何かがおかしいブルーアーカイブ   作:千ノ宮チノ

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第34話:便利屋68、四日間の戦い

 

 一方その頃。

 

 アビドス高等学校の校門の前には、銃を武装した()()()()()がいた。

 

 

 ──照りつける太陽。

 ──まとわりつくような暑さ。

 ──額から流れ落ちる汗。

 

 

 そんな炎天下の中──、

 四人の生徒は、じっと校門の前で待機する。

 

「ア、アビドスの皆さんはいつ頃来られるんでしょうか?」

 

 そのうちの一人──槌永(つちなが) ヒヨリが、恐る恐る三人に視線を向ける。

 

「もう、かれこれ、朝から四時間は待っているんですが……」

「うぐっ……ヒ、ヒヨリ……! きっと、アビドスは午後登校なの! もう少し粘るわよ!」

 

 声を張り上げたのは──陸八魔(りくはちま) アル。

 

 そう。その四人の正体は──、

便()()()()()』。

 

 ──陸八魔(りくはちま) アル。

 ──鬼怒川(きぬがわ) カスミ。

 ──飛鳥馬(あすま) トキ。

 ──槌永(つちなが) ヒヨリ。

 

 ゲヘナが誇る、悪名高き問題児集団である。 

 

「午後登校、ですか……」

 

 トキが静かに、校門の向こうを見る。

 誰もいない。

 

 当然だ。 

 対策委員会の五人は、現在、()()()()()()()()()なのだから。

 

 そんな事とは露知らず、アルは堂々と校門に立つ。

 

「やあやあ〜! アル、ちょっといいだろうか?」

 

 カスミが、タオルで汗を拭きながら、声を掛ける。

 

「っ……カスミ室長! 仕事中は役職を忘れちゃダメよ!」

「……あぁ〜、アル社長。この感じ……今日はアビドスは休みなんじゃあないか?」

「うぐっ……!」

 

 カスミが冷たい目でアルを見つめる。

 

「それに……」

 

 カスミは、校門から少し離れた場所へ視線を向けた。

 そこには、簡易テントがいくつも設置されている。

 その中にいるのは──()()()()()たちだ。 

 

「雇い主から貰った予算を……傭兵バイトを雇う為に、今日一日で、半分も使い果たしてしまったぞ」

「そうですね、カスミ室長の言う通りです」

 

 トキも頷く。

 

「前回、ラーメン屋の前で敗走した事を考慮して、傭兵バイトを二倍に増員しています。ですが、このまま張り込みを続けるのは……時給換算すると、非効率です」

「ト、トキ課長まで!?」

 

 アルが声を上げる。

 

「で、でも……!」

 

 アルは校門の向こうを指差した。

 

「アビドスの皆は、絶対にここへ戻ってくるわ!」

「根拠は何ですか?」

「勘よっ!」

「根拠になっていないですね」

「うぐっ……!」

 

 トキに淡々と指摘され、アルは言葉に詰まる。

 

「そ、それに……!」

 

 アルは胸を張る。

 

「社長として……一度引き受けた仕事を途中で投げ出すわけにはいかないでしょう!」

「社長……!」

 

 ヒヨリが感動したようにアルを見る。

 

「やっぱり、社長は凄いです……!」

「そうでしょう、ヒヨリ! そうでしょう!」

 

 アルはますます胸を張る。

 

「これが、プロの仕事よ!」

「……ただし」

 

 カスミがペッドボトルの水を飲みながら、冷静に口を挟む。

 ちなみにペッドボトルは、もう最後の一口だった。

 

「今日のところは、アビドスの生徒が、一人も来る気配がない」

「……」

「そして、今この瞬間にも、我々には傭兵バイトへの支払いだけが発生している」

「……」

「既に、朝から四時間も待っているだけでな」

「……」

「このままだと、予算が尽きるのは時間の問題だぞ?」

「カスミ……」

 

 アルの額から、一筋の汗が流れた。

 

「大丈夫よ!!」

「……何がですか?」

 

 トキがアルをジト目で見つめる。

 

「こういう時こそ……! 経営者としての判断力が問われるのよ!」

「では、撤退しますか?」

()()()()()()よ!」

「っ!? どうしてですか!?」

 

 トキが目を見開いて、思わず叫ぶ。

 

「だって、ここで帰ったら負けじゃない!」

「何に対しての勝負なんですかぁ……?」

 

 ヒヨリの呟きは、誰にも届かなかった。

 

「よし!」

 

 アルは拳を握る。

 

「今日は夕方まで張り込むわよ!!」

「……まあ、それでこそ、私の社長だな」

「了解しました」

「分かりました!」

 

 こうして──、

 便利屋68の、意味の分からない張り込みは続いた。

 

 

 結果として──、

 アビドスのホシノ達はやってこなかった。

 

 

 □■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 ──二日目。

 

「だ、誰も来ませんよぉ〜!!!」

 

「……来ないですね」

「……ハハハッ……今日も暑いな……」

「……そうね、暑いわね」

 

 アビドス高等学校の校門前。

 昨日とまったく同じ場所に、四人の少女が立っていた。

 

 その名は『便()()()()()』。

 

 ただし──、

 四人は昨日よりも、明らかに疲弊していた。

 

「アル社長……」

 

 ヒヨリが、力なく口を開く。

 

「今日で二日目ですよ……?」

「ええ」

「昨日も夕方まで待っても、誰も来ませんでした」

「……ええ」

「今日も……来ないんじゃないでしょうか?」

「……」

 

 アルは黙り込む。

 

 そして──、

 

「──来るわ!!」 

「な、何でですか!?!?!」

「勘よ!!」

「も、もう少し状況を確認してくださいぃぃ!!」

 

 ヒヨリの悲痛な叫びが、アビドス自治区に響く。

 

「ふむ……」

 

 カスミが腕を組む。

 

「アル。依頼主からは『アビドスの連中を倒して欲しい』と言われただけだろう?」

「そうよ!」

「それならば──何も『アビドス高等学校』でと場所まで指定されているわけではない」

「っ……!」

 

 アルの顔が引きつる。

 

「そ、それは……」

「アル」

 

 カスミがアルの隣へやってきて、肩を叩く。

 

「もしかしてなのだが……」

「な、何よ?」

「我々は……仕事のやり方を間違えてないか?」

「……」

 

 アルは校門を見る。

 

 ──誰もいない。

 ──静かな学校。

 ──風に揺れる校庭の砂だけが動く。

 

「ッ……まさか!」

 

 アルの顔が青ざめる。 

 

「社長、どうしました?」

 

 トキが尋ねる。

 

「アビドスの皆の……」

 

 アルは震える声で呟いた。

 

「現在の居場所を探した方がいい!?!?」 

「……それなら、すぐに調べてみます」 

「ト、トキ!?」

「はい」

 

 トキはスマホを取り出して、画面を操作し始める。

 しかし、アルに名前を呼ばれて、手を止める。

 

「──ちょっと待って!」

 

 アルが慌てて止める。

 

「そんなこと……そんなことをしたら……!!」

 

 アルが頭を抱える。

 

「私達の今までの()()()()()()()()ことになるじゃない!?!」

「「「……」」」

 

 四人の間に沈黙が落ちた。

 

「……もう無駄になっていると思います」

「ヒ、ヒヨリ!?」

 

 珍しく、ヒヨリが正論を言った。

 

 結果として──、

 この日も、アビドスのホシノ達はやってこなかった。

 

 

 □■□■□■□■□■□■□■□

 

 そして、三日目。

 

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 

 アビドス高等学校の校門前には──、

便()()()()()』の四人が、今日も今日とて居た。

 

 三日目の張り込みである。

 

 しかし──、

 誰も来ない。

 

 昨日も。

 一昨日も。

 そして、今日も。

 

「……アル社長」

「……何よ、ヒヨリ?」

 

 ヒヨリが、遠慮がちに尋ねる。

 

「今日で、三日目です」

「……そうね」 

「アビドスの皆さん……本当に帰ってくるんでしょうか」

「……」

 

 アルは答えない。

 ただ、校門を見つめている。

 そして──、

 

「……来るわ」

「まだ言うんですか!?!?」

 

 ヒヨリが悲鳴を上げる。

 

()()()()()!!」

「ど、どうしてそこまで!?」

「だ、だって!!」

 

 アルは拳を握り締める。

 

「こ、ここまで待ったのよ!?」

「それはアル社長が勝手に……!」

「三日も待ったのよ!?」

「だから、それもアル社長が勝手に……!」

「ここで帰ったら、全部無駄になるじゃない!?」

「もう十分無駄になってますよ!?!?!」

 

 ヒヨリの叫びが砂漠に響く。

 

 その横で、トキは日傘を差しながら、スマホを眺めていた。

 カスミもその日傘の影に入り、言い合う二人の様子を楽しそうに眺めている。

 

「絶対に……絶対に来るわ!」

 

 アルは炎天下の中、校門に背中を預けて腕を組む。

 

「……」

「……」

「……」

 

 しかし──、

 その声に応える者は、誰もいなかった。

 

「……アル社長」

「何よ、トキ?」

「数分前にはなるのですが、傭兵バイトの方々が……」

「え?」

 

 トキが、校門から少し離れた場所を指差す。

 

 そこには、大量に設置されていた傭兵バイトのテントがある筈だった。

 

 しかし──、

 今はそのテントが撤収されて、誰もいない。

 

「……あれ?」

 

 アルが目を見開く。

 

「よ、傭兵の皆さん、どこに行ったの?」

「……撤収したようだな」

 

 カスミが、トキのスマホ端末を見ながらそう答える。

 

「そんな……」

 

 ヒヨリが呆然とする。

 

「ま、まさか……!」

 

 アルの顔が引きつる。

 

「……お金が、底を尽きた?」

 

 

 結果として──、

 この日も、アビドスのホシノ達はやってこなかった。

 

 

 この日、『便利屋68』は傭兵へのアルバイト代を使い果たし、()()()()()()()

 

 

 □■□■□■□■□■□■□■□■□ 

 

 ──四日目。

 

 アビドス高等学校の校門前。

 

「……」

「……」

「……」

「……」

 

 そこには、昨日までと同じように──四人の少女がいた。

 

 その名は悪名高き──、

便()()()()()』。

 

 ただし──、

 昨日までとは、明らかに四人の様子は違っていた。

 

 周りに傭兵バイトはいない。

 

 そして──、

 

「……お腹空いた」

 

 ヒヨリが、小さな声で呟いた。

 

「……」

「……」

「……」

 

 誰も答えない。

 

 なぜなら──、

 四人とも、頭の中では同じことを考えていたからだ。

 

 ──お金がない。

 

 便利屋68は、三日間の張り込みによって、依頼主から渡された予算をほぼ完全に使い果たしていた。

 

 ──傭兵への報酬。

 ──食料。

 ──飲料水。

 ──簡易テント。

 ──その他諸々。

 

 そして何より──、

 

「……アル」

 

 カスミが、疲れた声で口を開く。

 

「何よ、カスミ?」

「今日、昼飯はどうするつもりだ?」

「……」

 

 アルが固まる。

 

「……持ってきてないの?」

「愚問だな……ないっ!」

「そう……」

「……昨日の、乾パンが最後だったな」

「……」

 

 カスミとアルは空を見上げた。

 雲一つない晴天が広がっている。

 

「そうか」

「そうよ」

「……腹が減ったな、アル」

「そうね」

「……」

「……」

 

 四人の間に、重い沈黙が流れる。

 

「……アル社長」

 

 トキが、静かに口を開いた。

 

「私も、朝から何も食べていないです」

「……」

「水も、公園の蛇口で汲んできたものが……もう少ししか……」

「……」

「このままでは、私は、倒れてしまうかもしれません」

「トキ……」

 

 アルは、真剣な顔でトキを見る。

 

「大丈夫よ」

「っ。本当ですか?」

「ええ」

 

 アルは胸を張る。

 

「こういう時こそ、社長としての威厳を見せる時よ!」

「……何をするんですか?」

()()()()()()()()!」

「「「……」」」

 

 即答だった。

 

「……社長?」

「大丈夫よ! 今日は……今日こそは()()()! 予感がするのよ……! アビドスを倒して、報酬を貰うわよ!!」

 

 ──そんな時だった。

 

「……ん?」

 

 カスミが、道路の先を見つめる。

 

「どうしたの、カスミ?」

「エンジン音がしないか?」

「……!」

 

 カスミの言葉に、アル達が耳を澄まし、その表情を変える。

 

 アルが勢いよく立ち上がった。

 

「ついに来たのね!?」

「まだ分かりません! ですが、皆さん臨戦態勢を!」

 

 トキが二挺拳銃を構えて、道路の先を見つめる。

 

 エンジン音は、徐々に大きくなっていき──、

 道路の先で、砂埃が舞い上がる。

 

 そして、道路の向こうから、一台の()()()が姿を現した。

 

「来たわね……!」

 

 アルが目を見開き、銃を構える。

 

「ついにですね……!」

 

 ヒヨリも銃を構えながら、車両を見つめる。

 

「……車両の形状を確認。装甲車、ですか」

 

 トキが目を細める。

 その車を確認して、アルの顔が輝く。

 

「間違いないわ!」

「何がですか?」

「アビドスよ!」

「まだ何も確認できていませんが……」

「いいのよ! 今回は絶対にそう!」

「根拠は?」

「勘よ!」

「またですか……」

 

 トキが小さくため息を吐く。

 けれど、トキの口角は無意識に上がっていた。

 

 そして──、

 カスミもまた、車両を見つめながら口元を緩めていた。

 

「なるほど、なるほど……あの見覚えのある車両は恐らく……!」

 

 カスミが銃を構える。

 

「三日間も待ったんだから……確実に倒してみせるわ!」

「しゃ、社長……四日目です!」

「今はそういう細かいことはいいの! ヒヨリ!」

「はいぃ……!」

 

 ヒヨリも震えながら銃を構える。

 

「ハーッハッハッハッ! やるぞ、アル!!」

「ええ! アビドスを倒すわよ!!」

 

 四人は道路の中央へと移動する。

 車両は、そんな四人に対して躊躇いもなく、真っ直ぐに進んでくる。

 

 そして──、

 その車両は四人の前で停止した。

 

「っ……止まりましたね」

 

 トキが呟いた。

 

 その装甲車から、()()()()()が降りてくる。

 

 舞い上がる砂埃も落ち着き、その姿が、はっきりと見えるようになる。

 

「……」

「……」

「……」

「……」

 

 四人は、無言でその人物を見つめた。

 

 そして──、

 装甲車から降りた人物は、四人に向かって手を振った。

 

「……久しぶりだね! 便()()()()()()()!」

 

 便利屋68の全員が、完全に停止する。

 最初に口を開いたのはヒヨリだった。

 

「……あ、あの……」

「うん、どうしたの、ヒヨリ?」

「私の見間違えですよね……どちら様ですか?」

「あれ?」

 

 先生は少し驚いた顔をする。

 

「わ、忘れられちゃったかな……私はシャーレの先生だけど……」

「あっ……本物の、先生……」

 

 再び沈黙が訪れる。

 アルは、ゆっくりと銃を下ろす。

 

「……先生?」

「うん」

「一人なの?」

「う、うん」

「……アビドスの対策委員会は?」

「今日は一緒じゃないよ」

「……」

 

 アルの顔から、少しずつ血の気が引いていく。

 

「……そう」

「うん」

「……そうなのね」

「……?」

 

 先生は首を傾げる。

 

「どうかした?」

「……いえ」

 

 アルは震える声で答える。

 

「何でも……ないわ……」

「アル社長……」

 

 ヒヨリが隣から小声で呼びかける。

 

「……何よ」

「私たち……四日間……」

「言わないで」

「でも……」

「言わないで……!」

 

 アルが頭を抱える。

 

「四日間……ずっと……」

「言わないでって言ってるでしょう!?」

「うぅ……」

 

 トキが静かにスマホを取り出す。

 

「先生」

「うん?」

「一つ質問しても、よろしいでしょうか?」

「もちろんだよ! トキ!」

「対策委員会の皆さんは、現在どちらに?」

「え?」

 

 先生は少し考える。

 

()()()()()にいるけど」

「……」

 

 トキの手が止まる。

 

「……そうですか」

「うん」

「なるほど」

 

 トキは二挺拳銃を腰にしまう。

 

「全て理解しました」

「何を?」

「私達は、四日間ずっと……」

 

 トキは校門を見る。

 

()()()()()()()()()()()を張り込んでいたようです」

「「「…………」」」

 

 アル、カスミ、ヒヨリが固まる。

 

 アルは空を見上げた。

 雲一つない晴天である。

 

 ──この四日間。

 

 傭兵を雇い。

 食料を消費し。

 飲料水を買い。

 テントまで用意して。

 そして──、

 

「……私達」

 

 アルが呟く。

 

「……何してたの?」

「「「それは私達が聞きたい(です)!?」」」

 

 三人の声が綺麗に重なった。

 

「……」

 

 先生は、そんな四人を見ながら首を傾げる。

 先生は四人の姿を見る。

 

 汗だくで。

 疲労困憊。

 髪の手入れも行き届いていない。

 

 そして──、

 絶望しきったかのような顔。

 

「……大変だったね」

「……っ!」

 

 アルの肩が震える。

 

「……そうよ!」

 

 アルは拳を握る。

 

「大変だったのよ! 先生!」

「うん」

「四日間よ!?」

「うん」

「朝から晩まで!」

「うん」

「傭兵バイトまで雇って!」

「うん」

「お金も全部なくなって!」

「……うん。う、うん?」

「なのに!」

 

 アルは涙目で叫ぶ。

 

「誰も来なかったのよぉぉぉぉぉ!?!?!」

「アル社長ぉぉぉぉ!!!!!」

 

 ヒヨリも泣きそうな顔で叫ぶ。

 

「……」

 

 先生は、そんなアルとヒヨリを静かに見つめる。

 カスミとトキは冷めた目で二人を見ていた。

 

(……ええっと、ここまできたら、流石の私でも状況が理解できたよ)

 

「……それなら」

 

 先生は、装甲車の後部を指差した。

 

「シャーレに帰る前に、何か食べる? 奢るよ?」

「……」

 

 その言葉に、四人の動きが止まった。

 

「……食べ物?」

 

 ヒヨリが呟く。

 

「うん」

「……ご飯?」

「うん」

「……タダですか?」

「もちろん! 私の奢りだよ!」

「っ……!」

 

 ヒヨリの目が輝く。

 

「アル社長……!!」

「……」

 

 アルは黙って先生を見る。

 

「……先生」

「うん?」

「……乗せて」

「え?」

「私達も……」

 

 アルは、疲れ切った笑顔を浮かべる。

 

「……ご飯、食べたいわ」

「うん……いっぱいご馳走するからね、アル」

 

 先生は装甲車の扉を開ける。

 

「じゃあ、乗って」

「やったぁぁぁ……!」

 

 ヒヨリが真っ先に乗り込む。

 

「……すまない、先生。助かった」

「全然、大丈夫だよ、カスミ! 困った時は大人を頼って!」

「っ……あぁ、今回は恩に着る」

 

 カスミも続く。

 

「そうですね。先生、このご恩は一生忘れません」

 

 トキも乗り込む。

 そして最後に──、

 

「……」

 

 アルが装甲車を見上げる。

 

 この四日間。

 彼女達が待ち続けたアビドスの生徒は、最後まで現れなかった。

 

 しかし、最後に現れたのは──、 

 彼女達が一度も想定していなかった人物だった。

 

「……まあ」

 

 アルは小さく呟く。

 

「仕事は……失敗だったけど」

 

 そして、装甲車へ乗り込む。

 

「……今日は、ご飯にありつけたから……よしとするわ」

「ア、アル社長、それでいいんですか?」

「いいのよ!」

 

 アルは胸を張る。

 

「これも……立派な経営判断よ!」

「どこがですかぁぁぁぁぁぁぁあ!?」

 

 ヒヨリの呟きと共に、装甲車の扉が閉じる。

 

 

 そして──、

 砂埃を巻き上げながら、装甲車はアビドス高等学校を後にしていった。

 

 

 この四日間にわたる、

 便利屋68の壮大な張り込みの結末を──、

 

 青空だけが静かに見守っていた。

 






「よしっ! まずは牛タンから、いこうかな」
「……せ、先生!」
「お? それと、野菜の盛り合わせも……ん? どうしたの、アル?」
「先生……こ、このお店は!?」
「どこかの狐の子達にも好評だった『高級焼肉』だけど?」
「や、や、焼肉ぅぅぅぅう?!?!」

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