「だから〜! 何で私たちが不良と戦わなきゃいけないの! 特段、戦闘が得意ってわけじゃないんだけど!? こういうのはC&Cに頼むべき案件で……!」
D.U.郊外のビル群の中を歩きながら、戦闘を歩くユウカが頭を抱えて、何やら叫んでいる。
ちょうど先程まではリンもいたのだが、私たちをヘリコプターでこの場まで送ると『別件』があるとの事で、そのままヘリコプターで帰って行った。
つまりは現在、私とユウカ、アヤネ、エイミ、ハルナの五人でシャーレへ目指して歩いている。
「ユウカさん。サンクトゥムタワーの行政制御権を取り戻すためにも、シャーレ奪還が必要になります」
「それは……そうだけど、私はこれでもミレニアムの生徒会所属で、戦闘はあまりしなくて……!」
ユウカはミレニアムサイエンススクールの生徒会であるセミナー所属の生徒だ。
キヴォトス人として戦えないわけではないが、表立って戦闘経験を積んできた人ではないよなと私も思う。
まあ、ソシャゲではよくタンクとして使用させていただいていたのだが、それはまた別の話だろう。
「まあまあ、タンクは私に任せて。ユウカ以外、ここに居るのはゲヘナの
「うふふ、そうですわね。ツルギ委員長ほどではございませんが、私も戦闘には自信がありますので」
(……ん? んん?)
エイミとハルナは何を言っているんだろうか。
今までユウカの太ももを見ることで現実逃避していたが、もう避けられないのかもしれない。
「……そういえば、ユウカとエイミの名前は聞いたけど、改めて皆の名前と所属を聞いてもいいかな?」
「そうですね。これから戦闘が始まった際に、呼び名が分からずに連携が取れない事は避けないと──自己紹介が遅れて申し訳ございません。私は
「……あぁ、よろしくね、アヤネ」
この眼鏡女子──アヤネは、アビドスの事をどこへ放り投げてきたのだろうか。
「うふふ。私は
「……うん、頼りにしてるよ。よろしくね、ハルナ」
この
「私は
「……改めて、よろしくね、エイミ」
この効率厨──エイミは特異現象捜査部をどうしたんだ。ヒマリとエイミの組み合わせが大好きだったのに、今まさに特異現象が起こってませんか。
「最後は私ね。私はミレニアムサイエンススクールのセミナー所属の早瀬ユウカです。セミナーでは会計担当をしています。これからよろしくお願いします」
「うん。知ってる。ユウカは何の変哲もない、ただのユウカだ。ユウカが居てくれるから、私の心は保たれていると言っても過言ではない。居てくれてありがとう、ユウカ。先生は安心したよ」
「へ? な、何を言ってるんですか! わ、私が居て嬉しいだなんて……!」
(あっ……まずい。思わずユウカに対しての心の声が漏れてしまった)
「ユウカ、うるさい。先生とイチャイチャしてないで集中して。もうすぐ接敵するから、先生は下がっててね」
「あぁああぁ、もう! 先生は私の後ろに居てください。絶対に守りますから」
エイミが先頭に立ってタンクを、私は一番後方でユウカに守ってもらう布陣。
アヤネは戦闘中は後方支援で味方の回復役をし、ハルナがアタッカーとして主に攻撃を行う。
「先生を守る事が最優先ですわ。シャーレの奪還はその次です。皆さん、優先順位をお間違えないように」
「ハルナさんの言う通りです。聞くところによると、先生はキヴォトス外から来た方ですので、ヘイローもなく、弾丸一つでも生命の危機に晒される可能性があります。ユウカさん、先生の護衛はお願いします」
「勿論、分かっているわ。先生は戦場に出ないでくださいね! 私たちが戦っている間は、私の後ろにいてくださいね!!」
言われなくても、勿論そのつもりだ。
私は先生だが──それでも、日本で暮らしてきた一般人でしかない。
銃弾が飛び交う戦場なんて、生まれて経験した事がなく、一発でも貰えば死ぬ可能性すらある。
「勿論だよ。けれど、生徒の皆を指揮させてくれないかな?」
「え? 戦術指揮を、ですか? ま、まあ、先生ですし。私の後ろから飛び出さないのであれば……」
「うふふ、心が踊りますわ。よろしくお願いしますね、先生」
前方が徐々に騒がしくなってくる。
ブルアカで登場していた不良生徒達が道路を占拠し、シャーレの建物を囲んでいるのが見えてくる。
「じゃあ、先生。戦闘始めよっか」
──戦術指揮モード、開始。
会敵をしたことで、私の視点が斜め上空からユウカ達を見下ろす視点に切り替わる。
(……『シッテムの箱』が無くても、ソシャゲのブルーアーカイブの戦闘画面のように切り替わったのか? これは予想してなかったな)
けれど、これは好都合だ。
私はやり慣れたブルアカの戦闘のように、道路にポイントを指差し、生徒達に指示を飛ばす。
「エイミは正面三十メートル先へ突っ込んで、敵の注意をひきつけて。なるべく被弾は避けてタンクに徹してくれ」
エイミは軽く頷き、道路の中央へと走り出す。
「アヤネはエイミの支援を──最優先としてはエイミの回復。その次にドローンを用いて、敵の情報を探って。敵が密集してきたらハルナに場所を伝達してくれ」
「了解しました。エイミさんの支援を中心に動きます」
アヤネが頷く。
「ハルナは──」
「ええ、私は敵を撃ち抜けばよろしいのですわね?」
こちらが指示を出す前に、ハルナが愛銃を片手に微笑む。
「うん。ただし、最初から敵に撃ち込むんじゃない。エイミが敵を引き付けてから、アヤネの情報を参考に敵が固まったところを狙って欲しい。できるかな?」
「勿論ですわ! 先生のご期待に応えてみせましょう」
ハルナが中衛として前へと出ていき、銃を構える。
「エイミが敵を引き付け、ハルナが敵を削る。アヤネは後方から支援。完璧だ。これでいこう」
「……せ、先生? わ、私への、ご指示は?」
(ん? あ、あれ?)
私の正面にいるユウカが銃を持ちながらも、私の方へと振り返り、見捨てられた犬のような寂しそうな顔をしている。
「ユウカは私の護衛だから」
「それは、そうですけど。皆は命令されているのに、私だけは何も無くて……私も先生から命令されたくて」
ユウカがモジモジと小声で何かを呟いている。
「そうだな。ユウカは敵が後ろから回り込んで来たら、私を守ってほしい。それに敵の攻撃が激しくなったら、私よりもエイミを優先して援護に回って欲しい」
「わ、分かりました! 先生の護衛はお任せください!」
ユウカは本来、エイミにも劣らない優秀なタンクだ。
最悪の場合は、私はどこかの建物の陰へと隠れる事にすればいい。
その場合でも、私の戦術指揮モードが上空視点で維持されるのかも気になるところではあるし。
「敵が来るよ! エイミは道路右側の敵を優先して!」
シャーレを取り囲んでいた不良達も、私たちの存在を認識したようで、こちらへと向かってきている。
しかし、後方にはまだこちらに気が付いていない不良達もいる。
敵が全員で一斉に押し寄せて来る前に、こちらから戦場をコントロールすることを目指す。
エイミが銃を構えて、右側から迫ってきた敵へと攻撃を開始する。
敵の銃弾を交わしながら、どんどん敵を戦闘不能にしていく姿は正に圧巻の一言。
キヴォトス一年生の枠組みの中でも、戦闘ランキングの上位に食い込む実力者なだけはある。
虚妄のサンクトゥム攻略戦では、C&Cのネル達や正義実現委員会のツルギと一緒にケセドと戦い、勝利。
デカグラマトン編では、C&Cのトキに劣らず、共にイェソドと戦って勝っている。
結論──エイミは何故か、めちゃくちゃ強いのだ。
「ハルナさん。エイミさんを狙うように左側に敵が密集しました」
「えぇ! ありがとうございますわ、アヤネさん!」
ハルナが銃を構え、固まった的へと攻撃を開始する。
「まとめて吹き飛ばして差し上げますわ!」
激しい銃声が響き渡る。
ハルナの銃撃により、敵の一団が大きく後退する。
「おぉ……生EXスキル……!!」
思わず声が漏れる。
ゲームの中で見慣れていた攻撃が、現実の戦場で繰り広げられている。
だが、ここは戦場で、感動している暇はない。
「アヤネ、エイミの体力を回復して!」
「確認しました! 回復支援を行います!」
「ハルナは、敵が固まることを警戒し始めているから、動き続けて射線を変えながら、エイミに近寄る敵の撃退を!」
「分かりましたわ! 正義実現委員会の力を見せてあげましょう」
アヤネの回復支援でエイミの体力が全快になり、ハルナは動き回りながらも、確実に不良を一人一人戦闘不能に追い込んでいく。
ハルナの戦闘能力の高さも流石の一言だ。
華麗に敵を捌いて、EXスキルで直線上の敵を一掃する。
キヴォトスの各学園の最強格であるホシノやヒナ、ネル達には劣ると思うが、それでもイオリやサオリ達と並ぶ程の上位実力者だと、私は思う。
尤も今は、何故か
その時、私の上空視点から、道路の奥に更に敵が集まってくるのが見えた。
「敵、増えたよ!」
エイミもその事実に気が付いたようで、私達へと叫ぶ。
私は戦場を見渡した。
敵の増援は、エイミのいる正面ではなく、左右から、アヤネやハルナを狙って回り込もうとしている。
このままでは、エイミが敵を抑えている間に、こちらの後方へ回り込まれる。
「ユウカ! 私から離れて、左から来る敵を止めて! 私は少し身を隠すから!」
「っ。分かりました! 直ぐに片付けて戻ります!」
ユウカが前に出る。
私の護衛が手薄になるが、今は仕方がない。
私は道路の脇へと避難し、ビルの影に隠れる。
この状態でも彼女達から離れすぎていない判定なのか、戦術指揮モードの上空視点は維持され続けている。
ユウカは私の隠れ場所を把握しつつ、私と敵の間に立ち塞がりながら、果敢に敵へと突撃する。
「先生には、近づけさせません!」
ユウカが攻撃を開始しているのを確認しつつ、他の生徒にも指示を出す。
「アヤネはエイミの援護を継続しつつ、ドローンで敵後方を確認してきて! エイミは正面の敵をそのまま抑えて! ハルナはエイミが抑え込んでいる敵を狙ってくれ!」
「了解!」
「分かりました!」
「承知しましたわ!」
全員がそれぞれの持ち場へと散っていく。
戦場全体を見渡しながら、私は次の指示を考える。
これはゲームではない。
ブルーアーカイブという名のゲームではない──現実だ。
生徒たちは実際に傷つく。
弾丸を受ければ痛みを感じるし、血だって流れる。
無理をすれば、ヘイローが壊れて取り返しのつかないことになる可能性だってある。
だからこそ──私は大人として、
「──みんな、絶対に勝手に無茶だけはしないで!」
私は声を張り上げた。
生徒の安全が大事なのだから。
拳を握り、戦えない自分を悔む──それでも被害を最小限に抑えて、戦闘に勝つ為に指示を出す。
「戦況が変わったら、すぐに私が指示を出す! だから、自分だけで何とかしようとしないで!!」
そんな私の言葉に、皆が一瞬呆気に取られたが、直ぐに微かに笑うと元気な返事が返ってくる。
その直後だった。
「……先生! 敵の動きが変わりました!」
すると、私の傍にアヤネが駆け寄ってくる。
「敵の動きが変わった?」
私は上空視点から戦場を見渡した。
エイミとユウカによって不良達が押し返され、ハルナによって、その数も減らしている。
先ほどまでこちらへ殺到していた不良生徒達の勢いが、明らかに弱まっていた。
「敵の後方は既に撤退を始めています。こちらの戦力を想定以上に警戒しているようです」
「っ! 撤退か」
私は道路の奥へと視線を向ける。
確かに、敵の一部がこちらに背を向けて走り出しているように見える。
それを見た他の敵も、次々と戦闘を中断して後退していく。
どうやら、シャーレを取り囲んでいた不良生徒達は、これ以上の戦闘を続けるよりも撤退することを選んだらしい。
「先生! 敵が逃げていくよ!」
「追撃されますか?」
エイミとハルナも銃を構えたまま、私の方へと近付いてきて尋ねる。
私は一瞬、道路の奥へと逃げていく不良達を見た。
「いや、追わないで」
私はすぐに答える。
「敵を追撃する必要はない。目的は敵を全員倒すことじゃないからね」
私はそう言って、目の前にあるシャーレの建物を指差した。
今回の目的はシャーレを取り戻すことなのだから。
それに不良とはいえ、子供達なのだ。
お互いに戦わずに済むのであれば、私としてはそれに越したことはない。
「では、これ以上の戦闘は不要ということですね」
そう言って、お疲れ状態のユウカも私の傍へと戻ってくる。
「みんな、お疲れ様。キヴォトスの為に戦ってくれて、ありがとう」
私は、改めて四人の姿を見渡した。
誰も大きな怪我をしていない。
初めての戦闘としては、それだけで今は十分だった。