妨害を確認。
ストーリーは、ハードモードへ移行しました。
先生……『強くてニューゲーム』などという都合の良いものが、通用するとは思わないでください。
……今回は、そう簡単にはいきませんから。
──どれほど、時間が経ったのか。
セリカには分からなかった。
ただ、目を開けた時──そこには誰もいなかった。
「……っ」
セリカは、僅かに身じろぎをした。
全身が痛い。
頭が重い。
身体を動かそうとするだけで、全身に鈍い痛みが走る。
「……痛っ……ここは、どこ……」
ぼんやりとした視界の中で、セリカは周囲を見回した。
そこは、見覚えのある景色であった。
最近になって、少しは見慣れてきたアビドスの街並み。
それも、アルバイト先から駅へと向かう路地裏。
そんな路地裏で──セリカは、ビルの壁に背を預けるようにして、倒れていた。
その次の瞬間──、
セリカの脳裏に、直前の出来事が蘇る。
夜の街に、突然現れた狐耳の女。
──
サキはその女と戦い、
「っ!! ……サ、サキ……! サキはどこ!?」
セリカの声に対し、返事はない。
静まり返った夜のアビドスに、セリカの声だけが響く。
(ま、まさか! あの女に……つ、連れ去られた、の?)
「……サキ……っ!」
セリカは、慌てて身体を起こそうとした。
だが、身体に力が上手く入らない。
セリカは両手を地面につけて、何度ももがき、どうにかして上半身を起こす。
「……くっ……こんな、もの……っ!」
セリカは、歯を食いしばった。
頭部に受けた衝撃。
全身に残る痛み。
そして──何よりも、サキを守りきれなかった
「サキが……連れていかれた……」
セリカの震える手が地面を掴み、爪の間には砂が入り込む。
それでも力がこもる。
「私が……」
声は震え、気づけば頬を伝う涙が止まらなかった。
「私が助けないと……!」
セリカは何度も足がふらつきながらも、立ち上がる。
膝が崩れそうになるのを必死に堪えて、セリカは壁に手をついて、身体を支える。
そんな時、視界の端に先ほどまでサキが倒れていた場所が見えた。
そこには、僅かに血痕が残っている。
「……」
それを見つけ、セリカはその場に立ち尽くしてしまう。
あの時──サキは
置いていけと言っても。
サキは、嫌だと言った。
あの時、自分さえいなければ、サキはあの女から逃げられたかもしれない。
少なくとも、こんな人目につかない路地裏からは脱出し、助けを求める事ができたかもしれない。
けれど──、
『セリカを置いて……逃げられるわけないだろっ……!!!』
『そして……セリカは私の友達だ!!!』
サキの叫びが鮮明に脳裏へ蘇った。
「……馬鹿」
セリカは小さく呟く。
「本当に……馬鹿なんだからっ」
それは、サキに向けた言葉だった。
だが、それは同時に──
セリカは、ふらつきながらも歩き始める。
その方向は、駅とは反対方向。
向かう先は、一つ──それは、
……とはいえ。
「私が、あのストーカーの家に、行くとは、ね……!」
歩きながら、セリカは思わずぼやいた。
──
それは、柴関ラーメンの常連客である眠そうな少女。
ラーメンを啜りながらも、何かと自分のことを見ている気がする、あのストーカー。
そんなホシノは、以前──セリカに自分の家を教えていた。
『うへぇ〜。セリカちゃん! ここおじさんの家だからねぇ〜!』
そう言って、自分の家の場所を教えてきたのだ。
あの時のセリカは『誰があんたの家なんか覚えるのよ!』と、そう思っていた。
「……けど、なんか、
セリカは、苦しそうに息を吐きながらも、暗いアビドスの街を一人歩き続けた。
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──その頃、シャーレの部室。
時刻は、すでに深夜になろうとしていた。
私──先生は、机の上に積み重なった書類を見ながら、深いため息を吐く。
「……本当に凄い量だね」
『せ、先生! 今日はもう寝ましょう! また明日があるんですから!』
「……そうだね、アロナ。そろそろ寝ようかな」
今日中に片付けるつもりだった書類は、何とか処理することができた。
ただ明日以降の書類は、まだ山のように残っている。
これら書類は、連邦生徒会長が失踪して以降に発生した問題が殆どであり、キヴォトスの情勢が現在不安定になっているのは本当らしい。
私は不意に窓の外に目を向けると、夜のキヴォトスが広がっている。
シャーレの周囲も、すでに人の気配は殆どない。
そんな静かな夜だった。
──ブブブブブッ。
「……?」
机の上に置いていた携帯電話が振動する。
私は、窓から視線を戻して携帯電話を手に取る。
こんな時間に誰だろう。
端末の画面を確認すると、電話が掛かってきており、そこには一つの名前が表示されていた。
【小鳥遊ホシノ】
「え? ホシノ?」
私は何事かと思い、すぐに通話ボタンをタッチする。
「もしもし? こんな時間にどうしたの、ホシノ?」
『……先生?』
電話の向こうから、ホシノの声が聞こえる。
しかし──そのホシノの声は、いつものような眠そうな声ではないように感じる。
『セリカちゃんが……!』
「……セリカ?」
ホシノは、セリカの名前を言うと、僅かに言葉を詰まらせた。
その短い沈黙で……私は、ホシノ達に何かが起きたのだということは分かった。
『セリカちゃんが、今さっき、私の家に来たの……!』
「……うん、それでセリカがどうしたの?」
『怪我をしてる』
「怪我を? ……セリカの状態は?」
私は直ぐさま椅子から立ち上がり、ハンガーに掛けたスーツのジャケットを手に取る。
『頭を打ったみたいで。服も汚れてるし、身体もボロボロで……!』
ホシノの声が、少しだけ低くなる。
『それで……サキちゃんが、バイトの帰り道で、ある女に、
「……っ!!」
その瞬間、頭の中が真っ白になった。
心臓が大きく脈打ち、呼吸が浅くなる。
『……先生? 聞こえてる?』
ホシノの声で我に返る。
ダメだ。
今、
私は自分を落ち着ける為に、一度息を吐いた。
「……ごめん、ホシノ。いま、何て言ったの?」
『っ。サキちゃんが、連れ去られた……
ホシノは、もう一度告げた。
そのホシノの言葉に、私は思わず握った拳が震える。
──いつも通りの一日。
そう思っていた。
思ってしまっていた。
しかし──その裏側で、大切な生徒が何者かに襲われていた。
私は荒ぶる気持ちを抑え、短く息を吐くと、
「ホシノ……ひとまず、セリカの容態は安定している?」
『うん。意識はあるよ』
ホシノは答える。
『でも、かなり無理してる……だから、今は私のベッドで休ませてる』
「……そうか。セリカは、ゆっくり休ませてあげて」
『うん……っ。けど、先生……!』
ホシノの声が、私の事を震えた声で呼ぶ。
『サキちゃんが……!』
「……うん。分かった。ホシノの家に、直ぐに向かうね」
私は、端末を握る手に力を込めた。
「すぐに向かうから」
『っ……先生、待って!』
ホシノが、少しだけ慌てた声を出した。
『あと一つだけ……! セリカちゃんから、聞けた情報は少ないけど……それでも誘拐した人物の名前は分かってるから!』
「っ……その人物の名前を教えてくれるかな、ホシノ?」
『その人物は、
「──え?」
一瞬、思考が再び止まる。
その名前を、原作知識を持つ私が、聞き間違えるはずがなかった。
「……ユ、ユキノ?」
私は、思わず聞き返してしまう。
その名には、確かに聞き覚えがあった。
いや──知っている。
私は、その生徒を知っている。
ブルーアーカイブのゲーム内にて登場する『SRT特殊学園』における最強の特殊部隊と評される──
その小隊長を務める少女の名前が──
「……そんな、まさか」
思わず小さく呟く。
(何かがおかしい……これまでも、原作のゲームとは生徒の所属が乖離していたけれど……大まかな出来事までは変わっていなかったはず)
けれども、ユキノがアビドスのサキを誘拐した。
もし、本当に私の知っているユキノなら──そんな事件は起こらない。
今回の事件は、原作とは完全に異なる出来事になる。
『
ホシノの声で我に返る。
「あ、ごめんね。ホシノ、直ぐに情報を集める。大丈夫だよ、ホシノ。私に任せて!」
『……っ。うん。待ってるね、先生』
私は通話を切れると、机の上に置かれていた別の端末──シッテムの箱を手に取った。
□■□■□■□■□
──十分後。
私はシャーレを出て、装甲車を運転し、夜のアビドス自治区へと向かっていた。
「……アロナ、アビドス繁華街の監視カメラ映像をチェックできる?」
『事情は分かりました、先生。アビドスのサキさんの危機……アロナちゃんに任せてください!』
そう言うと、シッテムの箱の画面が高速に切り替わり、アビドスの監視カメラをハッキングしていく。
「セリカとサキが柴関ラーメン屋を出てからを追跡していって欲しい」
『了解です!』
柴関ラーメン。
交差点。
商店街。
そして──路地裏。
『 ──見つけました。午後21時頃ですね。サキさんとセリカさんは二人で歩いて駅へと向かっています』
私は道路脇に車を停める、その映像を直ぐに確認する。
アロナの声と共に、画面上には──サキとセリカが、路地裏にて二人で仲良く歩いている映像が映し出される。
その直後、映像内のサキが後ろを振り返る。
それに釣られて、セリカも後ろを振り向き──、
ビルの影から、
その人物を私は知っていた。
「…… 私の知る
その映像に映る少女は──私が原作知識として知っているFOX小隊のユキノで間違いなかった。
FOX小隊の小隊長であり、SRT特殊学園が誇る最高戦力。
私の知る七度ユキノは、その名に恥じない圧倒的な実力者だった。
「なん、で……ユキノが……!」
そのユキノがサキとセリカを痛めつけ、最終的にはサキを担いで連れ去っていく。
その映像がシッテムの箱に映し出される。
「っ! アロナ、ユキノが向かった方角にある周辺のカメラを確認して!」
『はい!』
次々と監視カメラの映像が切り替わる。
ユキノはアビドス自治区を抜けると、ゲヘナ自治区へと入っていく。
だが──、
「……っ。いない……というよりも」
『っ……先生、ここから先は私でもハッキングが出来ません』
ゲヘナ自治区から、次の自治区に入った途端、アロナのジャックした監視カメラ映像が映らない。
『
「っ……なるほど、ね」
ミレニアムの監視カメラのセキュリティが高いのだろう。
サキを誘拐したユキノの足取りは、ゲヘナ自治区からミレニアム自治区へ移動したところで途切れる。
『先生、ごめんなさい』
「いや、アロナは悪くないよ! けれど……そうだね。
私は小さく呟き、シッテムの箱に映る地図を見つめた。
アビドスからゲヘナを抜け、その先のミレニアム自治区へ。
そこまでは追跡できた。
しかし、それ以降は完全に消息を絶っている。
私は直ぐさま、ホシノの家へと車を再度、走らせながら考える。
「……誘拐そのものは、衝動的な犯行じゃない。きっとユキノは、最初からサキを狙っていた」
私は自分の考えをまとめながら、アロナに話しかける。
『確かに、ユキノさんは最初からサキさんに視線を向けていました』
「うん。それに、セリカは戦闘不能にしただけだよね。一人しか連れされなかった可能性もあるけれど……目的はサキだったと思う」
ユキノはセリカを撃ち、無力化した。
しかし、最後に連れ去ったのはサキだけ。
『じゃあ……どうしてサキさんなんでしょう?』
「それが分からない」
私は眉を寄せる。
原作のユキノなら──きっと、無意味な誘拐など絶対にしない。
ユキノは冷静沈着で、任務最優先とする。
原作では、目的の為ならば、心を殺してカヤのクーデターを成功させる為に、道具になろうとする生徒だ。
だからこそ──ユキノにも、この世界だけの理由があるはずだ。
「アロナ……ホシノの家に着くまで、
『分かりました、先生! 任せてください!』
私は、アビドス自治区に入り、道路を一直線に駆け抜ける。
向かう先は──アビドス自治区内にあるホシノの家。
もう何度か、生徒達を車で家まで送っているから、道は分かる。
(無事に待っていてね、サキ)
私はアクセルを強く踏み込んだ。
(……必ず迎えに行くから)
夜の砂漠を切り裂くように、シャーレの装甲車は、ホシノの家へ向かって走り続けた。