レセプションルームに入るリンを見て、詰め寄る四人の生徒達。
それはミレニアムのセミナーで会計担当をしているユウカ一人を除いて、私が原作知識として知っている生徒達ではなかった。
──黒舘ハルナ。
──奥空アヤネ。
──和泉元エイミ。
アヤネはまだいい。連邦生徒会長が失踪し、キヴォトスが混乱に陥っている今、アビドス自治区も大変なのだろう。真面目な彼女が連邦生徒会に来る理由はわかる。
エイミは……此処にくる意味がわからないが、まあ許す。
だが、ハルナ。君は何故、ここにいる。
ゲヘナの
私が困ったようにずっと見つめている事に気が付いたのだろうか。
ハルナと目が合い、ハルナは私に対して頬に手を当てながら首を傾げる。かわいい。
「あぁ……面倒な人たちに捕まってしまいましたね。こんな暇そ……大事な方々がここを訪ねてきた理由は、よく分かっています。今、学園都市に起きてる混乱の責任を問うために、でしょう?」
「そこまで分かっているなら何とかしなさいよ! 連邦生徒会なんでしょ! 数千もの学園自治区が混乱に陥っているのよ! この前なんか、うちの学校──ミレニアムの風力発電所がシャットダウンしたんだから!」
「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、その一部が脱出したという情報も入っています」
プリップリに怒ったユウカが、リンに詰め寄り、アヤネも便乗する。
私はハルナから目を逸らして、生ユウカの太ももに目を向けながら、現実逃避をする。
「スケバンのような不良たちが、登校中のうちの生徒を襲う頻度も、最近上がってるんだよね」
「ふふっ。戦車やヘリコプターなど、出所のわからない武器の不法流通も2000%以上増加していますね。これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいますわ」
エイミとハルナも何か言っている。
エイミは不良生徒を取り締まるようにでもなったのか……効率厨であるエイミがしているイメージが湧いてこない。
そして、ハルナは一体何を言っているんだろうか。
君って武器の流通とか気にする人だったっけ。寧ろ食材の流通の方が気にしてそうだが。
「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの? どうして何週間も姿を見せないの? 今すぐに会わせて!」
キヴォトスの混乱状況に痺れを切らし、不満を露わにするユウカにリンは再度溜息を吐く。
「連邦生徒会長は今、席におりません。正直に言いますと、行方不明になりました」
「──っ!」
リンの暴露に四人は驚きの表情を隠せない。
その後もリンは『サンクトゥムタワー』の事や行政制御権を失った状況の説明を始めた。
原作知識ならばこの後、私が『シャーレ』に向かい、『シッテムの箱』を用いて『サンクトゥムタワー』の行政制御権を取り戻す事になるはず。
(既に私の知っているブルーアーカイブとは違うのだが……一先ずはいい。一先ずは、疑問を全て飲み込んで受け入れることにする)
「先程から私に熱い視線を向けている、この大人の方はどなたなのでしょうか? 首席行政官?」
すると、ハルナが私の方に目を向けてリンへと問いかける。
「この方こそが──先生です。連邦生徒会長が特別に指名した人物になります」
「ええっと、行方不明になった連邦生徒会長が指名ですか? 連邦生徒会長は何故そのような事を……」
皆の視線が私に集まる。
これまで画面の奥にいた生徒達に、少しの緊張をしながらも私は一歩前に出て、一人一人と視線を合わせる。
「こんにちは、私は今日から赴任する──先生だよ」
「こ、こんにちは、先生。私はミレニアムサイエンススクールの……いやいや、今は挨拶なんてどうでもよくて!」
「……ユウカ、うるさい。私は和泉元エイミ。よろしくね、先生」
「なっ、え、エイミさん! 誰がうるさいって!? わ、私は早瀬ユウカと言います。これからよろしくお願いします、先生!」
「あぁ、うん。よろしくね」
(何だろうか、少し違和感を感じるが……)
「それでは話を続けます。先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問としてこのキヴォトスに来ることになりました。それは──連邦捜査部『シャーレ』。単なる部活ではなく、一種の超法規的機関です」
超法規的機関って何か少年心を擽られて、かっこいいよね。
「シャーレは連邦組織のため、キヴォトスに存在する全ての学園の生徒たちを、制限なく加入させることすらも可能で、各学園の自治区で、制約無しに戦闘活動を行うことも可能です」
「……とんでもない部活ですわね。けれど、各学園の垣根を超えて、治安維持が可能になるとメリットはありそうですね」
「あはは……風紀委員長の心労が減りそうです」
リンの言葉に考え込むハルナと、少し嬉しそうに胸を撫で下ろすアヤネ。
やはり彼女達の言動には、魚の小骨が刺さったかのような違和感を感じたが、それが何なのかは分からない。
「シャーレの部室は、ここから約30キロ離れた外郭地区にあります。今は殆ど何も無い建物ですが、連邦生徒会長の命令で、そこの地下に『とある物』を持ち込んでいます──先生を今すぐにでも、そこにお連れしなければなりません」
「『とある物』? 首席行政官、それは?」
「このサンクトゥムタワーの行政制御権を取り戻す為に必要な物になります」
「へぇ〜、そんな物があるんだ」
興味深そうに話を聞くエイミを横目に、リンはスマートフォンを取り出すと一人の女の子に連絡を取る。
「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど、手配をお願いできますか?」
「んぁ? シャーレの部室? ……あぁ、外郭地区の? そこ、今大騒ぎだけど?」
「……大騒ぎ?」
リンが眉を顰める。
通話相手は由良木モモカ──連邦生徒会所属の交通室長だ。
「そうそう。矯正局を脱出した停学中の生徒が騒ぎを起こしたの。シャーレの部室辺りって、今戦場になってるよ」
「なっ……!」
「連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良たちを先頭に、周りを焼け野原にしてるみたいなの。巡航戦車までどっかから手に入れてきたみたいだよ?」
その通話内容に聞くリンの手が震える。
「やばそうだね、これ」
「そ、そうですね。まさか矯正局から脱出した生徒が直ぐに騒動を引き起こしているなんて」
「ふふっ……面白くなりそうですわ」
「なっ! ハルナさん! そんな面白いだなんていう話ではありません。うちの学校の生徒も巻き込まれている可能性もあります。一大事です。セミナーとして見逃す訳には……!」
そんな首席行政官の通話内容も、四人の生徒達は聞いているようで、特にユウカがプリップリに怒っている。
太もももプリップリに揺れている。
「それで、どうやら連邦生徒会所有のシャーレの建物を占拠しようとしてるらしいよ。まるで、そこに何か大事なものでもあるみたいな動きだけど?」
「……そうですね」
「あっ、リン先輩ごめん。お昼ごはんのデリバリー来たみたいだから、また連絡するね!」
そう言ってモモカが通話を切る。
リンの身体がプルプルと怒りで震えている。
「ええっと、大丈夫?」
「……だ、大丈夫です。少々問題が発生しましたが、大した事ではありません。ご心配くださり、ありがとうございます、先生」
そう言って、リンは私から視線を外して、レセプションルームに集まる四人の生徒達に視線を向ける。
「ちょ、ちょっと何? なんで私達を見つめているのよ?」
「いえ、ちょうど妙案を思いつきまして。キヴォトスの正常化のために、各学園を代表する皆さんの力が今、切実に必要です。──サンクトゥムタワーの行政制御権を取り戻すためにも、皆さん行きましょう」
有無を言わさず、リンは四人の生徒達を説得しながら、レセプションルームを出ていく。
そんな生徒達の様子を後方で見守りながら、私はリン達の後をついて行くのだった。