何かがおかしいブルーアーカイブ   作:千ノ宮チノ

44 / 44


自らの神聖を否定した者たちが迎える結末は、ただひとつ。
すべての次元、すべての世界、すべての可能性から──『忘れられた神々』を追放する。
歪んだ世界に終焉を告げ、全てをあるべき形に戻すのだ。




第40話:火と灰に染まる日

 

『先生! 目を覚ましてください! 先生!』

 

 気が付くと、私は青く透き通った()()にいた。

 

 床には薄く水面が広がり、波紋が揺れている。 

 教室の壁は一部が崩壊し、机が乱雑に積み上がっている。

 

 そんな教室の中には、()()()()()

 

()()()……?」

「先生、大丈夫ですか?! 気を確かに!」

 

 アロナが、瞳に涙を浮かべながら私を見つめている。

 

(一体、何が……起きたんだ……?)

 

 状況が理解できない。

 頭がぼんやりとしている。

 

 ただ、目の前にいるアロナが、ひどく弱っていることだけは分かった。

 

「私も、先生を何とか守ろうとして……」

 

 アロナの身体が、僅かに揺れる。

 

「けど……もうこれ以上は……力が……」 

「アロナ?」

 

 アロナがふらつく。

 私は咄嗟に手を伸ばそうとする。

 

 けれど──、

 身体が重たく、思うように動かない。

 

「アロナ! 大丈夫なの?! アロナっ!」

「先生……」

 

 私は歯を食いしばり、アロナに何とか駆け寄る。

 アロナが、弱々しく笑った。

 

「私は、大丈夫です」

 

 その言葉とは裏腹に、アロナの身体から力が抜ける。

 そうして、バタリと床に倒れる。

 

「先生を……守れたなら……!」

「待って、アロナ!」

「私は、大丈夫、ですから……!」

 

 その瞬間──、

 視界が、白い光に覆われた。 

 

 □■□■□■□■□

 

 誰かの呻き声が聞こえた。

 視界が回り、何が起きたのか分からない。 

 身体にも力が入らない。

 

 ──痛い。身体が重くて痛い。

 

 耳鳴りだけが、頭の中で甲高く響いている。

 

 それでも──、

 飛鳥馬(あすま) トキは、ゆっくりと目を開けた。

 

「……っ」

 

 ぼやけた視界。

 その中に飛び込んできたのは──、

 

 燃える地面。

 崩れ落ちた天井。

 大量の瓦礫。

 

 それは跡形もなく崩壊した、柴関ラーメン屋だった。 

 

 ──トキは思い出す。

 

 直前に聞こえた轟音。

 空から飛来した、一本の光。

 

 そして──、

 脳裏に原型を留めずにひしゃげた先生の姿が脳裏に過ぎる。

 

「ッ……先生!!」

 

 トキの身体が跳ね起きる。

 その瞬間、腕の中に柔らかな感触があることに気付く。

 

「っ……!!」

 

 そこには──、

 目を閉じて動かない先生の姿があった。

 

「ぇ……せ、先生……?」

 

 トキの声が震える。

 

「先生! 聞こえていますか?! 先生!」

 

 トキは慌てた様子で、必死に呼び掛ける。

 

「先生、返事をしてください! 先生!!」

 

 先生からの返事はない。

 トキは直ぐさま、先生の頬に手を当てる。

 

 ──温かい。

 ──呼吸もある。

 

 トキはさらに確認する。

 

「っ……心音も、正常」

 

 トキは大きく息を吐いた。

 

「……よかった」

 

 その瞬間──、

 トキから安堵の声が漏れる。

 

「本当に、よかったです……先生が、()()()()()()

 

 先生の安否が確認できただけで、胸を締め付けていたものが少しだけ解けていく。

 

「先生が、生きています」

 

 トキは先生を抱き寄せる。

 その身体を、強く強く──。

 

「……私が、お守りますから」

 

 トキは無意識のうちに、小さく呟き、警戒した様子で周囲を見回す。

 

 見る影もなく崩壊し、炎上するラーメン屋。

 

 壁は吹き飛び、屋根は崩れ落ちている。 

 店内にあったテーブルや椅子は瓦礫となり、辺りには砕けた食器や看板の破片が散乱していた。

 

「っ……皆さんの安否は……」

 

 トキの声が、瓦礫の間に響く。

 先程まで、対策委員会が退院祝いをしており、便利屋68もあれほど騒がしくしていた場所とは思えないほど、辺りは炎に包まれている。

 

「……」

 

 トキは先生を抱えたまま、立ち上がろうとする。

 しかし──、

 

「ッ……!」

 

 脚に力が入らない。

 身体のあちこちから痛みが走った。

 それでも、トキは歯を食いしばる。

 

「誰が、このような事を……」

 

 怒りが込み上げる。

 しかし、今はそれを考えている場合ではない。

 

「こんなところで、止まっている場合ではありません」

 

 トキは先生を抱き上げる。

 

「一刻も早く、先生を安全な場所へ……!」

 

 その時だった。

 

「……う、うぅ…… ……」

「っ! どなたですか!」

 

 瓦礫の向こうから、かすかな呻き声が聞こえた。

 トキは即座に振り向く。

 

 先生を抱えたまま、瓦礫へ近付いていく。

 そこにいたのは──、

 

「……あなたは、店員の?」

「ぐっ……い、痛いわね……」

 

 瓦礫の下から這い出てきたのは──セリカだった。

 髪は乱れ、全身に擦り傷が見受けられる。

 

「……アンタは、確か、トキよね? 無事そうで良かったわ」

「っ! セリカさん、身体から出血が……」

「私は、平気よ……丈夫だから」

 

 セリカはふらつきながら立ち上がる。

 そして、トキの腕の中にいる人物を見た。

 

「え……?」

 

 次の瞬間、セリカの顔が青ざめる。

 

「せ、先生?! 先生は大丈夫なの!?」

「幸いにも外傷は殆どなく、意識は失っているだけです。呼吸も安定しています」

 

 トキが腕の中を見せる。

 

「そ、そう。良かったぁ……本当に」

 

 セリカが胸を撫で下ろす。

 だが──、

 

「……ねぇ、他のみんなは?」

「まだ確認できていません」

「……っ」

 

 セリカが辺りを見回す。

 

「サキ……大将……ホシノ先輩たち……」

「っ……アル様たちも見当たらず……」

 

 セリカがふらつきながらも、瓦礫を退かそうと駆け出す。

 

 しかし──、

 

「待ってください」

 

 トキがセリカの肩を掴んだ。

 

「っ! 何よ!? 早くみんなを助けないと!!」 

「危険です。今の状態で無理に瓦礫を動かせば、二次崩落が起きる可能性があります」

「でも……!」

「共に、慎重に瓦礫を退かして、確認しましょう」

 

 トキは先生を抱いたまま、瓦礫の隙間へ視線を向ける。

 

「……」

 

 耳を澄ます。

 微かな音。

 この瓦礫の下から──、

 

「……聞こえます」

「え?」

「呻き声がこの下から……誰かいます」

 

 セリカと共に、トキは空いた手で、慎重に瓦礫を一つずつ退かしていく。

 

「……っ」

 

 小さな瓦礫を取り除く。

 その下から──、

 

「うぅ……」

「大将っ!」

 

 セリカが叫んだ。

 瓦礫の下には、柴大将が倒れていた。

 

「ぐっ……いてぇ……」

「大丈夫!?」

「……お嬢ちゃんたちは……無事か……?」

「はい。私たちも先生も生きています」

「そうか……」

 

 大将は安心したように息を吐く。

 

「なら、よかった」

「何が『よかった』よ……!」

 

 セリカが目元を拭う。

 

「お店が、こんなになって……大将のこれまでが……全部、全部……!」

 

 大将は崩れ落ちた店内を見回す。

 

「……また建てりゃいい」

「っ……!」

「店なんてな、何度でも建て直せる」

 

 大将は苦しそうに笑った。

 

「嬢ちゃんたちが生きてりゃ、それでいいんだよ……多分、そこで意識を失ってる先生だって、同じ事を言う!」

「っ……大将……」

 

 その言葉に、セリカは唇を噛み締めた。

 そして──、

 

「うへぇ……セリカちゃん達の声が聞こえるねぇ。おじさんも、生きてるよ……」

 

 瓦礫を押し退けながら、ホシノが姿を現した。

 制服は埃まみれ。

 片方の袖は破れ、額には血が滲んでいる。

 

「ホシノ先輩!」

 

 セリカが駆け寄る。

 

「ストーカー先のセリカちゃんに心配されるなんて、おじさんは果報者だなぁ……けど、大丈夫だよ。ちょっと頭打ったくらいだから」

「その『ちょっと』って信用できないんだけど……」

「おじさんの事は、いいんだよ」

 

 ホシノがトキの腕の中にいる先生を確認して、顔を歪める。

 

「……()()()()()

 

 ホシノが小さく呟く。

 そして、立ち上がると、直ぐに周囲を確認する。

 

 そして──、

 瓦礫の下から次々と、傷だらけの生徒たちが姿を現した。

 

「サキちゃんやノアちゃんたちは?」

「こ、ここだ……ホシノ先輩!」

「私も何とか……!」

 

 瓦礫の向こうから、サキとノアが返事をする。

 

「……っ、いてて……」

 

 サキは鉄帽を押さえながら立ち上がる。

 

「セリカ、無事だったか?」

「そっちこそ! サキ、ボロボロじゃない!?」

「この程度、どうってことない!」

 

 そう言いながらも、サキの制服は所々が破けて、血が滲んでいる。

 

「アズサちゃんはいるー!?」

「ここにいる、ホシノ先輩」

 

 瓦礫の隙間から、アズサが姿を現す。

 腕からは血を流し、その腕を止血する為にマフラーが巻かれている。

 

「問題ない。チナツは?」

「ッ……こ、こちらです……まだ動けます!」

 

 チナツも瓦礫を押し退けながら、何とか自力で立ち上がった。

 

 全員、外傷だらけで無事とは言えない。

 それでも──生きている。

 

「……よかった」

 

 ホシノが小さく呟く。

 

「みんな、生きてる」

 

 ホシノは対策委員会の安否を確認でき、胸を撫で下ろす。

 

「アル様! いらっしゃいませんか!?」

「私はここよ……トキ!」

 

 崩れた壁の向こうから、アルが姿を現した。

 ジャケットは破れ、額からは血が流れる。

 

「いきなり何なのよ、これは……!」

 

 アルの後ろからは、カスミがヒヨリを肩で支えながら、姿を現す。

 

「ッ……アル、大丈夫か?」

「ぐっ……私は大丈夫よ! カスミが直前で教えてくれたおかげよ」

「それなら、良かった」

 

 カスミが心底安心した様子で、胸を撫で下ろす。

 

「痛いし、辛いです。何でこんな事に……何で、()()()()が……」

 

 その隣にはヒヨリもいて、痛みに顔を顰めている。

 

「一体……誰が……?」

「それは、まだ分かりません」

 

 ヒヨリの呟きにトキが答える。

 

 そして──、

 腕の中にいる先生へ視線を落とす。

 

「ですが、今は先生を安全な場所へ移動させることを優先すべきです」

「っ!?! そ、そうね! 先生は……!!」

 

 アルの顔が青ざめて、トキに駆け寄る。

 

「ちょ、ちょっと待って! トキ! その先生は、どうしたの!? 大丈夫なの!?!」

「幸いにも意識を失っているだけです」

「よ、良かったぁ……トキのおかげよ。ヘイローのない先生が、生き残ったのは、()()なんだから」

 

 アルは大きく胸を撫で下ろす。

 その隣で、カスミもまた先生を見つめていた。

 

「……赴任したてとはいえ、シャーレの先生は各学園に目を付けられている。そんな注目の的がいる状況下で、ミサイル攻撃……こんなことをするのは、どの組織だ」

 

 カスミに、普段の笑みはない。

 険しい表情で周囲を見回している。

 

 その時だった。

 

 ──ダッダッダッ。

 

 砂煙の奥──、

 遠くから、複数の足音が聞こえてきた。

 

「っ……! 誰か来る!」

 

 アズサが即座に銃を構える。

 

「人数は、多いですね……この状況を作った敵の登場ということで良いのでしょうか」

 

 ノアも銃を構えて、足音の鳴る方向を睨みつけた。

 

 砂煙の向こう側からは、次々と人影が現れる。

 

 ──赤と黒を基調とした制服。

 そして──赤い腕章に刻まれる校章。

 

「あれは、()()()ですか?」

 

 チナツが目を見開く。

 

「そうだね、ゲヘナっぽいねぇ……これは、冗談では済まされないよ」

 

 ホシノが静かに一歩前に出る。

 

「ゲヘナはさぁ、アビドス自治区に()()()()()()()()ってことでいいのかな?」

 

 ホシノに続いて、アルも怒りを露わにする。

 

「っ! ふ、ふざけないで、ちょうだいっ! 何で貴方たちがアビドス自治区にいるのよ!」

 

 アルはそのゲヘナの組織に見覚えがあるようで、怒りのままに睨みつける。

 

「……()()()()()()()()、ですか」

 

 トキがその集団を見つめ、小さく呟く。

 

 ──ゲヘナ風紀委員会。

 それは、混沌に満ちたゲヘナ自治区の治安を維持する武力組織である。

 その実力はキヴォトス三大学園の名に恥じない実力者集団。

 

「全員、その場から動くなッ!!!!」

 

 ゲヘナ風紀委員会から、鋭い怒号が響き渡る。

 

 先頭に立つ、その()()()の生徒の言葉に合わせて、風紀委員会の生徒たちが一斉に銃を構えた。

 

「……っ!」

 

 対策委員会と便利屋68も、反射的に身構えて銃を構える。

 

 だが、トキだけは違った。

 

 先生を抱き締めたまま──、

 決してその腕を緩めない。

 

 そして、静かに風紀委員会を見つめる。

 

「……」

 

 その瞳から、普段の余裕は完全に消えていた。

 

 






小生の想定通り……あの忌々しい聖櫃のせいで、先生は死なない。
そのことは、黒服からも前例を聞いている。

だが、最も重要なのは、物語が先生が眠る間に進行していくということ……先生は果たして、いつ目覚めるでしょうか。

早く起きなければ……ヒヒッ……もう手遅れに。


攻略法その1──『肉体には物理的限界がある』

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

エデン条約編IFストーリー トリニティVSアリウスVS便利屋68withセイア(作者:ホーンベアーmk-lll)(原作:ブルーアーカイブ)

この作品はあにまんのブルアカスレ「ここだけミカがアリウスではなく………」を元にした作品です。最初の方は掲示板のストーリーを準拠にし、少しづつオリジナルにしていこうと思っています。そこのところのご理解をお願い致します。▼元スレhttps://bbs.animanch.com/board/5279507/▼あらすじ▼真のアウトローに憧れ、アウトローとなる為に会社…


総合評価:741/評価:8.82/連載:19話/更新日時:2026年06月14日(日) 20:26 小説情報

セリカがタイムスリップして1年生のホシノと同級生になる話(作者:気弱)(原作:ブルーアーカイブ)

ある日、アビドスに「夜な夜な黒い影のようなものが独りで歩いている」という噂を聞いた対策委員会は調査をすることに▼しかし実際には何事もなく噂の黒い影も見当たらずパジャマパーティへと移行してしまう▼夜中、ホシノのイタズラのせいで怯えたアヤネがセリカと一緒に御手洗に行った帰りすすり泣くような声と足音が聞こえる▼セリカはホシノのイタズラだと決めつけ一人で追いかけると…


総合評価:1504/評価:8.81/完結:44話/更新日時:2026年05月25日(月) 00:00 小説情報

ブルーアーカイブでブルアカを(作者:粋刺@翻訳)(原作:ブルーアーカイブ)

秘密というのは局部のようなもの。▼むやみやたらに見せびらかしたくはない。▼───▼作:NekoNekoBoy▼訳:粋刺▼※一部にプロジェクトKV要素有り。(知らなくても問題ないです。)▼金も学籍も学歴もなく、ただロリロリしいCute and Funnyな身体になってしまい、不良の方がマシな境遇にいきなり置かれた元先生(現姉貴)。金のために仕方なく道徳観を捨て…


総合評価:1164/評価:8.47/連載:19話/更新日時:2026年08月18日(火) 18:00 小説情報

壊れた楽園からの少女達(作者:名無しの投稿者)(原作:ブルーアーカイブ)

無数に広がる中で存在する滅んだ世界、取り返しのつかなくなった世界。様々な世界から、導かれるように辿り着いた少女達。彼女達と出会った少年は、未来のために、今度こそと望む少女達と共に運命に向かって抗い始める。


総合評価:556/評価:8.65/連載:8話/更新日時:2026年08月19日(水) 21:11 小説情報

先生は汚い大人です(作者:こうすけ増田劇場版)(原作:ブルーアーカイブ)

大人だ先生だ言って笑顔で愛想よく振り向く?無理に決まってんだろ。▼最低な大人?ありがとう、最高の褒め言葉だ。


総合評価:1015/評価:7.18/連載:14話/更新日時:2026年08月03日(月) 23:09 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>