何かがおかしいブルーアーカイブ   作:千ノ宮チノ

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──SYSTEM ONLINE。
──アリウス自治区へようこそ、欠陥品。





第39話:壊れるアビドスの日常

 

「……はぁ。それでは、契約通りに始めます」

 

 装着したゴーグルに無機質な文字が浮かび上がる。

 

「接続を確認。完了──全システム正常」

 

 視界が切り替わる。

 代わりに広がったのは、キヴォトスを上空から見下ろすような立体映像。

 

 キヴォトスの街並みが、全て三次元データとして再現されている。

 

 ──風速は、八メートル。

 ──風向きは、南西方向。

 

「問題なし」

 

 その()()は指を動かす。

 照準システムが起動し、演算を開始する。

 

 ──TARGET SEARCH。

 

 視界の中に、無数の光点が浮かび上がった。

 けれど、その少女は迷わない。

 

「……()()()()()()()に指定」

 

 ──TARGET LOCK

 

 赤い照準が、立体映像の一点へと重なる。

 そこは、アビドス自治区。

 

「捕捉完了。ようやく、ミレニアムを出ましたか」

 

 その周囲には、複数の反応が存在している。

 少女はそれらを一瞥し、目を瞑る。

 

「……最終補正を開始します」

 

 照準の周囲に、無数の数字が浮かび上がる。

 

 高度。

 速度。

 角度。

 予想到達時間。

 

 その少女は、全てを処理していく。

 

「……」

 

 数字が一つ。

 また一つと確定していく。

 

「誤差……許容範囲内」

 

 私は照準を僅かに動かす。

 赤い円が、『シャーレの先生』へピタリと重なる。

 

「これくらいで、いいですか……」

 

 ──TARGET LOCK COMPLETE。

 

「……()()

 

 その少女は、ぽつりと呟いた。

 

 当然、返事はない。

 ここからでは、誰にも声なんて届かない。

 

「……先生は、何故……っ……いえ、こんな事を言っても無意味です。先生は危ないと言っても進むような人ですから……」

 

 少女は拳を強く握りしめる。

 

「だから、全ては()()()()()()私たちの責任です」

 

 ──ALL SYSTEM:STANDBY。

 ──TARGET:SHALE TEACHER。

 

「……責任は私が取ります。とうに、覚悟は決めていますから」

 

 少女は、赤いボタンへ手を伸ばす。

 

「たとえ、この世界の敵になろうとも……」

 

 そして──、

 少女は赤いボタンを押し込んだ。

 

 

 ■□■□■□■□■□■□■□■

 

 一方その頃。

 

 ──柴関ラーメン屋。

 

「先生、何してるんだ?」

「ん? アズサ?」

「ずっとスマホを見てるみたいだが……」

「あぁ、ちょっと、連邦生徒会の()()()()()に一つお願いをしててね」

 

 私はスマホのモモトーク画面をアズサに見せる。

 

「っ……そんなことをお願いしていたのか?」

「うん、まあね。私は先生として、知っておくべきだと思うから」

 

 そう言い、私は店内をアズサと見回し──、

 

「というか、先生……あれを見てくれ! ホシノ先輩が、便利屋にダル絡みしてるぞ?」

「……う、うん。私の視界にも入っちゃったよ」

 

 アズサが指差す先には──、

 

「ヒヨリちゃんさぁ〜、髪結ぶのやめてみない?」

「こ、このままがいいです!!」

「そんな事言わずにさぁ〜、おじさん似合うと思うんだけどな〜」

 

 ホシノが、便利屋68のヒヨリに絡んでいた。

 

(これは……酔っ払いのおじさん並みにダル絡みしてるね)

 

 私は苦笑しながら、二人のいるテーブルへ向かう。

 

「ホシノ。そろそろ、ヒヨリを解放してあげたら?」

「えぇ〜? 先生、でも、ヒヨリちゃん、可愛いんだもんねぇ〜?」

「か、可愛……っ!? あ、あの……その……!」

 

 ヒヨリは顔を真っ赤にしながら、隣に座るトキへ助けを求めるような視線を送る。

 

「先生が言うのであれば……ヒヨリ先輩を、あまり困らせないでください、小鳥遊(たかなし) ホシノ」

「そうですよ、ホシノ先輩。 便利屋のヒヨリさんが困っています」

 

 ノアも私の隣に来てくれて、ホシノの首根っこを掴む。

 ホシノは残念そうに肩を落としている。

 

「うちの社員を可愛がるのは結構だけど……これくらいにしてちょうだい!」

 

 アルまで加わり、ホシノを指摘する。

 

「うへぇ〜……みんながそこまで言うなら、仕方ないなぁ〜」

 

 ホシノは心底残念そうに、ヒヨリから離れる。

 

「た、助かりましたぁ……」

 

 ヒヨリが小さく息を吐く。

 

「でも、ヒヨリちゃんが可愛いのは本当だからね〜?」

「ひぇっ……!」

「……」

 

 ホシノが、じーっとヒヨリを見る。

 ヒヨリの身体がびくっと震えた。

 

(……まあ、これは放っておこう)

 

 私は視線を逸らした。

 

「……ところで、先生」

 

 そんな私へ、ノアが声を掛ける。

 

「さっきから気になっていたのですが、その鞄は何でしょうか?」

「ん? これのことかな?」

 

 私は自分の鞄を見る。

 

「先生が普段から持ち歩いているものとは違いますよね」

「あっ……そうだ! アビドスのみんなに渡さないとね!」

 

 完全に忘れていた。 

 私は鞄から一枚のBD(ブルーレイディスク)を取り出す。

 

「今朝、ヒナから預かったものなんだ。何でも、今回の騒動のお詫びみたいだよ」

「……あの会長ちゃんが、私たち(アビドス)に?」

 

 ホシノが、少し意外そうにBDを見つめる。

 

「うん。ヒナが言うには……ヴェリタスを通して、アビドスに役立つ情報を調べてくれたみたいなんだ」 

「……ヒナ先輩が、か?」

 

 サキの声がして、振り返る。

 そこには、サキもはじめ、対策委員会の皆が集まってきていた。

 

「この鞄の中……こちらは、盗聴器? それに、盗撮カメラも……」

 

(……なんかノアが小声で怖い事を言っているが、聞かなかったことにしよう、うん)

 

「だったら、先生。今すぐに確認してみるか?」

「え?」

「大将に頼めば、あのテレビで観る事が出来ると思うぞ?」

 

 サキは、店内の隅に置かれたテレビを指差す。

 

「そうだね。大将が良いって言ってくれるなら、かな?」

「任せろ!」

 

 サキはBDを受け取ると、そのまま大将のもとへ駆けていく。

 

「大将! テレビ借りていいか?」

「おう、構わねぇぞ! ちょうど、お嬢ちゃん達と先生しか、客もいないしな!」

「ありがとう! 大将!」

 

 サキはテレビへと駆けていく。

 

「セリカ! ちょっとそこの椅子取ってくれ!」

「えっ!? 私!? もう……仕方ないわね! はいはい!」

 

 セリカが渋々といった様子で、椅子を運んでくる。

 サキがその椅子に乗り、テレビのプレイヤーにBD(ブルーレイディスク)を差し込む。

 

「……これでよし」

 

 ──カチッ。

 

 しばらくすると、テレビ画面が暗くなった。

 

 そして──、

 

『これで……聞こえているのかしら?』

「っ……!」

 

 聞き覚えのある声。

 画面に映し出されたのは、ミレニアムサイエンススクールのセミナー所属。

 

 ──生徒会長の『空崎(そらさき) ヒナ』。

 

 ヒナからのビデオメッセージであった。

 

『この前、対策委員会には会ったばかりだから、自己紹介は割愛するわ。空崎(そらさき) ヒナよ』

 

 店内が静かになる。 

 さっきまで騒いでいたホシノ達やアル達も、全員がテレビへと静かに視線を向ける。

 

『まず、この動画は、私たち──ミレニアムからのお詫びになるわ』

 

 ヒナは小さく一礼して、カメラを真っ直ぐに見つめる。

 

『アビドスの対策委員会の現状については、よく知っている』

 

 一拍。

 

『そして、それが多額の借金によるものだということも』

 

 画面が切り替わる。

 

 そこに映し出されたのは──、

 

【ヘルメット団】

【カイザーコーポレーション】

 

「……え? カイザーコーポレーション、ですか?」

 

 ノアが、映し出された情報に眉を寄せる。

 

『結論から言うわ』

 

 ヒナの声が、店内に響く。

 

『アビドスを襲撃していたヘルメット団……その背後には、()()()()()()()()()()()()が存在している』 

「っ……!」

 

 アビドスの皆の空気が変わった。

 ホシノの表情から、先ほどまでの緩さが消える。

 

「……カイザーって、あの大企業か?」

 

 アズサが呟く。

 

『もちろん。複数の証拠も手に入れてあるわ』

 

 ヒナの言葉に続いて、画面に次々と資料が表示される。

 

 ──ヘルメット団の活動記録。

 ──武器の流通経路。

 ──資金の移動記録。

 

 そして──【カイザーローン】。

 

『これはヴェリタスが入手した正式な情報よ』

 

「っ……!? ま、待ってください! まさか、私たちが毎月支払っている()()が……そんな、ことが……!」

 

 ノアが何かに気が付いたようで、驚きに口元を抑える。

 

「どうしたの? ノアちゃん?」

「ホシノ先輩……そして、皆さん。画面のここを見てください」

 

 ノアは画面上の『資金の移動記録』を指差す。

 

「私たちの払っている毎月の利息が、ヘルメット団に流れています」

「っ……!?」

 

 ノアが、震える声で言う。 

 その事実に、対策委員会の面々が驚きのあまり、絶句した。

 

 私も画面を凝視する。

 カイザーローンからの、資金の流れ。

 

 対策委員会から受け取った現金は──、

 まるで一本の糸で繋がっているように、ヘルメット団へと横流しされていた。

 

(……これは、原作でもあった情報だけど)

 

 胸の奥に、嫌な感覚が広がる。

 

(改めて見ると……本当に、ふざけてるね。生徒のことをカイザーは何だと思っているんだ……)

 

「……つまり」

 

 ホシノが、低い声で呟く。

 

「私たちが必死になって返してきた借金が……私たちを襲っていた連中の活動資金になってたってこと?」 

「……そういうことに、なります」

 

 チナツが俯いて、拳を握る。 

 

「ふざけるな……」

 

 サキが拳を握り締める。

 

「私たちがどれだけ働いて……」

 

 サキの声は震える。

 

「どれだけ節約して……」

 

 拳がさらに強く握られる。

 

「それでも返せないって言われ続けてきた借金が……私たちを襲うために使われてた?」 

「サキ……」

 

 アズサが心配そうに声を掛ける。

 

 だが──、

 ヒナのメッセージは、それだけで終わらない。

 

『最後に、もう一つ。貴方たちに伝えることがあるわ』

 

 画面が切り替わる。

 そこに映し出されたのは──アビドスの砂漠。

 

 その砂漠を、上空から撮影された衛星写真だった。

 

『アビドスの捨てられた砂漠……あそこでカイザーコーポレーションが何かを企んでいるわ』

「……ん?」

 

 ホシノが目を細める。

 

「……あの砂漠に、あんな建造物があったか?」 

「おじさんも知らないなぁ、アズサちゃん」

 

 対策委員会のみんなも知らない建造物が、アビドスの砂漠の真ん中に建てられている。

 その事実に、対策委員会の全員が息を呑んだ。

 

「あんなのが、いつの間に……?」

 

 サキが画面に顔を近付ける。

 

 衛星写真には、周囲の砂漠とは明らかに不釣り合いな巨大な建造物が存在している。

 

 地面から突き出すように建てられた、巨大な謎の施設。

 そして、その周囲には複数の輸送車両と、いくつものコンテナらしきものまで確認できる。

 

「……これは、かなり大きな施設のようですね」

 

 ノアが未だに信じられないかのように、目を見開く。

 

「ですが、アビドス砂漠に、このような施設があるだなんて、聞いたことがありません」

 

 チナツも困惑した様子で呟いた。

 

「カイザーが、あの場所で何かを企んでいるって……()()()()()()()()()()……」

 

 ホシノは画面を見つめたまま、小さく呟く。

 先ほどまでの緩い雰囲気は、完全に消えていた。

 

『以上が、C&Cが迷惑をかけたお詫びよ』

 

 ヒナが最後にそう告げる。

 

『私も陰ながら、アビドス高等学校を応援しているわ』

 

 そして──、

 ヒナからのビデオメッセージは終了した。

 

 テレビ画面が暗くなり、店内には、妙な静けさが残った。

 

 先ほどまでラーメンの匂いと談笑で満たされていた店内が、今は誰も言葉を発さない。

 

「……カイザー、か」

 

 やがて、ホシノが小さく呟く。

 

「だったら、カイザーと……あの砂漠の中にあった施設も調べる必要があるな」

 

 サキが低い声で言った。

 

「サキの言う通り。カイザーが何を企んでいるのか分からない以上、放っておくわけにはいかない」

「そうですね」

 

 アズサの言葉に、ノアも頷く。

 

「ヒナ先輩がわざわざ教えてくださった以上、何らかの意味があるはずです。あの施設については、私の方でももう少し詳しく調べてみます」

「……うん」

 

 私はチナツの言葉に頷いた。

 

(これって……原作だと、対策委員会のみんながブラックマーケットに行って()()()()をする事で得られる情報だよね……)

 

 そして──、

 アビドス砂漠でのカイザーの企みも、その後の()()()()()()()()との戦闘後に明かされる真実だ。

 

(こんな()()ではなかった)

 

 この情報を得るために、私たちはもっと遠回りをするはずだった。

 

 ──ブラックマーケットへ向かい。

 ──銀行強盗までして。

 

 その過程で、ようやくカイザーの企みへと辿り着く。

 

 だけど、この世界では──、

 その手順すら必要なくなってしまった。

 

 ヒナが、直接情報を持ってきてくれたから。

 

()()()()()()()……)

 

「対策委員会の子たちも、大変なのね」

「人生はやっぱり、辛いことばかりですよねぇ……」

 

 そんな中──、

 便利屋68の皆は、ホシノ達を他人事のように見つめていた。

 

 ──その時だった。

 

「……ん?」

 

 カスミが、突然顔を上げた。

 

()()()は何だ?」

 

 カスミは、店の窓へと視線を向ける。

 先ほどまで豪快に笑っていた表情が、一瞬にして変わっていた。

 

「っ……まさか、あれは……!」

 

 カスミの顔から血の気が引き、直ぐさま、私へ視線を向ける。

 

「トキ!! 今すぐに先生を連れて、この場から()()()ッ!!!!!」

「──っ!?」

 

 突然の怒号。

 

 次の瞬間──、

 店の外から、異様な音が轟く。

 

 ──ゴォォォォォォォッ!! 

 

「……な、なんだ?」

 

 アズサが店の窓へと視線を向ける。

 窓ガラスが、微かに震えて、食器がカタカタと音を立てる。

 

 トキが瞬時に私の前にやってきて、腕を掴む。

 そんな中、私は反射的に窓を見てしまった。

 

「え……?」

 

 そして──()()()

 

 遠くの空。

 こちらへ向かってくる()()()()

 

 トキは直ぐさま、私の身体を引き寄せた。

 

「っ!? まさか……ま、間に合わない……! 先生、伏せてください!! 」

 

 それは、普段の淡々とした声とは違う。 

 

「え……?」

「早く!!!」

 

 トキの表情には、明確な()()が浮かんでいた。

 

「ト、トキ!?」

 

 トキが私に飛びつき、その勢いで私たちは床に倒れる。

 その身体で、私を覆うように、強く強く抱き込む。

 

 ──次の瞬間、

 

「全員、伏せろォォォォォ!!!」

 

 カスミの絶叫。

 

 

 そして──、

 視界が、白く染まった。

 

 

 ──ドゴォォォォォォォォォンッ!!! 

 

 

 轟音。

 爆風。

 衝撃。

 世界そのものが、ひっくり返ったような感覚。

 

 何が起きたのか、理解する暇すらなかった。

 

 爆風が店内を駆け抜ける。

 テーブルが宙を舞い、椅子が吹き飛ぶ。

 窓ガラスが一斉に砕け散り、壁が大きくひしゃげた。

 

 誰かの叫び声が聞こえる。

 けれど、それすらも爆音に掻き消されていく。

 

 私はただ──、

 トキに抱き締められたまま、床へ叩きつけられた。

 

 視界が回る。

 音が消える。

 

 ──私は、何も分からないまま意識を手放した。

 





「ん。先生やみんなが、大ピンチ」
「そ、そんな事を言っている場合じゃ……! せ、先生やアビドスの皆さんの救助を早くしないと!?」
「ヒフミが気にすることは別にある。銀行強盗が無くなったから、ブラックマーケットへ行かない。よって、ヒフミの出番は無し」
「……え?」
「ん。つまり私と仲間!」キラキラ
「……え?」

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