何かがおかしいブルーアーカイブ   作:千ノ宮チノ

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第17話:待たせたわね、便利屋68の登場よ!

 

 ──次の日。今日も今日とて、私はアビドス高等学校に来ていた。

 

「うへぇ〜、動いてないのに暑いよ〜」

 

 ホシノは机に突っ伏しながら、大きくため息をつく。

 

「ホシノ先輩! だからといって、皆さんがいる定例会議中に寝ないでください……!」

 

 チナツが脱力するホシノを見て、呆れたように注意する。

 

「寝てないよ〜。目を閉じて省エネしてるだけ〜」

「ホシノ先輩の場合、本当にそれで寝てしまうんです!」

「ふふふっ……」

 

 そんないつものやり取りを見て、ノアは後方の椅子に腰掛けながら、小さく微笑む。 

 一方で、アズサは窓の外を眺めていた。

 

「……先生、平和だな」

「平和なのは、いいことじゃないかな?」

 

 私──先生がそう言うと、アズサは静かに頷いた

 

「そうだな、先生……こんな当たり前な日常が続いてほしい」

 

 そう言って、アズサはゆっくりと窓の外から視線を戻す。

 

 現在、このアビドス高等学校には、私とサキを除いた四人の生徒が集まっていた。

 

 ──なんでも、今日は定例会議の日だそうだ。

 

 その会議に、光栄にも私はお呼ばれし、今日も今日とて車を走らせてアビドスにやってきていた。

 

 ちなみにだが、サキは昼から柴関ラーメンでアルバイトがあるため、この場には参加していない。 

 

(……まだサキには、私がアビドスの問題に関わる事を認められたわけではないからね……もしサキと会えたら、二人で話したかったんだけど……)

 

 会えないものはしょうがない。

 私は心の中で気持ちを切り替えると、アビドスの皆を見渡して──、 

 

「みんな! 平和だからといって、問題がなくなったわけじゃないよ」

 

 その一言に、教室の空気が少しだけ引き締まる。

 

「そうですね〜、先生の言う通りです」

 

 ノアは机の上に置かれた資料へ視線を落とす。

 

「現在、私たちが抱えている問題は依然として山積みです」

「はい。ノア先輩の言う通りです……そして、元を辿ると、借金の問題を解決しない事には、どうにもなりません……毎月の返済額は、利息だけでも788万円。正直に言って……利息の返済すら追いついていない状況です」

 

 チナツの報告を聞き終えた教室は、重苦しい沈黙に包まれた。

 

「うへぇ〜……」

 

 ホシノは天井を見上げながら、大きく肩を落とす。

 

「おじさん、桁を聞いただけで眠くなってきたよ〜」 

「現実逃避しすぎだ、ホシノ先輩」

 

 アズサが呆れたようにホシノへ近付くと、人差し指で突っつく。

 

「……先生。お分かりの通り、このままでは借金は減るどころか、利息を払うだけで精一杯です」

 

 ノアは私に視線を向けながら、静かに問いかける。

 

「先生は、この状況をどうされますか?」

 

 全員の視線が、一斉に私へと集まる。

 

「……そうだね」

 

 私は腕を組み、少しだけ考え込む。

 原作知識がある私からすると、このアビドスの借金問題をどうこうするには……まず、やはり()()()()()しかないのだろうか。

 そんなシロコのような考えが頭に浮かぶが、それを皆に伝えるのは生徒の教育に良くないので却下する。

 

「まず必要なのは、一度に大金を稼ぐ方法じゃなくて……毎月、安定して収入を稼ぐ方法を考えることかな」

「っ! 安定した収入、ですか……!」

 

 チナツがメモを取りながら頷く。

 

「それなら、傭兵依頼を受けるか? 指名手配犯を捕まえるか?」

 

 アズサがガスマスクを取り出しながら、口を開く。

 

「物騒だね〜、アズサちゃん。でも、この辺りじゃ依頼自体が少ないから、安定した稼ぎは出来ないよぉ」

「……そうか、残念だな」

 

 ホシノが顔を上げて、アズサの案を宥める。

 アズサはその事実に少しだけ肩を落とす。

 

「それなら〜、おじさん達が銀行強盗でもすれば一発じゃない〜?」

「却下です! 犯罪です、ホシノ先輩!」

 

 チナツが即座にツッコミを入れる。

 

「冗談だよ〜」

 

 ホシノはけろりと笑いながら、言葉を撤回する。

 

「……先生。他には何かありますか?」

 

 私はノアに続きを促されて、アビドスの良さを考える。

 

「うーん……折角、アビドスは広い土地があるから、それを活用するとか? イベントを開くとか?」

「土地、ですか」

 

 ノアは窓の外へ視線を向ける。

 

「アビドスの土地は広大ですが……ほとんどが砂漠化しています。買い手も借り手も期待できません」

「イベントも、人が来なきゃ意味ないしな」

 

 アズサも苦笑する。

 

「農業とかどう〜?」

「農業をするための水がありません!」

 

 ホシノの提案を、チナツが即座に切り捨てる。

 

「観光はぁ〜?」

「観光スポットも、観光客もいません!」 

「動画配信〜!」

「機材がありません!」

「スクールアイドル〜っ!」

「やりたい人がいません!」 

「うへぇ〜……チナツちゃんなら可愛いからスクールアイドルやれると思うんだけどなぁ〜」

「やりませんっ!!」

 

 次々と案は出る。

 しかし、そのどれもがアビドスという寂れた現実に阻まれてしまう。

 アビドスの絶望的な現状を再認識せざるを得えなく、教室には再び沈黙が流れた。

 

「八方塞がり、ですね。どうしましょうか……」

 

 ノアが小さく息を吐く。

 

「焦っても仕方ない」

 

 アズサは椅子から立ち上がり、軽く背伸びをした。

 

「考え続けても、良い案が出るとは限らない」

「……そうだね。アズサの言う通りかもね」

 

 アズサの意見に、私も苦笑しつつ共感する。

 

「みんな、一度気分転換をしようか?」

「先生に賛成ぇ〜!」

 

 ホシノが勢いよく顔を上げる。

 

「おじさん、お腹空いたよぉ〜!」

「っ。さっきまで眠そうだった人が何を言って……」

 

 チナツが呆れたように笑う。

 

「そういえば、サキちゃんは今日も、柴関ラーメンでアルバイト中でしたね〜」

 

 ノアが思い出したように言う。

 

「ちょうどお昼ですし、様子を見に行くのも悪くないかもしれません。先生もよろしければ──」

「うん。私の車で良ければ、皆を送るね」

「じゃあ決まりだねぇ〜! 先生、ありがとぉ〜! それじゃあ、皆でサキちゃんとセリカちゃんに会いに行こぉー!」

 

 ホシノが元気よく手を挙げて、教室を出ていく。

 

 こうして私たちは、束の間の気分転換も兼ねて、柴関ラーメンへ向かうことになった。

 

 ──だが、その時はまだ。

 

 この後、アビドスの運命を大きく揺るがす存在と出会うことになるとは、誰一人として思っていなかった。

 

 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 ──柴関ラーメン屋。

 

「うん、豚骨ラーメンも美味しいね!」

 

 前回、醤油ラーメンを注文していたので、今回は豚骨ラーメンを注文したのだが、これもまた美味しくて、みるみるうちに麺が無くなっていく。

 

 濃厚でありながらも後味はしつこくなく、気づけば箸は止まらないのだ。 

 

「先生、食べるの速いですね〜」

 

 隣に座るノアが、頬杖をつきながら楽しそうに笑う。

 

「まったく……! 今日もうちの店に来たのか、先生! それに──みんなまで!」

 

 注文を運んできたサキが、私やホシノ達に呆れたような視線を向けてくる。

 

(うっ……昨日ホシノに『毎日ラーメンは体に良くないよ』なんて注意しておいて、つい流れで来ちゃったんだよね……さ、サキからの視線が痛い)

 

 自分でも言い返せない。

 サキの視線が、私の胸に妙に痛く突き刺さる。

 

 カウンターの向こうを見てみると、大将が満足そうに腕を組み、その隣でセリカが食器洗いをしていた。

 

「先生、本当に美味しそうに召し上がりますね」

 

 私がラーメンを完食し、一息つくと、チナツが少し感心したように呟く。

 

「美味しいものを食べてる時って、夢中になっちゃうからね」

 

 私が笑いながら湯飲みに手を伸ばした──その時だった。

 

 ──ガラガラッ。

 

 勢いよく店の引き戸が開く。

 

「へい、らっしゃい!!」

 

 大将の威勢のいい声が、店内に響いた。

 

(──ん? お客さんかな?)

 

 今日は私たち以外に客がいなかったため、私は自然と入口へ視線を向けてしまう。

 

 すると、店内へ入ってきたのは──、

 

 どこか怯えたような表情をした、()()()()()()()()()()()であった。

 

「お、お邪魔、しますっ……」

 

(……え?)

 

 私はその生徒を見て、思わず目を見開く。

 

(……ヒ、()()()?)

 

 私は反射的に、その生徒の名前を心の中で呼ぶ。

 

(見間違えじゃないよね? うん、そうだよね。なんで……アリウスの生徒がアビドスに? ア、()()()()()()()()()()()()、だよね?)

 

 そして──私は原作知識から、その生徒を知っている。

 アリウス分校の特殊部隊である『アリウススクワッド』に所属する生徒──槌永(つちなが) ヒヨリだと。

 

 メモロビでは、おへそを先生に見せてくれる生徒だと。

 

 その生徒──ヒヨリは、ビクビクとした様子で店内を見回しながら、恐る恐る店員であるサキに話しかける。

 

「あ、あの……こ、ここで一番安いメニューって、お、おいくらなんでしょうか?」

「ええっと、一番安いメニューは……」

「え、えへへ……そんな600円以下のメニューなんて無いですよね。人生そんなに甘くないですよね。辛いですよね」

 

 ヒヨリは俯きながらも、目のハイライトを消して、ボソボソと喋り続ける。

 

「うん! 580円の柴関ラーメンだな! 看板メニューだから、とても美味しくてオススメだぞ!」

「──っ!! 6、600円以下!?」

 

 そんなサキの回答を聞き、ヒヨリは驚きの声を上げると──、店の外へと勢いよく飛び出していく。

 

「……? 何だったんだ、騒がしいな?」

 

 アズサがラーメンを啜りながら、勢いよく飛び出していったヒヨリを見つめる。

 

(ふと考えてみれば……原作においてはアズサとヒヨリって、同じアリウス分校に所属する二人だよね)

 

 今では片方はアビドス対策委員会の一員として此処にいて、もう片方は偶然ラーメン屋へやって来た。 

 不意に思ってしまったが、ヒヨリとアズサが柴関ラーメンにいる事実に、私は少しだけ感動する。

 

(っ……待って欲しい。ヒヨリが来たと言うことは……! ま、まさか……!? ()()()()()()()()()が此処に来るのか? ()()()達が、アビドスにある柴関ラーメンに?)

 

 その考えが頭をよぎった。

 まさにその時──私の正面にいるホシノが、ポツリと呟く。

 

「……え? ユ、()()()()……?」 

 

(あっ……これは、()()()()()()()()()

 

 ホシノがふらりと席を立ち上がり、無言で店の入口へと歩いていこうとする。

 

(あっ……まずい。まずい。まずいまずいまずいまずい。

 

 ──ホ、ホシノが、ヒヨリをユメ先輩と見間違えてる!?! 

 た、確かに似ているけれども!! ヒヨリに『ひぃん!』とか言わせたら、70パーセントくらいユメ先輩かもしれないけれども!! (暴論))

 

 ──ガラガラガラッ!!! 

 

 そんな時、勢いよく引き戸が再び開き、店の中へ四人の生徒が雪崩れ込む。

 

「た、ただいま戻りましたぁぁぁぁっ」

 

 先頭で息を切らせていたのは、先ほど飛び出していったヒヨリだった。

 

 そして、その後ろには──()()()()()がいる。

 

(……え? は? え?)

 

 私はその生徒達を見て、フリーズせざるを得ない。 

 

 ヒヨリの後ろには──、

 

「ハーッハッハッハッ!! やっと見つかったようだな、600円以下のメニュー!!」

 

 Tシャツに黒い短パン、その上から萌え袖状態の白衣を羽織る黒髪の少女。

 

「やっと見つけましたね、社長。これは日頃、運を蓄積してきたおかげです」

 

 白いフード付きのジャケットを羽織り、淡い銀色の長髪を揺らしながら、店内を観察して無言で振り向き、ピースをする少女。

 

「ふふふ。ほら、見たかしら。何事にも解決策はあるのよ。全部想定内だわ」 

 

 そして──最後に、紅茶色のジャケットを揺らし、マフィアのボスのような雰囲気を醸し出しながら、薄い笑みを浮かべる薄い赤髪の少女。

 

(……え? な、 なんで? ま、まさか!?)

 

 私はやっぱり(ユメ)でも見ているのだろうか。

 

 私の鼓動が一気に速くなるのがわかる。

 原作では決して交わらないような面々──、

 

()()()()()()()が何でラーメン屋に一緒にきてるんだよぉぉぉぉぉおおお!?!?!)

 

 柴関ラーメンに来店したのは、私の想像を超えるメンツ(便利屋68)であった。 





「ここに居たんですね、ユメ先輩……!!」
(目ガン開きホシノ)
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