本作を読んでいただき、ありがとうございます!
執筆のストックが少なくなってきたので、
毎日投稿ではなく、更新頻度を少し落とします。(土下座)
今後ともお楽しみください!!
──誰かの声が聞こえた。
その子は痛いと叫び、ヘイローが消える。
──誰かの声が聞こえた。
その子は大切な人を失い、泣き叫んでいた。
──誰かの声が聞こえた。
その子は理想とも呼べる世界を望んだ。
──私は何が正しかったのだろうか。
──私は何をしてあげればよかったのだろうか。
──きっと、私は
間違えた先にあるものの答えは──、
正解と呼べるのだろうか。
□■□■□■□■□■□■□
──2日後。
ミレニアム自治区・医療施設。
その施設内にある病室には、二人の少女がいた。
「チナツちゃん。先生の意識は、まだ戻らないんですか?」
そのうちの一人──ノアが椅子に腰掛けながら、バイタルをチェックする。
その隣には、チナツが治療器具を確認していた。
「奇跡的に外傷も少なく、いつ意識が戻ってもおかしくないとは思います。けれど……」
チナツは俯きながら、言葉を区切る。
その病室には人工呼吸に繋がれて、未だに眠り続ける
「もう二日も、
「……そうですね」
ノアもその事実に俯く。
「二日前に運ばれてきた時と比べれば、先生の状態は安定しています。後は、先生を信じて待つしか……」
チナツは、先生の顔を見る。
──傷は治療されている。
──呼吸も安定している。
──脈拍にも大きな異常はない。
医学的に見れば、少なくとも今すぐ命が危険という状態ではない。
いつ目が覚めてもおかしくはないのだ。
それなのに──、
「どうして……」
ノアが、小さく呟いた。
「どうして、先生は、目を覚まさないんでしょう」
「……」
チナツは答えられなかった。
ただ、医療機器に表示されたバイタルデータを見つめる。
(この表現があっているのかは分かりません。けれど、あえて言うのであれば……身体は正常なのに、
「……先生」
チナツが、ぽつりと呟く。
「早く、起きてください。皆さん、先生のことを……待ってますから」
返事はない。
人工呼吸器の規則的な音だけが、病室に響く。
それだけだった。
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ミレニアム自治区・医療施設。
先生が眠る同じ医療施設内にて、その廊下を、
その少女の名前は──、
アビドス廃校対策委員会の委員長である。
そんなホシノの足取りは、明らかにおぼつかない。
「……っ」
壁に手をつきながら、一歩。
また一歩。
歩くたびに、身体から鈍い痛みが込み上げてくる。
ホシノの身体は包帯が巻かれ、まだ完全には塞がっていない傷すらある。
本来ならば、ベッドの上で安静にしていなければならない状態だった。
「先生……」
それでも、ホシノは歩き続ける。
「……先生のところに、行かないと」
ホシノは小さく呟く。
その声には、いつもの軽さがなかった。
ただひたすらに、焦りが滲んでいた。
「っ──! ホシノ先輩! 病室に居ないと思ったら、こんなところに!」
そんな時──、
背後から声が飛んでくる。
振り返ると、そこにはアズサがいた。
その手には、花屋で購入したと思われる花束が握られている。
「何をしてるんだ、ホシノ先輩! 昨日、目が覚めたばかりだろ?! 今日も、あまり眠れてないって聞くし、ベッドで安静にしないと!」
「……アズサちゃん」
ホシノは、ゆっくりと振り返った。
「おじさん、先生のところに行かなきゃ」
「駄目だ」
アズサは即答した。
「今のホシノ先輩の状態では、歩くことすら危険だ。私たちの中で、ホシノ先輩が一番重症と言ってた。医者にも安静にするよう言われているはずだ」
「うへぇ……でもねぇ」
ホシノは壁に手をついたまま、苦笑する。
「先生が、まだ起きてないんでしょ?」
「……そうだけど」
「だったらさぁ……」
ホシノは、一歩だけ前へ進む。
「おじさんは、先生の傍にいたいよ」
「っ……ホシノ先輩」
「……」
アズサは、ホシノの前へ回り込む。
「気持ちは分かる。私だって、目が覚めない先生のことはずっと気になってる。けど、ホシノ先輩……今は自分の身体を優先してくれ」
「……」
「先生なら、きっとそう言う!」
その言葉に──、
ホシノの足が止まった。
「……先生なら?」
「うん」
アズサは、花束を握り直す。
「『怪我してる生徒が、無理して歩くな』って、きっと言う」
「……そうだねぇ」
ホシノは小さく笑った。
それが安易に想像できてしまったから。
「先生なら、きっと言いそうだねぇ」
けれど──、
その笑顔は、すぐに消えた。
「……でもさ、アズサちゃん」
「なんだ?」
「
ホシノの声が、僅かに震えた。
「二日も」
「……」
「二日もずっと眠ったままなんだよ」
ホシノは、俯く。
「身体の傷は治ってるし、呼吸も安定しているって聞いてはいる……先生は生きているって」
「……あぁ」
「なのに、起きないんだよね?」
ホシノの拳が、ぎゅっと握り締められる。
「……
「ッ……」
その言葉に、アズサが目を見開いた。
「ホシノ先輩……」
「先生が、このまま起きなかったらどうしようって」
ホシノは顔を上げる。
「目を覚ましてくれなかったら……どうしようって」
「……」
「おじさんさぁ」
ホシノの声は、今にも消えてしまいそうだった。
「もう、
アズサは何も言えなかった。
ホシノの言葉が、胸に重く突き刺さる。
「……ホシノ先輩」
アズサは、静かに口を開く。
「それでも、今の先輩が無理をして倒れたら、先生はきっと悲しむ」
「……うん」
「だから──」
アズサは一度、言葉を止める。
「私も一緒に行く」
「……え?」
ホシノが目を丸くする。
「先生の病室までだ」
アズサは花束を掲げる。
「私も、これを先生の病室の花瓶に差したいと思っていたから」
「アズサちゃん……」
「けど、約束してくれ──少しでも身体が辛くなったら、すぐに病室へ戻ること」
「……」
「それが、約束だ!」
ホシノは、しばらく黙っていた。
そして──、
「……うへぇ」
いつものような、力の抜けた笑みを浮かべる。
「アズサちゃん、意外と厳しいねぇ〜」
「勿論だ。先生も大事だが、それと同じくらいホシノ先輩も大事だからだ!」
「うへぇ〜、おじさん。アズサちゃんに好かれてて嬉しいなぁ〜……分かったよぉ」
ホシノは小さく頷いた。
「──
「よし! それじゃあ、ゆっくり行こう! 私が肩を貸す! ホシノ先輩!」
「ありがとねぇ〜、アズサちゃん」
アズサはホシノの身体を支えるように、肩を貸した。
二人は、ゆっくりと廊下を進み始めた。
一歩。
また一歩。
ホシノは痛みに顔を歪めながらも、それでも歩き続ける。
「……もう少し?」
「ああ。あと少しだ」
「そっかぁ……」
ホシノは、廊下の先を見る。
そこには、一つの病室があった。
その前には、ミレニアムのセミナーに所属する生徒──
「あれ?
「あっ……ご無沙汰してます。アビドスのホシノ先輩とアズサさん」
ノノミは、ホシノの姿を見た瞬間、その表情を曇らせた。
「っ……ホシノ先輩、そのお怪我は……」
「うへぇ……まあ、ちょっと派手にやられちゃってねぇ」
ホシノはいつもの調子で笑おうとする。
けれど、その笑顔はどこか痛々しかった。
「ちょっと、で済む怪我には見えませんよ?」
ノノミは心配そうにホシノを見る。
「こんな状態で、どうしてここまで……」
「先生に会いに来たんだ」
代わりに、アズサが答えた。
「ホシノ先輩は、どうしても先生の顔を見たいらしい」
「……先生に?」
ノノミが、病室の扉を見る。
その向こうには、二日前から眠り続けている先生がいる。
「そうですか……」
ノノミは、少しだけ俯いた。
「実は私も、先生のお見舞いに来たんです。ヒナ会長たちは
「そうだったんだぁ。
「はい。その会談になります。私はお留守番でしたので、こちらに来たんですが……いざ、この扉の前に立つと開けられなくて……少し気持ちを落ち着かせていたんです」
ノノミは苦笑する。
「あの戦いの日──私はセミナーの一員として、救急車にて運ばれる先生に付き添っていました。あの時のぐったりと倒れる先生が、脳裏に過ぎると……ちょっと扉を開ける勇気が出なくて……」
ノノミは、病室の扉へ視線を向けたまま、静かに言葉を続けた。
「また、あんな姿になっている先生を見るのが……少し怖いんです」
「ノノミちゃん……」
ホシノが小さく呟く。
ノノミは、少しだけ驚いたようにホシノを見る。
「っ……! すみません。アビドスの皆さんへ、こんなことを言うつもりじゃなかったんですが」
「ううん」
ホシノは首を横に振る。
「大丈夫、分かるよ」
「……」
「だって、
ホシノは、病室の扉を見る。
「怖いんだよねぇ。先生に会うのが……」
その声は、とても小さかった。
(そもそも、
ノノミは、何も言わずにホシノを見つめる。
そして──、
「……でしたら」
ノノミは、ゆっくりと病室の扉へ手を伸ばした。
「お二人とも、一緒に入りませんか?」
「っ……! いいのか?」
「もちろんです! アズサさん!」
ノノミは柔らかく微笑む。
「私もホシノ先輩たちが一緒に居てくれたら……その、何故かは分からないですが、頼もしい気がします」
「……そっかぁ」
ホシノは小さく笑った。
「じゃあ……お願いしようかな」
「はい!」
ノノミが扉を開ける。
──カチャリ。
静かな音が廊下に響いた。
「……」
ホシノの足が止まった。
開いた扉の向こう側には、一つのベッドが置かれる静かな病室があった。
そして──、
「……
ベッドの上で眠る先生の姿が見えた。
身体にはいくつもの包帯。
腕には点滴。
顔には治療の痕。
規則正しく上下する胸。
医療機器から聞こえる一定の電子音だけが、部屋に響く。
──ピッ。ピッ。ピッ。
ただ、それだけ。
ホシノは、しばらく動かなかった。
アズサも、隣で息を呑む。
ノノミは、そっとアビドスの二人を先に通した。
「ホシノ先輩……入るぞ」
「……うん」
ホシノは、一歩踏み出した。
しかし──、
「……っ」
ホシノの身体がふらつく。
「──ホシノ先輩っ!」
アズサが慌てて支える。
「大丈夫か?」
「あーうん。大丈夫、大丈夫」
ホシノは苦笑する。
「ちょっと、先生を見て、力が抜けちゃっただけだよぉ」
「っ……無理はしちゃ駄目だからな」
「うん……」
ホシノは頷く。
それでも、先生から目を逸らさない。
──ゆっくり。
──本当にゆっくりと。
ベッドの傍まで歩いていく。
「……
ホシノが、ベッドの脇に立つ。
眠っている先生の顔を見る。
いつもなら──、
『ホシノ、またサボってるでしょ?』
『セリカから聞いたよ! ホシノ、毎日ラーメン屋に通ってるんだってね! もっと栄養バランスも考えないとだよ!』
『ホシノの為なら、先生は頑張れちゃうよ!』
私に笑顔を向けて、話しかけてくれていた。
けれど──、
先生を呼んでも、何も返ってこない。
ホシノは、先生の顔をじっと見つめる。
「本当に、寝てるんだねぇ……二日も、ずっと」
アズサに支えられながら、ホシノはゆっくり椅子へ腰を下ろす。
「……ふぅ」
小さく息を吐く。
それから、先生の手へ視線を向けた。
「……触っても、いいかな?」
「もちろん、大丈夫だと思いますよ」
ノノミが後ろから近づき、答える。
「……そっか」
ホシノは恐る恐る手を伸ばす。
そして──、
先生の手を握った。
「……」
──温かい。
──ちゃんと、生きている。
それだけで、ホシノの胸の奥に張り詰めていたものが、ほんの少しだけ緩んだ気がした。
「……
ホシノの口から小さな声が漏れる。
「温かい……ちゃんと、温かいよぉ」
ホシノは先生の手を両手で包む。
「
声が震え始める。
「おじさん、来たよ」
「……」
「二日も寝てるんだからさぁ……先生、私よりもサボりすぎじゃないかなぁ。そろそろ起きてよ」
いつものように、軽い口調で話しかける。
「みんな、先生のこと待ってるよぉ」
返事はない。
「アビドスのみんなも」
「……」
「ミレニアムのみんなも」
「……」
「セリカちゃんや便利屋の子たちも……」
「……」
「たぶん、ゲヘナの子たちだって……」
ホシノはそこで言葉を止めた。
「いっぱい、心配してるんだから」
先生の手を握る力が、少しだけ強くなる。
「だからさぁ……」
ホシノは俯いた。
「……早く起きてよ」
その声は、震えて、ホシノの瞳から涙が零れる。
「おじさんさぁ……」
一度、言葉を飲み込む。
「もう、
アズサが静かに目を伏せる。
ノノミも、胸元に手を添えた。
その言葉が、静かな病室に落ちる。
「……」
返事はない。
ただ、人工呼吸器が規則正しく空気を送り込む音と、心拍モニターの電子音だけが響いている。
「……ホシノ先輩」
アズサが、静かに声を掛ける。
「先生は、大丈夫だ」
「……」
「チナツが言っていた。先生の容体は安定している。命に別状はないって」
「……うん」
「だから……きっと目を覚ます!」
アズサは、そう言い切った。
それは、根拠のある言葉ではなかった。
アズサは医者でもない。
先生の身体を診察できるわけでもない。
それでも──、
「たとえ今は違くても、私はそう信じてる。そう信じることこそが、
「……」
ホシノは、しばらく黙っていた。
そして──、
「……うへぇ」
ホシノは、小さく笑った。
「アズサちゃんって、たまにすごいこと言うよねぇ」
「たまにじゃない。私はいつだって真剣だ」
「うへへ……そうだったねぇ。ありがとねぇ、アズサちゃん。そうだよね、おじさんが信じないと」
ホシノは、握った先生の手を見る。
自分の手の中にある温もり。
その温もりにホシノは縋り、信じる。
「……先生、信じてるから。待ってるからね」
ホシノは、ゆっくりと口を開く。
「おじさんねぇ……」
少しだけ息を吸う。
「昔、
「……」
「何であの時、あんな言葉を言ってしまったんだって……もっと早く気付いてればよかったって……だから……!」
ホシノの指が、先生の手を包み込む。
「今度こそ、守りたいんだよ」
「……」
「先生が、私たちを助けてくれたみたいに」
涙が、一滴。
先生の手の甲へ落ちた。
「今度は、私たちが先生を守る番だから」
「……」
「だから、勝手にいなくならないでよ」
ホシノは、涙を拭おうとする。
しかし、傷だらけの腕では上手く拭うことができない。
すると──、
「っ……私が拭きます」
ノノミが、そっとハンカチを差し出して、ホシノの涙を拭う。
「ありがとねぇ、ノノミちゃん」
ホシノは涙を拭かれながらも、少しだけ笑った。
「ねぇ、二人とも、先生が起きたらさぁ」
「うん?」
「ミレニアムのみんなも誘ってさぁ、どこか行きたいねぇ〜! 例えばさ、海とかさぁ〜」
その言葉に、ノノミとアズサが嬉しそうに頷く。
「そこには、ノノミちゃんもだし……やっぱりセリカちゃんも外せないなぁ〜。あと、ゲヘナの子とかも仲直りしたいねぇ」
「ホシノ先輩は、一旦、セリカに対して、ストーカーしすぎだ!」
アズサが真顔で言った。
「うへぇ!? ストーカーじゃないよぉ。おじさんはただ、セリカちゃんのことをちょっと気にかけてるだけで……」
「それを世間ではストーカーと言うんじゃないのか?」
「そんなぁ……」
ホシノはわざとらしく肩を落とす。
その様子を見て、ノノミも思わず小さく笑った。
「ふふっ。そうですね〜。そのセリカちゃんも、きっと喜ぶと思いますよ」
「でしょ〜? ノノミちゃん、分かってるねぇ〜。セリカちゃんは外せないよぉ〜!」
「先生が起きたら、ちょっとお時間をいただいて……どこへ行くかの相談をしないとですね! そして、行先は安全なところにしないと」
「うへぇ……」
ホシノの表情が、一気に曇る。
「危ない所に行くと、先生は絶対に無茶するもんねぇ」
「……それは否定できないな」
アズサが頷く。
「先生は、自分が傷つくことより、生徒が傷つくことを嫌がるからな」
「そうなんですね……」
ノノミも、眠る先生を見る。
「うん。だからこそ……今度は私たちが、先生に無茶をさせないようにしないといけない」
「……だね」
ホシノも静かに頷いた。
その時だった。
「……あれ?」
ノノミが、ふと先生の手元を見る。
「どうしたんだ、ノノミ?」
アズサが尋ねる。
「いえ……今、先生の指が……」
「え?」
三人の視線が、先生の手へ集まる。
「……」
何も起こらない。
先生は、相変わらず動かずに眠ったままだ。
「う、動いた気がしたんですけど……気のせい、ですかね?」
「……気のせい、か」
ホシノは少し残念そうに笑う。
「先生、ほんと寝るの長すぎだよぉ」
そう言いながら、ホシノは先生の手を握り続ける。
「もうちょっとだけ、ここにいるねぇ……」
ホシノは、目を閉じる。
「……ああ、私も付き添うぞ」
「私もご一緒しますね」
ノノミも椅子を引き寄せる。
三人は、先生を囲むように静かに座った。
病室には、穏やかな時間が流れていた。
この日も、先生は目を覚まさなかった。
しかし──この日の夜。
ん。なんか手紙が届いたみたいだけど、どうでもいい。
ノノミは私を仲間外れにしてる。
一刻も早く、私も誘うべき。
こっちには銀行強盗できなくて寂しがってるヒフミもいるし、海に行きたい。