──
彼女は原作の『ブルーアーカイブ』においては、トリニティ総合学園の生徒会『ティーパーティー』に所属する生徒であった。
天真爛漫で明るい性格。
しかし、その笑顔の裏には親友に対する罪悪感と孤独を抱えていた。
だが、先生達と出逢い、時に間違えながらも精神面でも成長をし、満身創痍になりながらも味方を想い祈る姿は、原作──エデン条約編においての名シーンである。
そんな
つまりは──、
キヴォトス
「あれ? みんな、黙っちゃった?」
ミカが首を傾げる。
その言葉に、誰も返事をしなかった。
そんな彼女は、この世界において──、
それは、このキヴォトスにおいて、名が広く知れ渡っている『
ホシノは、ショットガンの銃口をミカへ向けたまま、睨みつける。
目の前に立つ少女は、その姿だけを見れば、どこにでもいるような愛嬌のある少女だ。
けれど──、
ホシノの直感が、告げている。
(この女は、危険だねぇ……今のおじさんでは……)
理屈ではない。
ホシノの本能がそう告げていた。
──
決して万全とは言えないコンディション。
ホシノは頭から血を流しながら、握るショットガンには手汗が染み込む。
『ミカ、遅かったわね?』
「あれ? この声は……」
ミカが声のした方へ振り返る。
「あっ、リオちゃんじゃん! ごめんね、ちょっと遅くなっちゃった」
『いえ、いいのよ。貴方が間に合って助かったわ』
ホログラム越しに、リオがミカへと言葉を交わす。
その声音だけを聞けば、まるで仲の良い友人同士の雑談のようであった。
だが、話している内容は──、
『ミカ。早速だけれど、今回の作戦は先程、連絡した通り……貴方の第一目標はシャーレの先生の確保よ』
「ふーん」
ミカが視線を動かす。
そして、トキが抱きかかえる先生を見つける。
「リオちゃんの言ってた先生って……あれが、シャーレの先生なんだ?」
ミカが先生を視界に捉え、僅かに首を傾げる。
「っ……!」
トキの腕に、力が入る。
「なるほど、ふーん……」
ミカは先生をじっと見つめる。
「結構いいじゃん! あんまり私達と変わらない感じなんだね?」
そして、にっこりと笑った。
一歩。
ミカは前へ出る。
それだけで──、
ホシノはその動きに合わせて、ショットガンの照準を向け続ける。
「ん?」
ミカが足を止める。
ニコニコとした笑顔で、ミカはホシノを見つめる。
けれど、その瞳には──
「っ……これ以上、先生に近づくなら、撃つよ!」
「そっかぁ。じゃあ、撃ってみれば?」
ミカはホシノに対して、笑った。
それは、冗談を言っているようには見えなかった。
まるで、撃たれることなど、最初から気にしていないかのように。
『……ミカ。遠慮する事はないわ。目の前にいる
「りょうかーい! リオちゃん、任せて!」
ミカは、にっこりと笑って銃を構える。
『そして──風紀委員会! 総員! これより、攻撃を開始しなさい!!』
「それじゃあ、始めよっか☆」
次の瞬間──、
ミカの足元の瓦礫が
「──っ!?!」
ミカは一気にホシノへと距離を詰める。
速い。
ホシノは反射的に身体を横へ捻った。
直後──、
──ドゴォンッ!!!!
ミカの蹴りが、ホシノのいた場所を叩き潰した。
地面が陥没し、周囲の瓦礫が大きく跳ね上がる。
(っ……なんて、威力……!)
数メートル離れた場所へ着地したホシノが、目を細める。
「……これは、おじさんも、まともに貰ったら洒落にならないねぇ」
「へぇ?」
ミカが燃え盛る街の中で、振り返る。
「初見で私の攻撃を、避けるんだ?」
ミカが、初めてホシノを真正面から見据えた。
それは、ミカがホシノを『
「……」
ホシノの表情から、僅かに余裕が消える。
その光景を見ていたアズサが叫ぶ。
「ホシノ先輩! 大丈夫か!」
「っ……大丈夫だよ~、アズサちゃん!」
ホシノはショットガンを構え直す。
「あの子は、おじさんが止めるからさぁ〜、他はみんなに任せたよ」
ホシノは振り返らない。
ただミカだけを見つめる。
「それと……先生もお願い」
「……!」
その一言で、アズサが息を呑む。
ホシノの声音から、いつもの気怠げな調子が消えていた。
「この子は、おじさんが絶対に通さない」
「……分かった」
アズサが頷く。
「けど! ホシノ先輩はいつも無茶してる。助けが必要になったら呼んでくれ!」
「ん~……善処するよ」
「それ、絶対無茶する人の返事じゃない!?」
ホシノの返事に、セリカが叫ぶ。
だが、そんな会話は長くは続かない。
「ふーん。じゃあ、もう一回いくね!」
「──っ!?」
ミカが地面を蹴った。
再び、一直線にホシノへ迫る。
ホシノはショットガンを構えて、至近距離からミカへと散弾を叩き込む。
「わおっ!?」
ミカは身体を捻り、弾丸を回避する。
無数の弾丸が、彼女の身体を掠めて背後の瓦礫へと突き刺さった。
「危ない危ない! 私を目で追えるなんて、強いね?」
ミカは身体を捻った勢いのまま、くるりと宙を舞う。
そして、瓦礫と化した壁を蹴る。
「──っ!?」
ホシノはミカの方向転換に対応し切れず、咄嗟にショットガンを横へ薙ぐ。
──ガキンッ!!!
「ぐっ……!」
ミカの銃身とホシノのショットガンが激突する。
その衝撃だけで、ホシノの身体が数メートル後ろへ押し飛ばされた。
ホシノは空中で身体を捻り、辛うじて着地する。
靴底が砂埃と火の粉を巻き上げながら、地面を滑った。
その体勢をミカは見逃さない。
冷静に愛銃のサブマシンガンを構えて、ホシノへと連射する。
──ダダダダダダダダッ!!!
乾いた銃声が、火と灰に染まる街に連続して響き渡る。
「っ……!! 」
ホシノは何発か被弾して表情を歪ませる。
だが、咄嗟に身を低くすることで、弾丸が頭上を掠めていく。
ホシノはそのまま横へ転がり、崩れた建物の陰へと滑り込んだ。
(はぁはぁ……これは、まずいね。想像以上に、あの女……
荒い呼吸。
頭から流れる血が、ホシノの思考を鈍らせる。
そんなホシノに対して、ミカは追撃することなく、その場で銃口を下げていた。
「あれ? 逃げちゃった?」
「……逃げたんじゃないよぉ」
瓦礫の向こうから、ホシノの声が答える。
「ちょっと、考えてるだけ」
「考える?」
「うん。君を倒すための、ね?」
「わぁお! すごいね!」
ミカが楽しそうに笑った。
「まだ諦めてないんだ? 私を前にして、そんな事をまだ考えられている人なんて、中々いないよ?」
ホシノは息を整えながら、ショットガンをリロードする。
(それに、あの女は人に対して撃つことに、全くの躊躇がない)
瓦礫の隙間から覗くと、ミカは笑っている。
──それはまるで、新しい玩具を貰って、遊んでいるかのような無邪気さと共に。
けれど──、
その動きは、洗練されており、一切の無駄がない。
(これは本当に……厄介だねぇ)
ホシノが瓦礫の陰から姿を現す。
「あれ? 素直に出てきちゃって大丈夫なの?」
「まあね」
ホシノはショットガンを肩に担ぐ。
「私が隠れて、ちまちま攻撃したところで、副委員長ちゃんには、あまりダメージが入らなさそうだし」
「へぇー? じゃあ、正面から戦うんだ? この私と?」
「そういうこと」
ホシノがショットガンを構える。
「さっきから、副委員長ちゃんはさぁ、ずっと笑ってるけど……あんまり、おじさんを舐めないでもらおうかな?」
その直後──、
ホシノが地面を蹴り、地面が爆ぜる。
ホシノの身体が、一瞬にしてミカとの間合いに入る。
「っ……!! わっ……は、速い……?!」
ミカが目を見開く。
──ドタンッ!!!!
ホシノは至近距離から散弾を放った。
ミカはそれを、横に飛んで回避する。
だが──、
ホシノは、それを
「そこっ!!」
ホシノが身体を空中で回転させながら、
ミカの着地点へ向け、ショットガンを連発する。
「──っ!!?」
ミカは咄嗟に腕を交差させる。
大量の弾丸が、彼女の身体へと至近距離から叩き込まれる。
ミカの髪型が崩れて、制服が破れて血が吹き出る。
それでも──、
「……へぇ、やるじゃん」
ミカは、
「結構、痛かったよ?」
「っ……」
ホシノの表情が僅かに強張る。
「アハハッ! なに、その顔! 絶望しちゃった感じ? アハッ! もっと撃ってもいいよ! もっともっと私を楽しませてよ☆」
次の瞬間──、
ミカの姿が掻き消えた。
「──ッ!!!」
ホシノも迎え撃つ。
銃弾と銃弾が交差して、目にも止まらない高速の攻防が繰り広げられる。
その余波で瓦礫が崩れ、二人の距離が、一気にゼロになる。
「ぐっ……!!」
ミカの拳がホシノの腹部へ叩き込まれ、ホシノの身体がくの字に折れる。
だが──、
「──甘いよ、副委員長ちゃん」
「え……?」
ホシノは揺れる視界の中、ミカの腕を掴んでいた。
そのまま身体を捻る。
──ドンッ!!
ミカの身体が瓦礫へ叩きつけられる。
そして──、
至近距離から、ホシノはすかさず散弾を叩き込んだ。
「ッ……はぁ……はぁ……」
ホシノは一度、ミカから距離を取ると、荒い息を整える。
「アハッ……」
瓦礫の中から声がした。
「アハハハハハハッ!!!」
ホシノの目が細くなる。
瓦礫を押し退けて、ミカが笑いながら立ち上がる。
「痛い、痛いなぁ……すっごく、強いね? ちょっと身体が動きにくくなってきたかも……こんなに戦闘が長引くなんて、久しぶりだよ?」
「……そっちこそ」
ホシノは血を拭うと、ショットガンを構え直した。
「簡単には倒れてくれないみたいだねぇ」
──『アビドス最強』VS『ゲヘナ最強』
その戦いは、始まったばかりだった。
□■□■□■□■□■□■□■□■□
一方その頃。
ホシノとミカから少し離れた場所では──、
『風紀委員会』と『対策委員会&便利屋68』の戦闘も始まっていた。
「──撃てぇぇぇ!!!」
風紀委員の怒号と共に、無数の銃弾が飛び交う。
──ダダダダダッ!!!
「皆さん! 一人にはならないでください! 散開しながら、各方面の対応を!」
ノアが叫ぶ。
対策委員会と便利屋68は、それぞれが別方面へと散開した。
「ハーッハッハッハッ! 運が良いことに、こちらには遮蔽物がある! 皆、敵の攻撃を正面から受けるなよ?」
カスミが瓦礫を遮蔽物として活用する。
拳銃を構え、風紀委員を一人一人戦闘不能にしていく。
それに呼応するように、便利屋68の面々も動き出す。
「あっ……アル社長! 左から来てます……!」
「ヒヨリ、ナイス援護よ! 二人でアビドスの前衛を援護するわよ!」
「は、はいぃ!!!」
アルとヒヨリはスナイパーライフルを持ち、瓦礫の陰から顔を出しながら、迫ってくる風紀委員へ向けて銃を撃つ。
「──ここね!」
アルが引き金を引き、風紀委員の一人が弾き飛ばすと、周囲を巻き込んで爆発する。
「よしっ! 命中よ!」
「アル社長! 右です!」
「えっ!?」
ヒヨリの声に、アルが振り向く。
瓦礫の向こうから、別の風紀委員が飛び出してきていた。
「っ! しまっ──!?」
「そこ!」
──ダダダッ!!!
「油断してるんじゃないわよ!!」
その瞬間──、
アルの背後から、セリカが飛び出して、風紀委員へと銃を連射する。
銃弾は、風紀委員の足元へ着弾し、バランスを崩した風紀委員が倒れ込む。
「っ! 便利屋! 私も前衛を務めるわ! だから、援護は任せたわ!」
「貴方は、ラーメン屋の店員の……!」
「──セリカ!」
セリカは胸を張る。
「私はSRT特殊学園の
セリカは口角を上げ、アル達に名を告げる。
「っ! 助かったわ、セリカ!」
「お互い様よ! うちのラーメン屋をボコボコにしてくれたこと……」
そして、風紀委員が集まる前線へ駆け出す。
「あいつらに、後悔させてやるんだから──!!」
セリカが叫ぶ。
「
その背中を、アルとヒヨリが援護する。
□■□■□■□■□
戦場は、既に完全な混戦状態になっていた。
対策委員会と便利屋68。
そして、ゲヘナ風紀委員会。
二つの勢力が火と灰に染まる街を、縦横無尽に駆け回る。
「っ……数が多すぎます……!」
ノアは物陰から身を乗り出し、正確な射撃で風紀委員を次々と牽制していた。
(風紀委員会はやけに、統制が整っていますね。まるで瓦礫に身を隠す、私たちの位置を把握しているかのように……)
そして──、
前線に視線を向けた。
そこには、大勢の風紀委員を抑え込むアズサとサキの姿がある。
「っ……この状況を打開するには……」
ノアは二人を援護しながら、戦場全体を見渡す。
そんな中、ノアの視線が不意に後方へと向いた。
瓦礫の奥。
そこには──、
一人は、向かってくる風紀委員から先生を守る
そしてもう一人は、先生の負傷状態を確認しながら、応急手当をする
戦場は、あまりにも激しい。
──鳴り止まない銃声。
──耳が割れるほどの爆発音。
──炎を上げながら、瓦礫の崩れる音。
その全てが、絶え間なく響いている。
チナツが先生の外傷を確認しながら、出血部には包帯を強く巻き付け止血する。
「っ……少々、先生の呼吸が安定しません……」
チナツの額には汗が滲んでいた。
応急手当に集中しなければならない。
けれど、こんな乱戦状況では──、
「っ……チナツ。敵が、増えています。先生を瓦礫の奥へと移動をお願いします」
「はい! わかりました!」
トキの言葉に、チナツが先生を被弾させないよう、瓦礫の陰へと身を隠す。
トキはそれを確認し終えると、瓦礫の向こうから次々と姿を表す風紀委員たちを静かに見据える。
「いたぞ! 先生はあそこだ!」
「確保しろ!!」
「──来ましたね」
トキが二挺拳銃を構える。
──ダダダダダダダッ!!!
トキは正確な射撃で、風紀委員たちを確実に戦闘不能にする。
だが──、
「っ……躱された?」
一人だけ、他の風紀委員たちとは、明らかに違う動きをしている少女がいた。
その少女の名は──
ゲヘナ風紀委員会が誇る斬り込み隊長である。
イオリは、トキの射撃を躱しながら、着実にこちらへ向かってくる。
「っ……!」
トキが狙いを修正し、イオリを狙い撃とうとする。
だが──、
──バンッ!!!!
トキへと一発の銃弾が飛来した。
「ぐっ……!」
その銃弾がトキの肩を掠める。
それは、イオリのスナイパーライフルが放たれた銃弾であった。
「トキさん……!」
「っ……問題ありません、チナツ」
トキは傷を確認することすらせず、銃を構え直した。
「ですが……」
トキの表情から、僅かに余裕が消える。
「防戦だと、厳しいですね」
イオリが、燃える瓦礫の向こうへと姿を隠す。
その次の瞬間──、
──バンッ!!!!
「──っ!?!」
トキの顔面を正確に狙った一発。
トキは咄嗟に銃身を滑り込ませることで、その弾丸を弾く。
「トキさん!?」
「問題ありません! チナツは先生の治療を!そして隙を見て、この戦場からの離脱を……」
トキは銃弾が飛んできた方向を辿り、高速にリロードして、銃口をイオリへ向ける。
そこには──、
瓦礫の上に立つイオリの姿。
「へぇ……今のを、防ぐのか?」
イオリが僅かに口元を吊り上げる。
「流石は便利屋の戦闘担当と呼ばれるだけはあるな」
「っ……」
トキは二挺拳銃を構える。
イオリもライフルを構えた。
二人の間に、張り詰めた空気が走る。
その時──、
イオリの視線が、トキの背後へ向いた。
そこには、倒れた
「先生の確保は──」
イオリが銃口をトキへ向ける。
「お前を倒した後でいい」
トキの瞳が鋭くなる。
「……そう簡単には、いきませんよ」
二挺の拳銃を構え直す。
その表情から、いつもの飄々とした雰囲気が消えた。
「先生には──」
一歩。
トキが前へ出る。
「指一本、触れさせません」
先生を巡って──、
『
二人の戦いも始まった。
「ど、どうしましょう……! ? ミカさんが……ミカさんが!!」
「落ち着け、ナギサ。君が焦ったところで、どうしようもない」
「けれど、ミカさんがあれ程までに暴走してるんですよ、セイアさん! 落ち着いてなどいられません!」
「……それならば、今こそトリニティの戦略兵器の出番じゃないか?」
「トリニティの戦略兵器……」
「圧倒的な力に対しては、それに勝る圧倒的な力でねじ伏せるのだよ、ナギサ。そして──幸いにもトリニティには戦略兵器と呼べる実力者がいる」
「っ! 確かにそうですね。今すぐにあの方をお呼びします」
「あぁ、頼んだよ、ナギサ」
「トリニティの戦略兵器──ヒフミさんを!!」
「……え? ナ、ナギサ?」
「これはもう、ブルアカ宣言という切り札しかないんです!!」
「……」