を構えると──ホシノとアズサ、サキがヘルメット団の前へと出ていく。

 

 ──戦術指揮モード、起動。

 

 会敵をしたことで、タブレット──シッテムの箱の画面が、斜め上空からホシノ達を見下ろす視点に切り替わる。

 

 それは、ゲームの中で何度も見てきた画面であり、何度も触れてきた操作。

 それが、今は現実の世界で、展開されている。

 

『先生、敵の数はおよそ三十人のようです!』

「三十か……了解、アロナ」

 

 私は画面上のヘルメット団の数を把握し、アビドスの皆へと大声で話しかける。

 

「みんな──私が指揮するよ!!」

「……せ、先生?! こ、来られたんですか?」

 

 最後尾にいるチナツがこちらを振り返る。

 

「うん。みんなのサポートをするからね!」

「っ──危険です! 先生は校舎の中に隠れていてください!」

 

 そんな校舎から飛び出した私を発見すると、ノアが即座に声を上げて駆け寄ってくる。

 

「生徒の皆が戦うのに、大人である私が隠れている訳にはいかないからね」

「っ……先生……」

 

 ノアが驚いたように目を見開く。

 

「まあ、戦うと言っても、私が銃を撃つわけじゃないよ。ノア──私を信じてほしい」

 

 私はそう言って、シッテムの箱を掲げる。

 シッテムの箱の画面には、戦場全体の情報が表示される。

 

 敵の位置と体力。

 味方の位置と体力。

 遮蔽物──など。

 

 それらが、次々と私の視界に入ってくる。

 

(……私なら、やれる) 

 

 もちろん、銃弾は怖い。

 当たれば、私の場合、即死する可能性すらある。

 

 それでも──私は、先生だから。

 

「……ノアちゃん。先生なら大丈夫だよ〜」

 

 ホシノが、私の方へ視線を向けながら言った。

 

「え?」

「だって、先生は先生だからねぇ」

 

 相変わらず、気の抜けた声だった。

 しかし、その言葉に込められた意味は、私には分からなかった。

 

「……先生だから?」

「うん。先生は、おじさん達の先生でしょ?」

 

 ホシノは、私の顔をじっと見つめる。

 その表情は、いつものように穏やかだった。

 

「だから、先生は先生らしくしてていいよ〜」

 

 ホシノの視線が、私から外れた。

 私は、ホシノの背中を見つめる。

 

 それは、何気ない言葉。

 原作知識を知る私からしても、ホシノらしい、のんびりとした言い方。

 けれど──なぜだろう。

 

 その言葉には、妙な重みを感じた。

 

「……分かりました。先生、私達の指揮をお願いします──私が先生の前に立ち、守りますから」

「っ──ありがとう、ノア」

 

 そう言ってノアが、私の前に立つ。

 その背中は、先ほどまで本を抱えていた少女のものとは思えないほど、頼もしく見えた。

 

 私はシッテムの箱を握り直した。

 

「みんな、聞いて!」

 

 私が声を張り上げると、アビドスの五人がその場で頷く。

 

「敵は三十人。正面から全員を相手にする必要はないよ!」

 

 シッテムの箱に表示された戦場を確認する。

 ヘルメット団は、校門から校庭へと広がりながら進んでいる──その数は三十人と多い。

 

 しかし──全員が同じ場所に固まっているわけではない。

 

 右翼と左翼に五人ずつ。

 中央に大半の戦力。

 そして、後方には数人の生徒が残っている。

 

 対して、こちらは五人。

 数だけを見れば、圧倒的に不利だ。

 けれど──私には、アビドスの皆が負ける気はしなかった。

 

「アズサ! ──左側の集団を狙って! まずは前衛を崩して、敵の進行を止めて!」

「了解した!」

 

 アズサは一切の迷いなく、敵の前衛へと突っ込んでいく。

 

「サキ! ──サキは、右側から迫る敵をお願い! 敵が中央に集まらないようにして!」

「任せろ、先生!」

 

 サキはそう叫ぶと、身を低くしながら右側へと駆け出す。

 

「チナツはノアと一緒に、後衛で二人の支援をお願い! 味方の状態を見ながら、回復と援護射撃を! 無理は絶対にしないでね!」

 

「分かりました!」

「了解です、先生」

 

 チナツが頷き、ノアも静かに銃を構えた。

 

「そして、ホシノは──」

「おじさんは?」

 

 ホシノが、のんびりとした声でこちらを見る。

 その手には、既にリロードされた銃が構えられていた。

 

「中央を任せた!」

「うへぇ〜。一番、多いし大変そうなところじゃん」

「ホシノならできるんじゃないかな」

 

 私がそう言うと、ホシノは一瞬だけ黙った。

 そして──中央の敵へと目を向ける。

 

「……そっかぁ。先生がそう言うなら、頑張っちゃおうかなぁ」 

 

 その瞬間だった。 

 

「撃てぇぇぇぇぇっ!!!!」

 

 ヘルメット団から、怒号が響き渡り、無数の銃弾が、校庭を駆け抜ける。

 

「っ──!」

 

 反射的に身体が強張る。

 銃弾が空気を裂き、地面へと次々に突き刺さり、校庭の砂埃が舞い上がる。

 

 私はノアが守ってくれるお陰で被弾はない。

 私はシッテムの箱の画面を確認すると──アズサが砂埃の中で、身を隠しながら敵の集団へと接近していた。

 

「──そこだ!」

 

 乾いた銃声が連続して響き渡る。

 左翼にいるヘルメット団が、次々と身体を仰け反らせた。

 

「な、なんだ!?」

「どこから撃ってる!?」

「おい、打ってきてるやつはどこだ? 見えねぇぞ!?」

 

 アズサによって、敵が混乱している声が聞こえる。

 私はシッテムの箱をタッチする事で、敵の位置をマークし、砂埃の中でアズサへと伝えていく。

 

 銃声が鳴り、敵が一人、また一人と倒れていく。

 

「……すごい」

 

 思わず、口から言葉が漏れた。

 アズサの動きには、一切の無駄がない。

 

 ゲーム画面越しに何度も見てきたアズサの戦闘だが、実際に目の前で見ると、その印象はまったく違った。

 

 速く、そして──正確だ。

 

「この距離なら、外さない……!」

 

 アズサは小さく呟く。

 ヘルメット団の左翼が、完全に混乱していた。

 

 その一方──。

 

「おらぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 校庭の右翼では、サキが一人でヘルメット団を押し返していた。

 

「な、なんだこの女!?」

「こっちに、近づけさせるな!」

「撃て! 撃てぇぇぇぇ!!!」

 

 サキは、敵の銃撃を受けながらも、一歩も引かなかった。

 

 いや──サキは、寧ろ、前へ出ていた。

 

「そんな射撃で、私を止められると思うなよ!!」

 

 サキは大きく踏み込んで、地面を蹴り──そして、手にした銃を構えた。

 

 ──ダダダダダダッ!!! 

 

 激しい銃声が響き渡る。

 サキの銃撃により、敵の前衛が一斉に吹き飛び、次々と倒れていく。

 

「す、すごい……」

 

 私は思わず呟いた。

 サキの動きは、はっきり言うと荒々しい。

 

 しかし、ただ無闇に撃っているわけではない。

 その動きはまるで──敵に反撃する暇を与えない。

 

「チナツ──! サキに回復支援をお願い!」

「分かりました! サキのバイタルを確認──回復します」

 

 私はシッテムの箱を操作して、チナツにサキを回復してもらう。

 サキの削られていた体力が徐々に回復していく。

 

「ありがとう、チナツ。サキは、そのまま敵を引きつけて! アズサがそっちへ向かってるよ!」

「おう! 任せてくれ、先生!」

 

 サキは大声で返事をすると、さらに前へ出る。

 そこにアズサも合流し、右翼と左翼の敵は壊滅状態である。

 

 そして──最後に、中央では。

 

「うへぇ〜……」

 

 ホシノが、敵の大群を前にして大きく欠伸をしている。

 

「おじさん、これ本当に一人で止めるのぉ? 先生は、厳しいなぁ」

 

 そう言うホシノだが、その口元は少しだけ嬉しそうに緩んでいる。

 

「まあ、先生が任せてくれたし……おじさん、頑張っちゃうよぉ」

「う、撃てぇぇぇっ!!!!」

 

 中央のヘルメット団が一斉に銃撃を開始した。

 無数の銃弾がホシノへと殺到する。

 

「よよっと……!」

 

 しかし──ホシノは逃げずに、その無数の銃弾を躱していく。

 

「な、なんだ!? 躱していくぞ!?!」

「き、効いてないのか!?」

「ま、前に出ろ! みんな、数で押し切れ!!」

 

 そんなホシノを見て、ヘルメット団が束になって、距離を詰めてくる。

 そんなヘルメット団を、ホシノはゆっくりと顔を上げる。

 

「……ねぇ」

 

 その声から、いつもの眠たげな雰囲気が消えていた。

 

「おじさんの学校でさぁ。これ以上、好き勝手するの、やめてくれるかな?」 

 

 その瞬間──ホシノの姿が消えた。

 

 私もシッテムの箱の画面を見ていなければ、ホシノの事を目で追う事すら出来なかっただろう。 

 ほんの一瞬前まで、確かにそこにいたはずのホシノが、一瞬で消えて、中央にいた敵が次々に倒れていく。

 

(実際に見ると、こんなに、ホシノは強いのか……こ、これがキヴォトスの最強格の生徒の実力……!)

 

 ホシノは、一人だった。

 周囲には、十人以上のヘルメット団がいたはずなのに。

 

 普通なら、数の差で押し潰されてもおかしくない。

 それなのに銃弾の雨の中を突き進んで、中央の敵を一瞬で壊滅させた。

 

 校庭には、三人の前衛がいる。

 

 ──アズサ。

 ──サキ。

 ──ホシノ。

 

 気が付けば、校庭にはヘルメット団の生徒たちが倒れていた。

 そして、アビドス側は誰一人として、致命傷を負っている者はいない。

 

 戦闘は、完全に終わっていた。

 たった数分──私が指揮を始めてから、ほんの三分程度しか経っていない。

 

 それなのに──約三十人いたヘルメット団は、アビドスの五人によって完全に撃退されていた。

 

「皆さん、お疲れ様です。そして、先生も……どうやら私たちの勝ちのようですね」

 

 ノアが私が手に持つシッテムの箱を覗き込みながら、優しく微笑む。

 

 原作知識とは違う──アビドスの五人。

 原作のアビドスの五人も少数精鋭で戦闘力が高かったが──、

 

(この世界の、アビドスの五人も──バランスが整ってて、強いんだね)

 

 前衛のアズサ、サキ、ホシノは一騎当千の実力を持ち、ノアとチナツは後衛で、三人をサポートする。

 そんな知らないアビドスを──私は後方から眺める。

 

 

 校庭には、まだ銃撃の跡が残っていた。

 砂埃が舞い落ちて、倒れたヘルメット団の生徒たちは、次々とアビドス高等学校から撤退していく。

 

 ヘルメット団との戦いは──アビドスの圧勝であった。

 

 

 

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