何かがおかしいブルーアーカイブ   作:千ノ宮チノ

42 / 42

おぉ……! もうじきだ……もうじき、盤上の駒が揃う。
この世に存在せずとも、理を支配する真実よ。
我々は前回の世界で『死』と並びうる概念を知った。

攻略本を既に、小生の手の中にあるも同然!
あの馬鹿共は、今に見ておけ……利用し尽くしてやる。

ああ、小生を愉しませてくれ。
再戦といこう、プレイヤー⋯⋯いや、先生よ⋯⋯ヒヒッ、ヒヒヒッ……。




第38話:平和なアビドスの日常

 

 私は装甲車を走らせ、ミレニアム自治区を後にする。

 

 ──時刻は、ちょうどお昼時。

 

 今日もミレニアムの空は、雲一つない快晴だった。

 

「一週間ぶりのアビドスか〜! 何か、すごく久しぶりに感じるな」

 

 助手席に座るサキが、窓の外の街並みを見ながら感慨深そうに呟いた。

 

「そうだね。たった一週間なのに、随分と長く感じた気がするよ」

 

 私は運転席から、横目でちらりとサキを見る。

 サキの横顔はどこか嬉しそうに見える。

 

「……まあ、色々あったからな」

 

 サキは短く答えると、再び窓の外へ視線を向けた。

 

 ミレニアムのビル群が、少しずつ遠ざかっていく。

 

 やがて、都市部を抜けると──、

 視界いっぱいに、乾いた大地が広がり始めた。

 フロントガラス、砂を巻き上げた風が叩く。

 

「……あっ」

 

 そんな時だった。

 サキが小さく声を漏らす。

 

「見えてきたな、アビドスが!」

「うん。そうだね!」

 

 遠くに見える、砂漠に沈んだ街。

 

 ──アビドス自治区。

 

 そこは、最先端の科学技術に溢れたミレニアム自治区とは、まるで違う景色だった。

 そんな光景を見て、後部座席に座るトキが小さく息を吐く。

 

「私はアビドスに関しては……もう懲り懲りです」

「っ……あはは。トキはこの前まで四日間も、アビドスに張り込んでたもんね」

「はい。あれは苦行でした」

 

 トキは淡々と答えた。

 けれど、その声には隠しきれない疲労が滲んでいる。

 

「もう……アビドスを襲ったりはしないんだよな?」

 

 サキが、少しだけ警戒するように尋ねる。

 

「はい。現在は、アル様が新しい仕事を探しています。対策委員会を襲撃する事はないでしょう」

 

 トキは少しだけ居心地が悪そうに、サキから視線を外す。

 

「それならいいんだ、それなら!」

 

 サキの声が、ほんの少しだけ弾んだ。

 そんな二人のやり取りを聞きながら、私は自然と笑みを浮かべる。

 

「何はともあれ…………()()()()、サキ」

「っ……先生……!」

 

 サキがこちらを見る。

 

「ん? どうしたの?」

「いや……」

 

 サキは少しだけ照れくさそうに笑った。

 

「た、()()()()……」

 

 そして、サキは直ぐに窓の外へ顔を向ける。

 

「……なんか、その言い方……ずるいぞ、先生」

「え?」

「……何でもない!」

 

 サキはそっぽを向いた。

 

 けれど──、

 その口元は、誰が見ても分かるくらい緩んでいた。

 

 そんな時──、

 サキのスマホに通知音が鳴る。

 

「あっ……ホシノ先輩からだな」

 

 サキはスマホを操作し、モモトークを開く。

 

「っ! アズサ先輩たちを連れて、もう既に柴関ラーメンで、退院祝いを始めてるらしいぞ」

「おぉ〜! いいね! なら、私たちも早く合流しないとね!」

 

 私はアクセルを少しだけ踏み込み、アビドスの砂漠を駆け抜ける。

 

「え……? ち、ちなみにだが……トキの所属する『便利屋68』も今、うちにいるらしいぞ?」

「え? アル様たちがですか?」

 

 トキが反応をする。

 

「そうだ……ほ、ほら、見てくれ、トキ」

 

 サキがスマートフォンを後部座席へ向ける。

 

 画面には──、

 柴関ラーメンの店内で、ラーメンを頬張る便利屋68の姿が写っていた。

 

「……本当ですね」

 

 トキの眉が、僅かに動く。 

 

「アル様……今日は仕事を探すと言っていたのに……」

「ま、まあまあ……!」

 

 私は苦笑しながらフォローする。

 

「アル達も仕事見つかった祝いかもしれないしさ!」

「……そうですね。会って、直接確かめます」

「……トキ、アル達に何かするつもり?」

 

 私は不穏な雰囲気を感じて、トキに問いかける。

 

「いえ。何も」

 

 トキは小さくクスリと笑う。

 

「そ、その『何も』が怖いんだけど……」

「ふふっ……大丈夫です。先生には()()()()()()()

「なおさら、怖いんだけど……!?」

 

 助手席のサキが、そんな私たちのやり取りを聞いて小さく笑う。

 

「まあ……便利屋がいる方が、なんだかんだ大将も賑やかで喜ぶし、私は大歓迎だぞ」

 

 柴関ラーメンでアルバイトをしているサキからすれば、店が繁盛するのは嬉しいことなのだろう。

 

 そんな他愛もない会話を続けているうちに──、

 砂漠の向こうに、見慣れた街並みが少しずつ近付いてきた。

 

「……もうすぐだね!」

 

 私は装甲車を砂漠の道から街道へと入れる。

 しばらく走ると──、

 

「あっ! 見えてきたぞ!」

 

 サキが前方を指差した。

 

「あそこだ!」

 

 その先には、小さな看板が立っていた。

 

 ──【柴関ラーメン】

 

 私達は店横にある駐車場に、装甲車を駐車する。

 車から降りると、砂を乗せた風が肌を撫でた。

 

 店の中から、賑やかな声が聞こえてくる。

 

「……なんか、外まで聞こえてくるな」

 

 サキが苦笑する。

 

「うん。かなり盛り上がってるみたいだね」

「アル様がいる時点で、静かな食事会にはならないでしょう」

「それは……まあ、そうだね」

 

 私は苦笑しながら、店の入口へ向かう。

 そして──、

 

「──みんな、お待たせ!」

 

 サキの声と共に、私は暖簾をくぐって、店の扉を開けた。

 

「おっ! サキちゃん、おかえり! 怪我をして大変だったってな。もう大丈夫か!?」

 

 厨房から、大将の明るい声が飛んでくる。

 

「あぁ、大将! ただいま! もう大丈夫だ! またシフト入れてくれ!」

 

 サキは嬉しそうに厨房まで駆け寄ると、カウンター越しに大将へ笑顔を見せる。

 そんなサキを見て、大将は豪快に笑う。

 

 その大将の隣には、アルバイトをする()()()の姿もあった。

 

「っ! セ、セリカ……! もう働いているのか!? というか、怪我は大丈夫なのか?」

「えぇ、大丈夫よ。アンタは自分の心配をしなさい!」

「っ……ホシノ先輩たちから、セリカの事は聞いたんだ。その、私の為に……ありがとう、セリカ」

 

 サキは厨房にいるセリカに対して、深く頭を下げた。

 セリカは厨房を出ると、サキの前まで歩いていった。

 

「頭を上げてよ、サキ」

「……」

「私の方こそ……」

 

 セリカの瞳が、僅かに潤む。

 

「サキが無事で、本当に良かったわ」

「っ……セリカ……!」

 

 サキが顔を上げる。

 そして──、

 

「セリカぁ〜!」

「う、うわっ!?」

 

 感極まったサキが、セリカに抱き着いた。

 

「ちょ、ちょっと、サキ!」

 

 セリカが顔を真っ赤にする。

 

「いま私、バイト中なのよ! 服に油が付いちゃったら、どうするのよ!?」

 

 そう言いながらも、セリカの表情は嬉しそうだった。

 私は、その光景を見つめる。

 胸の奥が、じんわりと温かくなった。

 

「おかえり〜、サキちゃん!」

 

 そんな時だった。

 店の奥にあるテーブル席から、ホシノが顔を出す。

 

「それに、先生もおかえり〜!」

「うん。ただいま、ホシノ」

 

 私はホシノに手招きされ、テーブル席へ向かう。

 そのテーブル席には──、

 

 ホシノ。

 ノア。

 アズサ。

 チナツ。

 

 対策委員会の皆が揃っていた。

 

「っ……アズサ!」

 

 私は思わず声を掛ける。

 

「病院でのお見舞い以来だね。退院おめでとう!」

「ん? あぁ、先生か」

 

 アズサは顔を上げる。

 

「ありがとう、先生! それより、先生! 聞いてくれ! 初めて食べたんだが、台湾ラーメンって美味しいんだな! オススメだ!」

 

 アズサが目を輝かせながら、台湾ラーメンを啜る。

 そうして、私に笑顔を見せてくれる。

 

(本当に元気そうで、何よりだね)

 

 私はそんなアズサを見て、心の底から安堵する。

 良かった、本当に。

 

 そんな時──、

 

「……って、トキ!?」

 

 店内の反対側から、アルの叫び声が響いた。

 

「な、なんで……! トキがここにいるのよ!?」

「ハーッハッハッハッ!トキにバレてしまったなぁ〜、アル!」

「私は先生の護衛ですから」

 

 トキが淡々と答え、便利屋の三人を冷たく見つめる。

 トキを見たアルが冷や汗をかき、カスミが楽しそうに笑っている。

 

「え、えへへ……あっ、トキちゃんも食べますか? 昨日、シャーレで洗濯とお風呂掃除を手伝って貰ったお小遣いが、まだありますよぉ〜」

「……」

 

 ヒヨリがラーメンを美味しそうに食べながら、空いている隣の席を手で叩いた。

 

 トキは小さく息を吐くと、ヒヨリの隣に座った。

 

「皆様。店内です。お静かにお願いします」

「うっ……そ、そうね。対策委員会もいるものね……」  

「アル様。今朝、約束しましたが、本日は『仕事を探す』予定だったのでは?」

「そ、それは……! ち、違うのよ! トキ! これは、その……!」

 

 アルが慌てて周囲を見回す。

 

「し、市場調査よ! 市場調査っ!」

「市場調査……? ラーメンを食べることが、ですか?」

「そうよ! まずは腹を満たしつつ、飲食業界の現状を把握してるの!」

 

 そう言って、アルは自分の腹を大きく叩く。

 

「つまりは、腹が減っては戦ができぬ、という事だ、トキ」

 

 カスミの言葉に、アルは便乗して頷く。

 

「っ! えぇ、その通りよ! その通りなの! カスミ室長の言う通りだわ!」  

 

 アルは胸を張る。

 

「お腹を満たさなければ、見つかる仕事も見つからないわ! そうよ! これは仕事を探すための、必要な準備なの!」

「……アル様」

「な、何よ!?」

「シャーレのあるD.U.郊外からアビドス自治区に来たみたいですが、仕事の宛てはあるのでしょうか?」

「……」

 

 アルの笑顔が固まった。

 

「……まだD.U.の方が仕事がありそうな気はしますが」

「い、いや……その……」  

 

 アルはちらりと、カスミとヒヨリを見る。

 

「……ふ、二人とも、何とか言ってよ!」

「お? ヒヨリ、いいじゃあないか! 豚骨ラーメンも美味しそうだな。私も、もう一杯食べるか」

「っ!? あっ、カスミ室長、ずるいです。わ、私も、もう一杯……!」

「そういうことじゃないのよぉぉおぉぉ!!!」  

 

 店内にアルの悲鳴が響く。

 

「……相変わらずだな」  

 

 サキが呆れたように呟く。

 

「うん、そうだね。まあ、そんなところも、私は大好きだけどね」

「先生、私の隣が空いてますよ。どうぞ」

「ありがとうね、ノア。じゃあ、隣を失礼して」

 

 私は苦笑しながら、ノアの隣に腰を下ろした。

 

「主役であるサキちゃんも、こっちに座りなよ〜! 今日はアルバイトさせないよぉ〜!」  

 

 ホシノが隣の席を軽く叩く。

 

「あぁ、ありがとな、ホシノ先輩!」  

 

 サキも私の向かい側へと腰を下ろす。

 それからすぐに、セリカが私とサキのラーメンを運んできてくれる。

 

「よし! 全員揃ったし、改めて──!」

 

 ホシノが水入りのコップを持ち上げる。

 

「サキちゃん、アズサちゃん、退院おめでとぉ〜!!」

「おめでとうございます」

 

 ノアが微笑む。

 

「本当に……! 本当に、お二人とも、無事に退院できて本当によかったです」

 

 チナツも嬉しそうに頷いた。

 

「……ありがとな、みんな」

 

 サキが少し照れくさそうに笑う。

 

「私も……ありがとう」

 

 アズサも小さく頭を下げた。

 

「それじゃあ、みんな、コップを持って──!」

 

 ホシノがコップを掲げて、立ち上がる。

『便利屋68』の皆も、ホシノの声につられて、コップを掲げる。

 

「かんぱぁ〜いっ!!!」

「「「「かんぱーいっ!!!!」」」」

 

 店内に、生徒達の乾杯が響いた。

 

 それからしばらくの間──、

 私たちは、久しぶりに何も考えず食事を楽しんだ。

 

 アズサは相変わらず台湾ラーメンを気に入っていたらしく、黙々と麺を啜っている。

 

 ホシノとチナツはそんなアズサを眺めながら、楽しそうに笑っていた。

 

 サキも、大将が作ってくれたラーメンを嬉しそうに食べている。

 

「……やっぱり、柴関のラーメンは美味いな」

「そりゃあ、サキちゃんが一週間も休んでた分、気合い入れて作ったからな!」

「大将……!」

 

 サキが少し照れくさそうに笑う。

 

 私は、そんな光景を静かに眺めていた。

 

 ──生徒たちの笑顔

 ──生徒たちの、何気ない会話。

 

 今の私には、それが、とても()()()()()に感じられた。

 

 ようやく、アビドスの()()が戻ってきたのだと強く感じた。

 

 ……いや、正確には、戻ってきたというより。

 

 私の視界には『便利屋68』と『対策委員会』が目に入る。

 

 ()()()()()が、少しずつ形になっているのかもしれない。

 

 私は、そんなことを考えながらラーメンを啜った。






「ねぇねぇ、ヒヨリちゃん! ちょっと今いいかなぁ〜?」
「は、はい! ええっと……アビドスのホシノさん?」
「そうそう〜! 覚えられてて嬉しいなぁ〜。ちょっと、おじさん、隣に座っちゃうねぇ〜!」サワサワ
「ひぇ!?」
「……」
「な、何で、私の太ももを無言で撫でているんですかぁ!?」
「そんな事はどうでもいいでしょ? それに、『ひぇ』じゃなくて、『ひぃん』でしょ?」
「ひぃん!?!」
「うへぇ〜……ふふふっ……」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

エデン条約編IFストーリー トリニティVSアリウスVS便利屋68withセイア(作者:ホーンベアーmk-lll)(原作:ブルーアーカイブ)

この作品はあにまんのブルアカスレ「ここだけミカがアリウスではなく………」を元にした作品です。最初の方は掲示板のストーリーを準拠にし、少しづつオリジナルにしていこうと思っています。そこのところのご理解をお願い致します。▼元スレhttps://bbs.animanch.com/board/5279507/▼あらすじ▼真のアウトローに憧れ、アウトローとなる為に会社…


総合評価:734/評価:8.82/連載:19話/更新日時:2026年06月14日(日) 20:26 小説情報

セリカがタイムスリップして1年生のホシノと同級生になる話(作者:気弱)(原作:ブルーアーカイブ)

ある日、アビドスに「夜な夜な黒い影のようなものが独りで歩いている」という噂を聞いた対策委員会は調査をすることに▼しかし実際には何事もなく噂の黒い影も見当たらずパジャマパーティへと移行してしまう▼夜中、ホシノのイタズラのせいで怯えたアヤネがセリカと一緒に御手洗に行った帰りすすり泣くような声と足音が聞こえる▼セリカはホシノのイタズラだと決めつけ一人で追いかけると…


総合評価:1503/評価:8.81/完結:44話/更新日時:2026年05月25日(月) 00:00 小説情報

ブルーアーカイブでブルアカを(作者:粋刺@翻訳)(原作:ブルーアーカイブ)

秘密というのは局部のようなもの。▼むやみやたらに見せびらかしたくはない。▼───▼作:NekoNekoBoy▼訳:粋刺▼※一部にプロジェクトKV要素有り。(知らなくても問題ないです。)▼金も学籍も学歴もなく、ただロリロリしいCute and Funnyな身体になってしまい、不良の方がマシな境遇にいきなり置かれた元先生(現姉貴)。金のために仕方なく道徳観を捨て…


総合評価:1159/評価:8.47/連載:19話/更新日時:2026年08月18日(火) 18:00 小説情報

壊れた楽園からの少女達(作者:名無しの投稿者)(原作:ブルーアーカイブ)

無数に広がる中で存在する滅んだ世界、取り返しのつかなくなった世界。様々な世界から、導かれるように辿り着いた少女達。彼女達と出会った少年は、未来のために、今度こそと望む少女達と共に運命に向かって抗い始める。


総合評価:493/評価:8.44/連載:8話/更新日時:2026年08月19日(水) 21:11 小説情報

先生は汚い大人です(作者:こうすけ増田劇場版)(原作:ブルーアーカイブ)

大人だ先生だ言って笑顔で愛想よく振り向く?無理に決まってんだろ。▼最低な大人?ありがとう、最高の褒め言葉だ。


総合評価:1013/評価:7.18/連載:14話/更新日時:2026年08月03日(月) 23:09 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>