『七囚人』だろうと、皆等しく、先生の前では『生徒』なのがいいよね。
「それにしても、戦闘がいつもよりもやりやすかったです」
「……やっぱりそうよね? アヤネさんもそう思いましたか?」
アヤネが呟いた言葉にユウカが便乗する。
自分が感じていた事を共感する人を発見してユウカが嬉しそうに見えた。
「はい。まあ、いつものゲヘナ風紀委員会ですと、
「ゲヘナの副風紀委員長は置いといても、アヤネが言う事は正しいと思う。私も先生の指揮の影響からか、身体がいつもより軽かった」
「そうですわね。普段よりずっと戦いやすかったかと」
嬉しそうに微笑む彼女達を見て、私は一安心する。
「それなら、良かったよ」
私自身で、その能力を感じ取る事はできないが──ブルアカの先生と同様に私の指揮でも生徒達の力を底上げする事は出来ていたのだ。
心のどこかでは、原作知識を持つ自分自身が、この世界にとっての異質な存在だと考えて──
だが、それは杞憂のようだった。
──私は
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『皆さん、お疲れ様です。連邦生徒会のリンです』
シャーレが目前に迫ってきた頃、私の携帯電話に着信があり、通話を繋げるとリンからだった。
このタイミングでの着信だ。
私はこの後にリンから告げられる事実──この騒動を巻き起こした人物の正体を思い返す。
(原作知識通りならば、
尤も原作だと、先生と出会い、ワカモは先生に一目惚れする事で普段はお淑やかだけれど、先生には盲目的に尽くす生徒になるわけだが……それもまた、彼女を語るべき中での一つの魅力だ。
『今、この騒ぎを巻き起こした生徒の正体が判明しました──その名は
──リンちゃんは何を言っているのだろうか。
仕事のし過ぎで、幻覚でも見えるようになってしまったのだろうか。
連邦生徒会長を偽物だと言い張るのと同じくらいカンナに失礼だぞ。
(というか、え? 本当に? 『狂犬』のカンナって、まさかヴァルキューレ警察学校の公安局長の尾刃カンナを言ってるのか、このリンちゃんは!? あの正義感溢れる優しい子だぞ!?!)
「……っ。『狂犬』! その噂はミレニアムでも聞いた事があります」
「トリニティ総合学園でも要注意人物として、マークされていますわ」
ユウカが珍しく顔を強張らせて、ハルナも笑みを消し、真剣な表情で頷く。
「えっ……リンちゃん、そんなに危険な生徒なの?」
『はい。……あと、誰が『リンちゃん』ですか』
私はカンナの姿を思い浮かべながら、思わず声を漏らしてしまう。
『彼女は百鬼夜行連合学院に在籍していた頃から、数々の問題行動を起こしていました。停学処分を受けた後も、矯正局への収容が決定されたのですが──』
『一週間ほど前に脱走。現在に至るまで、連邦生徒会とヴァルキューレ警察学校が行方を追っていました』
私は頭を抱えたくなった。
──違う。私の知っているカンナは、そんな人物ではない。
まず、私の知る原作知識では、カンナはヴァルキューレ警察学校所属の生徒だ。
断じて百鬼夜行連合学園に所属する生徒ではない。
それにヴァルキューレ警察学校では公安局の局長という役職に付く優秀な生徒であり、規則を重んじ、犯罪者を取り締まる立場にいるはず。
しかし──現実はどうだろうか。
(いやいやいやいや! カンナが停学? 矯正局から脱出? そんな馬鹿な!?!)
心の中で、私は有り得ないだろと必死に叫んだ。
私の知っているカンナは、もっとこう──、
真面目で。
責任感が強くて。
融通が利かなくて。
でも、誰よりも生徒や市民のことを考えている。
──ブルーアーカイブをプレイする中での、私の印象はそんな人物だったはずだ。
少なくとも、矯正局から脱走して、連邦生徒会に追われるような生徒ではない。
だが、私はそこで、視界に入る四人の生徒を見つめる。
──だって、この世界では、私の知る原作知識とは異なっていることがある。
アヤネがゲヘナ風紀委員会に所属している。
ハルナが正義実現委員会に所属している。
エイミがトリニティ自警団に所属している。
そして、彼女たちは自分たちの所属に何の疑問も持っていない。
寧ろ私の持つ原作知識が誤っているのかすら、疑い始めている。
ならば──、
(カンナも……ヴァルキューレ警察学校の公安局長ではなく、本当に別人になっているのか?)
『それから、彼女にはもう一つ注意すべき点があります。彼女は非常に高い戦闘能力を持つと言われています』
リンが淡々と説明をする声が続く。
『特に、近接戦闘においては危険です。彼女の捜索に向かったヴァルキューレの部隊が、何度も撃退されています』
「ヴ、ヴァルキューレの部隊を……? 」
ユウカが呟き、他の三人も顔を顰める。
『はい。しかも、彼女は単独で行動しているにもかかわらず、複数の部隊を相手にしてなお逃走しています』
「……それは確かに、手強いですわね」
ハルナが小さく呟いた。
「いや、待って」
だが──私は口を挟んだ。
「カンナは本当に、この騒動の黒幕なの?」
『はい。現時点ではそう判断されています』
「現時点では?」
『……今回の騒動において、シャーレ周辺の防犯カメラ映像から彼女の姿が確認されています。矯正局からの脱出生徒が不良生徒達を連れて、騒動を引き起こしている噂と照らし合わせても整合性が取れます』
「……けど、リンちゃん。まだカンナが実際に何をしたのか、確認はできていないんだよね?」
リンが押し黙り、少しの間が空く。
『……先生。尾刃カンナが直接、シャーレを襲撃したという確実な証拠はありません』
「やっぱり、そうなんだね。なら、私は──」
『けれどっ! 彼女が騒動の直後に現場付近にいたことは確認されています! 彼女がこれまで起こしてきた事件も加味して、シャーレに侵入しようとしていることも──』
「けれど、リンちゃん。まだ、カンナが犯人だとは断定出来ないんじゃないかな?」
『しかし、先生っ!』
私は自身の知るカンナを思い浮かべる。
通話越しに聞こえるリンの声は、僅かな苛立ちが混じっているように思えた。
「──それでも、証拠がないなら、犯人だと決めつけるのは違うと思う」
通話の向こうが静かになる。
ユウカ達も私の方を真剣な表情で見つめている。
「私は、まだカンナに会っていない」
私はシャーレの建物を見上げた。
「彼女が本当に何をしたのかを、この目で知らない」
少なくとも私の知っているカンナは、犯罪者ではない。
私が知っている彼女は、正義感を持つギザ歯がかっこいいし、可愛らしい生徒だ。
「だから、会って話をしたい」
「せ、先生……?」
エイミが驚いたように声を上げる。
「先生、相手は『狂犬』と呼ばれる危険人物です。先生の身の危険が考えられます」
アヤネもこちらを心配そうに見る。
「うん。だからこそだよ──だからこそ、会ってみないと、本当に危険な生徒なのかどうか分からない」
「で、ですが、そのようなリスクを先生が取られる必要は……」
ハルナが心配そうに口を開くが──、
「私はね──
私は皆に向かって、微笑む。
「困った生徒が居たら、寄り添って話をしたいんだ。それに……危ない時は、みんなが守ってくれるかな?」
私はユウカを見る。
「特にユウカに」
「え、えぇっ!? 私ですか!?」
「うん。護衛、お願いできる?」
「……っ」
ユウカは少しだけ目を見開き、一つ大きな深呼吸をすると──、
「……分かりました」
彼女は強く、自身の銃を握り直す。
「先生に危害を加えようとするなら、私が止めますから!!」
ハルナが微笑む。
「では、私も同行いたしましょう。先生を守ることが最優先ですもの」
「私も同行します。情報収集と支援はお任せください」
「じゃあ、私も。先生が話したいって言うなら、私も傍にいるよ」
私は四人の顔を見渡した。
ただ、カンナと話をしたいと言っただけなのに──彼女達からすると怖いかもしれないのに。
「……っ。みんな、ありがとう」
私は頭を下げて、四人に感謝を伝える。
「リンちゃん。カンナの現在地は分かる?」
『……先生』
「うん?」
『本当に、彼女に会うつもりですか?』
「そうだよ」
『……分かりました』
しばらくして、リンが答えた。
『最後に確認されたのは、シャーレ正面玄関の防犯カメラ映像です』
「分かった。教えてくれてありがとう、リンちゃん」
『ですが、くれぐれもお気をつけください! カンナは──』
リンは一度、言葉を選ぶように沈黙した。
『非常に危険な生徒です』
そう言って、リンとの通話が切れた。
「……っ」
私は携帯を見つめた。
そして、ゆっくりと息を吐く。
(カンナ……私の知っている彼女は、いつも真面目で。不器用で。誰かを守るために、自分一人で責任を背負い込んでしまうような生徒だ)
そんな彼女が──この世界では、矯正局から脱出した生徒の一人で、『狂犬』と呼ばれて恐れられている。
──一体、何があったんだ?
「先生、行きましょう」
ユウカが声をかけてくる。
私は覚悟を決めて、目の前にあるシャーレの建物へと向かう。
シャーレの奪還と、彼女がこの騒動を起こした本当の理由を知るために。