何かがおかしいブルーアーカイブ   作:千ノ宮チノ

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ちっ……中が詰まってるのか。全然抜けない。
これだから、銃の手入れはこまめにしないとな。
チナツ、そこの潤滑油をとってくれるか?
(とある日の日常)




第14話:交錯するそれぞれの思い

 

「ただいまぁ〜。おじさん疲れちゃったよぉ〜」

 

 ヘルメット団との戦闘も終結し──、

 私と対策委員会のメンバーは、先ほどまでいた教室へと戻った。

 

「お疲れ様です、ホシノ先輩」

「うへぇ〜。チナツちゃんもお疲れ〜」

 

 ホシノはそう言いながら、教室の椅子に腰を下ろす。

 それに続いて、アズサ達もそれぞれ席についていく。

 

「先生も、お疲れ様でした」

 

 そんな中、ノアは私の傍に近寄り、声をかけてくる。

 

「うん。ノアも──そして、みんなもお疲れ様」

 

 私はそう返事をしながら、教室にいる全員を見渡した。

 先ほどまで、アビドスの皆は三十人ものヘルメット団を相手に戦っていた。 

 そして、誰一人として致命傷を負うことなく、敵を撃退した。

 それは、間違いなくアビドスの勝利だった。

 

 しかし──、

 

(やっぱり、皆の表情を見る感じ……ひと息ついただけで、根本的な問題解決には至ってなさそうだね)

 

 私は原作知識から、何故アビドスの皆の表情が晴れていないのかは、何となく想像はつく。

 もし、この世界でもアビドスが同じ状況に陥っているとしたら──、

 

「……ねぇ。みんな、他に困り事はないかな?」

 

 私は教室の席に座るホシノ達に声をかける。

 

「っ……せ、先生?」

 

 チナツが驚いたようにこちらを見る。

 その表情は、明らかに動揺していた。

 

「……おい。どうして、そんなことを聞くんだ? 先生」

 

 サキも警戒した様子で、私に問いかける。

 私はその問いに少しだけ言葉が詰まる。

 

 ──アビドスを襲う砂嵐。

 ──生徒の減少。

 ──そして、多額の()()

 

 私は何故なら原作知識で、それを知り得ているから。

 けれど、その知識とは別に──今、目の前で、表情の晴れない生徒たちを見ていると、大人として、心配するに決まっているのは当然だ。

 

「……さっきの戦闘でヘルメット団を追い払ったのに、皆は勝った事を喜ぶよりも……今回も凌げた事を、安堵しているように見えたんだ」

 

 そして、それは正に彼女達にとって、一つの通過点に過ぎず──、

 

「ヘルメット団を撃退したとしても、他に問題があるんじゃないかな?」

 

 私がそう言うと、サキは黙り込んだ。

 チナツもノアも、視線を落とす。

 アズサは、私をじっと見つめている。

 

 そして──、

 

「うへぇ〜」

 

 ホシノが、机に突っ伏した。

 

「先生は、会ったばかりなのに、おじさん達を、よく見てるねぇ」

「それはもちろん! 生徒を見守るのが先生の務めだからね」

「そっかぁ〜……まあ、そうだねぇ。隠すような事じゃないし。先生には伝えるよぉ」

 

 ホシノは顔だけをこちらに向ける。

 

「おじさん達にはさぁ、ちょっとだけ困ってることがあるんだよ〜」

「──っ! な、ホシノ先輩! 先生にわざわざ話す必要はないだろ!?」

「まあまあぁ〜、サキちゃん。別に罪を犯したとかじゃないし、先生は私たちを助けてくれた大人でしょ?」

「そうですね。サキちゃん、私も先生は信頼しても良いと思います」

 

 声を荒らげるサキに対して、ホシノとノアが宥める。

 

「そ、それは……そうだが、結局のところ、先生はどこまでいっても部外者だろっ!」

「サキさん。確かに先生はアビドスに所属している訳ではありませんが──それでも、私達の()()()()を解決してくれそうな大人は、先生くらいしかいません。悩みを打ち明ければ、解決策も出てくる可能性も……!」

「チ、チナツ……そ、それでも、今まで大人たちが、この学校がどうなるかなんて気に留めたことがあったか? ──なかっただろ!」

 

 サキの声が教室に響く。

 

「私達がどれだけ困っていても! 学校がどうなろうとしていても! 誰も助けに来なかった!」

 

 サキは、悔しそうに顔を歪めた。

 

「それなのに……今更、大人が首を突っ込んでくるなんて──!」 

「……サキ」

「っ! な、何だよ、アズサ先輩?」

 

 そんなサキに対し、アズサは席を立ち、静かに名前を呼んだ。

 アズサは私の傍まで歩いてくると──、

 

「先生は──私達(アビドス)()()だ!」

「っ……アズサ先輩も、そちら側か……!」

 

 アズサは、私の傍でそう言い切った。

 サキは手に持つ銃を強く握りしめると、私を睨みつける。

 私はその視線を真っ直ぐに受けながら、口を開く。

 

「サキ……私はね。すぐに大人を信頼せず、疑うことも、サキの美点だと思ってる──だから、私の事を無理に信じなくていい」

「……っ」  

「だから、ゆっくりでいいんだ」

 

 私はサキの目を見つめる。

 

「大人として──先生として、サキ達の悩みを一緒に考えていく。その中で、私が本当に信頼できる人間なのか。サキ自身の目で見ていてほしい」

 

 サキが驚いたように目を見開き、俯く。

 拳は強く握りしめられていた。

 

「確かに先生の物資支援や指揮には感謝はしているっ──! けれど、この問題と先生は別だ!」

 

 その声には、怒りだけではなく。

 焦りや不安も混ざっているように思えた。

 

「わ、私は……認めないからな!!」

「っ! サキちゃん、待って! ──私、追いかけます」

 

 その言葉を最後に、サキはノアの静止を振り切って、教室を飛び出していった。

 そんなサキの様子に、ノアは後を追い、教室を飛び出していった。

 

 私も反射的に、サキの後を追おうとした。

 

 しかし──、

 

「……先生!」

 

 アズサが、静かに私を呼び止めた。

 

「……アズサ?」

「今は、追わない方がいい。サキには、きっと……少し考える時間が必要だ」

「っ……」

 

 私は、サキが飛び出していった廊下を見つめる。

 

「……そっか、ありがとう、アズサ」

「いや、いいんだ」

「っ……みんなから見ても、サキは、かなり怒っていたよね」

「……はい。そうですね」

 

 チナツが私の言葉に頷く。

 

「ですが、サキさんは先生に対して怒っているというよりも──」

「……大人そのものに、だな」

「そう、ですね、アズサ先輩……おそらくは」

 

 私は、黙り込んだ。

 サキの怒りは、私に向けられているように見えた。 

 

 けれど──あの言葉の奥にあったのは、もっと深いものだったと私は思う。

 

 自分達(アビドス対策委員会)がどれだけ困っていても、誰も助けてくれなかった。

 誰も、気に留めてくれなかった。

 そんな状況で、突然現れた──私という大人が「助ける」と言っても、簡単に信じられるはずがない。

 

「……サキは、ずっと頑張ってきたんだね」

 

 私がぽつりと呟くと、誰も答えなかった。

 しかし、ホシノは机に突っ伏したまま、いつものように気の抜けた声を出した。

 

「そうだねぇ。サキちゃんは、ずっと頑張ってきたよ」

 

 ホシノは、顔だけをこちらに向ける。

 

「そして──おじさん達もねぇ」

「……ねぇ、ホシノ。アビドスの状況を聞かせてほしい」

 

 ホシノは、しばらく私の顔を見つめた。

 やがて──、

 

「……わかったよ、先生」

 

 そう言って、ホシノは観念したようにゆっくりと身体を起こし、窓の外へと視線を向ける。

 

「アビドスがどうして、こんなに生徒が少なくなったのか」

 

 窓の向こうに広がるのは、どこまでも続く砂漠だった。

 

「えーと、簡単に説明すると……この学校には()()があるんだー。で、問題はその金額で……()()()くらいあるんだよねー」

「正確には──9億6235万円です。それがアビドス……いえ、対策委員会が返済しなくてはならない金額になります」

 

 チナツがホシノの説明に補足する。

 

「これが返済できないと、学校は銀行の手に渡り、廃校手続きを取らざるを得なくなります」

「だが、金額が大きいからな……殆どの生徒は諦めて、この学校と街を捨てて……私達だけが残ったんだ」

 

 チナツとアズサの話に、私は顔を顰める。

 その後も、私は三人から借金をする事になった事情を聞いた。

 

 その話は──概ね原作知識の通りであった。

 

 進む砂漠化対策のために、多額の資金を投入するも事態は好転せず、片田舎であるアビドスに、巨額の融資をしてくれる銀行がない。

 だから──結局、悪徳な金融業者を頼るしかなく、借金がみるみる膨れ上がっていた、と。

 

「私達の力では、毎月の利息を返済するのが精一杯です。そのため、弾薬や補給品も、底をついてしまっている状況でした」

「サキがあそこまで神経質なってるのは……これまで話を聞いてくれた大人が……先生が初めてだからだ」 

 

「まあ〜、アビドスの問題は、そういうつまらない話だよ」

 

 ホシノはそう言うと、困ったように笑った。

 

「で、先生のおかげで弾薬等の支援が間に合って、ヘルメット団の撃退という問題は片付いたってわけー。おそらく、あれだけ痛い目見たら、すぐは来ないんじゃないかな〜」

「……それなら、よかったけど」

 

 私はそう言いながら、先ほど聞いた話を頭の中で整理する。

 

 ──砂漠化によって失われていく街。

 ──9億円以上の借金。

 ──毎月発生する利息。 

 

 ──そして、学校を守るために必要な物資すら満足に購入できない状況。

 

 それだけの問題を抱えていながら、ホシノ達は──、

 

「……つまらない話なんかじゃないよ」

「へ?」

「うん。つかなり大変な問題だよね? 私は、これをつまらない話として、みんなを見捨ててシャーレに戻るなんて事はしないよ!」

「うへぇ〜」

 

 ホシノは、困ったように笑った。

 

「──私をどうか、()()()()()()()()として、一緒に手伝わせてくれないかな?」

 

「そ、それって……! 先生、ありがとうございます!」

「……!! ありがとう、先生! 正式に私達の仲間だな!」

 

 チナツとアズサが嬉しそうに頬を緩める。

 

「へぇ〜、先生は変わりものだねぇ……こんな面倒な事に自分から首を突っ込むなんてさぁ」

 

 そう言うホシノは、どこか呆れたように笑っていたのだった。

 

 

 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■

 

 ──薄暗い路地裏を一人の生徒が歩く。

 

 道端にはゴミが散乱し、不良生徒ですら殆ど立ち寄らない区画。

 その区画を迷うこと無く、その生徒は進んでいき、

 一つの廃墟の前で立ち止まる。

 

 そして──鍵のかかっていない廃墟の扉を開け、その中へと入っていく。

 その廃墟は外観と反して、室内はやけに綺麗に整っていた。

 

「……ただいま、戻った」

「あぁ──()()()さんでしたか。お疲れ様です」

 

 その生徒──『()()()尾刃(おがた) カンナは、ソファーに深くもたれかかる。

 

「……珍しいな。()()しか今はいないのか?」

「はい。現在、此処にいるのは私とカンナさんだけです」

 

 この部屋の中には、現在、カンナを含めて二人の()()しか存在しない。

 その光景が意外だったのか、カンナは少し驚いているようだった。

 

「一人は()()()()に。そしてもう一人は……所在不明ですね。もしかすると、()()()と一緒に行動している可能性も考えられます」

「……そうか」

 

 そう呟き、カンナは目を瞑る。

 

「そういえば、カンナさんは──前に()()と会ったんですよね?」

「っ……そうだとしたら?」

「いえ。少し気になっただけです」

 

 その少女は──カンナへと視線を向ける。

 

「──どうでしたか、()()は?」

 

 その質問に、カンナは眉を顰め、しばらくの間、何かを考えるように黙り込んだ。

 そして──、無表情のまま、カンナは答える。

 

「……私は、余計なことをするつもりはない。ただ、もし先生が……生徒達を本当に助けようとしているのなら、その行動を、見極めるだけだ」

「そうですか……」

 

 次はその少女が黙り込む。

 だが、頭の中で整理がついたのか、淡々とした口調で話を続ける。

 

「……分かりました。私は()()()()の為に、行動するだけですから」

 

 ──その言葉を最後に、廃墟の中には静寂が訪れた。

 

 それぞれの思惑が交差し始めたところで、アビドスでの一日目は、静かに幕を閉じた。





本日はブルーアーカイブ5.5周年──!
ブルアカ生放送を視聴するために、この時間に投稿させていただきます。

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それでは──今後もお楽しみください!

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