何かがおかしいブルーアーカイブ   作:千ノ宮チノ

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第19話:対策委員会 VS 便利屋68

 

 ──それから、しばらくして。

 

 夕暮れの陽射しが街並みを橙色へ染め始めた頃。

 私達は柴関ラーメンでの食事を終え、席を立った。

 

「ごちそうさまでした。美味しかったです」

 

 私は柴大将や店員のサキ達に頭を下げる。

 

「まいど! 先生もアビドスのお嬢ちゃん達も!」

「そうね、先生。また来てね!」

 

 柴大将とセリカが厨房から顔を出して、私たちを見送る。

 だが、そんな二人とは対照的に──、

 

「……私はまだ、先生がアビドスの皆と一緒にいるのを、認めてなんかないからな」

 

 サキはレジ対応をしながら、私を真っ直ぐ見据えたまま、そう言い切る。 

 その瞳には、警戒と迷いが入り混じっていた。

 

「うん。それでいいと思うよ」

 

 私が笑って答えると、サキは一瞬だけ目を丸くする。

 

「っ……」

「信頼は、言葉で貰うものじゃない。これからの行動で積み重ねていくものだからね」

「……ふん」

 

 私はそう言って、アビドスのみんなへ視線を向ける。

 

「必ずまた来るね」

 

 私はそう返して、柴関ラーメンの暖簾をくぐった。

 夕暮れの風が、頬を静かに撫でていく。

 

 ──しかし、その穏やかな時間は長くは続かなかった。

 

 店の外へ一歩踏み出した瞬間、私の足が止まる。

 いや、私を含めたアビドスの皆の足が止まる。

 

(っ……やっぱり、そうなんだね)

 

 道路の向こう側には、私達よりも先に店を出ていた便()()()()()()()()が並んで立っていた。

 

 アルは静かにこちらを見つめ、カスミは腕を組んだまま不敵に笑う。

 トキは既に周囲を警戒するように立ち、ヒヨリだけが申し訳なさそうに視線を伏せていた。

 

 そして、その四人の周囲には──、

 いつの間に集まったのか、武装した生徒達が何十人も待機していた。

 夕暮れの静かな街並みを包む空気が、一瞬にして張り詰める。

 

「うへぇ〜。真ん中にいるのって、私達の隣でラーメンを食べてた人達だよねぇ〜。これは一体、どういうことかな……?」

 

 ホシノが真剣な表情をして、質問を投げかける。

 その手は既にショットガンへと伸びていた。

 

 アズサも無言で銃を構え、チナツも表情を引き締めて医療バッグに手を添える。

 ノアもハンドガンを取り出しながら、私の前に直ぐさま立つ。

 そんな店の外の騒がしさを把握したのか、サキとセリカも暖簾から顔を出す。

 

「なんだ、騒がしいな、先生……っ!?」

 

 サキは店の前に集まった武装した生徒達へ視線を向けた瞬間、目を見開き、息を呑んだ。 

 

「な、何なのよ……あれ! 誰かと思えば、さっきラーメンを特盛にしてあげたお客さん達じゃない!!」

 

 セリカも暖簾をくぐり、険しい表情で便利屋68とその背後に並ぶ武装集団を睨みつける。 

 

 その声を受けても、アルは表情一つ変えなかった。 

 そして──、静かに一歩前へ出る。

 

「……それはそれ。これはこれよ」

 

 夕陽を背に受けながら、アルは真っ直ぐこちらを見据える。

 

「私達は──便()()()()()。依頼を受けた以上、仕事は最後まで遂行するんだから!」

 

 アルは大きく息を吸い、一拍置くと、

 

「アビドス対策委員会──これより、あなた達を襲撃するわ!!!」

 

 その宣言と同時に、周囲の武装した生徒達が一斉に銃を構えた。

 

 ──ガチャリ。

 

 無数の銃が、私やアビドス対策委員会のメンバーに向けられる。

 

(この人数は、まずいね……しかも、相手にはアルやトキもいる……!)

 

「……ごめん、サキ、セリカ。一緒に戦ってくれるかな?」

「っ……あぁ! 勿論だ、先生! こんな状況、黙って見ているわけないだろ!!」

「そうね。私達のお店(柴関ラーメン)も後ろにあるし、此処を守るためにも……あの恩知らず共を懲らしめてやるんだから!!」

 

 本当は生徒が戦わずに済むのであれば、それに越したことはない。

 だが、そんな状況とは言えず……私はサキとセリカに助力を求める。

 サキとセリカも銃を取り出すと、私の前へと出ていき、ホシノ達と並んだ。

 

「アルバイト中に助っ人ありがとうねぇ〜。サキちゃん、セリカちゃん」

 

 ホシノはショットガンを構え、一歩前へ出る。

 

「そして、先生は、私達から絶対に離れないでね」

 

 普段の気の抜けた口調とは違う。

 その瞳には、鋭い戦意が宿っていた。

 

 ──戦術指揮モード、起動。

 

『先生。分析が完了しました! 敵勢力、およそ三十……いえ、四十名を確認しました! それに真ん中にいる便利屋の生徒さん達は……恐ろしく強いです』 

「……っ。そうか、ありがとうね、アロナ」

 

 私が小さく呟くと、カスミが豪快に笑い声を上げる。

 

「ハーッハッハッハッ! 流石はシャーレの先生! この状況でも随分と落ち着いているじゃないか!」

 

 カスミは腕を組んだまま、楽しそうにこちらを眺めている。

 

「安心したまえ。今回の依頼は、先生を狙ったものではないぞ!」

 

 そして、指をゆっくりとホシノ達へ向けた。

 

「我々の依頼対象は──あくまで、アビドス対策委員会だからな!」

「はい、そうですね。アルバイトで雇った傭兵の皆様──先生には絶対に撃たないでください」

 

 トキも頷き、周りの武装集団に注意する。

 

「……ご、ごめんなさい。先生──けれど、人生は辛いですから」

 

 そんな中、ヒヨリはアルの横で小さく肩を震わせながら俯く。 

 アルは無言のまま前へ出ると、銃口を静かに持ち上げた。

 

「十秒後に一斉に攻撃を仕掛けるわ。各員、配置につきなさい!」

 

 その命令を合図に、武装した生徒達が一斉に散開を始める。

 夕暮れの静寂は、完全に戦場の空気へと変わっていく。

 

「っ……みんな、聞いてほしい」

 

 私はシッテムの箱を起動させながら、前にいるアビドスの皆とセリカに話しかける。

 

「セリカはカスミを。アズサはヒヨリを。サキはアルを。ホシノはトキを──お願い! 私が指揮するから、みんな、絶対に無理はしないで!」

「了解だ、先生」

 

 サキが鉄帽を被りながら、即座に頷く。

 

「任せて、先生! 私はこう見えて戦闘に関してはエリートなんだから!」

 

 セリカも銃を構え、カスミを真っ直ぐ睨み据える。

 

「了解した、先生!」

 

 アズサも照準をヒヨリへと合わせる。

 

「うへぇ〜。トキちゃんかぁ……あの子は、ちょっと強そうだねぇ〜」

 

 ホシノはそう言いながらも、ショットガンを肩に担ぎ直し、静かに一歩前へ出る。

 

「ノアとチナツは後方支援! 二人とも周囲の傭兵に攻撃しながら、みんなの回復と援護をお願い!」 

「「分かりました!」」

 

 チナツとノアは冷静に頷き、周囲の遮蔽物を確認する。

 

 私は全員の配置を確認し、シッテムの箱へ視線を落とす。

 画面上には、敵味方双方の位置がリアルタイムで映し出されている。

 

(アルは指揮官。そして、カスミは広範囲への爆発攻撃が得意。ヒヨリは射撃支援。そして──)

 

 私の視線が、一人の少女で止まる。

 それは、飛鳥馬(あすま)トキ。

 

(一番危険なのは、やっぱりトキかもしれないね)

 

 近接戦も射撃戦も一流。

 しかも、この世界のトキは臨戦装備。

 どの程度の経験値を積んでいるのか不確定要素が多い。

 もしホシノを突破されたら、一気にこちらの陣形が崩される。

 

「ホシノ……!」

「うん?」

「トキだけは絶対に自由にさせないで!」

 

 ホシノは静かに笑う。

 

「任せてよ、先生。寝不足とはいえ〜、私を誰だと思ってるのかな」

 

 そしてショットガンを構え、ゆっくり前へ出た。

 

「おじさん、こう見えても強いからねぇ」

 

 アルの右手を上にあげ、その手が勢いよく振り下ろされる。

 

「総員──作戦開始!!」

 

 次の瞬間、無数の銃声が夕暮れの街へ轟いた。

 

 □■□■□■□■□■□

 

 まず──先陣を切ったのは、アズサだった。

 

 ──パンッ!! 

 乾いた銃声が夕暮れの街へ響く。

 放たれた銃弾は、一直線にヒヨリへと向かう。

 

「っ……!」

 

 しかし、その弾丸はヒヨリには届かない。

 ヒヨリが咄嗟に身を低くした、その瞬間──背後にいた傭兵生徒が撃ち抜かれ、宙を舞う。

 

「アズサ──! 周りの傭兵の間を縫って、敵のスナイパーであるヒヨリを抑えて!」 

「あぁ、任せろ──先生!!」

「なっ……! しょ、照準が合わないぃ!?」

 

 ヒヨリは目を見開く。

 アズサは最初からヒヨリ本人ではなく、その周囲の戦力を削ることを選んでいた。

 

「周囲を削りながら、ヒヨリを叩く!」

 

 アズサは高速で移動しながら淡々と呟き、再び照準を合わせる。

 

 連続する銃撃。

 今度は左右に展開していた傭兵二人の銃を正確に弾き飛ばして、戦闘不能にしていく。

 

 敵陣の傭兵生徒達には、混乱が生まれ始めている。

 

「……何でなのかは、分からないですけど、アズサさんは、全然手加減してくれ無さそうですねぇ……!」

 

 ヒヨリは唇を噛み、重いスナイパーライフルの銃口をアズサへと向ける。

 

 元々の世界では──、互いに知り尽くした射手同士。

 

 どちらが先に相手へと照準を合わせるかの、その勝負が始まろうとしていた。

 

 一方、その頃──、

 

「さぁて〜!! こっちも始めようじゃあないか!」

 

 カスミが地面へ筒状の爆薬を投げつけると、耳を塞ぐ程の轟音共に、道路が爆ぜ、土煙が一気に舞い上がる。

 

「なっ!? 煙幕代わりのつもり?!」

 

 セリカが思わず、一歩だけ下がる。

 だが、直ぐに覚悟を決めた表情をすると、土煙に紛れて、カスミへと距離を縮めていく。

 

「お生憎と、私の()()()()()には、爆薬とか武器が大好きな生徒がいるから、相手として戦い慣れているわよ!!」

「そうかそうか……! なら、これはどうかな?」

 

 カスミは口元を吊り上げると、萌え袖の白衣の内側から新たな爆薬を取り出し、地面に放り投げる。

 

 ──カラン。

 

 地面を転がったのは、一つではない。

 

 二つ。

 三つ。

 四つ。

 次々と投げ込まれた筒状の爆薬が、セリカの進路を囲むように散らばっていく。

 

「しまっ……!」

 

 連鎖する爆発が道路を揺らし、炎と土煙が渦を巻く。

 爆風に押され、セリカは咄嗟に身を翻して距離を取った。

 

「くっ……! い、痛いわね」

 

 砂埃の向こうから、カスミの愉快そうな笑い声が響く。

 

「ハーッハッハッ! 残念だが、私は正面から撃ち合うのは得意じゃなくてね! 戦場は頭を使った者が勝つのだよ!」

 

 カスミはそう言って、爆薬を転がしながら、拳銃を構えて、セリカの退路を正確に塞いでいく。

 

「や、やりにくわね……! けど、その程度でS()R()T()()()()()の私を止められると、思わないでね!! R()A()B()B()I()T()2()──行くわよ!!」

 

 □■□■□■□■□■□■□

 

 他の戦場でも──、カスミが投げた爆薬によって生じた土煙が広がっている。

 

 そんな土煙に乗じ、視界を奪われたその瞬間を狙ってアルが号令を出す。 

 

「行くわよ、みんな!!」

 

 数十人の傭兵が一斉に対策委員会のメンバーへと突撃していく。

 

「来るよ……サキちゃん、敵の親玉は任せたからねぇ〜」

「あぁ、任せろ、ホシノ先輩。先輩こそ──負けるんじゃないぞ」

「へぇ〜、言うようになったね、サキちゃんっ!」

 

 ホシノがショットガンを構え直し、笑みを消す。

 

 その真正面には──土煙の中を高速で移動し、ホシノへと接近する影がある。

 

「ホシノ──! 正面から敵が近付いてるよ!」

 

 私はシッテムの箱を見ることで、その生徒を認識する。

 

 その生徒──トキは白いフードを揺らしながら、二挺拳銃の銃口を、土煙の中でもホシノへと真っ直ぐに向けていた。 

 

「敵の主力である、あなたを突破します」

「へぇー、おじさんを超えられるかな?」

 

 次の瞬間、アスファルトを砕くほどの踏み込みと共に、トキの姿が視界から消えた。

 土煙の中を、左右へ不規則に軌道を変えながら、一気にホシノへと間合いを詰める。

 

「っ……速いねぇ!」

 

 ホシノの瞳が大きく見開かれる。

 咄嗟にホシノは目だけで追うことを諦め、気配だけを頼りにショットガンを構えた。

 

 ──バァンッ!! 

 

 至近距離へ散弾が放たれる。

 しかし──、

 

「その程度は、予測済みです」

 

 トキは身体をわずかに傾けるだけで散弾の大半をかわし、そのまま二挺拳銃をホシノへと連射する。

 

 ──ダダダダダッ!! 

 

「うへぇえぇっ!」

 

 ホシノは直ぐさま道路脇のガードレールへ身を滑り込ませ、弾丸をやり過ごす。

 

 そして、敵のリロードのタイミングを見計らい──、

 次の瞬間には再び前へ。

 

 ショットガンの銃床を振り抜き、真正面からトキへ叩き込む。

 

「……っ!!」

 

 トキは咄嗟にホシノのショットガンを片腕で受け止める。

 だが、もう片方の銃をホシノの腹部に押し当て、銃口を引く。

 

 鈍い衝撃音と共に、互いの身体が数メートル弾かれる。

 

「っ……ふぅ……な、なるほど」

 

 トキは腕をさすりながら、小さく呟く。

 

「これがアビドス対策委員会の委員長──小鳥遊(たかなし) ホシノですか」

 

 対するホシノも肩で息をしながら笑った。

 

「おじさんも驚いたよぉ。そこまで速くて強い子は久しぶりかなぁ?」

 

 二人の周囲だけ、誰も近付けない。

 傭兵たちでさえ、その激突に巻き込まれることを恐れて距離を取っていた。

 

 私はシッテムの箱へ視線を落とす。

 

『先生! トキさんの移動速度が非常に高いです! 通常の予測演算では追従できません!』

 

(……でも、シッテムの箱の画面には、高速で移動するトキの姿は映し出されている)

 

 土煙もあり、どのタイミングでホシノへと攻撃を仕掛けるのかは、完全には読めない。

 それでも──、私が予測することは出来る。

 

 私はシッテムの箱の画面をタッチする。

 

「ホシノ。右から来る! 一歩だけ引いて、そのまま左へ飛んで!」

 

 その言葉に対し、ホシノに迷いはなかった。

 

「了解だよ、先生!」

 

 ホシノは私の指示を信じ、即座に後退する。

 その直後──土煙を切り裂き、トキが右側から飛び出した。

 

「……っ!?」

 

 トキの無表情が、僅かに揺らぐ。

 完全に先回りされていた。

 

「そこだねぇ!」

 

 ホシノのショットガンが火を噴く。

 散弾が至近距離で炸裂し、トキは両腕を交差させて受け止める。

 

 だが、その衝撃を殺すことはできず、トキは数メートル後方へと転がっていく。

 

「っ……強いですね。そして、流石です、先生」

 

 トキは静かに立ち上がると、二挺拳銃を構え直す。

 

「私の動きを、一度見ただけで分析しましたか」

「分析できたのは、私の力だけじゃないよ」

 

 私はシッテムの箱を握り直す。

 

「私はね。みんなの力を信じて、少しだけ後押ししただけだよ」

 

 その言葉を聞いたホシノが、小さく笑う。

 

「ありがとうね、先生」

 

 ショットガンを肩に担ぎ直し、トキへ視線を向ける。

 

「先生が見ててくれるなら、おじさんは負ける気がしないからねぇ」

 

 トキは一瞬だけ目を閉じ、小さく息を吐いた。

 

「なるほど……では、先生と小鳥遊ホシノの予測を超えるまでです」

 

 再びその瞳がホシノを捉える。

 次の瞬間──トキの姿が再び土煙へと溶け込み、二人の激突はさらに激しさを増していく。

 一方、シッテムの箱には別の警告が表示され始めていた。

 

『先生! 敵のアルさんが動きます! サキさんの方向です!』

 

(遂に動き出したようだね……! 親玉であるアルは……サキ任せたよ!)

 

 私はすぐさま顔を上げ、サキのいる方向へ叫んだ。

 

「サキ! 左前方から来るよ! 身を低くして!」

「っ……!」

 

 私の声を聞いた瞬間、サキは反射的に身体を沈める。

 

 その直後──先程までサキが立っていた場所を、銃弾が通り抜けていく。 

 

「避けた……?」

 

 そこには、夕陽を背に銃を構えたアルがいた。 

 アルは自身の狙いすました射撃が外されたことに、僅かに目を細める。

 

「なるほどね……シャーレの先生っていうのは、本当に厄介な存在みたいね」

 

 アルは銃を構え直す。

 

「仲間を強くする力があるなんて……まるでゲームのボスみたいじゃない!」

「なぁ……先生を馬鹿にしているのか?」

 

 それは、普段のサキらしい少し怒った声とは違った。

 サキは鉄帽を深く被り、大きく息を吐くと、アルの元へと駆け出す。

 

「私はまだ認めてないが……!」

 

 サキは銃を構えながら、真っ直ぐにアルを睨みつける。

 

「先生が……私達のために何度も動いてくれていることくらい、分かっている!」

 

 その言葉に、アルの眉が僅かに動いた。

 

「……へぇ。それで、どうしたのよ?」

 

 アルは銃口をサキへ向けて攻撃を止めない。

 だが、サキはその銃弾を躱しながら、前へ前へと踏み込んでいく。

 

「私は、簡単に誰かを信じるなんて出来ない。けれど、借金まみれの私達を先生だけは、見捨てなかった……!」

 

 夕陽に照らされた砂埃の中で、サキの声が響く。

 

「何度も危険な目に遭っても、逃げなかった。だから……!」

 

 サキは銃を構え直す。

 

「先生を馬鹿にする奴は……私が許さない!」

 

 次の瞬間──サキの銃口から放たれた弾丸が、アルの足元へ着弾する。

 

「っ……私達だって、便利屋68の仕事として──絶対に負けられないわ!!」

 

 アルは銃を構える。

 

「依頼を受けた以上、最後までやり遂げるんだから!」

 

 アビドス対策委員会と便利屋68。

 互いに一歩も譲らない戦いが、夕暮れの街で続いている。

 

 ──アズサ VS ヒヨリ。

 ──セリカ VS カスミ。

 ──ホシノ VS トキ。

 ──サキ VS アル。

 

 それぞれの戦場で、実力者同士の激突が繰り広げられている。

 

 そして──チナツとノアも、周囲の傭兵バイトへと攻撃を仕掛けながら、味方への後方支援を行っている。

 

(……っ。人数差もあるし……それに、便利屋はやっぱり強いね)

 

 私はシッテムの箱へ視線を落とす。

 そして──そこに、表示された()()を見て、原作知識から一つの名案を思い付く。

 

「……アロナ」

『はい、先生』

「現在時刻を、この戦場に響くくらいの音量で、全員に共有できる?」

『えぇ? ま、まぁ、スーパーアロナちゃんなら可能ですよ、先生!!』

 

 その瞬間──戦場に、シッテムの箱から発せられた音声が響いた。

 

『現在時刻、17時00分になりました!』

 

「……え?」

 

 その一瞬──便利屋68の動きが止まる。

 

「ま、まずい。17時、だと……?」

 

 カスミが爆薬を手にしたまま、周囲を見渡す。

 その表情には、戦闘中には見せなかった焦りが浮かんでいた。

 

「あっ、そういえば、傭兵バイトさん達との契約って……」

 

 ヒヨリが小さく声を漏らした。

 

「……あ、()()だ」

 

 傭兵バイトの一人が、ポツリと呟く。

 

「今日の日当だとここまでだね。あとは自分たちで何とかして。みんな、帰るわよ!」

「あぁ〜疲れた疲れた! お金貰って帰ろー!」

「帰りに蕎麦屋でも寄ってく?」

「いいねいいね! 寄ってこー!」

 

 そう言って、四十人近くいた傭兵バイト達が、一斉に私達に背を向けて帰っていく。

 

「なっ! ま、待って──! ど、どういうことよ……!? ちょ、ちょっと待ちなさい! 帰っちゃダメよ!!」

 

 アルが慌てた様子で、傭兵バイト達を止めようとするが、彼女達は聞く耳を持たない。

 

「……これは、先生に一本取られましたね、社長」

「くっ……あんな()()があるだなんて」

 

 トキがホシノから距離を取りつつ、後退してアルの隣に立つ。

 アルは悔しそうに唇を噛み締めながら、私を見つめる。

 

 四十人近くいた傭兵達は、あっという間に姿を消していった。

 

 残された便利屋68の四人と、私達の間には気まずい沈黙が流れる。

 

 先程まで街を包んでいた銃声は、嘘のようだった。

 

「あ……う、うぅ……こ、これで終わったと思わないことね! アビドス! ──それに、先生っ!!」

 

 アルは私達に指を差して、背を向ける。

 

「べ、便利屋68──戦略的撤退よっ!!」

 

 そう言ってアルは、カスミ達を引き連れて共に走り去っていく。

 

「なっ! ま、待て──っ! って、行っちまったか」

 

 サキが咄嗟に追いかけようとしたが、お店のアルバイト中という事もあり、その場に立ち止まる。

 

「うへぇ〜逃げ足が早いね、あの子たち」

 

 ホシノは呆れたように肩をすくめる。

 

 残されたのは、爆発で荒れた道路。

 舞い上がった砂埃。

 そして、夕暮れの静寂だけだった。

 

「……これは、勝ったって事で良いのでしょうか?」

 

 チナツが呟きながら、銃を下ろす。

 遠くには、去っていった便利屋68の背中が小さく見える。

 

「……変な奴らだったな、先生」

「え?」

 

 私が首を傾げると、サキは視線を逸らす。

 

「あっ、いや……」

 

 サキは一瞬、言葉に迷った後、観念したように私に話しかける。

 

「悪い奴らなら、もっと簡単だったんだろうなって思っただけだ」

 

 サキは鉄帽を外して、夕陽に照らされた街を見る。

 

「先生がいる中で、私達を襲撃してきたことは許せないし、先生を馬鹿にしていたのも許せない。でも……あいつらも、あいつらなりに一生懸命だったんだろうなって」 

「サキちゃん……彼女達と戦ってみて、少しだけ彼女達への見方が変わったんですか? それに……」

「っ……」

 

 ノアが意外そうにサキへ尋ねて、言い淀みながら、私の方へと静かに視線を向ける。

 

「ち、違う!」

 

 サキは慌てて否定する。

 

「先生への見方は変わってないぞ! 私はまだ先生を完全に認めたわけじゃないし、あいつらを完全に許したわけでもないからな!」

「ふふっ。そうですか」

 

 ノアは思わず笑ってしまう。

 

「でも?」

「……っ。ノア先輩は意地悪だ」

 

 サキは少し黙る。

 そして、小さな声で呟いた。

 

「……先生が、私達のために動いていることくらいは、分かってる」

 

 その言葉に、私は目を丸くする。

 

「サキ……!!」

「か、勘違いするなよ!」

 

 そんな私に対して、サキは顔を赤くしながら、すぐにいつもの調子へ戻る。

 

「まだ信頼したわけじゃないからな!」

「うんうん。サキには私を信頼できるまで、いっぱい見張って貰わないとね!」

「っ……! 気持ち悪いことを言うな!」

 

 サキは少しだけこちらを見る。

 

「で、でも……前よりは、少しくらい信じてもいいかもしれない」

 

 夕暮れの風が吹き抜ける。

 その横で、アズサが驚いたように目を見開いた。

 

「はっ!? サキがそんなこと言うなんて……明日はアビドス砂漠に雪でも降るんじゃないか?」

「なっ! アズサ先輩!?」

「ふふっ……冗談だ!」

 

 そんな二人のやり取りを見て、私は小さく笑う。

 

「先生──」

 

 すると、ショットガンを下ろしたホシノが、私へと声を掛けてくる。

 

「今日は色々あって、また巻き込んじゃったけど……大丈夫?」

「うん。みんなのおかげでね。怪我一つないよ」

「……そっか」

 

 ホシノは優しく笑う。

 

「なら、帰ろっか、みんなぁ〜!」

「そうですね、ホシノ先輩。サキちゃんとセリカちゃんは、まだアルバイトですよね? その……頑張ってください」

「あぁ! ありがとな、ノア先輩!」

 

 私はサキ以外のアビドスメンバーと共に、駐車場に停めた車に向かっていく。

 

「じゃあ、サキとセリカ、また会おうね!」

「っ……あぁ、またな、先生!」

「また待っているわ、先生!」

 

 そうして、私は二人に見送られて、その場を後にした。

 

 □■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 先生たちを見送った後──、

 店前にはサキとセリカだけが残った。

 

「そういえば……大将には、ちゃんと謝らないとな」

「それは私も手伝うわ……」

 

 セリカがため息を吐く。

 幸いにもお店は無事だが、店の前の道路は酷い荒れ様だ。

 

「せっかく営業中だったのに、お店の前をこんな戦場にしちゃったし……」

「……まあ、この惨状は殆どカスミとかいう爆弾魔のせいだけどな」

 

 サキがゲッソリした様子で呟く。

 

「ハーッハッハッ! とか言って、めちゃくちゃセリカに爆薬を投げてたな」

「そうね。きっと、あの子、絶対反省してないわよ……!」

 

 そんな他愛もない会話をしながら、二人は柴関ラーメン屋の店内へと戻っていく。

 

 こうして、便利屋68による『アビドス対策委員会への襲撃』は幕を閉じた。

 

 

 ──しかし、そんなサキとセリカを、

 ビルの上から、じっと見つめる()()()()()が居ることを、誰も気が付く事はなかった。

 

 

 





せ、先生を褒めるのなんて、一回だけだからな!!


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