──ダダダダダダダッ!!!
燃え盛る戦場に、銃声が鳴り響く。
ホシノは身体を捻った。
だが、全てを避け切ることはできない。
「──っ!」
弾丸が肩を掠めて、赤い血が飛び散る。
それでも、ホシノは痛みに耐えながら走ることを止めない。
前へと進み、着実にミカとの距離を詰めていく。
(まずいねぇ……視界がボヤけてきたかな……)
息が苦しい。
身体も重たい。
先程受けたミサイルの直撃。
そこへ、ミカとの戦闘によるダメージが積み重なっている。
身体は、とっくに限界を超えていた。
それでも、ホシノは──。
「アハハッ!」
目の前のミカは、傷だらけになりながら笑っていた。
その動きに、疲労は見受けられる。
けれど、ホシノほど深刻なダメージは受けていない。
「ホシノちゃん、すっごく強いね!」
「……そりゃどうも」
「でもさぁ……」
ミカが、にっこりと笑う。
「ごめんね。もう
「っ……!」
ミカが銃を構える。
「そろそろ終わりにしよっか☆」
その瞬間──、
ミカの姿が、視界から消えた。
(──っ!? 速い……この女、まだこれ程の速度を……)
次の瞬間──、
「ぐっ……!」
ミカの拳がホシノの腹部へ叩き込まれた。
躱す余裕すらなかった。
凄まじい衝撃がホシノを襲う。
肺から一気に空気が抜け、ホシノの身体が吹き飛ぶ。
瓦礫を何度も転がり、ようやくホシノの身体は止まった。
「……ッ、はぁ……はぁ……!」
視界が点滅して、前が見えない。
ホシノは、震える手で地面を押す。
(立たないと……私が倒れるわけにはいかないのに……)
そう思っても、脚に力が入らない。
(……もう、私の身体が限界だね)
それでも、ホシノはショットガンを杖代わりにして、どうにか立ち上がった。
そんな彼女へ、ミカがゆっくりと歩いてくる。
「もう無理しなくていいよ?」
「……」
「ホシノちゃんは、十分楽しませてくれたからね」
ミカが銃口を向ける。
「だからさ……」
一歩。
「次で終わりにしてあげるよ」
ホシノは動けなかった。
それでも、最後に背後を見る。
そこには、先生を守るために戦っている仲間たちがいた。
──傷つきながらも。
──倒れながらも。
誰一人として、その場から逃げようとしていない。
「……いやぁ、困ったね」
ホシノは微かに笑い、ショットガンを握り直す。
「私はまだ……倒れるわけにはいかないんだよ」
ミカが目を細める。
「……どうして?」
「決まってるでしょ」
首を傾げるミカに対して、ホシノは笑う。
「後ろに、
ミカの表情から、笑顔が消える。
「ッ……なんか、ムカつくね」
ミカが一歩踏み込む。
「だったらさぁ──」
銃口をホシノへ向ける。
「その大切な人とやらを、守ってみてよッ!」
──ダンッ!!!
次の瞬間──、
ミカの銃が
それは、遠方から放たれた
「……え?」
ミカが目を見開く。
ホシノも驚き、弾丸の飛んできた方向へ振り返った。
燃え盛る瓦礫の向こう。
そこから──、
そして、その先頭にいたのは──。
□■□■□■□■□■□■□■□■□
一方その頃。
反対側の瓦礫地帯では──、
「……っ!」
トキが横へ滑り込む。
銃弾が頬を掠め、背後の瓦礫を粉砕した。
「くっ……ちょこまかと……!」
瓦礫の上から、イオリが呟く。
トキは物陰へ身を隠しながら、素早く場所を移動していく。
(まだ、戦えます)
二挺の拳銃を握り直す。
(まだ、私は戦えますから)
だが、その言葉とは裏腹に──、
トキの全身が軋むように痛み、銃を持つ指先は僅かに震えていた。
「……気の毒には思う」
イオリが淡々と告げる。
「ミサイルが直撃した直後に、この戦闘だ。身体は、とっくに限界を超えているはずだ」
「……だから、どうしたと言うんですか?」
トキは瓦礫の隙間からイオリを睨む。
「私は先生の護衛です」
「……」
「先生を守るためなら、まだ戦えます」
「そうか」
イオリが瓦礫から飛び降りる。
「なら──ここで終わりにする。私たちはお前たちを過剰に痛めつけたいわけじゃないんだ」
次の瞬間──、
イオリが地面を蹴った。
「──っ!」
トキは咄嗟に二挺の拳銃を構える。
──ダダダダダッ!!!
弾丸がイオリへ殺到する。
しかし──、
「──甘い!」
イオリは身体を低くして弾丸を躱す。
そして──、
そのまま一気に、トキの懐へ潜り込んだ。
「なっ……!?」
イオリがスナイパーライフルを横へ倒す。
──ガンッ!!!
銃床がトキの腕を叩きつける。
「ぐっ……!」
トキの右手から拳銃が弾き飛ばされた。
だが、トキも止まらない。
「──まだです!」
残った左手の拳銃を、イオリの腹部へ向ける。
──ダンッ!!!
「ぐっ……!」
トキの放った銃弾が直撃し、イオリの身体が僅かに揺れる。
だが、その一撃程度で、イオリは止まらない。
「もう、抵抗するな……!」
イオリに腕を取られ、身体を捻られる。
そして──、
トキの身体が、数メートル先の瓦礫へ叩き付けられた。
背中から衝撃を受け、トキの肺から空気が抜ける。
左手の拳銃も、指先から滑り落ちる。
瓦礫の上を転がった拳銃は、もうトキがどれだけ手を伸ばしても届かない。
「……はぁ、はぁ……っ……」
トキは起き上がろうとする。
しかし、身体が動かない。
腕には力が入らないし、脚だって痙攣している。
これまでの戦闘で蓄積されたダメージの全てが、一度に押し寄せてきた。
「……もう、限界だな」
イオリがトキを見下ろす。
その表情に、僅かな憐れみが浮かんでいた。
「よく戦った」
「……」
「だが、ここまでだ」
イオリがスナイパーライフルを構える。
「先生を守りたい気持ちは伝わった。けど、これ以上の戦闘は無理だ」
トキは、僅かに顔を上げる。
「風紀委員長が、先生を確保すると言ってたと思うが、別に悪いようにはしないと思う。リオ委員長はそういう人ではない」
イオリが引き金へ指を掛ける。
「だから、安心して……先生を引き渡せ!」
「嫌です……先生を傷付けるような人たちに渡すわけがありません。私は、先生の護衛、なんです……!」
トキは震える腕で、もう一度だけ拳銃へ手を伸ばした。
「これは、先生が、私に与えてくださった……初めての役目です」
けれど、指先が届かない。
「だから……まだ……」
その声が、初めて震えた。
「まだ、終われません……!」
トキは震える腕を動かそうとする。
「私は……私は……まだ……!!」
「……もう休め!」
「……嫌です」
イオリは静かに目を細め、覚悟を決める。
「っ……そうか」
イオリの指が、引き金に掛かる。
「なら──楽にしてやる」
──バンッ!!!
乾いた銃声が響いた。
弾丸が、一直線にトキへ向かう。
「──っ!」
トキは目を閉じた。
もう、それを躱す事はできない。
(先生……ごめんなさい……)
トキは心の中で先生を想う。
しかし──、
いつまで経っても、
(……え? な、何が……?)
トキは、ゆっくりと目を開いた。
そこには──、
燃え盛る戦場の中。
ふわふわの
「
静かな声。
「よく先生を守り抜いてくれたわ」
「……え?」
トキが目を見開く。
そして──、
「なっ……!」
その少女の掌によって、イオリから放たれた銃弾は、止められていた。
細い指が、飛来した弾丸を握り潰す。
その少女が手を開くと、先程まで弾丸だったもの──その潰れた金属片が、ぱらりと地面へ落ちていった。
イオリの顔からは、余裕が消えている。
「銃弾を……素手で……?」
少女は、ゆっくりとイオリを見る。
「……
「っ……!」
「これは、どういうこと?」
紫色の瞳が、静かに細められる。
「ゲヘナ風紀委員会は、いつから『
「っ……!? あ、あなたは……?」
「……」
その少女は、何も言わない。
けれど、イオリは、彼女を見つめたまま動けなかった。
理解できない。
いや──、
理解したくなかった。
銃弾を、素手で止めた。
それだけなら、まだいい。
問題は、その
「……まさか」
イオリの声が、僅かに震える。
──白い髪。
──その手に握られた銃。
そして──、
場を支配する圧倒的な存在感。
白い長髪が、炎の光を受けて揺れる。
その少女の紫色の瞳が、イオリへと真っ直ぐに向けられた。
「ミレニアム最強の……
イオリが、その名を呟く。
「そう」
ヒナは静かに答えた。
「私のことを知っていたのね」
イオリはスナイパーライフルを握り直す。
しかし、その手は無意識のうちに震える。
「っ……ヒナ、さん? 何故ここに……?」
「
「……そのような、ことが……」
「えぇ。それにしても……よく頑張ったわ、トキ」
トキの目が僅かに見開かれる。
「私は……何も……!」
「いいえ」
ヒナは首を横に振る。
「そんな重体の中、私が間に合うまでの時間を稼いだ。それだけで十分よ」
「……ありがとうございます」
トキは小さく呟いた。
「後は──私に任せて」
トキはヒナの背中を見つめた。
そして──、
「……分かりました」
トキは、ようやく力を抜くと、その場で意識を失った。
ヒナはそれを見届け、先生を応急手当するチナツに目を向ける。
「……イオリ、最後に一つだけ聞くわ」
その瞬間──、
ヒナの雰囲気が変わった。
先ほどまでの静けさが消える。
代わりに、凍てつくような闘気が、周囲へと広がった。
ヒナは、ゆっくりと銃を構える。
「どうして、トキや先生を襲ったの?」
「……風紀委員長の指示だ。そして……目的を邪魔をする者は排除しているだけだ」
「そう。風紀委員長の、指示ね……」
ヒナの目が細くなる。
「それなら──
「っ……! なにを、意味の分からないことを言って……!」
銃口が、真っ直ぐにイオリを捉える。
「イオリ」
ヒナの声が、静かに響く。
「容赦はしないわ」
──キュイン!
──ダダダダダダダダダダダッ!!!
ヒナの銃弾が、燃え盛る戦場を切り裂いた。
□■□■□■□■□■□■□■□
──同時刻。
ミカは、自分の手から弾き飛ばされた銃を見つめていた。
「……今の、なに?」
数秒。
何が起きたのか、理解できなかった。
(私の手から銃が弾き飛ばされるなんて……)
──その正確かつ高威力の
「ふふっ……今日はすごいね」
ミカが口角を上げながら、ゆっくりと顔を上げる。
その視線の先──、
燃え盛る瓦礫の向こうから、一人の少女が先頭に立ち、ゆっくりと歩いてくる。
その手には、
透き通った
「……そこまでです」
その少女は静かに告げた。
その声には、戦場とは思えないほどの落ち着きがあった。
「──ゲヘナ学園の
「……へぇ? 私に指示するんだ? 誰なのかな?」
ミカが首を傾げて、銃口をその少女へ向ける。
その少女は足を止めた。
「──C&C所属のコールサイン『ゼロワン』
「っ! その名前……C&Cって聞いたことあるかも」
その名前を聞いた瞬間──、
ミカの表情から、笑みが僅かに消えた。
それは先日の『サキ救出作戦』において、ホシノ達の敵として現れたミレニアムの特殊部隊──『C&C』であった。
「アカネさん! 直ぐにホシノさん達の救護を! カリンさんは後方より後方火力支援をお願いします!」
「了解しました!」
ミネの背後からアカネが飛び出し、重症のホシノを抱き抱える。
「随分と苦戦されたようですね、ホシノさん」
「……いやぁ」
ホシノが苦笑する。
「まさかミレニアムが救援に来てくれるなんてねぇ……助かったよ、ミネちゃん、アカネちゃん」
「礼には及びません」
ミネはミカを鋭く見据える。
「これ以上、ホシノさんに近付くことは許しません」
「へぇ〜……」
ミカは、足元に転がった愛銃へと、一度だけ視線を落とす。
そして──、
「じゃあ、あなたが私の相手をしてくれるの?」
「そのつもりです」
ミネは盾を構え直す。
巨大な盾が、炎の光を反射して鈍く輝いた。
「次はミレニアムかぁ〜! なんだか、面白くなってきたね☆」
ミカは腰を落として、銃を拾おうとする。
その次の瞬間──、
「──ちょ、ちょっと待って!!!」
「「……え?」」
ミカが目を丸くする。
ミネも僅かに目を見開いた。
燃え盛る戦場を、
──息を切らし。
──足を震わせ。
──それでも、逃げずに。
小さな黒い翼を震わせながら──、
覚悟を決めた表情で、
「──
思わずミネの声が漏れる。
──ピンク色の髪。
──セミナーの制服。
そして──涙を浮かべた瞳。
それは、ミレニアムのセミナーに所属する
コハルは震える拳を握り締める。
「もう……!」
声が震える。
それでも、コハルは叫んだ。
「──
コハルの上ずった声が、燃え盛る戦場に響き渡った。
「何ィ!? ルールは? コデックスは?」
「──空崎ヒナ、だと?」
「チ、チートだッ!」
「せっかく、ゲヘナ風紀委員会を嗾けたというのに……!」
「ここで暁のホルスを回収しても良かったというのに……! ゴルコンダは何をしている……あの役立たずが!」
「こんなのが許されてたまるか……!」
「──チートだ、チート。チートだァァァァァッ!!」
「……まあ、いい。小生は再走しない。黒服も動いていると聞いている。ファーストプランを練り直すだけだ……ヒヒッ、ヒヒヒッ……愉しませてくれよ、先生」
──攻略法その2『小さな傷が致命傷になる』