何かがおかしいブルーアーカイブ   作:千ノ宮チノ

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ん。ホシノ先輩も、アヤネも、セリカも出てきた。
……私とノノミだけ、まだ出てきてない。

私の出番は、まだ?




第16話:ラーメンと二人の生徒

 

 柴関ラーメンには、サキと柴大将。

 

 そして──原作では、アビドス高等学校に所属しているはずの『黒見(くろみ) ()()()』が、柴関ラーメンで働いている。

 

 ──黒見セリカ。

 

 原作において、アビドス高等学校の生徒且つ、対策委員会の一員である。

 

 気が強く、反骨心もあり、よくツンツンしている──正統派ツンデレ女子。

 けれど、その実──誰よりも真面目で、責任感が強く、仲間思いな少女だ。

 

 アビドスの借金問題に対しても、彼女は決して無関心ではなかった。

 むしろ、学校を守るためにアルバイトをし、少しでも借金を返そうと努力している。

 それが、私の知っている黒見セリカという生徒だった。

 

「ねぇねぇ、セリカちゃん〜。どう、おじさんのとこ来ない〜?」

「誰が行くかっ!」

 

 そんなホシノの執拗い勧誘に、セリカは即答だった。

 

「そもそも、何で今日も……! ()()()来てるのよ! ラーメン食べすぎ!!」

「うへぇ〜。でもセリカちゃんには、会いたいし〜」

「す、ストーカーなの!?」

「お? セリカちゃんの公認なら、毎日会ってもいいってことだよねぇ〜? 」

「話を聞けぇーっ!」

 

 店内にセリカの怒鳴り声が響き渡る。

 その様子を見て、私は思わず苦笑してしまった。

 

(……なんか、ホシノとセリカの絡みを見ていると、原作のブルアカの世界に来た実感がより湧いてくるね)

 

 ホシノに絡まれ、セリカが怒鳴り、アズサが楽しそうにラーメンを待ち、チナツが困ったように笑い、ノアがその様子を眺めている。

 

 私の知るアビドス対策委員会ではないけれど、それは、まるで、原作の一場面をそのまま切り取ったような光景だった。

 

 ──そんな日常を、私は守りたいと思った。

 

(ただし、毎日のようにラーメン屋に行っているホシノは……ちょっと健康的には心配だね)

 

 そこは後ほど、先生として生徒の健康管理は、じっくりと話さないといけないかもしれない。

 

「……先生?」

「え?」

 

 そんな光景を微笑ましく見ていると、隣に座っていたノアから声を掛けられ、私は我に返る。

 

「先ほどから、ホシノ先輩やセリカさんのことをずっと見ていますが……何か気になることでも?」

「っ……少し、意外でね」

「意外?」

「うん。サキがここで働いているのは聞いていたけれど……もう一人、生徒がここで働いているとは思わなくて……ほら、アビドスは他の自治区から遠いからさ」

「……? そうですか」

 

 ノアは、セリカの方へ視線を向ける。

 

「あの方はセリカさんと言って……最近、連邦生徒会長が失踪し、所属していた学校が()()になった事で、ここで一時的にアルバイトを始めたそうです。サキちゃんの方が、働いている期間は長いですね」

「そうなんだね」

 

 セリカは()()になって、働き始めたらしい。

 

「私が調べた話にはなりますが……セリカさんがアルバイトを探していたところに、このお店の店主である柴大将が声を掛けたそうです」

「……意外と詳しいね、ノア?」

「っ……まあ、色々と気になる事もありましたので」

 

 そう言ってノアは、セリカに笑顔で話しかけるホシノへと静かに視線を向けていた。

 

「──先生、ご注文は、どうするんだ?」

 

 そんな中──もう一人の店員であるサキが、お盆と注文票を持って話しかけてくる。

 

「……サキ。店員さんは『ご注文はお決まりですか』じゃないのか? お客様には笑顔で親切に接客しないとダメだぞ」

 

 そんなサキに対して、アズサは腕を組みながら指摘する。

 

「ぅうっ……ご、ご注文は、お決まりですか……?」

 

 サキは顔を赤くして、私の方をチラチラと見ながら注文を聞いてくれる。

 

(な、なんか……店員のサキは新鮮だね)   

「それじゃあ、私は醤油ラーメンにしようかな」

 

 私がそう注文すると──それに続いて、アビドスの生徒たちも注文をしていく。

 

「私はチャーシュー麺でお願いします、サキさん」

「私は塩だ」

「おじさんもチナツちゃんと同じチャーシュー麺で〜!」

「なら、私は先生と同じ醤油にしますね」

 

 私とノアが醤油ラーメン。

 アズサが塩ラーメン。

 ホシノとチナツが、チャーシュー麺を注文する。

 

「先生も目の付け所がいいねぇ〜! ジャンジャン頼んでねー。このお店、めちゃくちゃ美味しいんだよぉー! アビドス名物、柴関ラーメン! ね、セリカちゃん?」

「ま、まあ……! 美味しい事は否定しないけど……!」

 

 セリカは一瞬だけ言葉に詰まると、そっぽを向きながら腕を組んだ。

 

「……べ、別に! 私が作ってるわけじゃないし! 大将のラーメンが美味しいだけだから!」 

「おやおや。セリカちゃんは、うちのラーメンを褒めてくれたんだねぇ」

「なっ!? ち、違っ……!」

 

 厨房の方から、柴大将が顔を出して豪快に笑う。

 

「はっはっは! そういうことでいいじゃねぇか。お客さんや店員に美味いって言ってもらえるのは、店主として嬉しいもんだ」

「うっ……!」

 

 セリカは柴大将に完全に言い負かされ、悔しそうに口を閉じた。 

 

「……まあ、実際に美味しいからな」

 

 サキもぽつりと呟く。

 

「サキがオススメするなら、私も期待してるね」

「っ……! 食べたら先生も皆も直ぐに出ていってくれよな!」

 

 そう言ってサキは厨房へと消えていく。

 そして、この場には、ホシノに捕まる店員のセリカが残ったわけだが──私がずっとセリカを見ている事を、ホシノに気が付かれる。

 

「おやおや〜? 先生、セリカちゃんのことも、気に入っちゃったのかなぁ〜?」

「っ……きっと、ホシノ程ではないけどね。私もセリカの事は気になるよ」

「うへへ〜。セリカちゃん、ライバルが増えちゃったねぇ〜」

「はぁ!?」

 

 セリカの顔が一気に赤くなる。

 

「ちょ、ちょっと! 何で私が、あの大人とどうこうって話になってるのよ!? というか、先生ってもしかして、いま噂の()()()()()()()?」

 

 セリカは驚きながらも、私のことを観察するように見つめる。

 

「そうだよ。私はシャーレの先生。これからよろしくね、セリカ」

「うっ……こ、こちらこそよろしく、先生!」

 

 セリカはそう言うと、私の事を興味深そうに見つめている気がした。

 

「そういえば、先生は、セリカちゃんのことをお店に入ってから、かなりの頻度で見ていましたね。お二人はお知り合いだったりするんですか?」

「え? 先生!?」

 

 セリカがこちらを振り向き、ホシノと同じようにストーカーを見るような目で警戒する。

 

「ち、違うよ! 確かにセリカの事も見ていたけど、そういう意味じゃないよ!」

「ど、どういう意味よ!?」

「いや、それは……」

 

 私はそのセリカの問いかけに、言葉が詰まる。

 

 まさか、セリカの事を原作で知っていたから。 

 ──君がこの世界にいることに驚いたから。

 

 そんなことを正直に言えるわけがない。

 

「……初めて会ったから、少し気になっただけだよ」

「ま、まあ……そういうことなら、別にいいけど」

「おやおや〜?」

「そこのピンク髪のおじさんは! 余計なこと言うな!」

 

 セリカが再び怒鳴る──その時だった。

 

「はい! お待ちどうさん!」

 

 厨房から、柴大将が大きな声を上げた。

 サキがお盆の上に、湯気の立ち上るラーメンをのせて、次々と運んでくる。

 

「醤油ラーメン二つ! 塩ラーメン一つ! チャーシュー麺二つ!」

「おおおぉ……!!」

 

 目の前に置かれたラーメンから、食欲を刺激する香りが立ち上る。 

 

「先生。冷める前に食べた方がいいですよ」

 

 チナツが割り箸を割りながら、楽しそうに言う。

 

「そうだね。いただきます」

 

 そのラーメンは、私がこのキヴォトスに来てから、一番美味しい料理だった。

 

 □■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

「先生、ご馳走様ぁ〜!」

 

 店を出たところで、ホシノが満足そうにお腹をさすりながら、私に頭を下げた。

 

「先生。奢っていただき、ありがとうございます」

 

 チナツも、丁寧に頭を下げる。

 

「全然いいんだよ! 美味しいお店を教えてくれて、ありがとうね、みんな」

 

 私はそう答えながら、装甲車のロックを開ける。

 

「車のロック解除したから、みんな、先に乗ってていいからね!」

 

 私はアビドスの皆にそう伝えると、店の中へと視線を向けた。

 先ほどまで私たちが座っていた席は、既に片付けられている。

 そして、店の奥では──サキとセリカが、忙しそうに店内を動き回っていた。

 

「セリカ! そっちの注文、頼む!」

「分かったわ! サキも、替え玉3つお願い!」

「了解! 今、対応する!」

 

 二人の動きには無駄がない。

 サキが厨房からラーメンを運び、セリカが空いた器を片付ける。

 客から注文を受ければ、どちらかがすぐに厨房へと伝える。

 

 サキとセリカは互いは息の合った動きを見せていた。

 

(なんだかんだで、仲が良さそうなんだね)

 

 私はそんな二人を見て微笑んでいると──、

 

「先生」

 

 背後から、低く落ち着いた声が聞こえた。

 振り返ると、そこには柴大将が立っていた。

 

「今日は来てくれてありがとな。アビドスの嬢ちゃん達には、いつも世話になってるんだ」

「いえ、こちらこそ、ご馳走様でした。とても美味しいラーメンでした」

「そうかい! そいつはよかった!」

 

 柴大将は豪快に笑う。

 その笑顔は、初めて会ったばかりの私に対しても、どこか親しみを感じさせるものだった。

 

 ■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 ──とある高層オフィスビル。

 

「ふむ……アビドス高等学校に送り込んだヘルメット団では、あの程度が限界か。我社から最新武器を支給してやったと言うのに、このザマとは」

 

 窓の外から街を見下ろす一人の男。

 黒いスーツに身を包み、重々しい機械で構成された体躯と黒い外套には赤い布が垂れる。

 

「何とも期待外れだ……!!」

「……私からすれば不良生徒達では、アビドスの相手にもならない」

 

 そんな男に対し、同じ部屋に控えていた一人の()()は飽きれたように呟く。

 

「っ……チッ。データ上、不良生徒達でも負ける筈がなかった。アビドスはもう物資が枯渇してもいい頃合いだ」

「その前提が崩れた。今のアビドスには──()()がいる」

「……()()? それは、あのシャーレの?」

「そうだ。先生がいることで、アビドスの戦力は桁違いに跳ね上がった」

 

 その生徒はそう区切ると、その部屋から出ていこうとする。

 

「待て──! いくら貴様が、我社の社員ではないとはいえ、高い額を払って一時的に依頼しているんだ! 行き場所くらい言え」

「……このアビドスの件、()()()()。不良生徒では、手に余る」

「……何? 貴様が、表舞台に立つのは、まだ先だと()からプランを聞いていたが?」

 

 男の問いに、その生徒は足を止めた。

 

「予定が変わった。何もプラン通りに動く必要など元よりない」

「……っ! なん、だと?」

「ああ……これから、アビドスの空井(そらい) サキを私が誘拐する」

 

 その生徒は、ゆっくりと振り返る。

 その表情には、苛立ちも、焦りもなかった。

 ただ──冷たい決意だけが浮かんでいる。 

 

「っ……人質にでもするのか?」

「似たようなものだ。これ以上は話すつもりはない……その他のアビドスの対応は、専門家にでも依頼するといい」

 

 その生徒はそう言うと、一つの名刺を机の上に置き去り、部屋を出ていった。

 

「……クソッ」

 

 男は悪態を吐きながら、彼女が置いていった名刺を手に取る。

 

「目には目を、生徒には生徒を、か。

 まさか、あの悪名高い──便()()()()()に依頼をすることになるとは」

 

 そうして──男は名刺に記載された『便利屋68』の番号に電話をかけ、名刺を放り投げる。

 

 その男が放り投げた名刺には──、

陸八魔(りくはちま) アル』の名が刻まれていた。 

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