何かがおかしいブルーアーカイブ   作:千ノ宮チノ

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第32話:私が帰る場所

 

 ──『廃墟』地区。ビル内部。

 

 乾いた銃声が、『廃墟』の中に響き渡った。

 

「……っ!」

 

 チナツが思わず目を閉じる。

 

 しかし──、

 痛みは、()()()()()

 

 チナツは、恐る恐る目を開く。

 そして、すぐ隣へ視線を向けた。

 

「……え?」

 

 チナツの隣の壁には、銃弾が一発めり込んでいた。

 

 ──数センチ。

 

 ほんの僅かに狙いが逸れていなければ、チナツの身体を貫いていた。 

 

「っ……私は……!」

 

 サキは、震える手で銃を握ったまま、壁に開いた弾痕を見つめていた。

 

 やがて──、

 サキの手から、ゆっくりと力が抜けていく。

 

 ──カランッ。

 

 乾いた音を立てて、銃が床へ落ちた。

 

「っ……空井隊員、何をしている? 今すぐ銃を拾うんだ!」

 

 ユキノはサキに叱責する。

 けれど、その声が僅かに震えていることに、ユキノ自身は気付いていなかった。

 

「……」

 

 サキは動かなかった。

 床に落ちた銃を見つめたまま、ただ立ち尽くしている。

 

「聞こえなかったのか?」

 

 ユキノが一歩、サキへ近付く。

 

「銃を拾え」

「……」

「空井隊員!」

「……拾えません!」

「何?」

 

 ユキノの足が止まる。

 サキはゆっくりと顔を上げた。

 

「もう……拾えない!」

 

 その瞳には、涙が浮かんでいた。 

 

「私は……()()を撃つために、S()R()T()に入ったわけじゃないっ!!」

 

 涙が、一筋だけ頬を伝う。

 けれど、その瞳には先程とは違い、確かな光が宿っていた。

 

「……サキさん……!」

 

 チナツは、サキの言葉を聞いて息を呑んだ。

 その声には、安堵が滲んでいる。

 

「っ……!」

 

 チナツはサキの前へ出る。

 そして、ゆっくりと銃を構えた。

 

「これ以上、サキさんに近付かないでください!」 

 

 チナツの銃口が、ユキノへと向く。

 

「サキさんと貴方の間に何があったのかは知りません。けれど……!」

 

 チナツの声が、震えながらも、はっきりと部屋中に響く。 

 もう一度、サキへ視線を向けると、チナツはユキノを睨みつける。

 

「私は、()()()()()が泣いているのを黙って見ていることなんてできません!」

 

 チナツは、引き金へ指を掛ける。

 

「貴方が、サキさんを苦しめるというのなら……!」

 

 銃口が僅かに上がる。

 

「これ以上、近付いたら撃ちます!!」

 

 サキの目が大きく見開かれる。

 

「チナツ……」

「っ……」

 

 チナツの指が、僅かに震えた。

 それでも、ユキノへ向ける銃口は下げなかった。

 

 そんなチナツに対し、ユキノは答えなかった。

 ただ、ゆっくりと銃口を上げる。

 

 その先にいるのは──()()

 

「……空井隊員」

「……」

「銃を拾え! そして、この女を撃て!」

「嫌だ!」

「っ……ならば……!」

 

 ユキノは銃を構え直す。

 

「私は……()()()()

 

 サキの身体が僅かに強張った。

 

「……ユキノ、先輩」

「最後の警告だ。銃を拾え」

「何度も言ってやる。嫌だ!」

「……何故だ?」

「私は……!」

 

 サキは、床に落ちた銃を見つめる。

 けれど、もう手を伸ばそうとはしなかった。

 

「私は、もう……アビドスで過ごした日々を否定したくない」

「……」

「ホシノ先輩も」

 

 廊下へ吹き飛ばされたホシノを見る。

 

「チナツも」

 

 そして、目の前にいるチナツを見る。

 

「ノア先輩も、アズサ先輩も、セリカも、大将も……」

 

 サキの声が震える。

 

「そして──、アビドスを助けてくれた()()も」

 

 けれど、その言葉には、迷いがなかった。

 

「みんな、私にとって()()()()()なんだ」

「……それは偽物だ、空井隊員」

「違う!」

 

 サキが叫ぶ。

 

()()()()()()()()()!」

 

 涙を拭いながら、サキはユキノを真正面から見つめた。 

 

「たとえ……この世界そのものが、間違っていたとしても!」

 

 一歩。

 サキは前へ出る。

 

「私がアビドスで笑ったことも!」

 

 もう一歩。

 

「みんなと一緒にアビドスを守るために、戦ったことも!」

 

 さらに一歩。

 

「みんなと過ごしてきた、今までの日々も! 」

 

 サキは胸元を強く握り締める。

 

「そして──()()()()()()()も!」

 

 サキの声が、『廃墟』の中へ響き渡る。

 

「全部、私にとっては()()だ!」

「……!」

 

 ユキノの瞳が揺れた。

 

「私は……確かに、RABBIT小隊の空井(そらい)サキだ」

 

 サキは、はっきりと言う。

 

「けれど……それだけじゃない……!」

 

 サキは、鉄帽を深く被り直した。

 

「──私は、アビドス対策委員会の空井(そらい)サキだ!!!」

 

 その声には、もう震えがなかった。 

 

「私は、どっちかを捨てなきゃいけないなんて思わない!」

「……ならば」 

 

 ユキノの指が、引き金に掛かる。

 

「私が、お前をSRTに連れ戻す」

 

 ──カチッ。

 

 引き金に掛かった指が、僅かに引かれる。

 しかし──、

 

「……っ」

 

 ユキノは()()()()()()

 

 ユキノの銃口は、確かにサキを捉えている。

 けれど、銃を握るその手は震えている。

 

 ユキノは、サキを見る。

 

 その瞳に映っているのは、かつて自分が知っていたRABBIT小隊の隊員。

 

 けれど、それと同時に──、

 もう覚悟を決めた、一人の()()()()()()であった。

 

「私は……お前を……この世界を……!」

 

 ユキノが唇を噛み締める。

 

 そんな時──、

 

「……うへぇ〜!」

 

 ユキノの背後から、気の抜けた声が聞こえる。

 

「……っ!?」

 

 ユキノの瞳が僅かに見開かれ、咄嗟に廊下へと振り返る。

 

 そこにいたのは──、

 

「っ……小鳥遊(たかなし)ホシノ……!?」

 

 瓦礫を押し退けながら、ホシノがゆっくりと立ち上がっていた。

 

 制服には埃が付着し、肩口には銃弾による傷がある。

 

 それでも──、

 ホシノのオッドアイが、深夜の『廃墟』の中で、鋭く煌めいていた。

 

「いやぁ……結構痛かったよぉ。いきなりおじさんを処理するなんて、やるねぇ〜。ユキノちゃん」

 

 ホシノは、肩をぐるりと回す。

 そして、笑顔のまま、ホシノはユキノを見る。 

 

「けどねぇ〜、あんまりさぁ、うちの後輩を泣かせないでよ?」

「──っ!」

 

 その声から、僅かに笑みが消える。

 

「これ以上やるなら、おじさん、()()()()()()()()()?」

「……!」

 

 ユキノは、無意識のうちに一歩だけ後ずさった。

 そのことに気付いた瞬間、ユキノの表情が変わる。

 

 銃口を、ホシノへ直ぐさま向ける。

 

 ──小鳥遊(たかなし) ホシノ。

 

 ()()から事前に聞かされていた、要注意人物の一人。

 その戦闘能力は、キヴォトスでも()()()

 以前、ユキノが戦闘したFOX小隊の 美甘(みかも) ネルと同格かそれ以上。

 

 ユキノは、聞かされていた情報を頭の中で反芻する。

 だが──、

 

「……うへぇ〜」

 

 ホシノも、ゆっくりとショットガンを構えた。

 

「抵抗するんだぁ……」

 

 ホシノは、一瞬だけ目を細める。

 

「じゃあ、おじさんも遠慮なく、本気でいくね?」

「……!」

 

 次の瞬間──、

 ホシノの姿が掻き消えた。

 

「──っ!?」

 

 ユキノが咄嗟に銃を連射する。

 

 ──ダダダダッ!! 

 

 銃弾が、ホシノのいた場所を薙ぎ払う。

 しかし、そこにはもう、ホシノはいなかった。

 

(──速い……!)

 

 ユキノが視線を走らせる。

 

(目で追い切れない……!?)

 

「へぇ……」

 

 声が聞こえた。

 次の瞬間、ホシノがユキノの懐へ潜り込んでいた。

 

「私に銃弾を少しでも当てるなんて、やるねぇ……!」

 

 ホシノは、ショットガンでユキノの銃身を弾き上げる。

 

「くっ……!」

「けどさぁ〜!」

 

 ユキノの体勢が崩れる。 

 

「その程度じゃあ──私には効かないよぉ!」

「っ……!」

 

 ユキノが咄嗟に後退し、ホシノの初撃を躱した。

 しかし、ホシノは逃がさない。

 

「まずは、私を蹴飛ばした分!」

 

 ホシノが踏み込む。

 

「一発!」

 

 ──ドゴッ!! 

 

 ホシノの蹴りが、ユキノの腹部へ叩き込まれる。

 

「ぐはっ……!」

 

 その衝撃に、ユキノの身体が吹き飛ぶ。

 壁に背中を叩きつけられ、肺から空気が押し出された。

 

「まだまだぁ〜!」

「ぐっ……!」

 

 ユキノはすぐに立ち上がり、銃を構え直す。

 だが──、照準を合わせるよりも早く、ホシノが懐へ潜り込んでいた。

 

「遅いよ、ユキノちゃん!」

 

 再びショットガンで銃口を逸らす。

 そして、そのまま身体を捻る。 

 

「次はセリカちゃんを痛めつけた分! ──二発目!」

 

 ──ドゴォンッ!! 

 

 ホシノの回し蹴りが、ユキノの腹部へ叩き込まれた。

 

「がっ……!」

 

 ユキノが床を転がった。

 それでも、すぐに身体を起こそうとする。

 

 だが──、

 既に目の前に、ホシノが立っていた。

 

 ショットガンの銃口が、ユキノの顔面へ向けられている。 

 

「そして──最後に、()()()()()()()()()()()!!」

 

 ──ドダンッ!!!! 

 

 ホシノの散弾が至近距離から放たれ、ユキノの顔面に直撃する。

 その衝撃にユキノのヘイローが明滅して、その場に倒れる。

 

「ッ……!」

 

 けれど──、

 ユキノは意識を失っていなかった。

 

 床を強く強く、握りしめる。

 

「……私は……FOX小隊の、ユキノだ……」

 

 ユキノは息を切らしながら、それでも言葉を絞り出す。

 

「負ける……わけには……いかないんだ」

「そっかぁ〜」

 

 ホシノは、ゆっくりと歩み寄る。

 

「でもね、ユキノちゃん」

 

 ショットガンを肩に担ぐ。

 

「おじさんの後輩に手を出したんだからねぇ」 

 

 一歩。

 

「それ()()()()()はしてもらわないと」

「……私は……」

 

 ユキノは震える手で、銃を握り直す。

 

「私は……この世界を……正すために……!」

「まだ言ってるの?」

 

 ホシノの声から、完全に笑みが消えた。

 

「私にはさぁ……ユキノちゃんが言っている事を全て理解しているわけじゃないよ」

「……」

「……でもね」

 

 ホシノは横目で、サキを見る。

 そして、再びユキノへ視線を戻した。

 

「サキちゃんが、自分で決めたんだよ」

「っ……!」

「だったら──!」

 

 ホシノの声が低くなる。

 

「その()()を、ユキノちゃんが否定するな!」

 

 その言葉に、ユキノの瞳が揺れた。

 

 そして──。

 床に伏したまま、ユキノは再びサキへ視線を向ける。 

 

 サキはチナツの隣に立っていた。

 もう、銃は持っていない。

 それでも、その目には、確かな意志が宿っている。

 

「……空井隊員」

 

 ユキノが呟く。

 

「私は……」

 

 何かを言おうとする。

 しかし、言葉が続かない。

 その瞬間だった。

 

「ホシノ先輩!!」

 

 チナツが叫ぶ。

 

「後ろです!!」

「……ん?」

 

 ホシノが振り返る。

 

 ──シュッ。

 

 何かが、廊下を飛んできた。

 それは──小さな球体状であり、床を転がる。

 

「っ! これは、まさか──!」

 

 ──ボフンッ!! 

 

 その次の瞬間。

 白煙が部屋の中に、一気に広がった。

 

「っ……煙幕!?」

 

 チナツが咳き込む。

 

「みんな、固まって!!」

 

 ホシノが即座に叫ぶ。

 

「サキちゃんとチナツちゃんも、こっちに!」

「「はい!」」

 

 ホシノがサキとチナツの元へと滑り込み、二人を引き寄せる。

 すでに煙は視界を完全に覆っていた。

 ユキノの姿も見えない。

 

 けれども、その白煙の向こうから──、

 

「ユキノ先輩! お待たせしました! 撤退してください!」

 

 ()()()()()の声が響いた。

 

 その声にサキの身体が僅かに反応した。

 

 何故なら、サキにとって、()()()()()()()()だったのだから。

 

 無意識にサキの口が開き、言葉が漏れる。

 

「……ミ、()()()?」

 

「……え? サキ?」

 

 煙の向こうから、僅かに驚いた声が返ってきた。

 

 その声を聞いた瞬間──、

 サキの胸が、大きく跳ねる。

 

「……やっぱり……ミヤコ、なんだよな? 待ってくれ、ミヤコ!」

 

 白煙の向こう側には、ウサギ耳を付けた生徒のシルエットが浮かび上がる。

 

「っ……月雪小隊長か……」

 

 床に倒れていたユキノが、苦しそうに声を上げる。

 

「……すまない。早く、撤退を」

「はい。ユキノ先輩、失礼します」

 

 ミヤコは迷わなかった。

 煙幕の中を駆け抜け、ユキノの身体を支える。

 

 そして、そのまま出口へ向かって走り出した。

 

「うへぇ〜……まずいねぇ」

 

 ホシノが煙の向こうを睨む。

 

「このままだと逃げられる」

 

 ショットガンを構える。

 しかし、煙の向こうでは狙いを定められない。

 

 その時──、

 

「け、煙が出てる!? 」

 

 廊下から、聞き慣れた声が響いた。

 

「ご、ごめん、みんな! お待たせ! 大丈夫なの?!」

 

 それは──先生の声。

 

 廊下から先生の声が聞こえてきた。

 

 ホシノはその声を聞き、ショットガンを下ろす。

 

「先生、こっちだよ!」

「先生、こちらです!」

 

 ホシノに続いて、チナツも叫ぶ。

 

 その声を聞き、先生とノアが煙の中へ飛び込んでくる。

 

「チナツちゃん! もう一度声を上げてください!」

 

 ノアも声を張る。

 先生は、煙の中で真っ先にサキの姿を探した。

 

「ノア先輩! 先生! こちらです!」

 

 チナツが再び声を上げる。

 

「サキさんも、こちらに!」

「……!」

 

 先生の視線が部屋の奥に向けられ、うっすらとチナツの隣にいるサキを捉える。

 

「サキ! 大丈夫だったの!?」

 

 先生は、すぐさま駆け寄ろうとした。

 しかし──、

 

「先生! 待ってください!」

 

 ノアが、その腕を掴んだ。

 

「え?」

「煙の中に、()()()以外に誰かがいます!!」

 

 そのノアの言葉に、先生──私は足を止める。

 

 私は目を凝らした。

 

 白煙の向こう。

 ぼんやりと浮かび上がる、二つの人影。

 

 一人は、肩を誰かに支えられている。

 そしてもう一人は──、

 

「……あ、あれは」

 

 先生が目を細める。

 

 ──長い髪。

 ──頭に付けられたウサギ耳。

 ──SRT特殊学園の制服。

 

「……()()()?」

 

 先生の声に、その人影が僅かに止まった。

 

 そして──、

 煙の向こうから、低い声が返ってくる。

 

「っ……()()」 

 

 ミヤコだった。

 その肩には、負傷したユキノが寄り掛かっている。

 

「ユキノも……!」

 

 先生の表情が険しくなる。

 

「君たちは、どうして……!」

 

 先生は一歩前へ出る。

 しかし、ミヤコはすぐに銃を構えた。

 

「先生……それ以上、近付かないでください!」

 

 冷静な声。

 けれど、その銃口は僅かに揺れていた。

 

「ミヤコ! 先生を撃つな!」

 

 サキが叫ぶ。

 ミヤコの瞳が、一瞬だけサキへ向く。

 

「……」

 

 何かを言いたそうに唇が動く。

 けれど──、

 

「……また、お会いしましょう」

 

 それだけだった。

 

 ミヤコは視線を逸らし、ユキノを支え直す。

 そして、廊下の暗闇へ駆け出していく。

 

「っ! ま、待って──!」

 

 私の静止を振り切り、その遠ざかる足音を聞きながら、私は拳を握る。

 

「先生!」

 

 そんな中──、

 ホシノの声が聞こえた。

 

「っ! サキちゃんが、倒れて……!」

「……!」

 

 私は振り返る。

 部屋を覆っていた煙が、少しずつ晴れていく。

 

 その奥で──、

 サキが、ぐったりと倒れ込んでいた。 

 

「サキ!」

 

 私はそんなサキを視認すると、急いで駆け寄る。

 そして、倒れ込んだサキの身体を慌てて抱き起こす。

 

「サキ!」

「……先生……?」

 

 私の声に、サキが僅かに目を開く。

 

「サキちゃん!」

 

 ノアもすぐに駆け寄り、サキの顔を覗き込む。

 

「大丈夫ですか!?」

「……うん」

 

 サキは、小さく頷いた。

 

「ちょっと、色々あって頭がパンクしそうだが……」

 

 サキは弱々しく笑う。

 

「疲れただけだ……もう怪我とかはしてないから」

「本当に?」

「あぁ、本当だ」

 

 サキは僅かに息を吐く。

 ずっと張り詰めていたものが、先生の姿を見たことで一気に切れたのだ。

 

「ははっ……先生は、やっぱり心配性だな」

 

 そう答えたサキの声には、いつもの張りがなかった。

 けれども、私の姿を見て少しだけ微笑む。

 

 私は、サキに目立った外傷がないことを確認する。

 そして──、

 

「……よかった」

 

 心の底から安堵の声が思わず漏れる。

 

「本当に……無事でよかった」

「先生……」

 

 サキが、私の服を弱々しく掴む。

 その光景を見ながら、私はようやく実感する。

 

 ──このサキ救出作戦は成功したのだ、と。

 

 サキを取り戻した。

 今回の作戦は、確かに成功した。

 

 けれど──、

 

「……先生」

 

 ホシノの声が聞こえる。

 

「っ。どうしたの、ホシノ?」

「……ごめんね。あと一歩のところで、ユキノちゃん達……逃しちゃったよ」

「っ……」

 

 私は、先ほど二人が消えていった廊下を見る。

 そこには、もう誰もいない。

 残っているのは、床に散らばった瓦礫と、薄く漂う煙だけだった。

 

「……まだ仲間が隠れていたなんて、思っていなかったです」

 

 チナツも悔しそうに、床に転がる使用済みの煙幕弾を見つめる。

 

「隠れていた方……その、ミヤコさんが来なければ、ユキノさんを確保できていた可能性は高かったと思います」

「……そうだねぇ〜、ノアちゃん」

 

 ホシノが、ノアの言葉にショットガンを肩に担ぐ。

 そして、サキを見る。

 

「でも……」

 

 ホシノは、ほんの少しだけ笑う。

 

「サキちゃんは、ちゃんと帰ってきた。それで十分かな」

「……」

 

 そんなホシノにつられて、サキを見る。 

 サキは、確かにここにいる。

 

「先生、みんな……帰ろっか!」

 

 ホシノは、静かにそう言った。

 

「アビドスにね」

「……うん」

 

 私は頷いた。

 

「みんな、帰ろうか。アビドスに」

 

 サキの身体を支えながら、私たちは『廃墟』を出るために歩き始めた。

 

 誰も、振り返らなかった。

 

 いや──、

 私だけは、一度だけ振り返った。

 

 そこは、先ほどまでユキノとミヤコがいた廊下。

 もう、二人の姿はない。

 ただ、暗闇だけが広がっている。

 

「……」

 

 ──ユキノ。

 ──そして、ミヤコ。

 

 今回の戦いで、私達はサキを取り戻した。

 それは間違いなく、私達の勝利だった。

 

 けれど──、 

 ユキノとミヤコから、話を聞くことはできなかった。

 

 彼女達がどうして、こんな事をしているのか。

 その理由を、私はまだ知らない。

 

 そして──()()のことも。

 

 この戦いは、まだ終わっていない。

 その先に待っているのが、平穏な日々なのか。

 それとも──新たな戦いなのか。

 

 まだ、誰にも分からない。

 

 ただ一つだけ確かなことがある。

 

 ──空井(そらい) サキは、帰ってきた。

 

 私達の仲間として。

 アビドス対策委員会の一員として。

 

 そして──、

 R()A()B()B()I()T()()()の、空井(そらい) サキとして。

 

 





──サキ救出作戦

【Sランク】クリア

〜リザルト〜

【ヒナ VS ミネ&アカネ】→ヒナの勝利
【アズサ VS カリン】→アズサの辛勝
【ホシノ VS ユキノ】→ホシノの勝利

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