何かがおかしいブルーアーカイブ   作:千ノ宮チノ

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第41話:ゲヘナ風紀委員会

 

「全員! 銃を捨てて、その場に投降しろ!!」

 

 ゲヘナ風紀委員会──その組織に所属する()()()の少女からの警告が、炎に包まれたアビドスの街に響き渡る。

 

 その声と同時に、ゲヘナ風紀委員たちが、ホシノ達を逃さないよう、囲むように散開していく。

 

 視認で把握出来ないほどに、その数は多い。

 

 けれど──、

 ホシノは銃を離さず、一歩前に出る。

 

「……」

 

 先頭に立つ少女は、()()()()を揺らし、冷たい眼差しでホシノを見据えた。

 

 その少女の名前は──銀鏡(しろみ) イオリ。

 

 風紀委員会が誇る実力派の生徒であり、『銀髪片目隠れツインテール且つ、エルフ耳褐色肌悪魔しっぽ』と属性盛り盛りな可愛い生徒である。

 

 また、原作において、先生の奇行の犠牲になりやすい生徒でもある。

 

「おい! 聞こえなかったのか、そこのピンク髪! これ以上動くなッ!」

 

 そんな彼女──イオリは、スナイパーライフルを構えながら、ホシノを牽制する。

 

「……イオリ先輩。あの方は恐らく、()()()()の生徒かと思われます」

「っ……そういえば、此処はアビドス自治区なのか。()()()の指示とはいえ、うちの厄介者以外にもアレに巻き込まれていたとは、面倒な状況に……」 

 

 そんな彼女の隣には、黒髪ボブにイオリと同様にエルフ耳を持つ()()()()()もいた。

 

 彼女の名前は──『奥空(おくそら) アヤネ』。

 

 この世界において、ゲヘナ風紀委員会に所属する生徒である。

 

 しかし、原作の『ブルーアーカイブ』であれば──、

 ホシノ達と共に、対策委員会に()()()()()()()の生徒でもあった。

 

「アヤネ、全員に通達をしてくれ。もし邪魔をするなら、アビドスの生徒とはいえ、問答無用でまとめて叩きのめす」

「分かりました!」

 

 アヤネはタブレットを操作し、耳元のマイクで通達を回す。

 その言葉に、ホシノが眉をひそめる。

 

「問答無用で、叩きのめす、ねぇ……」

 

 ホシノはショットガンを構えたまま、イオリとアヤネを睨む。

 

「こっちは突然、ミサイルを撃ち込まれたんだよ。それなのに、反抗したら叩きのめすだなんて、意味が分からなくない?」

「っ……」

 

 アヤネの指が止まる。

 

「アビドス自治区の皆さんへは、申し訳なく思います。私も……いえ、何でもありません。出来るのであれば、これ以上抵抗しないでください。これはゲヘナ内の問題です」 

「……ゲヘナ内の問題、ですか?」

 

 ノアが眉を吊り上げる。

 

「ふざけないでください!!」

 

 ノアの握り締めた拳が、小刻みに震えている。

 

「ゲヘナ内の問題なら! どうして……どうして、アビドス自治区にミサイルを撃ち込んだんですか?!」

「っ……それは……」

 

 アヤネは答えない。

 いや──、

 正確には、その()()()()()()()

 

 その表情は、彼女自身も明らかに納得のいかない様子にも見えた。

 

「……アヤネ、少し下がっていろ」

「っ……すみません。分かりました、イオリ先輩」

 

 イオリがアヤネを庇うように前に出てくる。

 

「アビドスの生徒に、これ以上、説明する必要はない。私たちの目的は、あくまで『便利屋68』の捕縛だ」

 

 イオリはそう言い、アビドスの後ろにいるアル達を睨みつける。

 

「やはり私たち(便利屋68)か。だが、考えるべきは目的が私たちだけなのかだ。さて、このタイミングだと……」

 

 カスミは納得のいかない表情をしつつも、その視線をトキに抱き締められる先生へと静かに向ける。 

 そんな中、アルは風紀委員会に対して、声を荒らげる。

 

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」

 

 アルが一歩前へ出る。

 

「私たちが何をしたっていうのよ!?」

「……まさか自覚がないとは、思わなかったな」

「最近はゲヘナ自治区にすらいないし、貴方たちに、迷惑はかけていないでしょ!?!」

 

 アルはイオリに対して、言葉を続ける。

 

「そもそも、ここはアビドス自治区よ!? 勝手にミサイルを撃ち込んできて、その上で、私たちまで捕まえるっていうの!?」

「……」

 

 イオリは答えない。

 

「こっちには『()()』もいたのよ!?! それなのに、ミサイルを撃ち込むだなんて、風紀委員会は正気なの!?!」

「「──っ!?」」

 

 アルの言葉に、イオリとアヤネの肩が大きく跳ねる。

 

「え……? 先生って……まさか、()()()()()()()ですか?」

 

 アヤネが少しだけ震える声で、聞き返す。

 

「そうよ!」

 

 答えたのはアルだった。

 

「この人が、シャーレの先生よ!」

 

 アルはトキの腕の中へ視線を向ける。

 

 そこには──意識を失った()()()姿()がある。

 

 その身体を、トキがまるで何者からも奪わせまいとするように、強く抱き締めている。

 

「っ……!? ほ、本当に、先生、が……?」

 

 アヤネの顔から、血の気が引いていく。

 アヤネには以前、シャーレ奪還作戦にて、ユウカ、エイミ、ハルナと共に先生と戦った記憶がある。

 

「……私、たちは……何を……」

 

 見間違えるはずがない。

 トキが抱き締める男性は、()()であった。

 

 隣にいたイオリも、先生の存在を確認して、僅かに目を見開く。

 

「待て……」

 

 イオリの視線が、瓦礫と化した柴関ラーメン屋へ向けられる。

 

 そして──再び、先生へ。

 

「……あのミサイルに、シャーレの先生が巻き込まれた?」 

「そういうことだな」

 

 カスミが、低い声で答える。

 

「しかも、先生だけじゃないぞ?」

 

 カスミが周囲を見回す。

 

「何度も言うが、ここはアビドス自治区で、対策委員会の生徒たちもいた。それは即ち、他自治区での政治的紛争と言っても過言ではないじゃないか?」

「そ、それは……」

「おい、イオリ……! これはもう、君が判断できる域を超えているだろ? つまりは、この作戦の裏に『()()()()()』がいるんじゃないか? それなら、話をさせてくれ」

「ッ……鬼怒川(きぬがわ) カスミ……!」

 

 イオリは何も言わない。

 握っていたライフルの指が、僅かに震えていた。

 

「イ、イオリ先輩! 先生がいるのであれば、一刻も早く手当を……!」

「分かっている。分かっているんだ」

 

 イオリが俯き、小言で呟く。

 

「そもそも便利屋だけを狙った作戦で、先生やアビドスの連中がいるだなんて。最初から、そんな説明は……」

 

 イオリが低く答える。

 

「へぇ……ならさぁ〜?」

 

 その言葉に、ホシノが目を細める。

 

「便利屋がどうこうとか、どうでもいいから、その銃を下ろしてくれないかな?」

 

 ホシノがショットガンを構えて、イオリを睨みつける。

 

「それは──」

 

 イオリが口を開きかけた、その時だった。

 

『──イオリ』

 

 この場に、淡々とした声の通信音が響く。

 

『ここから先は、私が引き継いで説明するわ』 

「っ……この声は、()()()()()!?」

 

 アヤネが振り返る。

 

 その瞬間──、

 風紀委員会の隊列の中央に、ホログラムが展開される。

 

 そこに映し出されたのは──、

 

 ──黒を基調とした衣服に、()()()()

 ──グラマラスな肢体。

 ──色白の肌に、()()()

 

「ひぇ……! ふ、風紀委員長!」

 

 その姿を確認して、ヒヨリが悲鳴をあげる。

 

『初めましてね、アビドス廃校対策委員会』

 

 淡々とした声が、瓦礫の広がる戦場に響いた。

 

『私は、ゲヘナ学園の風紀委員長──調月(つかつき) ()()よ』

「……調月(つかつき) リオ」

 

 ホシノが、その名を小さく復唱する。

 対策委員会の面々も、一斉にリオのホログラムへ視線を向ける。

 

『尤も、私はこの肩書きが好きではないのだけれど……イオリ、状況は把握しているわ。風紀委員会は一度、銃を下ろしなさい』

 

 リオがそう宣言し、風紀委員会の生徒たちが、一斉に銃口を下げる。

 

「へぇ〜、親玉登場ってことね! アンタが、今回のミサイル攻撃を指示した張本人ってわけ?」 

 

 セリカが睨みつける。

 

『そうね。けれど、正確には、()()()()()()ではないわ』

「……どういう意味でしょうか?」

 

 リオは質問するノアを一瞥し、無視する。

 そして、僅かに視線を動かした。

 

 その先にいるのは──、

 ──()()()()()()()

 

 そして、その先生を抱き締めている飛鳥馬(あすま) トキ。

 

『……まず、確認したいことがあるわ』

 

 リオの声が、僅かに低くなる。 

 

『シャーレの先生は、生存しているのよね、()()?』

「っ……はい」

 

 トキはリオの質問に答える。

 

「意識はありませんが、呼吸と心音は確認しています」

『……そう。聞いていた通りね。報告には感謝するわ』

「っ……」

『なら、()()()()わね』

 

 リオは淡々と告げ、手に持つタブレットを何やら操作する。

 

「何を言ってるんだ……問題ない、だと? ただでさえ、ヘイローを持たない先生が被爆して、意識を失っているんだぞ!!」

 

 サキが眉をひそめて、リオを非難する。

 

『えぇ、分かっているわ。そして、この全ての状況が()()()()よ』

「──っ!?」

 

 リオは淡々と告げた言葉に、この場にいる全員が驚く。

 

『今回、私たちの目的は『便利屋68の捕縛』だけではないわ……もう一つ、目的があるの』

「もう、一つですか……?」

 

 ノアが警戒して、聞き返す。

 

『それは──シャーレの()()()()()よ』

 

 リオの赤い瞳が、トキの腕の中へ向けられる。

 

『その先生は()()()さえいれば、どうだっていいの。トキ、先生をこちらに渡しなさい』

「──っ!」

 

 その瞬間──、

 トキは、リオを強く睨みつける。

 

「お断りします!」

『……そう。断るのなら、強引に先生を貴方たちから奪い取ることになるわ。その場合は、先生を巻き込んだ戦闘は避けられない。それでもいいの?』

 

 リオはほんの一瞬だけ、悲しそうに表情を曇らす。

 けれど、すぐさまトキと視線を合わせ、問いかける。

 

 トキは周りの面々を見回した。

 

 ──対策委員会のホシノ達。

 ──便利屋68のアル達。

 ──そして、SRT特殊学園のセリカ。

 

 死んだフリをして、瓦礫の奥で身を潜める柴大将。

 

 皆がトキに対して、強く頷いた。

 

(っ……! 皆さんの意思は分かりました)

 

 トキが先生を抱き締める腕に、力を込める。

 

「それでも、お断りします! 先生を! 私たちを助けてくれた先生を……! 貴方になんか、渡しません!!」

『っ……』

 

 トキの力強い言葉に、リオは暫く黙る。

 けれど──、

 

『……そう。残念だわ、トキ。まったく、貴方も私のことを()()()()()()()()のね。それでも構わないわ……抵抗するのであれば、敵とみなすだけよ。()()()()()──総員、先生と便利屋の確保を目標に戦闘態勢に移行しなさい!!』

 

 リオの言葉に、風紀委員会の生徒たちの肩がピクリと跳ねる。

 そして、下ろした銃口を、再びホシノ達へと向ける。

 

「ちょっと待ってください!」

 

 チナツが声を上げる。

 

こちら(アビドス)側からの最後の確認にはなります! 便利屋と先生を捕まえるために、ゲヘナ風紀委員長は、アビドス自治区で戦闘を行うつもりなのですか!?」

『えぇ、その認識で間違いないわ』

 

 リオは、あまりにも淡々と答えた。

 

『そして、その理由についてを、部外者である貴方たちに一から全てを伝える義理もないわ』

「っ……ふざけないでください。私たちが人数の少ない弱小校だとしても……このような横暴が許されると……!」

 

 チナツが拳を握る。

 

「チナツ、あれはもう無理だ……チナツは先生の傍にいて、応急手当をしてくれ。後は私たちに任せてくれ!」

「っ……分かりました。ありがとうございます、アズサ先輩」

 

 アズサがチナツの前に出て、チナツを先生の元へ送る。

 

「チナツちゃん、ありがとねぇ……そして、これまでをまとめるとさ。アビドス自治区にミサイルをぶち込んだ上に、私たちから先生を奪い取っていく?」

 

 ホシノの声から、普段の気怠げな雰囲気が消えていた。

 

「そんな巫山戯た話、誰が納得するのかなぁ? ──()()()()()()()()?」

『納得してもらう必要はないわ』

「っ……!」

『もうこれは、交渉ではないもの』

 

 リオの声が、一段低くなる。

 

『貴方たちに、その先生を預けることはできない。だからこそ、ゲヘナ風紀委員会が、先生の身柄の確保し、()()するわ』

 

「──ふざけるなよ、ゲヘナッ!!!」

 

 ホシノが声を荒らげて、ショットガンを構え直す。

 

「ホシノ先輩の言う通りね! 先生は絶対に渡さないわよ!!」

「そうだ! ふざけるのも大概にしろ!」

 

 セリカとサキも銃口を僅かに上げる。

 

「私たちは、貴方のような身勝手な人に、先生を渡すわけにはいきません」

 

 ノアがそう宣言し、リオは眉を顰めた。 

 

「ハーッハッハッハッ! 物事が思い通りに進まなくて、納得のいかない表情をしているな、風紀委員長?」

『っ……鬼怒川(きぬがわ) カスミ……!』

 

 カスミが一歩前へ出た。

 

私たち(便利屋68)の捕縛を目的とするのは百歩譲るが、まあいい。けれど、そもそも先生の確保については、話にならん! 十分な説明責任を果たしていない人間に、我々の先生を預けるわけないじゃないか!!」

「っ! カスミ室長の言う通りよ! 『便利屋68』も先生を守るために抵抗するわ!! だって──」

 

 アルは胸を張る。

 

「先生は私たち(便利屋68)にとって──大切な()()()()なんだから!!」

 

 アルはリオに対して、堂々と宣言する。

 

『ッ。やはり理解に苦しむわね、便利屋……!』

 

 そんなやり取りをしている間にも、風紀委員会の生徒たちは少しずつ隊列を整えていく。

 

 対して、ホシノ達も先生を守るために、銃口が上げる。

 

 一人。

 また一人と。

 

 全員が、己の銃を構える。

 

 ──その瞬間だった。

 

 コツ。

 コツ。

 コツ、と。

 

 瓦礫を踏みしめる足音が、静まり返った戦場に響く。

 

『……っ。ようやく来たようね』

 

 

 そうして──、

 

 風紀委員会の隊列の奥から、()()()()()がホシノ達に姿を見せる。

 

 

 その生徒は──、

 

 ──()()()()()()()

 ──淡い桃色に煌めく巨大な()()()()

 ──腰から生える()()()()使()()()

 

 彼女は、この場の空気とはあまりにも不釣り合いなほどに、人懐っこい笑みを浮かべる。

 

 だが──その瞳には、()()()()()()()()

 

「……」

 

 彼女は、誰もいない戦場を散歩するかのように、ゆっくりと歩いてくる。 

 風紀委員会の生徒たちは、彼女が姿を現した瞬間に左右へと道を開けた。

 

 そして──、

 彼女は、ホシノ達の数メートル手前で立ち止まる。

 

「やっほー♪」

 

 それは、あまりにも軽い声だった。

 

「……」

 

 しかし、対策委員会と便利屋は誰も答えない。

 その少女は、きょとんとした表情で首を傾げる。

 

「あれ? どうしたの?」

 

 そして──、

 彼女はニコリと満面の笑みを浮かべる。

 

「みんな、怖い顔してるよ?」 

「ッ……!!」

 

 ホシノは無言でショットガンの銃口を彼女に向ける。

 

 彼女が姿を現した瞬間──、

 ホシノやアルたちは、本能的に警戒を一段階引き上げていた。

 

「……君は、誰なのかな?」

 

 ホシノが静かに問いかける。 

 

「あれ? 私のこと、知らない感じなんだ? これでもゲヘナの中だと顔も広く知られてて有名なんだけどなぁ〜」

 

 その生徒は首を傾げながら、胸元に手を当てると、にっこりと笑った。

 

「私の名前は──聖園(みその) ()()

 

 一歩。

 彼女──ミカは前へ出る。

 

「ゲヘナ風紀委員会の……」

 

 さらに一歩。

 その瞬間だった。

 

 ミカは足元に転がっていたミサイルの破片を──ぐしゃりと踏み砕いた。

 

()()()()だよ☆」

 

 そう言い放つミカの表情は──、

 燃え盛る炎に照らされた、まさしく()()のようであった。





「え……ミ、ミカさん?」ガタガタ
「ん? どうしたんだい、ナギサ? ティーカップを震わせて、この世の終わりみたいな表情をしているが?」
「セ、セイアさん……こ、こちらを、ご覧ください!」
「……っ!?!?!」
「最近見当たらないと思っていたら、ミカさんがゲヘナに……」
「……なんだい、これは? 悪夢かな?」

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