ん。ホシノ先輩も、アヤネも、セリカも出てきた。
……私とノノミだけ、まだ出てきてない。
私の出番は、まだ?
柴関ラーメンには、サキと柴大将。
そして──原作では、アビドス高等学校に所属しているはずの『
──黒見セリカ。
原作において、アビドス高等学校の生徒且つ、対策委員会の一員である。
気が強く、反骨心もあり、よくツンツンしている──正統派ツンデレ女子。
けれど、その実──誰よりも真面目で、責任感が強く、仲間思いな少女だ。
アビドスの借金問題に対しても、彼女は決して無関心ではなかった。
むしろ、学校を守るためにアルバイトをし、少しでも借金を返そうと努力している。
それが、私の知っている黒見セリカという生徒だった。
「ねぇねぇ、セリカちゃん〜。どう、おじさんのとこ来ない〜?」
「誰が行くかっ!」
そんなホシノの執拗い勧誘に、セリカは即答だった。
「そもそも、何で今日も……!
「うへぇ〜。でもセリカちゃんには、会いたいし〜」
「す、ストーカーなの!?」
「お? セリカちゃんの公認なら、毎日会ってもいいってことだよねぇ〜? 」
「話を聞けぇーっ!」
店内にセリカの怒鳴り声が響き渡る。
その様子を見て、私は思わず苦笑してしまった。
(……なんか、ホシノとセリカの絡みを見ていると、原作のブルアカの世界に来た実感がより湧いてくるね)
ホシノに絡まれ、セリカが怒鳴り、アズサが楽しそうにラーメンを待ち、チナツが困ったように笑い、ノアがその様子を眺めている。
私の知るアビドス対策委員会ではないけれど、それは、まるで、原作の一場面をそのまま切り取ったような光景だった。
──そんな日常を、私は守りたいと思った。
(ただし、毎日のようにラーメン屋に行っているホシノは……ちょっと健康的には心配だね)
そこは後ほど、先生として生徒の健康管理は、じっくりと話さないといけないかもしれない。
「……先生?」
「え?」
そんな光景を微笑ましく見ていると、隣に座っていたノアから声を掛けられ、私は我に返る。
「先ほどから、ホシノ先輩やセリカさんのことをずっと見ていますが……何か気になることでも?」
「っ……少し、意外でね」
「意外?」
「うん。サキがここで働いているのは聞いていたけれど……もう一人、生徒がここで働いているとは思わなくて……ほら、アビドスは他の自治区から遠いからさ」
「……? そうですか」
ノアは、セリカの方へ視線を向ける。
「あの方はセリカさんと言って……最近、連邦生徒会長が失踪し、所属していた学校が
「そうなんだね」
セリカは
「私が調べた話にはなりますが……セリカさんがアルバイトを探していたところに、このお店の店主である柴大将が声を掛けたそうです」
「……意外と詳しいね、ノア?」
「っ……まあ、色々と気になる事もありましたので」
そう言ってノアは、セリカに笑顔で話しかけるホシノへと静かに視線を向けていた。
「──先生、ご注文は、どうするんだ?」
そんな中──もう一人の店員であるサキが、お盆と注文票を持って話しかけてくる。
「……サキ。店員さんは『ご注文はお決まりですか』じゃないのか? お客様には笑顔で親切に接客しないとダメだぞ」
そんなサキに対して、アズサは腕を組みながら指摘する。
「ぅうっ……ご、ご注文は、お決まりですか……?」
サキは顔を赤くして、私の方をチラチラと見ながら注文を聞いてくれる。
(な、なんか……店員のサキは新鮮だね)
「それじゃあ、私は醤油ラーメンにしようかな」
私がそう注文すると──それに続いて、アビドスの生徒たちも注文をしていく。
「私はチャーシュー麺でお願いします、サキさん」
「私は塩だ」
「おじさんもチナツちゃんと同じチャーシュー麺で〜!」
「なら、私は先生と同じ醤油にしますね」
私とノアが醤油ラーメン。
アズサが塩ラーメン。
ホシノとチナツが、チャーシュー麺を注文する。
「先生も目の付け所がいいねぇ〜! ジャンジャン頼んでねー。このお店、めちゃくちゃ美味しいんだよぉー! アビドス名物、柴関ラーメン! ね、セリカちゃん?」
「ま、まあ……! 美味しい事は否定しないけど……!」
セリカは一瞬だけ言葉に詰まると、そっぽを向きながら腕を組んだ。
「……べ、別に! 私が作ってるわけじゃないし! 大将のラーメンが美味しいだけだから!」
「おやおや。セリカちゃんは、うちのラーメンを褒めてくれたんだねぇ」
「なっ!? ち、違っ……!」
厨房の方から、柴大将が顔を出して豪快に笑う。
「はっはっは! そういうことでいいじゃねぇか。お客さんや店員に美味いって言ってもらえるのは、店主として嬉しいもんだ」
「うっ……!」
セリカは柴大将に完全に言い負かされ、悔しそうに口を閉じた。
「……まあ、実際に美味しいからな」
サキもぽつりと呟く。
「サキがオススメするなら、私も期待してるね」
「っ……! 食べたら先生も皆も直ぐに出ていってくれよな!」
そう言ってサキは厨房へと消えていく。
そして、この場には、ホシノに捕まる店員のセリカが残ったわけだが──私がずっとセリカを見ている事を、ホシノに気が付かれる。
「おやおや〜? 先生、セリカちゃんのことも、気に入っちゃったのかなぁ〜?」
「っ……きっと、ホシノ程ではないけどね。私もセリカの事は気になるよ」
「うへへ〜。セリカちゃん、ライバルが増えちゃったねぇ〜」
「はぁ!?」
セリカの顔が一気に赤くなる。
「ちょ、ちょっと! 何で私が、あの大人とどうこうって話になってるのよ!? というか、先生ってもしかして、いま噂の
セリカは驚きながらも、私のことを観察するように見つめる。
「そうだよ。私はシャーレの先生。これからよろしくね、セリカ」
「うっ……こ、こちらこそよろしく、先生!」
セリカはそう言うと、私の事を興味深そうに見つめている気がした。
「そういえば、先生は、セリカちゃんのことをお店に入ってから、かなりの頻度で見ていましたね。お二人はお知り合いだったりするんですか?」
「え? 先生!?」
セリカがこちらを振り向き、ホシノと同じようにストーカーを見るような目で警戒する。
「ち、違うよ! 確かにセリカの事も見ていたけど、そういう意味じゃないよ!」
「ど、どういう意味よ!?」
「いや、それは……」
私はそのセリカの問いかけに、言葉が詰まる。
まさか、セリカの事を原作で知っていたから。
──君がこの世界にいることに驚いたから。
そんなことを正直に言えるわけがない。
「……初めて会ったから、少し気になっただけだよ」
「ま、まあ……そういうことなら、別にいいけど」
「おやおや〜?」
「そこのピンク髪のおじさんは! 余計なこと言うな!」
セリカが再び怒鳴る──その時だった。
「はい! お待ちどうさん!」
厨房から、柴大将が大きな声を上げた。
サキがお盆の上に、湯気の立ち上るラーメンをのせて、次々と運んでくる。
「醤油ラーメン二つ! 塩ラーメン一つ! チャーシュー麺二つ!」
「おおおぉ……!!」
目の前に置かれたラーメンから、食欲を刺激する香りが立ち上る。
「先生。冷める前に食べた方がいいですよ」
チナツが割り箸を割りながら、楽しそうに言う。
「そうだね。いただきます」
そのラーメンは、私がこのキヴォトスに来てから、一番美味しい料理だった。
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「先生、ご馳走様ぁ〜!」
店を出たところで、ホシノが満足そうにお腹をさすりながら、私に頭を下げた。
「先生。奢っていただき、ありがとうございます」
チナツも、丁寧に頭を下げる。
「全然いいんだよ! 美味しいお店を教えてくれて、ありがとうね、みんな」
私はそう答えながら、装甲車のロックを開ける。
「車のロック解除したから、みんな、先に乗ってていいからね!」
私はアビドスの皆にそう伝えると、店の中へと視線を向けた。
先ほどまで私たちが座っていた席は、既に片付けられている。
そして、店の奥では──サキとセリカが、忙しそうに店内を動き回っていた。
「セリカ! そっちの注文、頼む!」
「分かったわ! サキも、替え玉3つお願い!」
「了解! 今、対応する!」
二人の動きには無駄がない。
サキが厨房からラーメンを運び、セリカが空いた器を片付ける。
客から注文を受ければ、どちらかがすぐに厨房へと伝える。
サキとセリカは互いは息の合った動きを見せていた。
(なんだかんだで、仲が良さそうなんだね)
私はそんな二人を見て微笑んでいると──、
「先生」
背後から、低く落ち着いた声が聞こえた。
振り返ると、そこには柴大将が立っていた。
「今日は来てくれてありがとな。アビドスの嬢ちゃん達には、いつも世話になってるんだ」
「いえ、こちらこそ、ご馳走様でした。とても美味しいラーメンでした」
「そうかい! そいつはよかった!」
柴大将は豪快に笑う。
その笑顔は、初めて会ったばかりの私に対しても、どこか親しみを感じさせるものだった。
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──とある高層オフィスビル。
「ふむ……アビドス高等学校に送り込んだヘルメット団では、あの程度が限界か。我社から最新武器を支給してやったと言うのに、このザマとは」
窓の外から街を見下ろす一人の男。
黒いスーツに身を包み、重々しい機械で構成された体躯と黒い外套には赤い布が垂れる。
「何とも期待外れだ……!!」
「……私からすれば不良生徒達では、アビドスの相手にもならない」
そんな男に対し、同じ部屋に控えていた一人の
「っ……チッ。データ上、不良生徒達でも負ける筈がなかった。アビドスはもう物資が枯渇してもいい頃合いだ」
「その前提が崩れた。今のアビドスには──
「……
「そうだ。先生がいることで、アビドスの戦力は桁違いに跳ね上がった」
その生徒はそう区切ると、その部屋から出ていこうとする。
「待て──! いくら貴様が、我社の社員ではないとはいえ、高い額を払って一時的に依頼しているんだ! 行き場所くらい言え」
「……このアビドスの件、
「……何? 貴様が、表舞台に立つのは、まだ先だと
男の問いに、その生徒は足を止めた。
「予定が変わった。何もプラン通りに動く必要など元よりない」
「……っ! なん、だと?」
「ああ……これから、アビドスの
その生徒は、ゆっくりと振り返る。
その表情には、苛立ちも、焦りもなかった。
ただ──冷たい決意だけが浮かんでいる。
「っ……人質にでもするのか?」
「似たようなものだ。これ以上は話すつもりはない……その他のアビドスの対応は、専門家にでも依頼するといい」
その生徒はそう言うと、一つの名刺を机の上に置き去り、部屋を出ていった。
「……クソッ」
男は悪態を吐きながら、彼女が置いていった名刺を手に取る。
「目には目を、生徒には生徒を、か。
まさか、あの悪名高い──
そうして──男は名刺に記載された『便利屋68』の番号に電話をかけ、名刺を放り投げる。
その男が放り投げた名刺には──、
『