何かがおかしいブルーアーカイブ   作:千ノ宮チノ

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ブルーアーカイブ
メインストーリー第2部 Vol.1「炎と影」編
第1章「ゲヘナを再び偉大に!」

が遂に今日から解禁! 楽しみすぎますね!




第31話:RABBIT2

 

 ──『廃墟』地区。ビル内部。

 

「……失礼する」

 

 薄暗い部屋の中。 

 ユキノは、サキを閉じ込めている部屋へと、足を踏み入れた。

 

 壁際には、体操座りで床に座り込むサキの姿がある。

 

「っ……ユキノ、()()か」

 

 サキは入口から入ってきたユキノを見て、僅かに瞳を揺らす。

 

 ユキノは何も言わず、部屋の中央に置かれていたプロジェクター(オーパーツ)へと近付く。

 

 そして、電源を切った。

 

 部屋を照らしていた光が消える。

 途端に、部屋の中が静寂に包まれた。

 

「……」

「……」

 

 二人の間に、気まずい沈黙が流れる。

 サキは膝を抱えたまま、ユキノから視線を逸らしていた。

 

 しばらくして──、

 ユキノが、静かに口を開く。

 

「君は……空井隊員は、()()を思い出したか?」

「ッ……」

 

 サキの肩が僅かに跳ねる。

 唇を噛み締めて、ユキノを睨みつける。

 

 けれど、何も答えられなかった。

 

 ただ、膝を抱える腕に、少しずつ力が込められていく。

 

 やがて──、

 

 

「……()()()()()

 

 

 サキの絞り出すような声が、暗い部屋の中に響いた。

 

「……全部を、思い出せたわけじゃない。けど、少しずつ……」

 

 サキは俯いたまま、震える声で続ける。

 

「銃の撃ち方も……教本も……仲間達も……全部、全部……」

 

 そこで一度、サキの言葉が途切れた。

 サキは己が被る鉄帽に手を触れる。

 

「私が、どこの学園に所属していたのかも……」

「それは、S()R()T()()()()()だ」

「っ……!」

 

 ユキノが淡々と告げる。

 

「決して、アビドス高等学校ではない」

「……っ」

 

 その言葉を聞いた瞬間、サキの肩が大きく震えた。

 

「……そう、だな」

 

 サキは、自分自身に言い聞かせるように呟く。

 

「……私は、SRTにいたんだ」

「あぁ。君は、SRT特殊学園の『R()A()B()B()I()T()()()』だ」

 

 ユキノが頷く。

 

「っ……やめろ」

「私たちから戦闘訓練を受け、これから、連邦生徒会長と共にキヴォトスで活動しようとしていた」

「やめて、ください……!」

 

 サキが顔を上げる。

 その瞳には、怒りと戸惑いが入り混じっていた。

 

「……ユキノ、先輩」

「……」

「それ以上は……言わないでくれ」

「何故だ?」

「……分からない」

 

 サキは自分の頭を押さえる。

 

「分からない……けど……!」

 

 瞼を閉じる。

 すると、また脳裏に映像が浮かんだ。

 

「……違う」

「何が違う?」

「違うんだ……私は……! アビドスで、ホシノ先輩たちと一緒に……!」

 

 ユキノは、そんなサキを静かに見つめていた。

 

「何故、()()()()()を拒絶する?」

「っ……!」

「偽りに満ちた……この()()()()()()()()を、君は肯定するのか?」

 

 サキは答えられない。

 暫く沈黙した後、サキは苦しげに呟く。

 

「ミヤコがいて……モエがいて……ミユがいて……」

 

 一人ずつ、名前を口にする。

 その度に、サキの胸の奥に何かが込み上げてくる。

 

「みんなで、RABBIT小隊として……」

 

 その声に、ほんの僅かに温度が戻る。

 

「子ウサギ公園で馬鹿みたいなことして……」

 

 サキの口元が、僅かに緩む。

 

「先生と一緒に、クーデターも阻止して……」

 

 そんな日々が、確かにサキの中に()()

 

「……でも」

 

 その表情から、笑みが消え、サキは拳を握る。

 

「その記憶が、本当の私のものなら……」

 

 サキは縋るようにユキノを見上げる。

 

「今まで、私が()()()()()()()()()()()()は、何なんだ?」

「……」

 

 ユキノは答えなかった。

 答えられなかった。

 

「アビドスで過ごした時間も……!」

 

 サキの声が震える。

 

「ホシノ先輩たちと、入学式で出会ったことも……! 学校を守るために戦ってきたことも……!」

 

 一つ一つの思い出を、確かめるように言葉を重ねる。

 

「……全部、()()だったというのか、ユキノ先輩?」

 

 サキの目から、涙が一筋だけ零れた。

 

「……あぁ、全部、偽物だ」

「──っ!」

 

 その言葉が、静かな部屋に落ちる。

 

「……」

 

 サキは、何も言わなかった。

 ただ、ユキノを見つめている。

 その瞳から、少しずつ()()()()()()()

 

「……そう、か」

 

 やがて──、

 サキは、小さく呟いた。

 

「……そうなんだな」

 

 その声は、不思議なほど静かだった。

 

「……そうだ」

 

 ユキノも、繰り返す。

 

「お前はRABBIT小隊の空井(そらい) サキだ」

「……」

「SRT特殊学園の生徒だ」

「……」

「アビドスで過ごした時間は、本当のお前ではない」

「……分かった」

 

 サキは、俯いた。

 

「……分かったよ」

 

 その声は、あまりにも素直だった。 

 

 だからこそ──、

 ユキノの胸が痛んだ。 

 

 自分が今、何をしているのか。

 

 それは──、

 目の前にいる少女が、これまで大切にしてきたものを一つずつ否定していること。

 

 それが必要なことだと、自分に言い聞かせる。

 ユキノは心の中で、感情を押し殺す。

 

 この世界は歪んでいる。

 ならば、元の場所へ戻す。

 

 それが正しい。

 それが正しい事だと思うから。

 

 そうでなければならない。

 そうでなければ、自分(ユキノ)はこれまで何をしてきた。

 

 そう思わなければ──、 

 自分(ユキノ)自身が()()()しまいそうだった。 

 

 ──そんな時。

 

 ──ドォンッ!! 

 

「「……っ!?」」

 

 突然、建物全体を揺らすほどの爆発音が響いた。

 天井からは、細かな埃が落ちてくる。

 

「……何だ!?」

 

 サキが反射的に立ち上がる。

 ユキノもすぐに扉へと振り返った。

 

「っ……! まさか、あの会長……! ミネ達を、もう既に……」

 

 ユキノの表情が変わる。

 ユキノは顔を歪めながら、最悪の事態を想定する。

 

 その時だった。

 廊下から複数の足音が聞こえてくる。

 それは、こちらに向かってくる。

 

(っ……複数人、だと? それに、近いな……もう数十秒以内には、接敵する)

 

 そして──、

 

「サキちゃーん!! どこにいるのかなぁ〜?!」

 

 それは、サキにとって聞き馴染みのある声。

 

「っ……! ホシノ、先輩?」

 

 サキの瞳が大きく見開かれる。 

 

「サキさん! どこですか!? 返事をしてください!!」

 

 続いて、チナツの声も聞こえてくる。

 

「チ、チナツ……」

 

 サキは扉へ駆け寄ろうとする。

 

 しかし──、

 

「……待て。空井隊員」

 

 ユキノが腕を伸ばして、サキの前に立った。

 

「まさか、アビドスも来ているとは……」

 

 ユキノが銃を構える。

 

「この声は()だ。銃を持て!」

「……っ!!」

 

 サキの身体が強張る。 

 廊下の向こうから聞こえてくる足音は、少しずつ近付いている。

 

「ホシノ、先輩……チナツ……」

 

 サキは小さく呟いた。

 

 その名前を口にした瞬間、胸の奥が、痛んだ。

 

 ──ホシノ。

 

 いつも眠そうにしていて。

 いつも軽口ばかり叩いて。

 

 それでも、誰よりもアビドスのことを考えていた先輩。

 

 ──チナツ。

 

 同級生として、砂漠の中で一緒に戦った。

 学校を守るために、一緒に銃を握った。

 何度も馬鹿なことをして。

 どうしたらお金を稼げるかを語り合って。

 

 何度も何度も笑いあった。

 

「……違う」

 

 サキは頭を押さえる。

 

「……アビドスで過ごした記憶は……全部、偽物の記憶だ」

「そうだ」

 

 ユキノが静かに答える。

 

「何度も言うが、君はSRT特殊学園の生徒だ。アビドスで過ごした記憶は、この世界によって与えられたものに過ぎない」

「……」

「だからこそ、君が本当に帰るべき場所は、SRTだ」

「……SRT」

 

 その言葉に、再び別の記憶が蘇る。

 

 ──ミヤコ。

 ──モエ。

 ──ミユ。

 ──ユキノが率いるFOX小隊。

 

 ──そして、()()

 

 サキは自身の銃を手に取り、鉄帽を深く被り直す。

 

 扉の向こうから、再び大きな衝撃音が響いた。

 

「サキちゃん!! そこにいるんでしょ〜!?」

 

 今度は、はっきりと聞こえた。

 対策委員会の委員長であるホシノの声。

 

 ユキノは扉へ向かって、一歩踏み出した。

 

「私が、小鳥遊(たかなし) ホシノをやる。空井(そらい)隊員はもう一人の制圧を頼む」

「……分かった」

 

 サキの声は言葉を返す。

 ユキノが扉へと向かって、音を立てずに歩き出す。

 

 その背中を見つめながら、サキは銃を握り締めた。

 

 手に馴染んだ銃。

 何度も訓練で使った。

 何度も仲間達(RABBIT小隊)と共に戦った。

 

 それは、確かに自分の身体が覚えている。

 

 ──SRT特殊学園。

 ──RABBIT小隊。 

 

「私は……RABBIT小隊の空井サキだ」

 

 サキは、その言葉を小さく口にする。

 

 それなのに──、

 胸の奥が、どうしようもなく痛かった。

 

「……っ」

 

 サキは頭を振った。

 

「……サキさん!」

 

 チナツの声が続く。

 

「聞こえているなら、返事をしてください!!」

 

 サキの指が、僅かに震える。

 

「……返事をするな」

 

 ユキノが扉横の壁に背をつけながら、サキを真っ直ぐに見つめる。

 

「敵に位置を悟らせる必要はない」

「……分かって、ます」

 

 サキは答えた。

 

 そうして──、

 サキとユキノのいる部屋の扉が吹き飛んだ。

 轟音と共に、廊下から大量の埃が舞い込んでくる。

 

「──っ! 見つけた、サキちゃん!! 」

 

 最初に姿を見せたのは、ホシノだった。

 ショットガンを構え、警戒しながら部屋の中へ踏み込んでくる。

 その後ろには、チナツがいた。

 

「っ……!」

 

 その二人の姿を見た瞬間、サキの呼吸が止まった。

 ホシノは、心底安心した表情を浮かべて、サキを見つめる。

 

「……よかったぁ」

 

 ホシノが、小さく息を吐く。

 

「無事だったんだねぇ、サキちゃん」

 

 ホシノは銃を構えたまま、それでも優しい声で続けた。 

 

「もう大丈夫。おじさん達が助けにきたよ!」

「……」

 

 サキは答えられない。

 その隣で、チナツが一歩前へ出る。

 

「サキさん……!」

 

 優しい声。

 何度も聞いた同級生の声。

 

「怪我はありませんか?」

「……」

「もう安心してください! 一緒にアビドスへ帰りましょう」

「……()()()

 

 サキの口から、言葉が漏れた。

 

「え?」

 

 チナツが目を見開く。

 

「来るな……ッ!」

 

 サキは銃を構えた。

 その銃口が、二人に向けられる。

 

「サキちゃん……?」

 

 ホシノの表情から、笑みが消えた。

 

 その瞬間──、

 破壊された扉の影に隠れていたユキノが動いた。 

 

「──今だ!」

 

 ユキノがホシノへ向かって駆ける。

 銃を構え、引き金を引いた。

 

 ──ダダダダダダダダッ!! 

 

「……っ!?」

 

 ホシノが咄嗟に身を捻る。 

 

「お前は……ッ!!」

 

 監視カメラ越しに見た狐耳の女。

 サキとセリカを路地裏で痛めつけ、サキを誘拐した張本人。

 

「サキちゃんとセリカちゃんを痛めつけた……ッ!」

 

 ホシノがショットガンを構える。

 だが、ユキノの奇襲への対応が僅かに遅れていた。

 

「もう、遅い」

 

 ユキノの銃弾がホシノを捉える。

 

「ぐっ……!!」

 

 ホシノの身体が吹き飛び、廊下の壁へ叩き付けられる。 

 

「っ! ホシノ先輩!?」

 

 チナツが思わず叫んだ。

 しかし、ホシノがその声に反応するよりも前に、ユキノは倒れたホシノとの距離を一気に詰める。

 

 ホシノが起き上がろうとする。

 しかし──、

 

「うぐっ……!」

 

 ユキノがホシノを思いっきり蹴り飛ばす。

 身体が再び壁へ叩き付けられる。 

 

 そして──すかさず、ユキノはホシノへと銃を撃ち込む。

 

 ──ダダダダダッ!! 

 

 銃弾により、廊下の壁ごと砕ける。

 崩落した瓦礫が、ホシノの周囲へ落下する。

 

「ホシノ先輩!」

 

 チナツが叫ぶ。

 

「空井隊員っ!」

「……!」

「今だ。もう一人を始末しろ!!」

「……っ」

 

 サキの身体が反射的に動いた。

 

 銃口を、チナツへ向ける。

 

 ──照準。

 ──距離。

 ──風向き。

 ──敵の姿勢。

 

 ──全部、分かる。

 

 SRT特殊学園の訓練や教本で、何度も叩き込まれた。

 

 引き金に指を掛ける。

 チナツは銃すら構えていない。

 サキに対して、無防備だ。

 

「っ……!?」

 

 けれど──、チナツは()()()()()()

 真っ直ぐに震えるサキの目を見つめる。

 

「どうしてしまったんですか?」

「……」

「サキさん……何故、私に銃を向けられているんですか?」

「……私は」

 

 サキの指が震える。

 

「私は……っ!!」

 

 サキの頭の中に、二つの記憶が入り乱れる。

 

 ──SRT特殊学園。

 ──RABBIT小隊。

 ──ミヤコ。

 ──モエ。

 ──ミユ。

 ──先生。

 

 それとは対称に──、

 

 ──アビドス高等学校。

 ──対策委員会。

 ──ホシノ先輩。

 ──チナツ。

 ──ノア先輩。

 ──アズサ先輩。

 ──先生。

 

「空井隊員! 撃て!」

 

 ユキノは叫びながら、サキの指先を見た。

 

 ──震えていた。

 

 それを見て、ユキノはほんの一瞬だけ目を伏せた。 

 

「私は……」

 

 サキの銃口が僅かに揺れる。

 

「私は……!」

 

 チナツは、じっとサキを見つめている。

 その目に恐怖はある。

 けれど、それ以上に、サキを()()()()()()

 

 

「私は……! 私はR()A()B()B()I()T()()だ!!!」

 

 サキの声が『廃墟』に響き渡る。

 

 一つの銃声と共に。 

 






回答。
実は投稿主の最推し生徒の一人は、サキさんです。

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