はぁ……着弾を確認。
これで契約通りに、本日の役目は終了です。
これ以上、貴方の顔を見るのも不愉快ですので帰ります。
『アビドス最強』VS『ゲヘナ最強』。
二人は、互いに銃を構える。
先に動いたのは──、
「──ふっ!」
燃え盛る戦場の中、ホシノが地面を蹴り、火の粉が舞い上がる。
ミカとの距離が、瞬く間に縮まる。
「速いねっ!」
ミカも笑いながら銃を構える。
──ダダダダダッ!!!
至近距離から銃弾が飛び交う。
ホシノは身体を低くしながら、被弾を最小限に抑えて、ミカの懐へ潜り込む。
「そこだねぇ」
ホシノはショットガンを突き出す。
「──っ!」
ミカが咄嗟に銃身を逸らした。
その瞬間──、
ホシノの膝が、ミカの腹部へ叩き込まれた。
──ドゴッ!!
「ぐっ……!」
ミカの身体が僅かに浮いた。
その隙をホシノは逃さず、銃を回転させて、散弾をミカへ容赦なく叩き込む。
しかし──ミカは口角を上げる。
「……アハッ!」
ミカは笑った。
散弾をもろに食らいながらも、空中で身体を捻る。
そして、その勢いのまま脚を振り抜いた。
「──っ!?」
ホシノは咄嗟に、蹴りをショットガンで受ける。
──ガァンッ!!
手が痺れる程の衝撃が、ホシノの襲う。
ホシノはミカの蹴りに耐え切れず、その身体が地面を跳ねて、瓦礫に衝突する。
(これは、本当にまずいねぇ……)
「……はぁ、はぁ」
ホシノは立ち上がり、数メートル離れた場所に立つミカを見据える。
ホシノは頬を伝う血を拭った。
(今のおじさんじゃ……きっと、
呼吸が荒れ、身体の反応も、いつもより鈍い。
ミサイルによるダメージが、未だに身体へ残っていた。
(けれど、私は、この子を倒せなくてもいい)
ホシノは自分の背後にいる
(先生が逃げるだけの時間を確保できれば、それでいい)
ホシノは、ゆっくりとショットガンを構え直した。
その視線は、ミカから一瞬たりとも離れない。
「ん……?」
ミカが首を傾げる。
「立ち止まって、どうしちゃったの? 私と正面からやり合うって宣言してたでしょう? かかってきなよ☆」
「ん〜? まあまあ、焦らないの〜」
ホシノは、いつもの気怠げな笑みを浮かべる。
「……ふーん?」
ミカはホシノをじっと見つめる。
「ならさ、一つだけ聞いてもいいかな?」
「いいよぉ〜。おじさんに答えられることならね?」
「やったぁ!」
ミカは嬉しそうに笑い、銃口を下げる。
「それじゃあ、質問なんだけど……これって、私からすると凄く珍しいんだよ?」
「うんうん、何かな、副委員長ちゃん?」
「──
ミカの瞳がギラリと煌めく。
(何で今そんなことを……)
「……
「へぇ〜! ホシノちゃんって言うんだ! ふふっ、覚えちゃったからね!」
「……そりゃどうも」
ホシノは肩を竦める。
「でも、名前なんて聞いてどうするのかなぁ〜?」
「んー?」
ミカは少しだけ考えるように首を傾げた。
「だって、こんなに強い子の名前を知らないまま倒しちゃうのは、なんだか勿体ないでしょ?」
「へぇ……おじさんのことを、もう倒した前提なんだ?」
「うん!」
ホシノの口元が僅かに引き攣る。
「だって、私、最強じゃんね☆」
ミカは、当然のことのように言い放つ。
「……」
ホシノの表情から、僅かに笑みが消えた。
目の前の少女は笑いながら、その言葉には一切の迷いがない。
(……やっぱり、この子は危ないねぇ)
ホシノは改めて思う。
ミカは戦いを楽しんでいる。
それも、ただ勝つことを楽しんでいるわけではない。
強い相手と戦い、自分の限界を試すことそのものすら、楽しんでいる。
「……ゲヘナは、この子のことを何だと……」
「それじゃあさ、ホシノちゃん! もっと私を楽しませてよ?」
「……あはは」
ミカが前に一歩踏み出し、ホシノは小さく笑う。
「困った副委員長ちゃんだねぇ?」
次の瞬間、二人が同時に地面を蹴った。
地面が爆ぜて、瓦礫が宙へ舞う。
ホシノは真正面から突っ込み、ミカが引き金を引く。
銃弾が飛び交い、ホシノは身体を左右へ振りながら、弾丸を紙一重で躱す。
二人の戦いは、更に戦場の奥へと移っていく。
□■□■□■□■□■□■□
──バンッ!!!
銃声が鳴り、トキの頬を銃弾が掠める。
トキは即座に瓦礫の陰に飛び込む。
「……」
頬に触れる。
指先に、僅かに血が付着していた。
「……かなり正確な射撃ですね」
トキは眉を顰めて、小さく呟く。
瓦礫の向こう側、そこにはイオリの姿は見えない。
だが──、
トキには分かっていた。
トキの背後には、先生とチナツがいる。
この状況では、トキが不用意に身を晒すことはできない。
「なるほど……」
トキが目を細める。
「私がこの場から動けないことを利用するつもりですか」
「正解だ」
瓦礫の向こうから、イオリの声が響いた。
「便利屋のトキがどれだけ強くても、守るものがあれば、その動きは制限される」
「……」
「ましてや、後ろには負傷した先生と、それを治療するアビドス生徒がいる」
イオリがスナイパーライフルを構える。
「なら、こっちはジリジリと追い詰めるだけでいいんだ」
──バンッ!!!
イオリから放たれる銃弾が瓦礫を砕く。
「っ……!」
トキが身を伏せる。
その直後、別の方向から銃声。
「くっ……!」
トキが顔を上げて、横に飛ぶ。
先程までトキがいた場所の、瓦礫が爆ぜる。
(常に、移動している……)
イオリは瓦礫を一つ一つ利用しながら、射線を変えている。
──正面。
──右。
──左。
そして、トキが隠れている瓦礫の背後。
「っ……!」
トキが立ち上がろうとした、その瞬間──、
「トキさん! 右です!!」
チナツの声が響く。
トキは反射的に身体を捻った。
──バンッ!!!
銃弾が、トキのいた場所を貫いた。
「っ……助かりました、チナツ」
「い、いえ……!」
チナツが先生を庇いながら周囲を警戒する。
「でも……このままでは……」
「はい。チナツが言いたい事は分かります」
トキは頷く。
「このままでは、こちら側が不利です」
こちらは先生を守りながら戦わなければならない。
しかも、敵はイオリだけでは無い。
時間をかければかけるほど、他の風紀委員がこの場所へ集まってくる。
(イオリ先輩は、私が先生を守るために動くことを利用している)
それなら──、
「チナツ。一時的に先生の護衛を任せました」
「え? ……トキさん?」
「相手の予測そのものを覆します」
次の瞬間──、
トキは瓦礫から飛び出した。
「──っ!?」
イオリがその行動に目を見開き、急いでトキの動きに合わせて銃口を向ける。
──バンッ!!!
銃弾が飛ぶ。
だが、トキの速度を見誤り、弾道は外れる。
「なっ……!」
トキがすかさず、瓦礫を蹴り、さらに加速する。
イオリが後退しながら、急いでリロードをする。
「私が先生から離れられないと思っていましたか?」
トキは笑わない。
ただ、真っ直ぐにイオリへ迫る。
「それが貴方の間違いです」
──ダダダダダッ!!!
二挺の拳銃が火を噴いた。
放たれた銃弾はイオリに命中する。
「ぐっ……!」
(私の方からイオリ先輩との距離を詰める……! これ以上、先輩の有利な立ち回りにはさせません!)
「チッ! 私を舐めるな、トキ!」
イオリが瓦礫から飛び出し、引き金を引く。
放たれた銃弾が交差する。
互いに一発も無駄にしない。
トキは射撃しながら距離を詰める。
イオリは後退しつつ、スナイパーライフルでトキを狙う。
「くっ……!」
トキの肩を銃弾が掠める。
それでも、トキは止まらない。
「私がスナイパーライフルだからといって、近接戦闘が出来ないと思うなよ!」
イオリが瓦礫を滑りながら、スナイパーライフルで突貫してくる。
「……!?」
次の瞬間──、
二人の銃身が激突した。
トキが拳銃を捻る。
イオリもそれを弾き返す。
銃撃ではなく、銃を使った格闘。
互いの距離は、僅か数十センチ。
「お前……!」
イオリが銃床を振り抜く。
トキは腕で受け止めた。
「っ……!」
痺れる腕。
しかし、トキはそのまま身体を回転させる。
──ドンッ!!
肘がイオリの脇腹へ叩き込まれた。
「ぐっ……!」
イオリの身体が僅かに崩れる。
その隙を、トキは逃さない。
「──ここです!!」
至近距離から銃口をイオリへと向ける。
「しまっ──!」
──ダダダダダッ!!!
銃弾がイオリの身体を撃ち抜く。
イオリが後方へ吹き飛び、瓦礫の上を転がった。
「……はぁ、はぁ……」
トキは荒い息を吐く。
瓦礫の向こうから、イオリが立ち上がった。
制服は破れ、身体にはいくつもの傷。
それでも、その目は死んでいない。
「便利屋の戦闘担当という肩書きは、伊達じゃないらしいな」
「そちらこそ」
トキは銃を構える。
「流石は風紀委員会のNo.2、といったところですか……簡単には倒れてくれませんね」
「当たり前だ……覚悟しろ、規則違反者共め!」
□■□■□■□■□■□■□
一方その頃。
風紀委員との前線。
「──サキ! 右は任せた!」
「分かった、アズサ先輩!」
──ダダダダダダダッ!!!
大量の銃弾が、アズサとサキの頭上を通過する。
アズサは瓦礫の陰へ滑り込む。
「数が多すぎる!」
「だったら、減らせばいいんだ! 私に任せろ!」
瓦礫から顔を出すと、サキが銃を構えて連射する。
──ダダダダダダダダッ!!!
その正確な射撃により、前方の風紀委員が次々に倒れていく。
「っ! サキ、見ないうちに、また強くなったか?」
「お? 分かるか、アズサ先輩! 実は最近、教本というものを知ってだな……また今度、先輩にも教えてあげるぞ?」
「なるほど。楽しみにしてる」
サキの笑顔にアズサは嬉しそうに頷き、瓦礫から顔を出して、同時に射撃する。
だが──、
「皆さん! 左前方から敵が増員です!」
後方にいたノアが叫ぶ。
「……嘘でしょ!?」
その報告に、近くにいたセリカが思わず声を上げている。
瓦礫の向こうから現れた風紀委員たちは、さらにその数を増していた。
──十人。
──二十人。
──いや、それ以上。
まるで、この場所へ誘導されることを最初から想定していたかのように、風紀委員たちが左右から展開していく。
「おい、まだ来るのか?!」
サキが目を見開く。
「数で押し潰すつもりか」
アズサは冷静に、銃をリロードする。
「アズサ先輩!」
「っ! どうした、サキ?」
「私が正面を抑える! だから先輩は──」
サキが周囲を見渡す。
燃え盛る建物。
崩れた道路。
大量の瓦礫。
そして──、
風紀委員たちが集中している
「……あそこだ! 」
サキが指を差す。
「アズサ先輩、あそこを制圧するのはどうだ?!」
「っ……! なるほど、了解した。一気に敵陣を抜ける! サキ、援護を!」
「了解だ! アズサ先輩!」
アズサが銃を構えて、一つ息を吐く。
「私がアズサ先輩の道を作る!」
「なら、私は突っ込む!」
アズサが銃を構えて駆け出す。
「──行くぞ!」
サキが引き金を引いた。
──ダダダダダダッ!!!
風紀委員たちが次々と身を伏せる。
「今だ!」
アズサが瓦礫を蹴り、風紀委員と一気に距離を詰める。
「──っ!?」
風紀委員が銃を構える。
「近付いてくるぞ! 撃て!! 撃てぇぇ!!」
──ダダダダダッ!!!
アズサは身体を低くしながら、銃弾の雨を掻い潜る。
「ゲリラ戦なら任せてくれ! その程度の反応なら遅い!」
──バンッ!!!
一人。
──バンッ!!!
二人。
アズサは風紀委員の間を縫い、次々と無力化しながら、敵陣の中央へと切り込んでいく。
「な、なんだこいつ……!?」
「は、速すぎるぞ!!」
「囲め! 囲め! 敵は一人だ! 左右から挟み込め!」
風紀委員たちが一斉に動く。
だが──、
「アズサ先輩を、一人にさせるか!」
サキが即座に銃口を向ける。
──ダダダダダッ!!!
左右からアズサを挟もうとしていた風紀委員たちへ、正確な射撃が飛ぶ。
──アズサは振り返らない。
サキのことを信頼し、迷いなく進んでいく。
その二人の姿を、後方から見ていたノアが小さく目を細めた。
「なるほど……二人はあそこを制圧するために……」
「へぇ〜。あの二人は、やるわね! それでこそ、私たちを一度だけでも倒した対策委員会だわ!」
そんなノアに、アルがスナイパーライフルで風紀委員を牽制しながら近付いてくる。
「アルさんですか。ちょうど相談事があります。敵の様子を見ていて……何かがおかしいんです」
「おかしい? それはどういうこと?」
「はい。この乱戦状態においても、風紀委員の動きが統制させすぎている気がします。まるで、私たちの居場所が常に
ノアは戦場を見渡した。
アズサとサキが敵陣を突破している。
その反対側で、別の風紀委員たちが二人を回り込もうとしている。
「っ……確かにあの二人を挟み込むように、先回りしているわね」
「……やはり、そうですよね」
ノアが呟く。
「風紀委員の皆さんは、私たちの動きを見てから対応しているわけではありません。まるで、こちらが動く前から、次にどこへ移動するのかを知っています」
ノアの視線が鋭くなる。
そして──不意に、ノアは顔を上げる。
燃え盛る炎と立ち込める煙によって、空はほとんど見えない。
けれど、その煙の奥に、何か
「あれは……っ! まさか!」
ノアは何かに気が付き、アルにその影を指差す。
「アルさん、あの影……いえ、
「え? ドローンですって?」
アルが目を細める。
煙の向こう──炎に照らされながら、白い円形の物体が静かに空中を旋回している。
「……ふふっ。なるほどね、理解したわ! やるじゃない、ノア!」
アルが笑い、スナイパーライフルを上空へと向ける。
呼吸を整える。
風向き。
距離。
ドローンの動きを予測。
アルは、全てを一瞬で見極める。
「できれば、向こうに気が付かれる前に、処理したいです。つまりは、外すことは……」
「ふふっ、分かってるわよ」
アルの指が、引き金へ掛かる。
「私を誰だと思っているの──
──バンッ!!!!
銃声が戦場に響き渡った。
アルから放たれた銃弾は、真っ直ぐに空を駆け抜け──ドローンの中央を正確に撃ち抜いた。
白い機体が大きく揺れ、そのドローンは、火花を散らしながら、制御を失って落下していく。
地面へ墜落したドローンが、瓦礫の上で何度か跳ねた。
「やったわ! これで、私たちの動きは読まれなくなるんじゃない!?」
「っ! ありがとうございます! これで、きっと──」
ノアは風紀委員が困惑し、大多数が足を止める──つまりは、統制が、途端に崩れる様子を目にした。
「正解だったようですね」
ノアは無意識のうちに、ゲヘナの風紀委員長──
「先ほどまでの異常な統制は、あのドローンによって維持されていたのでしょう」
「だったら……!」
アルが笑う。
「今がチャンスってことね!」
「はい! 今ならこちらから押し込めます!」
ノアは頷いた。
「よし! それなら──みんな、敵の目は潰したわ! 今がチャンスよ! 押し込むわよ!!」
セリカが銃を構える。
「了解! だったら一気に行くわ!」
「やるじゃないか、アル! 了解だ!」
その声に呼応するように、セリカと便利屋68が一斉に前進する。
風紀委員たちは、明らかに動揺していた。
「隊列を組め!」
「どこから来る!?」
「誰か指示を──!」
先ほどまで完璧だった連携が、完全に崩れている。
それを見て、ノアは確信した。
(流れが変わり、これなら勝てます)
しかし──、
ノアは、すぐに表情を引き締めた。
(しかし……)
視線を戦場の奥へ向ける。
そこでは──、
今もなお、
「──アハハッ!」
「……っ!」
──
そして、その反対側では、
「……まだ終わっていません」
──
この二つの戦いだけは、戦場全体の状況など関係なく、続いていたのだった。