ちょっぴりおかしな青春の物語の始まり。
第1話:プロローグ
……我々は望む、七つの嘆きを。
……我々は忘れてはならない、ジェリコの古則を。
接続パスワード承認。
「シッテムの箱」へようこそ、先生。
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「……私の失態でした」
──気が付くと私は電車の中にいた。
眩い朝日が車内を照らす。
私の対面には一人の女の子が座っている。
「私の選択、そしてそれによって招かれたこの全ての状況」
「結局、この結果にたどり着いて初めて、あなたの方が正しかったことを悟るだなんて」
彼女の左胸は──赤く染まっている。
朝日でちょうど、影になっている影響で見えにくいのだが、その純白な制服を赤く滲ませる程の血が流れているのがわかった。
(──え? この子、死にかけてない? 救急車呼ぶべきだろ??)
「……今更図々しいですが、お願いします。先生」
私は咄嗟に119番通報するために、スーツのポケットに手を入れるが、そこに何時もある筈の携帯電話がない。
「きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません」
「何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で同じ選択をされるでしょうから」
左ポケットにも、右ポケットにも携帯電話は無い。
「ですから……大事なのは経験ではなく、選択。あなたにしかできない選択の数々」
私は直ぐさま、座席から立ち上がろうとしたが──何故か身体の自由が効かない。
(な、何でだ? まるで金縛りにあったかのように、意識はあるのに身体を動かすことが出来ないんだが!?)
「責任を負う者について、話したことがありましたね」
「あの時の私には分かりませんでしたが……今なら理解できます」
そんな私の状況に構わず、彼女は話は止まらない。
「大人としての、責任と義務。そして、その延長線上にあった、あなたの選択──それが意味する心延えも」
私は諦めずに、どうにか身体を動かそうと。
どうにか声を捻り出そうとするが、それは叶わない。
「……はは」
彼女は俯いた顔を上げて、弱々しく微かに笑った。
その時、私は初めて彼女と目が合った。
彼女の表情には悔しさが滲んでいた。
例えるのならば、私が会社員として働いてきた中で、一つのプロジェクトを任されたが、上手くいかずに目標未達のまま別のプロジェクトに移った時の悔しさと似た雰囲気を感じた。
「ですから、先生。私が信じられる大人である、あなたになら、この捻れて歪んだ先の終着点とは、また別の結果を──」
私は確かに大人だ。
それならば、大人としての責任と義務を果たすために、君に応急手当をさせてくれ。
「そこへ繋がる選択肢は、きっと見つかるはずです」
というか、少し時間が経過した事で冷静に思考が回り始める。
この長々とした彼女の話──寧ろ詠唱と呼ぶべきは彼女の言葉は、どこかで聞き覚えがある気がする。
そう、これは──私が好きな
「だから先生、どうか……」
あーうん、完全に思い出した。
この子、
青輝石を食い散らかすアロカスさん(アロナ)に似ている連邦生徒会長さんじゃん。
え、これ、私は思い出しちゃっても良かったのか。
これ、『
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「……い。先生。起きてください。先生!」
身体を揺さぶられ、私はソファーから飛び起きるように目覚める。
見覚えのない天井に、見覚えのない部屋。
けれど、
「え? あ、あれ? り、リンちゃん?」
「──!? 私の事をご存知、なのですか?」
私はまだ夢を見ているのだろうか。
俺の傍にいるのは、どう見てもブルーアーカイブに登場する『連邦生徒会所属』の七神リン。
学園都市『キヴォトス』を管理する行政機関に所属する首席行政官であり、失踪してしまった連邦生徒会長の代行を務めているシゴデキ女子だ。
そう、彼女はどう見ても、通称リンちゃんにしか見えないのだが──、
「何故自己紹介もしていないのに先生が私の事を……もしや、失踪される前の連邦生徒会長が先生へ事前に……って、それより誰が「リンちゃん」ですか」
ブツブツと何かを彼女は呟いていたが、ハッと気が付いたように、彼女はジト目で私を咎める。
(し、視線が痛い。リンちゃん呼びで、こんなにも冷たい視線が来るだなんて)
その視線に耐えきれずに……けれど、ちょっぴり心のどこかではジト目の快感も感じながらも、私は一つ咳をして、
「すまないね、リン行政官。此処に来る前に、連邦生徒会の所属幹部の事前資料を頂いていてね。顔写真付きの簡単なプロフィールは読ませてもらっていたんだ」
「なるほど、そういうことでしたか。けれど、どなたがその様な資料手配を……」
彼女が顎に手を当てて考え込んでいるのが怖いのだが、咄嗟に誤魔化した内容で、何とか納得して貰えただろうか。
「先生、つかぬ事を伺いますが、連邦生徒会長の行方をご存知だったりは……」
「っ。知らない、かな。失踪の件は伺っているけど、力になれなくて申し訳ない」
「そう、ですか。お答えいただき、ありがとうございます」
彼女が一瞬、暗い表情をしたが、直ぐに切り替えると、私に背を向けて部屋の扉へと歩き出す。
「熟睡されるほどお疲れだったところ、申し訳ございませんが、どうしても先生にやっていただかなくてはいけない事があります。──私についてきてください」
そんなリンの背中を見つめながら、私は考える。
(何故、私はブルーアーカイブの世界にいるんだろうか。さっきまで連邦生徒会長と一緒に電車に乗っていた夢も鮮明に覚えているし……というか、これがまさに異世界転移ってやつなのか?)
もうこの時点で、夢とは呼べない程に、これが現実だという実感が湧いてくる。
そんな異世界転移に巻き込まれた状況に対して、私は嬉しいという気持ちよりも疑問と心地悪さが先立つ。
とにかく此処に来る前の記憶が、酷く朧気になっていて心地悪いのだ。
まず、私の本名が思い出せない。
住所や職業、これまでの経歴もチグハグであまり思い出せない。
それなのに、何故かブルーアーカイブの知識は溢れる程に出てくる。
現実社会で暮らしてきた時の記憶は、断片的にしか出てきてくれないというのに。
「……けどまあ、今は、考えても仕方ないか」
私は疑念を振り払い、一先ずはブルアカの世界に来た事を受け入れる。
昔から私は突然の状況に対して、適応する能力が高い傾向はあったと思う。
また、ブルーアーカイブは元々大好きなコンテンツであり、ソシャゲをずっとやり込んできたのだ。
残業だらけな会社員生活の中でも、メインストーリーは全て読み、生徒達が織り成す煌めく青春の物語に心を奪われてきたんだ。
私は彼女の後を追うために、一歩前に踏み出そうとする。
踏み出してしまったら、もう後戻りはできない。
私は大人として──
これまで現実の私の心を支えてくれた生徒達の未来を守る為に──ハッピーエンドを掴み取るために戦うのだ。
(やってやろうじゃないか。だってブルアカが大好きなんだから!)
私は両頬を一つ叩くと、覚悟を決めて一歩踏み出した。
急いで彼女の後を追うと、エレベーターに乗るようで、彼女に促される。
ガラス張りのエレベーターからはキヴォトスの街並みが広がっており、その美しくも広大な世界に目を奪われる。
「──『キヴォトス』へようこそ、先生」
私を歓迎するリンの言葉は、どこか誇らしげに且つ嬉しそうに聞こえた。
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エレベーターの降りると、私とリンはレセプションルームに向かって歩いていた。
道中、リンから聞く状況はまさに『ブルーアーカイブ』のチュートリアルと同じ流れだった。
(この後、私は『サンクトゥムタワー』の制御権を取り戻す為に、四人の生徒達を指揮して、七囚人の狐坂ワカモと邂逅することになるんだよな)
共に戦う四人の生徒の内訳は──、
ミレニアムサイエンススクール所属の早瀬ユウカ。
ゲヘナ学園所属の火宮チナツ。
トリニティ総合学園所属の羽川ハスミ。
トリニティ総合学園所属の守月スズミ。
私の脳内には、瞬時にブルアカの原作知識が思い浮かぶ。
大丈夫だ。私には原作知識がある。
このブルアカの世界は、銃弾が日常的に飛び交う魔境であり、私のような生身の人間は一瞬で死ぬ可能性がある世界だ。
だが、私は原作知識を駆使して、先生としての務めをやり切ってやる。
「先生、お待たせしました。こちらがレセプションルームになります。詳しい説明はこちらで……っと何人か生徒達が来ているようですね」
面倒くさそうな表情をしたリンに続いて、私は覚悟を決めて部屋に入る。
やっぱりファーストコンタクトは大事だからね。
だが、入って早々、部屋にいるメンツ──四人の生徒を見て、私は凍りついたように固まってしまった。
「え? は? え?」
処理の追いついていない私の口から、戸惑いの声が思わず漏れる。
「ちょっと待って! 代行! 見つけた、待ってたわよ! 連邦生徒会長を呼んできて! ……うん? 隣の大人の方は?」
「ふふっ。首席行政官。お待ちしていましたわ」
「お疲れ様です。連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求していまして」
「ねぇ、首席行政官。今、キヴォトスに起きている混乱で治安維持が難しくなっているんだよね。だから、連邦生徒会長に会わせてもらえない?」
一人目の早瀬ユウカ、彼女はいい。
原作通りで、別に異質な点はないのだから。
だが、他の三人はどういうことだ。
意味が分からない。
私の原作知識では、この三人がこの場にいるはずがない。
ゲヘナ学園の
アビドス高校の
ミレニアムサイエンススクールの
連邦生徒会のレセプションルームに集まっていた生徒は、私が知る原作知識とは異なっていた。
(チナツゥゥゥゥゥゥ!!!)
(ハスミィィィィィィ!!!)
(スズミィイィィイィ!!! どこに行ったんだ!?!?)
私の知るブルーアーカイブは、この時をもって崩れ去った。
だが、これはほんの序章に過ぎないと後々気付いていくのだった。
尚、投稿主の最推しはアロナとする。