ちっ……中が詰まってるのか。全然抜けない。
これだから、銃の手入れはこまめにしないとな。
チナツ、そこの潤滑油をとってくれるか?
(とある日の日常)
「ただいまぁ〜。おじさん疲れちゃったよぉ〜」
ヘルメット団との戦闘も終結し──、
私と対策委員会のメンバーは、先ほどまでいた教室へと戻った。
「お疲れ様です、ホシノ先輩」
「うへぇ〜。チナツちゃんもお疲れ〜」
ホシノはそう言いながら、教室の椅子に腰を下ろす。
それに続いて、アズサ達もそれぞれ席についていく。
「先生も、お疲れ様でした」
そんな中、ノアは私の傍に近寄り、声をかけてくる。
「うん。ノアも──そして、みんなもお疲れ様」
私はそう返事をしながら、教室にいる全員を見渡した。
先ほどまで、アビドスの皆は三十人ものヘルメット団を相手に戦っていた。
そして、誰一人として致命傷を負うことなく、敵を撃退した。
それは、間違いなくアビドスの勝利だった。
しかし──、
(やっぱり、皆の表情を見る感じ……ひと息ついただけで、根本的な問題解決には至ってなさそうだね)
私は原作知識から、何故アビドスの皆の表情が晴れていないのかは、何となく想像はつく。
もし、この世界でもアビドスが同じ状況に陥っているとしたら──、
「……ねぇ。みんな、他に困り事はないかな?」
私は教室の席に座るホシノ達に声をかける。
「っ……せ、先生?」
チナツが驚いたようにこちらを見る。
その表情は、明らかに動揺していた。
「……おい。どうして、そんなことを聞くんだ? 先生」
サキも警戒した様子で、私に問いかける。
私はその問いに少しだけ言葉が詰まる。
──アビドスを襲う砂嵐。
──生徒の減少。
──そして、多額の
私は何故なら原作知識で、それを知り得ているから。
けれど、その知識とは別に──今、目の前で、表情の晴れない生徒たちを見ていると、大人として、心配するに決まっているのは当然だ。
「……さっきの戦闘でヘルメット団を追い払ったのに、皆は勝った事を喜ぶよりも……今回も凌げた事を、安堵しているように見えたんだ」
そして、それは正に彼女達にとって、一つの通過点に過ぎず──、
「ヘルメット団を撃退したとしても、他に問題があるんじゃないかな?」
私がそう言うと、サキは黙り込んだ。
チナツもノアも、視線を落とす。
アズサは、私をじっと見つめている。
そして──、
「うへぇ〜」
ホシノが、机に突っ伏した。
「先生は、会ったばかりなのに、おじさん達を、よく見てるねぇ」
「それはもちろん! 生徒を見守るのが先生の務めだからね」
「そっかぁ〜……まあ、そうだねぇ。隠すような事じゃないし。先生には伝えるよぉ」
ホシノは顔だけをこちらに向ける。
「おじさん達にはさぁ、ちょっとだけ困ってることがあるんだよ〜」
「──っ! な、ホシノ先輩! 先生にわざわざ話す必要はないだろ!?」
「まあまあぁ〜、サキちゃん。別に罪を犯したとかじゃないし、先生は私たちを助けてくれた大人でしょ?」
「そうですね。サキちゃん、私も先生は信頼しても良いと思います」
声を荒らげるサキに対して、ホシノとノアが宥める。
「そ、それは……そうだが、結局のところ、先生はどこまでいっても部外者だろっ!」
「サキさん。確かに先生はアビドスに所属している訳ではありませんが──それでも、私達の
「チ、チナツ……そ、それでも、今まで大人たちが、この学校がどうなるかなんて気に留めたことがあったか? ──なかっただろ!」
サキの声が教室に響く。
「私達がどれだけ困っていても! 学校がどうなろうとしていても! 誰も助けに来なかった!」
サキは、悔しそうに顔を歪めた。
「それなのに……今更、大人が首を突っ込んでくるなんて──!」
「……サキ」
「っ! な、何だよ、アズサ先輩?」
そんなサキに対し、アズサは席を立ち、静かに名前を呼んだ。
アズサは私の傍まで歩いてくると──、
「先生は──
「っ……アズサ先輩も、そちら側か……!」
アズサは、私の傍でそう言い切った。
サキは手に持つ銃を強く握りしめると、私を睨みつける。
私はその視線を真っ直ぐに受けながら、口を開く。
「サキ……私はね。すぐに大人を信頼せず、疑うことも、サキの美点だと思ってる──だから、私の事を無理に信じなくていい」
「……っ」
「だから、ゆっくりでいいんだ」
私はサキの目を見つめる。
「大人として──先生として、サキ達の悩みを一緒に考えていく。その中で、私が本当に信頼できる人間なのか。サキ自身の目で見ていてほしい」
サキが驚いたように目を見開き、俯く。
拳は強く握りしめられていた。
「確かに先生の物資支援や指揮には感謝はしているっ──! けれど、この問題と先生は別だ!」
その声には、怒りだけではなく。
焦りや不安も混ざっているように思えた。
「わ、私は……認めないからな!!」
「っ! サキちゃん、待って! ──私、追いかけます」
その言葉を最後に、サキはノアの静止を振り切って、教室を飛び出していった。
そんなサキの様子に、ノアは後を追い、教室を飛び出していった。
私も反射的に、サキの後を追おうとした。
しかし──、
「……先生!」
アズサが、静かに私を呼び止めた。
「……アズサ?」
「今は、追わない方がいい。サキには、きっと……少し考える時間が必要だ」
「っ……」
私は、サキが飛び出していった廊下を見つめる。
「……そっか、ありがとう、アズサ」
「いや、いいんだ」
「っ……みんなから見ても、サキは、かなり怒っていたよね」
「……はい。そうですね」
チナツが私の言葉に頷く。
「ですが、サキさんは先生に対して怒っているというよりも──」
「……大人そのものに、だな」
「そう、ですね、アズサ先輩……おそらくは」
私は、黙り込んだ。
サキの怒りは、私に向けられているように見えた。
けれど──あの言葉の奥にあったのは、もっと深いものだったと私は思う。
誰も、気に留めてくれなかった。
そんな状況で、突然現れた──私という大人が「助ける」と言っても、簡単に信じられるはずがない。
「……サキは、ずっと頑張ってきたんだね」
私がぽつりと呟くと、誰も答えなかった。
しかし、ホシノは机に突っ伏したまま、いつものように気の抜けた声を出した。
「そうだねぇ。サキちゃんは、ずっと頑張ってきたよ」
ホシノは、顔だけをこちらに向ける。
「そして──おじさん達もねぇ」
「……ねぇ、ホシノ。アビドスの状況を聞かせてほしい」
ホシノは、しばらく私の顔を見つめた。
やがて──、
「……わかったよ、先生」
そう言って、ホシノは観念したようにゆっくりと身体を起こし、窓の外へと視線を向ける。
「アビドスがどうして、こんなに生徒が少なくなったのか」
窓の向こうに広がるのは、どこまでも続く砂漠だった。
「えーと、簡単に説明すると……この学校には
「正確には──9億6235万円です。それがアビドス……いえ、対策委員会が返済しなくてはならない金額になります」
チナツがホシノの説明に補足する。
「これが返済できないと、学校は銀行の手に渡り、廃校手続きを取らざるを得なくなります」
「だが、金額が大きいからな……殆どの生徒は諦めて、この学校と街を捨てて……私達だけが残ったんだ」
チナツとアズサの話に、私は顔を顰める。
その後も、私は三人から借金をする事になった事情を聞いた。
その話は──概ね原作知識の通りであった。
進む砂漠化対策のために、多額の資金を投入するも事態は好転せず、片田舎であるアビドスに、巨額の融資をしてくれる銀行がない。
だから──結局、悪徳な金融業者を頼るしかなく、借金がみるみる膨れ上がっていた、と。
「私達の力では、毎月の利息を返済するのが精一杯です。そのため、弾薬や補給品も、底をついてしまっている状況でした」
「サキがあそこまで神経質なってるのは……これまで話を聞いてくれた大人が……先生が初めてだからだ」
「まあ〜、アビドスの問題は、そういうつまらない話だよ」
ホシノはそう言うと、困ったように笑った。
「で、先生のおかげで弾薬等の支援が間に合って、ヘルメット団の撃退という問題は片付いたってわけー。おそらく、あれだけ痛い目見たら、すぐは来ないんじゃないかな〜」
「……それなら、よかったけど」
私はそう言いながら、先ほど聞いた話を頭の中で整理する。
──砂漠化によって失われていく街。
──9億円以上の借金。
──毎月発生する利息。
──そして、学校を守るために必要な物資すら満足に購入できない状況。
それだけの問題を抱えていながら、ホシノ達は──、
「……つまらない話なんかじゃないよ」
「へ?」
「うん。つかなり大変な問題だよね? 私は、これをつまらない話として、みんなを見捨ててシャーレに戻るなんて事はしないよ!」
「うへぇ〜」
ホシノは、困ったように笑った。
「──私をどうか、
「そ、それって……! 先生、ありがとうございます!」
「……!! ありがとう、先生! 正式に私達の仲間だな!」
チナツとアズサが嬉しそうに頬を緩める。
「へぇ〜、先生は変わりものだねぇ……こんな面倒な事に自分から首を突っ込むなんてさぁ」
そう言うホシノは、どこか呆れたように笑っていたのだった。
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──薄暗い路地裏を一人の生徒が歩く。
道端にはゴミが散乱し、不良生徒ですら殆ど立ち寄らない区画。
その区画を迷うこと無く、その生徒は進んでいき、
一つの廃墟の前で立ち止まる。
そして──鍵のかかっていない廃墟の扉を開け、その中へと入っていく。
その廃墟は外観と反して、室内はやけに綺麗に整っていた。
「……ただいま、戻った」
「あぁ──
その生徒──『
「……珍しいな。
「はい。現在、此処にいるのは私とカンナさんだけです」
この部屋の中には、現在、カンナを含めて二人の
その光景が意外だったのか、カンナは少し驚いているようだった。
「一人は
「……そうか」
そう呟き、カンナは目を瞑る。
「そういえば、カンナさんは──前に
「っ……そうだとしたら?」
「いえ。少し気になっただけです」
その少女は──カンナへと視線を向ける。
「──どうでしたか、
その質問に、カンナは眉を顰め、しばらくの間、何かを考えるように黙り込んだ。
そして──、無表情のまま、カンナは答える。
「……私は、余計なことをするつもりはない。ただ、もし先生が……生徒達を本当に助けようとしているのなら、その行動を、見極めるだけだ」
「そうですか……」
次はその少女が黙り込む。
だが、頭の中で整理がついたのか、淡々とした口調で話を続ける。
「……分かりました。私は
──その言葉を最後に、廃墟の中には静寂が訪れた。
それぞれの思惑が交差し始めたところで、アビドスでの一日目は、静かに幕を閉じた。
本日はブルーアーカイブ5.5周年──!
ブルアカ生放送を視聴するために、この時間に投稿させていただきます。
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それでは──今後もお楽しみください!