「うふふ、コハルちゃん……何処にいると思ったら、ミレニアムにいたんですね? 」
「なっ……!? 」
「ミレニアムには最先端の健康グッズが沢山ありますし、コハルちゃんにはピッタリな学園ですね」
「い、いきなり何言ってんの!? 下ネタはダメ! 禁止! 死刑! け、健康グッズって何の事を言ってんの!?」
「それはもう……うふふ……」
「……
ヒナはトキをじっと見つめた。
その表情からは、何を考えているのか分からない。
私は、そんなヒナの隣に立つ少女へ視線を向けた。
改めて見ると、やはり間違いない。
──
原作であれば、トリニティ総合学園に所属する正義実現委員会の生徒。
そして何より──、
メインストーリー Vol.3
『エデン条約』編。
そこで重要な役割を担う、
『
そんなコハルがミレニアムにいる。
(最早、この現象には驚かないが……決して驚かないが……! もしや、この部屋の前に、コハルがいるということは……!)
私は思わずコハルを凝視してしまう。
「……何よ、先生? 私をずっと見てるけど……」
しまった。
「っ! い、いや、何でもないよ!」
「絶対何か思ったでしょ!?」
コハルが地団駄を踏む。
「そもそも、隣の人はさっき私の事を『チビっ子門番』って言ってたけど、普段の私は門番じゃないし!」
「そうなのですか?」
「そう!」
コハルは胸を張る。
「私は
(っ……!)
やはり。
(コハルはセミナー所属……つまり、
脳裏に、どこか憎めない笑顔で『にははは』と笑う少女の姿が浮かぶ。
……いや、考えるのは後だ。
今は目の前の状況を優先するべきだ。
「……コハル」
「は、はい!」
ヒナが静かに口を開いた。
「そろそろ中に入ってもいいかしら?」
「あっ……」
コハルが固まる。
「ご、ごめんなさい、会長! すぐ入ります!」
コハルは慌てて扉の横へ移動する。
「先生、入って」
「あ、ありがとうね、ヒナ」
私たちはそのまま、セミナーの生徒会室へ入った。
部屋の中は、以前訪れた時とほとんど変わっていない。
けれど──ヒナとコハル以外にも、
「
「っ……」
ソファに座っていた少女が顔を上げる。
「来ていたんだね! 退院おめでとう!」
「……ああ」
そこにいたのは、アビドス高等学校の
「先生。この間はお見舞いに来てくれて、ありがとな」
制服姿ではあるものの、いつもの鉄帽は被っていない。
そして、まだ本調子ではないのだろう。
その表情には、僅かな疲労が残っている。
それでも──、
腹部に巻かれていた包帯はもう外れていた。
それを見た瞬間、胸の奥に張りつめていたものが、少しだけ解けた。
「本当に良かった。もう身体は大丈夫なの?」
「ああ。ミレニアムの医療班のおかげだ。もう問題ない」
「それならよかった。本当に良かったよ」
私は笑顔を浮かべる。
「アズサも今日退院なんだよね?」
「ああ。アズサ先輩は、ホシノ先輩から『退院祝いだぁ〜』とか言われて、きっと大将のところに連れていかれたと思う」
サキが苦笑いをする。
「そっか。柴関ラーメンに……」
私は胸を撫で下ろす。
これで、あの『サキ救出作戦』で怪我を負った二人も、ようやく日常へ戻っていく。
そう思った、その時──、
「……先生」
「ん?」
ヒナの声が、静かに響いた。
「少し、いい?」
「ええっと……」
ヒナは私を真っ直ぐに見つめている。
その表情には、先ほどまでの穏やかさがない。
何かを決意したような──そんな顔だった。
「
ヒナはそう言うと、私の横に控えるトキに視線を向ける。
「できれば、私と先生……それから
「……あっ、そういえば」
私は今朝、モモトークで届いたメッセージを思い出す。
ヒナは私に話したい事がある。
だからこそ、ミレニアムまで私を呼び出したのだ。
「分かったよ、ヒナ」
私は頷いた。
すると──、
「……先生」
すぐ隣から、トキの声が聞こえてきた。
「どうしたの、トキ?」
「私も同行します」
「……え?」
トキは当然のように言う。
「私は先生の護衛ですので」
「いや、その……」
私はヒナを見る。
ヒナは少しだけ困ったように眉を下げた。
「……
「……」
トキは黙ってヒナを見る。
「先生に危険が及ぶ可能性はありますか?」
「ないわ」
「確証は?」
「……」
ヒナが僅かに言葉を詰まらせる。
その様子を見て、私は思わず苦笑した。
「トキ」
「はい」
「大丈夫だよ」
「ですが──!」
「ヒナは私を傷つけるために呼んだわけじゃないと思う」
「……」
「それに、ほら……アビドスのサキもいるから」
私はソファに座るサキへ視線を向ける。
「サキが一緒なら、何かあっても大丈夫だよ」
サキが少し驚いたような顔をする。
けれど、すぐに口元を僅かに緩めた。
「トキ。先生のことは、私に任せてくれ!」
「……」
トキはしばらく黙っていた。
そして──、
「……承知しました」
「ありがとう、トキ」
「ただし、先生。一つ約束してください」
「ん?」
トキは真剣な表情で私を見て、私の袖を掴む。
「何かあれば、すぐに私を呼ぶことをです」
「うん」
「直ぐに駆け付けますから」
「うん、分かったよ、トキ。約束するよ」
「……はい」
それだけ言うと、トキは一歩下がった。
その様子を見ていたコハルが、呆れたように口を開く。
「……あんた、本当に過保護ね?」
「過保護ではありません」
トキが即答する。
「私は先生の護衛です。なので、常日頃から先生の隣にいなければいけません」
「いや、それを過保護って言うのよ!?」
「そうでしょうか?」
「そうよ!」
コハルが腕を組みながら頷いた。
「そもそも、ここはミレニアムの校舎なんだから変なことする人なんて──」
「けれど、先生を
「っ……!?」
コハルの顔が赤くなる。
「お、
「……? それは先生を押し倒したり……」
「──っ!? お、押し倒して襲うって……ダメ! エッチなのは禁止! 死刑!!!」
「……ええっと」
コハルが顔を真っ赤にしながら、トキを指差す。
対するトキは、本気で困惑していた。
「……コハル」
「は、はい!」
そんなコハルに、ヒナは額に手を当てながら、深い溜息を吐く。
「あなたは少し趣味を見直すべきね。ユウカにも見張るように伝えておくわ」
「うっ……」
コハルは肩を落とす。
「だ、だって……! あんなこと言われたら、誰だって誤解するでしょ、会長!?」
「誤解ではありません」
トキが淡々と告げる。
「コハルの脳みそがピンク色なんです」
「そ、そんな事ないわよ!?」
コハルは叫ぶ。
トキはそんなコハルを暫く見つめる。
「……コハルは、面白い人ですね」
「なっ……!?」
「あっ……これは褒め言葉ではございません」
「分かってるわよ!! エッチなことで褒められたくないわ!!」
コハルが声を荒らげる。
そんな彼女を見て、トキの頬がほんの僅かに緩んだ。
(……どうやら、トキも少し楽しんでいるらしいね)
その様子を見ていたサキが、小さく息を吐いた。
「……なんか、騒がしいな」
「はは……」
私は苦笑する。
正直、これからかなり重い話をするのだと思っていた。
だからこそ──、
こういうやり取りが、少しだけありがたかった。
「……先生、サキ」
ヒナの声が、再び部屋を静かにした。
「奥の部屋に行きましょう」
「……うん、分かったよ」
サキもソファから立ち上がった。
「先生、こっちよ」
ヒナはそう言って、生徒会室の奥へと歩いていく。
その背中を追いながら、私は一度だけ振り返った。
「トキ」
「はい」
「ちょっと行ってくるね」
「……承知しました」
トキは少しだけ心配そうに私を見る。
けれど、今度は何も言わなかった。
□■□■□■□■□■□■□
私は、生徒会室の奥にある小さな応接室へと入った。
ヒナは三人が入室した事を確認すると、扉を閉めた。
──カチャリ。
鍵を掛ける音が、静かな部屋に響く。
先ほどまで聞こえていたコハルとトキの声も、完全に聞こえなくなる。
「……」
「……」
「……」
部屋にいるのは、私とヒナとサキの三人だけ。
ヒナは向かい側のソファへ座ると、私にも座るよう促した。
「先生とサキも、座って」
「うん」
私はヒナの正面に腰を下ろす。
私の隣にはサキが座った。
誰も、すぐには口を開かなかった。
ヒナは俯いたまま、自分の手を見つめている。
サキもまた、険しい表情をしていた。
「……ヒナ?」
私は思わず声をかける。
「……ええ」
ヒナは顔を上げる。
その瞳には、普段の冷静さとは違うものがあった。
──迷い。
「先生」
「うん」
「確認したいことがあるの」
「確認したいこと?」
「えぇ、そうよ」
ヒナは一つ息を吐くと、私と目を合わせる。
「単刀直入に聞くわ。先生は──
「……え?」
それは、予想していなかった質問だった。
私は思わず、ヒナの顔を見る。
「
「そのままの意味よ」
ヒナは視線を逸らさない。
「このキヴォトスのこと」
「……」
「アビドスも、ミレニアムも、ゲヘナも……その他の学園の生徒たちも……」
ヒナは一つ一つ、確かめるように言葉を紡いでいく。
「先生は、
「……」
何故ヒナが、私にそんな事を聞くのかは分からない。
「どうって……」
私は不意に、窓の外へ視線を向ける。
──ミレニアムの街並み。
──巨大な電光掲示板の数々。
──行き交う生徒たち。
──そして、銃を持って歩く少女たち。
その光景を見て、無意識のうちに言葉が漏れる。
「……不思議な世界だと思う」
「不思議?」
「うん」
私は苦笑しながら、本心を言語化する。
「だって、キヴォトスの外から来た私からすれば……普通に考えたらあり得ないことばかりだからね」
「……」
「女子高生が銃を持って歩いているし……頻繁に銃撃戦が起きても、少し怪我をする程度で済んだりする」
サキが僅かに眉を動かす。
「それに、学校同士が自治区を持っていて、それぞれ独自の文化も存在してる」
私は少しだけ笑う。
「本当に不思議な世界だよ」
私はこれまでの思い出を振り返る。
「でもね──」
言葉を止める。
「私はそんなキヴォトスが……
ヒナの瞳が僅かに揺れた。
「どうして?」
「どうしてって……」
私は少し困ったように笑う。
「ここにいる皆が、一生懸命に
「……!」
「アビドスの皆もそうだし、ミレニアムの皆もそう。先日のサキ救出作戦だって……」
私は隣に座るサキを見る。
「サキを助けるために、みんなが一丸となった」
「っ……先生……」
「そんな皆の姿が眩しいんだ。この世界を不思議だと感じることがあっても、この世界だからこそ、出会った生徒たちとの時間を大切にしたい」
私はサキとヒナの二人を見つめる。
「私は一人の大人として。そして、何より
私は自分の胸に手を当てる。
「これが私の想いだよ」
ヒナは黙っていた。
その表情からは、何を考えているのか分からない。
けれど──、
「……そう」
小さな声が返ってきた。
「ヒナ?」
「ごめんなさい。突然、こんな事を聞いてしまって……」
「え? いや、全然いいんだよ!」
「ふふっ……先生、ありがとう。今の答えを聞いて、少し安心しただけ」
ヒナは目を伏せる。
「やっぱり、先生は
「……?」
ヒナの言葉の意味が分からず、首を傾げる。
「それって、どういう──」
「先生」
ヒナが私の言葉を遮る。
「もう一つだけ聞かせて」
「う、うん」
「これはあくまで、
ヒナは慎重に言葉を選ぶ。
「先生はこの世界が──『
胸の奥がざわついた。
「っ……ま、間違った、先?」
私はヒナの言葉を聞き返す。
「えぇ、そうよ」
ヒナはそう言い、サキへ視線を向ける。
「この世界とは違うキヴォトスがあったとして……」
「……」
「各学園の生徒達の所属が違う、もう一つの世界があったとしても……」
「っ……!?」
──各学園の生徒の所属が違う。
そのヒナの言葉を聞いた瞬間──、
原作を知っている私には、
(……原作の『ブルーアーカイブ』の世界を、ヒナとサキも
私は、膝の上で両手を組んだ。
(……落ち着け)
もし推測が正しいのなら──、
原作知識という『
「……先生?」
ヒナが、こちらを窺うように声を掛けてくる。
「っ……ごめんね、ヒナ。ちょっと考えていたよ」
「……ええ」
ヒナは小さく頷いた。
「それで……どう? もし、この世界が、
ヒナは一度、間を置く。
「それでも、先生なら
「……」
私はしばらく黙った。
そして、できるだけ自然に答える。
「……受け入れると思うよ」
「……!」
ヒナの瞳が、僅かに揺れた。
「だって」
私は二人から目を逸らさない。
「もしそんな世界があったとしても、出会った人たちは生きていると思うから」
「っ……!」
「世界が違うからって理由だけで、ここにいる人たちを否定するなんて……私はできないよ」
私の隣でサキが、僅かに目を見開いた気がした。
「……そう」
ヒナは、しばらく何も言わなかった。
ただ、私の言葉を確かめるように、じっと私を見つめている。
「世界が違ったとしても……そこに生きている人たちが偽物になるわけじゃない。出会った人たちとの時間は、本物だと思うから」
私はゆっくりと言葉を続ける。
「少なくとも、私はそう思うよ」
「……」
(……これで、
ヒナは黙っていた。
けれど、その瞳から先ほどまでの迷いが少しずつ消えていく。
代わりに浮かんでいたのは──、
「……よかった」
「え?」
「ううん……何でもないわ」
ヒナは小さく首を振った。
そして、隣に座るサキへ視線を向ける。
「……サキ」
「ああ」
サキは短く答えた。
「やっぱり、先生は……」
「……?」
二人の間で、何かが通じ合っている。
けれど──、
私はそれ以上、口を挟まなかった。
(……やっぱりだ)
私の中で確信が強くなっていく。
ヒナとサキは、きっと、この世界とは別の何かを
(それなら……私が原作知識として、ブルーアーカイブの世界を知っていることを二人に伝えても……)
私は口を静かに開ける。
けれど──、
脳裏に、あの『廃墟』地区の『工場』での出来事が蘇る。
『続いて、対象の身元を確認します……シャーレの先生』
『
私は『
(私は……何者なのだろうか?)
そんな疑問が、ずっと胸の奥に残り続けている。
「ええっと……二人はどうして、そんな事を私に聞いたの?」
「「──っ!」」
ヒナとサキの肩が跳ねる。
だが、ゆっくりとサキが口を開く。
「あ、あくまで、仮定の話だけど……先生に確認したかったんだ」
「私に?」
「ああ」
サキは真っ直ぐ私を見る。
「先生は、生徒のことをどう思っているのか」
「……」
「そして、そんな世界があったとしたら、どう思っているのか」
サキの声には、僅かな不安が混じっていた。
「もし先生が『間違っていない世界こそが本物だ』って思っているなら……」
サキはそこで言葉を止める。
「間違った先の世界にいる人たちは……どうなるんだろうなって」
「……サキ」
胸の奥が締め付けられる。
「……ふふ」
ヒナが、小さく笑った。
「けれど、もう大丈夫……やっぱり、先生は
「え?」
「先生、ありがとう。今日は、先生に確かめてみたかっただけなの」
ヒナは優しく微笑む。
「……ええっと。じゃあ、これで終わりでいいのかな?」
「えぇ、そうよ」
ヒナは頷いた。
「あと、今日の話は……誰にも話さないで」
「……分かった」
私は頷いた。
「誰にも言わないよ」
「ありがとう、先生」
ヒナは、ほんの少しだけ表情を緩めた。
「……最後に、一応伝えておくけれど」
ヒナは少しだけ視線を逸らした。
「さっきまでの『仮定の話』は……うちの
「……へ?」
思わず、間の抜けた声が漏れた。
サキは咄嗟に席から立ち上がり、ヒナの手を取り、部屋の隅へと連れていく。
そして──、
私に聞こえないくらいの小声で何かを言い合っている。
「ヒ、ヒナ先輩……! いきなり、何言ってんだ?」
「っ……こ、これで騙し通せると思って……」
「ゲ、ゲームの話でしたってことで、か?」
「そうよ」
「む、無理があるだろ」
「……」
ヒナは黙り込む。
「いや、けれど……『間違った先の世界』とか『本物の世界』とか……ゲームの設定としても、意外といけるのか?」
「……サキ」
「なんだ?」
「いけるわ。信じるのよ、先生を」
「……っ」
「せ、先生なら……きっと……」
サキが大人しく口を閉じる。
そんな二人を、私は呆然と見つめていた。
「……ええっと」
「……」
「……ゲームの話、なんだよね?」
「っ!? ええ、そうなの、ゲームよ!」
ヒナは、ものすごく真剣な顔で頷いた。
「ミレニアムサイエンススクールは『ゲーム開発部』という部活があるのだけれど、そこが、最近作っているゲームの設定なの!」
「……そ、そうなんだ」
「そうよ」
「……」
「……」
──沈黙。
私はヒナを見る。
ヒナも私を見る。
ヒナの視線は、僅かに泳いでいる気がした。
(絶対に、嘘だよね)
そう思った。
けれど──、
「……そっか。ゲームの話だったんだね!」
「っ……!」
ヒナの表情が、ほんの僅かに緩んだ。
「ミレニアムのゲーム開発部か……そういうゲームを作っているなら、今度遊んでみたいね」
「ええ」
ヒナは即座に頷いた。
「ミレニアムの会長である私から、ゲーム開発部には、ゲーム制作を急ぐように頼んでおくわ」
ヒナは、ほっとしたように息を吐く。
ヒナの声が、ほんの少しだけ上ずっていた。
けれど、私はそれ以上は追及しなかった。
今のヒナとサキの表情を見れば分かる。
二人が何を知っているのか。
それはまだ確証はない。
けれど──、
(いつか、二人が話してくれる日が来るまで……)
(その時までに、私も
「……先生」
「ん?」
ヒナが、少しだけ申し訳なさそうに口を開く。
「今日は、変なことに付き合わせてしまってごめんなさい」
「いやいや! 気にしなくていいよ!」
「……ありがとう」
ヒナは小さく笑う。
その笑顔は、先ほどまでの緊張が嘘だったかのように穏やかだった。
「それじゃあ、今日の話はこれで終わりにしましょう」
そう言って、ヒナとサキが応接室の扉を開ける。
そんな背中を、私は静かに見つめた。
応接室の扉が閉じて、生徒会室に戻ると、
「──先生! 大丈夫でしたか!?」
すぐにトキが駆け寄ってきた。
「うん。大丈夫だよ」
「本当でしょうか? 何かあの会長から、何かされませんでしたか?」
「な、何もされてないよ」
「そうですか……」
トキは私の身体を上から下まで確認する。
「問題ありませんね」
「あはは……大丈夫だよ」
私は苦笑する。
そんなトキの様子を見ていたコハルが呆れたように呟く。
「……だから言ったでしょ。過保護だって」
「過保護ではありません」
「はいはい」
そんな二人のやり取りを眺めながら、私は小さく笑った。
──いつもの光景。
ついさっきまで、別の世界がどうとか。
この世界が本物なのかどうかとか。
そんな話をしていたことが、嘘のようだった。
──今は、まだ。
けれど、いつか、
その時こそ──、
私は、
この世界の『本当の姿』は、少しずつ明らかになっていく。