何かがおかしいブルーアーカイブ   作:千ノ宮チノ

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妨害を確認。
ストーリーは、ハードモードへ移行しました。
先生……『強くてニューゲーム』などという都合の良いものが、通用するとは思わないでください。
……今回は、そう簡単にはいきませんから。




第21話:原作とは違う事件

 

 ──どれほど、時間が経ったのか。

 

 セリカには分からなかった。

 ただ、目を開けた時──そこには誰もいなかった。

 

「……っ」

 

 セリカは、僅かに身じろぎをした。

 全身が痛い。

 頭が重い。

 身体を動かそうとするだけで、全身に鈍い痛みが走る。

 

「……痛っ……ここは、どこ……」

 

 ぼんやりとした視界の中で、セリカは周囲を見回した。

 そこは、見覚えのある景色であった。

 

 最近になって、少しは見慣れてきたアビドスの街並み。

 それも、アルバイト先から駅へと向かう路地裏。

 

 そんな路地裏で──セリカは、ビルの壁に背を預けるようにして、倒れていた。

 

 その次の瞬間──、

 セリカの脳裏に、直前の出来事が蘇る。

 

 夜の街に、突然現れた狐耳の女。

 

 ──七度(しちど) ユキノ。

 

 サキはその女と戦い、自分(セリカ)を見捨てずに、銃弾を受けながらも立ち上がった。

 自分(セリカ)を置いて逃げても良かったのに、それを拒んで、サキは──、

 

「っ!! ……サ、サキ……! サキはどこ!?」

 

 セリカの声に対し、返事はない。

 静まり返った夜のアビドスに、セリカの声だけが響く。

 

(ま、まさか! あの女に……つ、連れ去られた、の?)

 

「……サキ……っ!」

 

 セリカは、慌てて身体を起こそうとした。

 だが、身体に力が上手く入らない。

 セリカは両手を地面につけて、何度ももがき、どうにかして上半身を起こす。

 

「……くっ……こんな、もの……っ!」

 

 セリカは、歯を食いしばった。

 頭部に受けた衝撃。

 全身に残る痛み。

 そして──何よりも、サキを守りきれなかった()()

 

「サキが……連れていかれた……」

 

 セリカの震える手が地面を掴み、爪の間には砂が入り込む。

 それでも力がこもる。

 

「私が……」

 

 声は震え、気づけば頬を伝う涙が止まらなかった。

 

「私が助けないと……!」

 

 セリカは何度も足がふらつきながらも、立ち上がる。

 膝が崩れそうになるのを必死に堪えて、セリカは壁に手をついて、身体を支える。

 

 そんな時、視界の端に先ほどまでサキが倒れていた場所が見えた。

 そこには、僅かに血痕が残っている。

 

「……」

 

 それを見つけ、セリカはその場に立ち尽くしてしまう。

 

 あの時──サキは自分(セリカ)を置いて逃げなかった。

 

 自分(セリカ)が逃げろと言っても。

 置いていけと言っても。

 サキは、嫌だと言った。

 

 あの時、自分さえいなければ、サキはあの女から逃げられたかもしれない。

 少なくとも、こんな人目につかない路地裏からは脱出し、助けを求める事ができたかもしれない。

 

 けれど──、 

 

『セリカを置いて……逃げられるわけないだろっ……!!!』

『そして……セリカは私の友達だ!!!』

 

 サキの叫びが鮮明に脳裏へ蘇った。

 

「……馬鹿」

 

 セリカは小さく呟く。

 

「本当に……馬鹿なんだからっ」

 

 それは、サキに向けた言葉だった。

 だが、それは同時に──自分(セリカ)自身に向けた言葉でもあった。 

 

 セリカは、ふらつきながらも歩き始める。

 その方向は、駅とは反対方向。

 

 向かう先は、一つ──それは、小鳥遊(たかなし) ホシノの家。

 

 ……とはいえ。

 

「私が、あのストーカーの家に、行くとは、ね……!」

 

 歩きながら、セリカは思わずぼやいた。

 

 ──小鳥遊(たかなし) ホシノ。

 

 それは、柴関ラーメンの常連客である眠そうな少女。

 ラーメンを啜りながらも、何かと自分のことを見ている気がする、あのストーカー。

 

 そんなホシノは、以前──セリカに自分の家を教えていた。

 

『うへぇ〜。セリカちゃん! ここおじさんの家だからねぇ〜!』

 

 そう言って、自分の家の場所を教えてきたのだ。

 あの時のセリカは『誰があんたの家なんか覚えるのよ!』と、そう思っていた。

 

「……けど、なんか、()()()()()()のよね」

 

 セリカは、苦しそうに息を吐きながらも、暗いアビドスの街を一人歩き続けた。

 

 ■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 ──その頃、シャーレの部室。

 

 時刻は、すでに深夜になろうとしていた。

 私──先生は、机の上に積み重なった書類を見ながら、深いため息を吐く。

 

「……本当に凄い量だね」

『せ、先生! 今日はもう寝ましょう! また明日があるんですから!』

「……そうだね、アロナ。そろそろ寝ようかな」

 

 今日中に片付けるつもりだった書類は、何とか処理することができた。

 ただ明日以降の書類は、まだ山のように残っている。

 

 これら書類は、連邦生徒会長が失踪して以降に発生した問題が殆どであり、キヴォトスの情勢が現在不安定になっているのは本当らしい。

 

 私は不意に窓の外に目を向けると、夜のキヴォトスが広がっている。 

 シャーレの周囲も、すでに人の気配は殆どない。 

 そんな静かな夜だった。

 

 ──ブブブブブッ。

 

「……?」

 

 机の上に置いていた携帯電話が振動する。 

 私は、窓から視線を戻して携帯電話を手に取る。

 

 こんな時間に誰だろう。

 端末の画面を確認すると、電話が掛かってきており、そこには一つの名前が表示されていた。

 

【小鳥遊ホシノ】

 

「え? ホシノ?」

 

 私は何事かと思い、すぐに通話ボタンをタッチする。

 

「もしもし? こんな時間にどうしたの、ホシノ?」 

『……先生?』

 

 電話の向こうから、ホシノの声が聞こえる。

 しかし──そのホシノの声は、いつものような眠そうな声ではないように感じる。

 

『セリカちゃんが……!』

「……セリカ?」

 

 ホシノは、セリカの名前を言うと、僅かに言葉を詰まらせた。

 その短い沈黙で……私は、ホシノ達に何かが起きたのだということは分かった。

 

『セリカちゃんが、今さっき、私の家に来たの……!』

「……うん、それでセリカがどうしたの?」

『怪我をしてる』

「怪我を? ……セリカの状態は?」

 

 私は直ぐさま椅子から立ち上がり、ハンガーに掛けたスーツのジャケットを手に取る。

 

『頭を打ったみたいで。服も汚れてるし、身体もボロボロで……!』

 

 ホシノの声が、少しだけ低くなる。

 

『それで……サキちゃんが、バイトの帰り道で、ある女に、()()()()()()って!!』

「……っ!!」

 

 その瞬間、頭の中が真っ白になった。

 心臓が大きく脈打ち、呼吸が浅くなる。

 

『……先生? 聞こえてる?』

 

 ホシノの声で我に返る。

 

 ダメだ。

 今、(先生)が冷静さを失えば、生徒を助けられない。

 私は自分を落ち着ける為に、一度息を吐いた。

 

「……ごめん、ホシノ。いま、何て言ったの?」

『っ。サキちゃんが、連れ去られた……()()()に……!!』

 

 ホシノは、もう一度告げた。

 そのホシノの言葉に、私は思わず握った拳が震える。

 

 ──いつも通りの一日。

 

 そう思っていた。

 思ってしまっていた。

 

 しかし──その裏側で、大切な生徒が何者かに襲われていた。

 私は荒ぶる気持ちを抑え、短く息を吐くと、

 

「ホシノ……ひとまず、セリカの容態は安定している?」

『うん。意識はあるよ』

 

 ホシノは答える。

 

『でも、かなり無理してる……だから、今は私のベッドで休ませてる』

「……そうか。セリカは、ゆっくり休ませてあげて」

『うん……っ。けど、先生……!』

 

 ホシノの声が、私の事を震えた声で呼ぶ。

 

『サキちゃんが……!』

「……うん。分かった。ホシノの家に、直ぐに向かうね」

 

 私は、端末を握る手に力を込めた。

 

「すぐに向かうから」

『っ……先生、待って!』

 

 ホシノが、少しだけ慌てた声を出した。

 

『あと一つだけ……! セリカちゃんから、聞けた情報は少ないけど……それでも誘拐した人物の名前は分かってるから!』

「っ……その人物の名前を教えてくれるかな、ホシノ?」

『その人物は、()()()って女だよ、先生』

「──え?」

 

 一瞬、思考が再び止まる。

 その名前を、原作知識を持つ私が、聞き間違えるはずがなかった。 

 

「……ユ、ユキノ?」

 

 私は、思わず聞き返してしまう。

 

 その名には、確かに聞き覚えがあった。

 いや──知っている。

 私は、その生徒を知っている。

 

 ブルーアーカイブのゲーム内にて登場する『SRT特殊学園』における最強の特殊部隊と評される──F()O()X()()()

 

 その小隊長を務める少女の名前が──七度(しちど) ユキノだ。

 

「……そんな、まさか」

 

 思わず小さく呟く。

 

(何かがおかしい……これまでも、原作のゲームとは生徒の所属が乖離していたけれど……大まかな出来事までは変わっていなかったはず)

 

 けれども、ユキノがアビドスのサキを誘拐した。 

 もし、本当に私の知っているユキノなら──そんな事件は起こらない。

 

 今回の事件は、原作とは完全に異なる出来事になる。

 

()()?』

 

 ホシノの声で我に返る。

 

「あ、ごめんね。ホシノ、直ぐに情報を集める。大丈夫だよ、ホシノ。私に任せて!」

『……っ。うん。待ってるね、先生』

 

 私は通話を切れると、机の上に置かれていた別の端末──シッテムの箱を手に取った。

 

 □■□■□■□■□

 

 ──十分後。

 

 私はシャーレを出て、装甲車を運転し、夜のアビドス自治区へと向かっていた。 

 

「……アロナ、アビドス繁華街の監視カメラ映像をチェックできる?」

『事情は分かりました、先生。アビドスのサキさんの危機……アロナちゃんに任せてください!』

 

 そう言うと、シッテムの箱の画面が高速に切り替わり、アビドスの監視カメラをハッキングしていく。

 

「セリカとサキが柴関ラーメン屋を出てからを追跡していって欲しい」 

『了解です!』

 

 柴関ラーメン。

 交差点。

 商店街。

 そして──路地裏。

 

『 ──見つけました。午後9時頃ですね。サキさんとセリカさんは二人で歩いて駅へと向かっています』

 

 私は道路脇に車を停める、その映像を直ぐに確認する。

 アロナの声と共に、画面上には──サキとセリカが、路地裏にて二人で仲良く歩いている映像が映し出される。

 

 その直後、映像内のサキが後ろを振り返る。

 それに釣られて、セリカも後ろを振り向き──、

 

 ビルの影から、()()()()()が出てくる。

 その人物を私は知っていた。

 

「…… 私の知る()()()だね」

 

 その映像に映る少女は──私が原作知識として知っているFOX小隊のユキノで間違いなかった。

 

 FOX小隊の小隊長であり、SRT特殊学園が誇る最高戦力。

 私の知る七度ユキノは、その名に恥じない圧倒的な実力者だった。

 

「なん、で……ユキノが……!」

 

 そのユキノがサキとセリカを痛めつけ、最終的にはサキを担いで連れ去っていく。

 その映像がシッテムの箱に映し出される。

 

「っ! アロナ、ユキノが向かった方角にある周辺のカメラを確認して!」

『はい!』

 

 次々と監視カメラの映像が切り替わる。

 ユキノはアビドス自治区を抜けると、ゲヘナ自治区へと入っていく。

 だが──、

 

「……っ。いない……というよりも」

『っ……先生、ここから先は私でもハッキングが出来ません』

 

 ゲヘナ自治区から、次の自治区に入った途端、アロナのジャックした監視カメラ映像が映らない。

 

()()()()()自治区へ入った直後です! カメラ映像が一斉に途切れています!』

「っ……なるほど、ね」

 

 ミレニアムの監視カメラのセキュリティが高いのだろう。

 サキを誘拐したユキノの足取りは、ゲヘナ自治区からミレニアム自治区へ移動したところで途切れる。

 

『先生、ごめんなさい』

「いや、アロナは悪くないよ! けれど……そうだね。()()()()()か」

 

 私は小さく呟き、シッテムの箱に映る地図を見つめた。

 

 アビドスからゲヘナを抜け、その先のミレニアム自治区へ。

 

 そこまでは追跡できた。

 しかし、それ以降は完全に消息を絶っている。

 

 私は直ぐさま、ホシノの家へと車を再度、走らせながら考える。

 

「……誘拐そのものは、衝動的な犯行じゃない。きっとユキノは、最初からサキを狙っていた」

 

 私は自分の考えをまとめながら、アロナに話しかける。

 

『確かに、ユキノさんは最初からサキさんに視線を向けていました』

「うん。それに、セリカは戦闘不能にしただけだよね。一人しか連れされなかった可能性もあるけれど……目的はサキだったと思う」

 

 ユキノはセリカを撃ち、無力化した。

 しかし、最後に連れ去ったのはサキだけ。

 

『じゃあ……どうしてサキさんなんでしょう?』

「それが分からない」

 

 私は眉を寄せる。

 

 原作のユキノなら──きっと、無意味な誘拐など絶対にしない。

 

 ユキノは冷静沈着で、任務最優先とする。

 原作では、目的の為ならば、心を殺してカヤのクーデターを成功させる為に、道具になろうとする生徒だ。

 

 だからこそ──ユキノにも、この世界だけの理由があるはずだ。

 

「アロナ……ホシノの家に着くまで、 ()()()の経歴を調べてほしい」

『分かりました、先生! 任せてください!』

 

 私は、アビドス自治区に入り、道路を一直線に駆け抜ける。

 

 向かう先は──アビドス自治区内にあるホシノの家。

 もう何度か、生徒達を車で家まで送っているから、道は分かる。

 

(無事に待っていてね、サキ)

 

 私はアクセルを強く踏み込んだ。

 

(……必ず迎えに行くから)

 

 夜の砂漠を切り裂くように、シャーレの装甲車は、ホシノの家へ向かって走り続けた。

 

 

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