──それから、しばらくして。
夕暮れの陽射しが街並みを橙色へ染め始めた頃。
私達は柴関ラーメンでの食事を終え、席を立った。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
私は柴大将や店員のサキ達に頭を下げる。
「まいど! 先生もアビドスのお嬢ちゃん達も!」
「そうね、先生。また来てね!」
柴大将とセリカが厨房から顔を出して、私たちを見送る。
だが、そんな二人とは対照的に──、
「……私はまだ、先生がアビドスの皆と一緒にいるのを、認めてなんかないからな」
サキはレジ対応をしながら、私を真っ直ぐ見据えたまま、そう言い切る。
その瞳には、警戒と迷いが入り混じっていた。
「うん。それでいいと思うよ」
私が笑って答えると、サキは一瞬だけ目を丸くする。
「っ……」
「信頼は、言葉で貰うものじゃない。これからの行動で積み重ねていくものだからね」
「……ふん」
私はそう言って、アビドスのみんなへ視線を向ける。
「必ずまた来るね」
私はそう返して、柴関ラーメンの暖簾をくぐった。
夕暮れの風が、頬を静かに撫でていく。
──しかし、その穏やかな時間は長くは続かなかった。
店の外へ一歩踏み出した瞬間、私の足が止まる。
いや、私を含めたアビドスの皆の足が止まる。
(っ……やっぱり、そうなんだね)
道路の向こう側には、私達よりも先に店を出ていた
アルは静かにこちらを見つめ、カスミは腕を組んだまま不敵に笑う。
トキは既に周囲を警戒するように立ち、ヒヨリだけが申し訳なさそうに視線を伏せていた。
そして、その四人の周囲には──、
いつの間に集まったのか、武装した生徒達が何十人も待機していた。
夕暮れの静かな街並みを包む空気が、一瞬にして張り詰める。
「うへぇ〜。真ん中にいるのって、私達の隣でラーメンを食べてた人達だよねぇ〜。これは一体、どういうことかな……?」
ホシノが真剣な表情をして、質問を投げかける。
その手は既にショットガンへと伸びていた。
アズサも無言で銃を構え、チナツも表情を引き締めて医療バッグに手を添える。
ノアもハンドガンを取り出しながら、私の前に直ぐさま立つ。
そんな店の外の騒がしさを把握したのか、サキとセリカも暖簾から顔を出す。
「なんだ、騒がしいな、先生……っ!?」
サキは店の前に集まった武装した生徒達へ視線を向けた瞬間、目を見開き、息を呑んだ。
「な、何なのよ……あれ! 誰かと思えば、さっきラーメンを特盛にしてあげたお客さん達じゃない!!」
セリカも暖簾をくぐり、険しい表情で便利屋68とその背後に並ぶ武装集団を睨みつける。
その声を受けても、アルは表情一つ変えなかった。
そして──、静かに一歩前へ出る。
「……それはそれ。これはこれよ」
夕陽を背に受けながら、アルは真っ直ぐこちらを見据える。
「私達は──
アルは大きく息を吸い、一拍置くと、
「アビドス対策委員会──これより、あなた達を襲撃するわ!!!」
その宣言と同時に、周囲の武装した生徒達が一斉に銃を構えた。
──ガチャリ。
無数の銃が、私やアビドス対策委員会のメンバーに向けられる。
(この人数は、まずいね……しかも、相手にはアルやトキもいる……!)
「……ごめん、サキ、セリカ。一緒に戦ってくれるかな?」
「っ……あぁ! 勿論だ、先生! こんな状況、黙って見ているわけないだろ!!」
「そうね。私達の
本当は生徒が戦わずに済むのであれば、それに越したことはない。
だが、そんな状況とは言えず……私はサキとセリカに助力を求める。
サキとセリカも銃を取り出すと、私の前へと出ていき、ホシノ達と並んだ。
「アルバイト中に助っ人ありがとうねぇ〜。サキちゃん、セリカちゃん」
ホシノはショットガンを構え、一歩前へ出る。
「そして、先生は、私達から絶対に離れないでね」
普段の気の抜けた口調とは違う。
その瞳には、鋭い戦意が宿っていた。
──戦術指揮モード、起動。
『先生。分析が完了しました! 敵勢力、およそ三十……いえ、四十名を確認しました! それに真ん中にいる便利屋の生徒さん達は……恐ろしく強いです』
「……っ。そうか、ありがとうね、アロナ」
私が小さく呟くと、カスミが豪快に笑い声を上げる。
「ハーッハッハッハッ! 流石はシャーレの先生! この状況でも随分と落ち着いているじゃないか!」
カスミは腕を組んだまま、楽しそうにこちらを眺めている。
「安心したまえ。今回の依頼は、先生を狙ったものではないぞ!」
そして、指をゆっくりとホシノ達へ向けた。
「我々の依頼対象は──あくまで、アビドス対策委員会だからな!」
「はい、そうですね。アルバイトで雇った傭兵の皆様──先生には絶対に撃たないでください」
トキも頷き、周りの武装集団に注意する。
「……ご、ごめんなさい。先生──けれど、人生は辛いですから」
そんな中、ヒヨリはアルの横で小さく肩を震わせながら俯く。
アルは無言のまま前へ出ると、銃口を静かに持ち上げた。
「十秒後に一斉に攻撃を仕掛けるわ。各員、配置につきなさい!」
その命令を合図に、武装した生徒達が一斉に散開を始める。
夕暮れの静寂は、完全に戦場の空気へと変わっていく。
「っ……みんな、聞いてほしい」
私はシッテムの箱を起動させながら、前にいるアビドスの皆とセリカに話しかける。
「セリカはカスミを。アズサはヒヨリを。サキはアルを。ホシノはトキを──お願い! 私が指揮するから、みんな、絶対に無理はしないで!」
「了解だ、先生」
サキが鉄帽を被りながら、即座に頷く。
「任せて、先生! 私はこう見えて戦闘に関してはエリートなんだから!」
セリカも銃を構え、カスミを真っ直ぐ睨み据える。
「了解した、先生!」
アズサも照準をヒヨリへと合わせる。
「うへぇ〜。トキちゃんかぁ……あの子は、ちょっと強そうだねぇ〜」
ホシノはそう言いながらも、ショットガンを肩に担ぎ直し、静かに一歩前へ出る。
「ノアとチナツは後方支援! 二人とも周囲の傭兵に攻撃しながら、みんなの回復と援護をお願い!」
「「分かりました!」」
チナツとノアは冷静に頷き、周囲の遮蔽物を確認する。
私は全員の配置を確認し、シッテムの箱へ視線を落とす。
画面上には、敵味方双方の位置がリアルタイムで映し出されている。
(アルは指揮官。そして、カスミは広範囲への爆発攻撃が得意。ヒヨリは射撃支援。そして──)
私の視線が、一人の少女で止まる。
それは、
(一番危険なのは、やっぱりトキかもしれないね)
近接戦も射撃戦も一流。
しかも、この世界のトキは臨戦装備。
どの程度の経験値を積んでいるのか不確定要素が多い。
もしホシノを突破されたら、一気にこちらの陣形が崩される。
「ホシノ……!」
「うん?」
「トキだけは絶対に自由にさせないで!」
ホシノは静かに笑う。
「任せてよ、先生。寝不足とはいえ〜、私を誰だと思ってるのかな」
そしてショットガンを構え、ゆっくり前へ出た。
「おじさん、こう見えても強いからねぇ」
アルの右手を上にあげ、その手が勢いよく振り下ろされる。
「総員──作戦開始!!」
次の瞬間、無数の銃声が夕暮れの街へ轟いた。
□■□■□■□■□■□
まず──先陣を切ったのは、アズサだった。
──パンッ!!
乾いた銃声が夕暮れの街へ響く。
放たれた銃弾は、一直線にヒヨリへと向かう。
「っ……!」
しかし、その弾丸はヒヨリには届かない。
ヒヨリが咄嗟に身を低くした、その瞬間──背後にいた傭兵生徒が撃ち抜かれ、宙を舞う。
「アズサ──! 周りの傭兵の間を縫って、敵のスナイパーであるヒヨリを抑えて!」
「あぁ、任せろ──先生!!」
「なっ……! ひょ、標準が合わないぃ!?」
ヒヨリは目を見開く。
アズサは最初からヒヨリ本人ではなく、その周囲の戦力を削ることを選んでいた。
「周囲を削りながら、ヒヨリを叩く!」
アズサは高速で移動しながら淡々と呟き、再び照準を合わせる。
連続する銃撃。
今度は左右に展開していた傭兵二人の銃を正確に弾き飛ばして、戦闘不能にしていく。
敵陣の傭兵生徒達には、混乱が生まれ始めている。
「……何でなのかは、分からないですけど、アズサさんは、全然手加減してくれ無さそうですねぇ……!」
ヒヨリは唇を噛み、重いスナイパーライフルの銃口をアズサへと向ける。
元々の世界では──、互いに知り尽くした射手同士。
どちらが先に相手へと照準を合わせるかの、その勝負が始まろうとしていた。
一方、その頃──、
「さぁて〜!! こっちも始めようじゃあないか!」
カスミが地面へ筒状の爆薬を投げつけると、耳を塞ぐ程の轟音共に、道路が爆ぜ、土煙が一気に舞い上がる。
「なっ!? 煙幕代わりのつもり?!」
セリカが思わず、一歩だけ下がる。
だが、直ぐに覚悟を決めた表情をすると、土煙に紛れて、カスミへと距離を縮めていく。
「お生憎と、私の
「そうかそうか……! なら、これはどうかな?」
カスミは口元を吊り上げると、萌え袖の白衣の内側から新たな爆薬を取り出し、地面に放り投げる。
──カラン。
地面を転がったのは、一つではない。
二つ。
三つ。
四つ。
次々と投げ込まれた筒状の爆薬が、セリカの進路を囲むように散らばっていく。
「しまっ……!」
連鎖する爆発が道路を揺らし、炎と土煙が渦を巻く。
爆風に押され、セリカは咄嗟に身を翻して距離を取った。
「くっ……! い、痛いわね」
砂埃の向こうから、カスミの愉快そうな笑い声が響く。
「ハーッハッハッ! 残念だが、私は正面から撃ち合うのは得意じゃなくてね! 戦場は頭を使った者が勝つのだよ!」
カスミはそう言って、爆薬を転がしながら、拳銃を構えて、セリカの退路を正確に塞いでいく。
「や、やりにくわね……! けど、その程度で
□■□■□■□■□■□■□
他の戦場でも──、カスミが投げた爆薬によって生じた土煙が広がっている。
そんな土煙に乗じ、視界を奪われたその瞬間を狙ってアルが号令を出す。
「行くわよ、みんな!!」
数十人の傭兵が一斉に対策委員会のメンバーへと突撃していく。
「来るよ……サキちゃん、敵の親玉は任せたからねぇ〜」
「あぁ、任せろ、ホシノ先輩。先輩こそ──負けるんじゃないぞ」
「へぇ〜、言うようになったね、サキちゃんっ!」
ホシノがショットガンを構え直し、笑みを消す。
その真正面には──土煙の中を高速で移動し、ホシノへと接近する影がある。
「ホシノ──! 正面から敵が近付いてるよ!」
私はシッテムの箱を見ることで、その生徒を認識する。
その生徒──トキは白いフードを揺らしながら、二挺拳銃の銃口を、土煙の中でもホシノへと真っ直ぐに向けていた。
「敵の主力である、あなたを突破します」
「へぇー、おじさんを超えられるかな?」
次の瞬間、アスファルトを砕くほどの踏み込みと共に、トキの姿が視界から消えた。
土煙の中を、左右へ不規則に軌道を変えながら、一気にホシノへと間合いを詰める。
「っ……速いねぇ!」
ホシノの瞳が大きく見開かれる。
咄嗟にホシノは目だけで追うことを諦め、気配だけを頼りにショットガンを構えた。
──バァンッ!!
至近距離へ散弾が放たれる。
しかし──、
「その程度は、予測済みです」
トキは身体をわずかに傾けるだけで散弾の大半をかわし、そのまま二挺拳銃をホシノへと連射する。
──ダダダダダッ!!
「うへぇえぇっ!」
ホシノは直ぐさま道路脇のガードレールへ身を滑り込ませ、弾丸をやり過ごす。
そして、敵のリロードのタイミングを見計らい──、
次の瞬間には再び前へ。
ショットガンの銃床を振り抜き、真正面からトキへ叩き込む。
「……っ!!」
トキは咄嗟にホシノのショットガンを片腕で受け止める。
だが、もう片方の銃をホシノの腹部に押し当て、銃口を引く。
鈍い衝撃音と共に、互いの身体が数メートル弾かれる。
「っ……ふぅ……な、なるほど」
トキは腕をさすりながら、小さく呟く。
「これがアビドス対策委員会の委員長──
対するホシノも肩で息をしながら笑った。
「おじさんも驚いたよぉ。そこまで速くて強い子は久しぶりかなぁ?」
二人の周囲だけ、誰も近付けない。
傭兵たちでさえ、その激突に巻き込まれることを恐れて距離を取っていた。
私はシッテムの箱へ視線を落とす。
『先生! トキさんの移動速度が非常に高いです! 通常の予測演算では追従できません!』
(……でも、シッテムの箱の画面には、高速で移動するトキの姿は映し出されている)
土煙もあり、どのタイミングでホシノへと攻撃を仕掛けるのかは、完全には読めない。
それでも──、私が予測することは出来る。
私はシッテムの箱の画面をタッチする。
「ホシノ。右から来る! 一歩だけ引いて、そのまま左へ飛んで!」
その言葉に対し、ホシノに迷いはなかった。
「了解だよ、先生!」
ホシノは私の指示を信じ、即座に後退する。
その直後──土煙を切り裂き、トキが右側から飛び出した。
「……っ!?」
トキの無表情が、僅かに揺らぐ。
完全に先回りされていた。
「そこだねぇ!」
ホシノのショットガンが火を噴く。
散弾が至近距離で炸裂し、トキは両腕を交差させて受け止める。
だが、その衝撃を殺すことはできず、トキは数メートル後方へと転がっていく。
「っ……強いですね。そして、流石です、先生」
トキは静かに立ち上がると、二挺拳銃を構え直す。
「私の動きを、一度見ただけで分析しましたか」
「分析できたのは、私の力だけじゃないよ」
私はシッテムの箱を握り直す。
「私はね。みんなの力を信じて、少しだけ後押ししただけだよ」
その言葉を聞いたホシノが、小さく笑う。
「ありがとうね、先生」
ショットガンを肩に担ぎ直し、トキへ視線を向ける。
「先生が見ててくれるなら、おじさんは負ける気がしないからねぇ」
トキは一瞬だけ目を閉じ、小さく息を吐いた。
「なるほど……では、先生と小鳥遊ホシノの予測を超えるまでです」
再びその瞳がホシノを捉える。
次の瞬間──トキの姿が再び土煙へと溶け込み、二人の激突はさらに激しさを増していく。
一方、シッテムの箱には別の警告が表示され始めていた。
『先生! 敵のアルさんが動きます! サキさんの方向です!』
(遂に動き出したようだね……! 親玉であるアルは……サキ任せたよ!)
私はすぐさま顔を上げ、サキのいる方向へ叫んだ。
「サキ! 左前方から来るよ! 身を低くして!」
「っ……!」
私の声を聞いた瞬間、サキは反射的に身体を沈める。
その直後──先程までサキが立っていた場所を、銃弾が通り抜けていく。
「避けた……?」
そこには、夕陽を背に銃を構えたアルがいた。
アルは自身の狙いすました射撃が外されたことに、僅かに目を細める。
「なるほどね……シャーレの先生っていうのは、本当に厄介な存在みたいね」
アルは銃を構え直す。
「仲間を強くする力があるなんて……まるでゲームのボスみたいじゃない!」
「なぁ……先生を馬鹿にしているのか?」
それは、普段のサキらしい少し怒った声とは違った。
サキは鉄帽を深く被り、大きく息を吐くと、アルの元へと駆け出す。
「私はまだ認めてないが……!」
サキは銃を構えながら、真っ直ぐにアルを睨みつける。
「先生が……私達のために何度も動いてくれていることくらい、分かっている!」
その言葉に、アルの眉が僅かに動いた。
「……へぇ。それで、どうしたのよ?」
アルは銃口をサキへ向けて攻撃を止めない。
だが、サキはその銃弾を躱しながら、前へ前へと踏み込んでいく。
「私は、簡単に誰かを信じるなんて出来ない。けれど、借金まみれの私達を先生だけは、見捨てなかった……!」
夕陽に照らされた砂埃の中で、サキの声が響く。
「何度も危険な目に遭っても、逃げなかった。だから……!」
サキは銃を構え直す。
「先生を馬鹿にする奴は……私が許さない!」
次の瞬間──サキの銃口から放たれた弾丸が、アルの足元へ着弾する。
「っ……私達だって、便利屋68の仕事として──絶対に負けられないわ!!」
アルは銃を構える。
「依頼を受けた以上、最後までやり遂げるんだから!」
アビドス対策委員会と便利屋68。
互いに一歩も譲らない戦いが、夕暮れの街で続いている。
──アズサ VS ヒヨリ。
──セリカ VS カスミ。
──ホシノ VS トキ。
──サキ VS アル。
それぞれの戦場で、実力者同士の激突が繰り広げられている。
そして──チナツとノアも、周囲の傭兵バイトへと攻撃を仕掛けながら、味方への後方支援を行っている。
(……っ。人数差もあるし……それに、便利屋はやっぱり強いね)
私はシッテムの箱へ視線を落とす。
そして──そこに、表示された
「……アロナ」
『はい、先生』
「現在時刻を、この戦場に響くくらいの音量で、全員に共有できる?」
『えぇ? ま、まぁ、スーパーアロナちゃんなら可能ですよ、先生!!』
その瞬間──戦場に、シッテムの箱から発せられた音声が響いた。
『現在時刻、17時00分になりました!』
「……え?」
その一瞬──便利屋68の動きが止まる。
「ま、まずい。17時、だと……?」
カスミが爆薬を手にしたまま、周囲を見渡す。
その表情には、戦闘中には見せなかった焦りが浮かんでいた。
「あっ、そういえば、傭兵バイトさん達との契約って……」
ヒヨリが小さく声を漏らした。
「……あ、
傭兵バイトの一人が、ポツリと呟く。
「今日の日当だとここまでだね。あとは自分たちで何とかして。みんな、帰るわよ!」
「あぁ〜疲れた疲れた! お金貰って帰ろー! 帰りに蕎麦屋でも寄ってく?」
そう言って、四十人近くいた傭兵バイト達が、一斉に私達に背を向けて帰っていく。
「なっ! ま、待って──! ど、どういうことよ……!? ちょ、ちょっと待ちなさい! 帰っちゃダメよ!!」
アルが慌てた様子で、傭兵バイト達を止めようとするが、彼女達は聞く耳を持たない。
「……これは、先生に一本取られましたね、社長」
「くっ……あんな
トキがホシノから距離を取るために後退し、アルの隣に立つ。
アルも悔しそうに私を見つめる。
四十人近くいた傭兵達は、あっという間に姿を消していった。
残された便利屋68の四人と、私達の間には気まずい沈黙が流れる。
先程まで街を包んでいた銃声は、嘘のようだった。
「あ……う、うぅ……こ、これで終わったと思わないことね! アビドス! ──それに、先生っ!!」
アルは私達に指を差して、背を向ける。
「べ、便利屋68──戦略的撤退よっ!!」
そう言ってアルは、カスミ達を引き連れて共に走り去っていく。
「なっ! ま、待て──っ! って、行っちまったか」
「うへぇ〜逃げ足が早いね、あの子たち」
ホシノは呆れたように肩をすくめる。
残されたのは、爆発で荒れた道路。
舞い上がった砂埃。
そして、夕暮れの静寂だけだった。
「……これは、勝ったって事で良いのでしょうか?」
チナツが呟きながら、銃を下ろす。
遠くには、去っていった便利屋68の背中が小さく見える。
「……変な奴らだったな、先生」
「え?」
私が首を傾げると、サキは視線を逸らす。
「あっ、いや……」
サキは一瞬、言葉に迷った後、観念したように私に話しかける。
「悪い奴らなら、もっと簡単だったんだろうなって思っただけだ」
サキは鉄帽を外して、夕陽に照らされた街を見る。
「先生を襲撃してきたことは許せない。でも……あいつらも、あいつらなりに必死だったんだろうなって」
「……サキちゃん。戦ってみて、少しだけ彼女達への見方が変わったんですか? それに……」
ノアが意外そうにサキへ尋ねて、言い淀みながら、私の方へと静かに視線を向ける。
「ち、違う!」
サキは慌てて否定する。
「私はまだ先生を完全に認めたわけじゃないし、あいつらを許したわけでもないからな!」
「ふふっ。そうですか」
ノアは思わず笑ってしまう。
「でも?」
「……っ。ノア先輩は意地悪だ」
サキは少し黙る。
そして、小さな声で呟いた。
「……先生が、私達のために動いていることくらいは、分かった」
その言葉に、私は目を丸くする。
「サキ……!!」
「か、勘違いするなよ!」
そんな私が輝かせた目に対して、サキはすぐにいつもの調子へ戻る。
「まだ信頼したわけじゃないからな!」
「うん。サキには私を信頼できるまで、いっぱい見張って貰わないとね!」
「っ……! 気持ち悪いことを言うな!」
サキは少しだけこちらを見る。
「で、でも……前よりは、少しくらい信じてもいいかもしれない」
夕暮れの風が吹き抜ける。
その横で、アズサが驚いたように目を見開いた。
「はっ!? サキがそんなこと言うなんて……明日はアビドス砂漠に雪でも降るんじゃないか?」
「なっ! アズサ先輩!?」
「ふふっ……冗談だ、冗談!」
そんな二人のやり取りを見て、私は小さく笑う。
「先生──」
すると、ショットガンを下ろしたホシノが、私へと声を掛けてくる。
「今日は色々あって、また巻き込んじゃったけど……大丈夫?」
「うん。みんなのおかげでね」
「……そっか」
ホシノは優しく笑う。
「なら、帰ろっか、みんなぁ〜!」
「そうですね、ホシノ先輩。サキちゃんとセリカちゃんは、まだアルバイトですよね? その……頑張ってください」
「あぁ! ありがとな、ノア先輩!」
私はサキ以外のアビドスメンバーと共に、駐車場に停めた車に向かっていく。
「じゃあ、サキとセリカ、また会おうね!」
「っ……あぁ、またな、先生!」
「何時でも待っているわ、先生!」
そうして、サキとセリカは私とホシノ達を見送り──、
店前にはサキとセリカだけが残る。
「そういえば……大将には、ちゃんと謝らないとな」
「それは私も手伝うわ……」
セリカがため息を吐く。
「せっかく営業中だったのに、店の前を戦場にしちゃったんだから」
「……まあ、あの爆発は殆どカスミとかいう爆弾魔のせいだけどな」
サキがゲッソリした様子で呟く。
「ハーッハッハッ! とか言って爆薬投げてたし」
「あの子、絶対反省してないわね……!」
ホシノ達を見送ると、二人は柴関ラーメン屋の店内へと戻っていく。
こうして、便利屋68による『アビドス対策委員会への襲撃』は幕を閉じた。
──しかし、そんなサキとセリカを、
ビルの上から、じっと見つめる
せ、先生を褒めるのなんて、一回だけだからな!!