何かがおかしいブルーアーカイブ   作:千ノ宮チノ

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第44話:受け継がれる意志

 

 ──ダダダダダダダッ!!! 

 

 燃え盛る戦場に、銃声が鳴り響く。

 ホシノは身体を捻った。

 

 だが、全てを避け切ることはできない。

 

「──っ!」

 

 弾丸が肩を掠めて、赤い血が飛び散る。

 それでも、ホシノは痛みに耐えながら走ることを止めない。

 

 前へと進み、着実にミカとの距離を詰めていく。

 

(まずいねぇ……視界がボヤけてきたかな……)

 

 息が苦しい。

 身体も重たい。

 先程受けたミサイルの直撃。

 

 そこへ、ミカとの戦闘によるダメージが積み重なっている。

 身体は、とっくに限界を超えていた。

 

 それでも、ホシノは──。

 

「アハハッ!」

 

 目の前のミカは、傷だらけになりながら笑っていた。

 

 その動きに、疲労は見受けられる。

 けれど、ホシノほど深刻なダメージは受けていない。

 

「ホシノちゃん、すっごく強いね!」

「……そりゃどうも」

「でもさぁ……」

 

 ミカが、にっこりと笑う。

 

「ごめんね。もう()()()()()()()()

「っ……!」

 

 ミカが銃を構える。

 

「そろそろ終わりにしよっか☆」

 

 その瞬間──、

 ミカの姿が、視界から消えた。

 

(──っ!? 速い……この女、まだこれ程の速度を……)

 

 次の瞬間──、

 

「ぐっ……!」

 

 ミカの拳がホシノの腹部へ叩き込まれた。

 

 躱す余裕すらなかった。

 凄まじい衝撃がホシノを襲う。

 肺から一気に空気が抜け、ホシノの身体が吹き飛ぶ。

 

 瓦礫を何度も転がり、ようやくホシノの身体は止まった。 

 

「……ッ、はぁ……はぁ……!」

 

 視界が点滅して、前が見えない。

 ホシノは、震える手で地面を押す。

 

(立たないと……私が倒れるわけにはいかないのに……)

 

 そう思っても、脚に力が入らない。 

 

(……もう、私の身体が限界だね)

 

 それでも、ホシノはショットガンを杖代わりにして、どうにか立ち上がった。

 そんな彼女へ、ミカがゆっくりと歩いてくる。 

 

「もう無理しなくていいよ?」

「……」

「ホシノちゃんは、十分楽しませてくれたからね」

 

 ミカが銃口を向ける。

 

「だからさ……」

 

 一歩。

 

「次で終わりにしてあげるよ」

 

 ホシノは動けなかった。

 それでも、最後に背後を見る。

 

 そこには、先生を守るために戦っている仲間たちがいた。

 

 ──傷つきながらも。

 ──倒れながらも。

 

 誰一人として、その場から逃げようとしていない。

 

「……いやぁ、困ったね」

 

 ホシノは微かに笑い、ショットガンを握り直す。

 

「私はまだ……倒れるわけにはいかないんだよ」

 

 ミカが目を細める。

 

「……どうして?」

「決まってるでしょ」

 

 首を傾げるミカに対して、ホシノは笑う。

 

「後ろに、()()()()がいるからだよ。その人の為なら、私はボロボロになろうと、何度だって立ち上がってみせるよ」

 

 ミカの表情から、笑顔が消える。

 

「ッ……なんか、ムカつくね」

 

 ミカが一歩踏み込む。

 

「だったらさぁ──」

 

 銃口をホシノへ向ける。

 

「その大切な人とやらを、守ってみてよッ!」

 

 ──ダンッ!!! 

 

 次の瞬間──、

 ミカの銃が()()()()()()()

 

 それは、遠方から放たれた()()()()()によって。

 

「……え?」

 

 ミカが目を見開く。

 ホシノも驚き、弾丸の飛んできた方向へ振り返った。

 

 燃え盛る瓦礫の向こう。

 

 そこから──、

 ()()()()()たちが、こちらへ駆けてくる。

 

 そして、その先頭にいたのは──。

 

 

 □■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 一方その頃。

 

 反対側の瓦礫地帯では──、

 

「……っ!」

 

 トキが横へ滑り込む。

 銃弾が頬を掠め、背後の瓦礫を粉砕した。

 

「くっ……ちょこまかと……!」

 

 瓦礫の上から、イオリが呟く。

 トキは物陰へ身を隠しながら、素早く場所を移動していく。

 

(まだ、戦えます)

 

 二挺の拳銃を握り直す。

 

(まだ、私は戦えますから)

 

 だが、その言葉とは裏腹に──、

 トキの全身が軋むように痛み、銃を持つ指先は僅かに震えていた。

 

「……気の毒には思う」

 

 イオリが淡々と告げる。

 

「ミサイルが直撃した直後に、この戦闘だ。身体は、とっくに限界を超えているはずだ」

「……だから、どうしたと言うんですか?」

 

 トキは瓦礫の隙間からイオリを睨む。

 

「私は先生の護衛です」

「……」

「先生を守るためなら、まだ戦えます」

「そうか」 

 

 イオリが瓦礫から飛び降りる。

 

「なら──ここで終わりにする。私たちはお前たちを過剰に痛めつけたいわけじゃないんだ」

 

 次の瞬間──、

 イオリが地面を蹴った。

 

「──っ!」

 

 トキは咄嗟に二挺の拳銃を構える。

 

 ──ダダダダダッ!!! 

 

 弾丸がイオリへ殺到する。

 しかし──、

 

「──甘い!」

 

 イオリは身体を低くして弾丸を躱す。

 そして──、

 そのまま一気に、トキの懐へ潜り込んだ。

 

「なっ……!?」

 

 イオリがスナイパーライフルを横へ倒す。

 

 ──ガンッ!!! 

 

 銃床がトキの腕を叩きつける。

 

「ぐっ……!」

 

 トキの右手から拳銃が弾き飛ばされた。

 だが、トキも止まらない。

 

「──まだです!」

 

 残った左手の拳銃を、イオリの腹部へ向ける。 

 

 ──ダンッ!!! 

 

「ぐっ……!」

 

 トキの放った銃弾が直撃し、イオリの身体が僅かに揺れる。

 だが、その一撃程度で、イオリは止まらない。

 

「もう、抵抗するな……!」

 

 イオリに腕を取られ、身体を捻られる。

 

 そして──、

 トキの身体が、数メートル先の瓦礫へ叩き付けられた。

 

 背中から衝撃を受け、トキの肺から空気が抜ける。

 左手の拳銃も、指先から滑り落ちる。

 

 瓦礫の上を転がった拳銃は、もうトキがどれだけ手を伸ばしても届かない。

 

「……はぁ、はぁ……っ……」

 

 トキは起き上がろうとする。

 しかし、身体が動かない。

 腕には力が入らないし、脚だって痙攣している。

 

 これまでの戦闘で蓄積されたダメージの全てが、一度に押し寄せてきた。

 

「……もう、限界だな」

 

 イオリがトキを見下ろす。

 その表情に、僅かな憐れみが浮かんでいた。

 

「よく戦った」

「……」

「だが、ここまでだ」

 

 イオリがスナイパーライフルを構える。

 

「先生を守りたい気持ちは伝わった。けど、これ以上の戦闘は無理だ」

 

 トキは、僅かに顔を上げる。

 

「風紀委員長が、先生を確保すると言ってたと思うが、別に悪いようにはしないと思う。リオ委員長はそういう人ではない」

 

 イオリが引き金へ指を掛ける。

 

「だから、安心して……先生を引き渡せ!」

「嫌です……先生を傷付けるような人たちに渡すわけがありません。私は、先生の護衛、なんです……!」

 

 トキは震える腕で、もう一度だけ拳銃へ手を伸ばした。

 

「これは、先生が、私に与えてくださった……初めての役目です」

 

 けれど、指先が届かない。

 

「だから……まだ……」

 

 その声が、初めて震えた。

 

「まだ、終われません……!」

 

 トキは震える腕を動かそうとする。

 

「私は……私は……まだ……!!」

「……もう休め!」

「……嫌です」

 

 イオリは静かに目を細め、覚悟を決める。

 

「っ……そうか」

 

 イオリの指が、引き金に掛かる。

 

「なら──楽にしてやる」

 

 ──バンッ!!! 

 

 乾いた銃声が響いた。

 弾丸が、一直線にトキへ向かう。

 

「──っ!」

 

 トキは目を閉じた。

 もう、それを躱す事はできない。

 

(先生……ごめんなさい……)

 

 トキは心の中で先生を想う。

 

 しかし──、

 いつまで経っても、()()()()()()

 

(……え? な、何が……?)

 

 トキは、ゆっくりと目を開いた。

 

 そこには──、

 燃え盛る戦場の中。

 

 ふわふわの()()()()を炎の熱風になびかせながら、トキの前に立つ()()()()()がいた。

 

()()()()()()()()()()ね、トキ」

 

 静かな声。

 

「よく先生を守り抜いてくれたわ」

「……え?」

 

 トキが目を見開く。

 

 そして──、

 ()()()()()()()()()()()()。 

 

「なっ……!」

 

 その少女の掌によって、イオリから放たれた銃弾は、止められていた。

 

 細い指が、飛来した弾丸を握り潰す。

 

 その少女が手を開くと、先程まで弾丸だったもの──その潰れた金属片が、ぱらりと地面へ落ちていった。

 

 イオリの顔からは、余裕が消えている。

 

「銃弾を……素手で……?」

 

 少女は、ゆっくりとイオリを見る。

 

「……()()()

「っ……!」

「これは、どういうこと?」

 

 紫色の瞳が、静かに細められる。

 

「ゲヘナ風紀委員会は、いつから『()』を引き間違えたの?」

 

「っ……!? あ、あなたは……?」

「……」

 

 その少女は、何も言わない。

 

 けれど、イオリは、彼女を見つめたまま動けなかった。

 

 理解できない。 

 いや──、

 理解したくなかった。

 

 銃弾を、素手で止めた。

 それだけなら、まだいい。

 

 問題は、その()()()()()が──、

 

「……まさか」

 

 イオリの声が、僅かに震える。

 

 ──白い髪。

 ──その手に握られた銃。

 

 そして──、

 場を支配する圧倒的な存在感。 

 

 白い長髪が、炎の光を受けて揺れる。

 その少女の紫色の瞳が、イオリへと真っ直ぐに向けられた。

 

「ミレニアム最強の……空崎(そらさき) ヒナ……」

 

 イオリが、その名を呟く。

 

「そう」

 

 ヒナは静かに答えた。

 

「私のことを知っていたのね」

 

 イオリはスナイパーライフルを握り直す。

 しかし、その手は無意識のうちに震える。

 

「っ……ヒナ、さん? 何故ここに……?」

うち(ヴェリタス)の盗聴魔と盗撮魔が、先生の危機に気が付いて、セミナーに救援を求めにきたのよ」

「……そのような、ことが……」

「えぇ。それにしても……よく頑張ったわ、トキ」

 

 トキの目が僅かに見開かれる。

 

「私は……何も……!」

「いいえ」

 

 ヒナは首を横に振る。

 

「そんな重体の中、私が間に合うまでの時間を稼いだ。それだけで十分よ」

「……ありがとうございます」

 

 トキは小さく呟いた。

 

「後は──私に任せて」

 

 トキはヒナの背中を見つめた。

 

 そして──、

 

「……分かりました」 

 

 トキは、ようやく力を抜くと、その場で意識を失った。 

 ヒナはそれを見届け、先生を応急手当するチナツに目を向ける。

 

「……イオリ、最後に一つだけ聞くわ」

 

 その瞬間──、

 ヒナの雰囲気が変わった。

 

 先ほどまでの静けさが消える。 

 代わりに、凍てつくような闘気が、周囲へと広がった。 

 

 ヒナは、ゆっくりと銃を構える。

 

「どうして、トキや先生を襲ったの?」

「……風紀委員長の指示だ。そして……目的を邪魔をする者は排除しているだけだ」

「そう。風紀委員長の、指示ね……」

 

 ヒナの目が細くなる。

 

「それなら──()()()()()()を止めるのも、私の役目ね」

「っ……! なにを、意味の分からないことを言って……!」

 

 銃口が、真っ直ぐにイオリを捉える。

 

「イオリ」

 

 ヒナの声が、静かに響く。

 

「容赦はしないわ」

 

 ──キュイン! 

 ──ダダダダダダダダダダダッ!!! 

 

 ヒナの銃弾が、燃え盛る戦場を切り裂いた。

 

 □■□■□■□■□■□■□■□ 

 

 ──同時刻。

 

 ミカは、自分の手から弾き飛ばされた銃を見つめていた。

 

「……今の、なに?」

 

 数秒。

 何が起きたのか、理解できなかった。

 

(私の手から銃が弾き飛ばされるなんて……)

 

 ──その正確かつ高威力の()()

 

「ふふっ……今日はすごいね」

 

 ミカが口角を上げながら、ゆっくりと顔を上げる。

 

 その視線の先──、

 燃え盛る瓦礫の向こうから、一人の少女が先頭に立ち、ゆっくりと歩いてくる。

 

 その手には、()()()()

 透き通った()()()は、炎の熱風に揺れている。

 

「……そこまでです」

 

 その少女は静かに告げた。

 その声には、戦場とは思えないほどの落ち着きがあった。

 

「──ゲヘナ学園の聖園(みその) ミカさん。これ以上、ホシノさんへ手を出すことは許しません」

「……へぇ? 私に指示するんだ? 誰なのかな?」

 

 ミカが首を傾げて、銃口をその少女へ向ける。

 その少女は足を止めた。

 

「──C&C所属のコールサイン『ゼロワン』蒼森(あおもり) ()()。 ホシノさん達を救護する為に参りました!」 

「っ! その名前……C&Cって聞いたことあるかも」

 

 その名前を聞いた瞬間──、

 ミカの表情から、笑みが僅かに消えた。

 

 それは先日の『サキ救出作戦』において、ホシノ達の敵として現れたミレニアムの特殊部隊──『C&C』であった。

 

「アカネさん! 直ぐにホシノさん達の救護を! カリンさんは後方より後方火力支援をお願いします!」

「了解しました!」

 

 ミネの背後からアカネが飛び出し、重症のホシノを抱き抱える。

 

「随分と苦戦されたようですね、ホシノさん」

「……いやぁ」

 

 ホシノが苦笑する。

 

「まさかミレニアムが救援に来てくれるなんてねぇ……助かったよ、ミネちゃん、アカネちゃん」

「礼には及びません」

 

 ミネはミカを鋭く見据える。 

 

「これ以上、ホシノさんに近付くことは許しません」

「へぇ〜……」

 

 ミカは、足元に転がった愛銃へと、一度だけ視線を落とす。 

 そして──、

 

「じゃあ、あなたが私の相手をしてくれるの?」

「そのつもりです」

 

 ミネは盾を構え直す。

 巨大な盾が、炎の光を反射して鈍く輝いた。

 

「次はミレニアムかぁ〜! なんだか、面白くなってきたね☆」

 

 ミカは腰を落として、銃を拾おうとする。

 

 その次の瞬間──、

 

「──ちょ、ちょっと待って!!!」

「「……え?」」

 

 ミカが目を丸くする。

 ミネも僅かに目を見開いた。

 

 燃え盛る戦場を、()()()()()が駆けてくる。

 

 ──息を切らし。

 ──足を震わせ。

 ──それでも、逃げずに。

 

 小さな黒い翼を震わせながら──、

 覚悟を決めた表情で、聖園(みその) ミカの前へと立った。

 

「──()()()さん?!」

 

 思わずミネの声が漏れる。

 

 ──ピンク色の髪。

 ──セミナーの制服。

 

 そして──涙を浮かべた瞳。

 

 それは、ミレニアムのセミナーに所属する 下江(しもえ) コハルであった。

 

 コハルは震える拳を握り締める。

 

「もう……!」

 

 声が震える。

 それでも、コハルは叫んだ。

 

「──()()()()()()()()()()()()()!!!」

 

 コハルの上ずった声が、燃え盛る戦場に響き渡った。 

 






「何ィ!? ルールは? コデックスは?」
「──空崎ヒナ、だと?」
「チ、チートだッ!」
「せっかく、ゲヘナ風紀委員会を嗾けたというのに……!」
「ここで暁のホルスを回収しても良かったというのに……! ゴルコンダは何をしている……あの役立たずが!」
「こんなのが許されてたまるか……!」
「──チートだ、チート。チートだァァァァァッ!!」





「……まあ、いい。小生は再走しない。黒服も動いていると聞いている。ファーストプランを練り直すだけだ……ヒヒッ、ヒヒヒッ……愉しませてくれよ、先生」


──攻略法その2『小さな傷が致命傷になる』


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