何かがおかしいブルーアーカイブ   作:千ノ宮チノ

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本作を読んでいただき、ありがとうございます!

執筆のストックが少なくなってきたので、
毎日投稿ではなく、更新頻度を少し落とします。(土下座)

今後ともお楽しみください!!



第46話:眠る先生

 

 ──誰かの声が聞こえた。

 

 その子は痛いと叫び、ヘイローが消える。

 

 ──誰かの声が聞こえた。

 

 その子は大切な人を失い、泣き叫んでいた。

 

 ──誰かの声が聞こえた。

 

 その子は理想とも呼べる世界を望んだ。

 

 ──私は何が正しかったのだろうか。

 ──私は何をしてあげればよかったのだろうか。

 

 ──きっと、私は()()()()()()()

 

 

 間違えた先にあるものの答えは──、

 正解と呼べるのだろうか。

 

 

 □■□■□■□■□■□■□

 

 

 ──2日後。

 

 ミレニアム自治区・医療施設。

 

 その施設内にある病室には、二人の少女がいた。

 

「チナツちゃん。先生の意識は、まだ戻らないんですか?」

 

 そのうちの一人──ノアが椅子に腰掛けながら、バイタルをチェックする。 

 その隣には、チナツが治療器具を確認していた。

 

「奇跡的に外傷も少なく、いつ意識が戻ってもおかしくないとは思います。けれど……」

 

 チナツは俯きながら、言葉を区切る。

 

 その病室には人工呼吸に繋がれて、未だに眠り続ける()()の姿があった。

 

「もう二日も、()()()()()()()()()()()()()

「……そうですね」

 

 ノアもその事実に俯く。

 

「二日前に運ばれてきた時と比べれば、先生の状態は安定しています。後は、先生を信じて待つしか……」

 

 チナツは、先生の顔を見る。

 

 ──傷は治療されている。

 ──呼吸も安定している。

 ──脈拍にも大きな異常はない。

 

 医学的に見れば、少なくとも今すぐ命が危険という状態ではない。

 いつ目が覚めてもおかしくはないのだ。

 

 それなのに──、

 

「どうして……」

 

 ノアが、小さく呟いた。

 

「どうして、先生は、目を覚まさないんでしょう」

「……」

 

 チナツは答えられなかった。

 

 ただ、医療機器に表示されたバイタルデータを見つめる。

 

(この表現があっているのかは分かりません。けれど、あえて言うのであれば……身体は正常なのに、()()()()()()()()()()()ようで……)

 

「……先生」

 

 チナツが、ぽつりと呟く。

 

「早く、起きてください。皆さん、先生のことを……待ってますから」

 

 返事はない。

 

 人工呼吸器の規則的な音だけが、病室に響く。

 それだけだった。

 

 

 □■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 ミレニアム自治区・医療施設。

 

 先生が眠る同じ医療施設内にて、その廊下を、()()()()()が歩いていた。

 

 その少女の名前は──、

 小鳥遊(たかなし) ホシノ。

 

 アビドス廃校対策委員会の委員長である。

 

 そんなホシノの足取りは、明らかにおぼつかない。

 

「……っ」

 

 壁に手をつきながら、一歩。

 また一歩。

 

 歩くたびに、身体から鈍い痛みが込み上げてくる。

 

 ホシノの身体は包帯が巻かれ、まだ完全には塞がっていない傷すらある。

 

 本来ならば、ベッドの上で安静にしていなければならない状態だった。

 

「先生……」

 

 それでも、ホシノは歩き続ける。

 

「……先生のところに、行かないと」

 

 ホシノは小さく呟く。

 

 その声には、いつもの軽さがなかった。

 ただひたすらに、焦りが滲んでいた。

 

「っ──! ホシノ先輩! 病室に居ないと思ったら、こんなところに!」

 

 そんな時──、

 背後から声が飛んでくる。

 振り返ると、そこにはアズサがいた。

 

 その手には、花屋で購入したと思われる花束が握られている。

 

「何をしてるんだ、ホシノ先輩! 昨日、目が覚めたばかりだろ?! 今日も、あまり眠れてないって聞くし、ベッドで安静にしないと!」

「……アズサちゃん」

 

 ホシノは、ゆっくりと振り返った。

 

「おじさん、先生のところに行かなきゃ」

「駄目だ」

 

 アズサは即答した。

 

「今のホシノ先輩の状態では、歩くことすら危険だ。私たちの中で、ホシノ先輩が一番重症と言ってた。医者にも安静にするよう言われているはずだ」

「うへぇ……でもねぇ」

 

 ホシノは壁に手をついたまま、苦笑する。

 

「先生が、まだ起きてないんでしょ?」

「……そうだけど」

「だったらさぁ……」

 

 ホシノは、一歩だけ前へ進む。

 

「おじさんは、先生の傍にいたいよ」

「っ……ホシノ先輩」

「……」

 

 アズサは、ホシノの前へ回り込む。

 

「気持ちは分かる。私だって、目が覚めない先生のことはずっと気になってる。けど、ホシノ先輩……今は自分の身体を優先してくれ」

「……」

「先生なら、きっとそう言う!」

 

 その言葉に──、

 ホシノの足が止まった。

 

「……先生なら?」

「うん」

 

 アズサは、花束を握り直す。

 

「『怪我してる生徒が、無理して歩くな』って、きっと言う」

「……そうだねぇ」

 

 ホシノは小さく笑った。

 それが安易に想像できてしまったから。

 

「先生なら、きっと言いそうだねぇ」

 

 けれど──、

 その笑顔は、すぐに消えた。

 

「……でもさ、アズサちゃん」

「なんだ?」

()()()()()()()()()()()()

 

 ホシノの声が、僅かに震えた。

 

「二日も」

「……」

「二日もずっと眠ったままなんだよ」

 

 ホシノは、俯く。

 

「身体の傷は治ってるし、呼吸も安定しているって聞いてはいる……先生は生きているって」

「……あぁ」

「なのに、起きないんだよね?」

 

 ホシノの拳が、ぎゅっと握り締められる。

 

「……()()()()()、アズサちゃん」

「ッ……」

 

 その言葉に、アズサが目を見開いた。

 

「ホシノ先輩……」

「先生が、このまま起きなかったらどうしようって」

 

 ホシノは顔を上げる。

 

「目を覚ましてくれなかったら……どうしようって」

「……」

「おじさんさぁ」

 

 ホシノの声は、今にも消えてしまいそうだった。

 

「もう、()()()()()()()()のは、嫌なんだよ」

 

 アズサは何も言えなかった。

 ホシノの言葉が、胸に重く突き刺さる。

 

「……ホシノ先輩」

 

 アズサは、静かに口を開く。

 

「それでも、今の先輩が無理をして倒れたら、先生はきっと悲しむ」

「……うん」

「だから──」

 

 アズサは一度、言葉を止める。

 

「私も一緒に行く」

「……え?」

 

 ホシノが目を丸くする。

 

「先生の病室までだ」

 

 アズサは花束を掲げる。

 

「私も、これを先生の病室の花瓶に差したいと思っていたから」

「アズサちゃん……」

「けど、約束してくれ──少しでも身体が辛くなったら、すぐに病室へ戻ること」

「……」

「それが、約束だ!」

 

 ホシノは、しばらく黙っていた。 

 そして──、

 

「……うへぇ」

 

 いつものような、力の抜けた笑みを浮かべる。

 

「アズサちゃん、意外と厳しいねぇ〜」

「勿論だ。先生も大事だが、それと同じくらいホシノ先輩も大事だからだ!」

「うへぇ〜、おじさん。アズサちゃんに好かれてて嬉しいなぁ〜……分かったよぉ」

 

 ホシノは小さく頷いた。

 

「──()()()()

「よし! それじゃあ、ゆっくり行こう! 私が肩を貸す! ホシノ先輩!」

「ありがとねぇ〜、アズサちゃん」

 

 アズサはホシノの身体を支えるように、肩を貸した。

 

 二人は、ゆっくりと廊下を進み始めた。

 

 一歩。

 また一歩。

 

 ホシノは痛みに顔を歪めながらも、それでも歩き続ける。 

 

「……もう少し?」

「ああ。あと少しだ」

「そっかぁ……」

 

 ホシノは、廊下の先を見る。

 そこには、一つの病室があった。

 

 その前には、ミレニアムのセミナーに所属する生徒──十六夜(いざよい) ノノミが立っていた。

 

「あれ? ()()()()()()だ?」

「あっ……ご無沙汰してます。アビドスのホシノ先輩とアズサさん」

 

 ノノミは、ホシノの姿を見た瞬間、その表情を曇らせた。

 

「っ……ホシノ先輩、そのお怪我は……」

「うへぇ……まあ、ちょっと派手にやられちゃってねぇ」

 

 ホシノはいつもの調子で笑おうとする。

 けれど、その笑顔はどこか痛々しかった。

 

「ちょっと、で済む怪我には見えませんよ?」

 

 ノノミは心配そうにホシノを見る。

 

「こんな状態で、どうしてここまで……」

「先生に会いに来たんだ」

 

 代わりに、アズサが答えた。

 

「ホシノ先輩は、どうしても先生の顔を見たいらしい」

「……先生に?」

 

 ノノミが、病室の扉を見る。

 その向こうには、二日前から眠り続けている先生がいる。

 

「そうですか……」

 

 ノノミは、少しだけ俯いた。

 

「実は私も、先生のお見舞いに来たんです。ヒナ会長たちは()()()()()()があるので、私だけですが……」

「そうだったんだぁ。うち(アビドス)からは、ノアちゃんが私の代わりに行ってるやつだね?」

「はい。その会談になります。私はお留守番でしたので、こちらに来たんですが……いざ、この扉の前に立つと開けられなくて……少し気持ちを落ち着かせていたんです」

 

 ノノミは苦笑する。

 

「あの戦いの日──私はセミナーの一員として、救急車にて運ばれる先生に付き添っていました。あの時のぐったりと倒れる先生が、脳裏に過ぎると……ちょっと扉を開ける勇気が出なくて……」

 

 ノノミは、病室の扉へ視線を向けたまま、静かに言葉を続けた。

 

「また、あんな姿になっている先生を見るのが……少し怖いんです」

「ノノミちゃん……」

 

 ホシノが小さく呟く。

 ノノミは、少しだけ驚いたようにホシノを見る。

 

「っ……! すみません。アビドスの皆さんへ、こんなことを言うつもりじゃなかったんですが」

「ううん」

 

 ホシノは首を横に振る。

 

「大丈夫、分かるよ」

「……」

「だって、()()()()()()()()()()

 

 ホシノは、病室の扉を見る。

 

「怖いんだよねぇ。先生に会うのが……」

 

 その声は、とても小さかった。

 

(そもそも、私たち(対策委員会)が先生を、アビドス自治区へ呼ばなかったら、先生はこんな事には……)

 

 ノノミは、何も言わずにホシノを見つめる。

 そして──、

 

「……でしたら」

 

 ノノミは、ゆっくりと病室の扉へ手を伸ばした。

 

「お二人とも、一緒に入りませんか?」

「っ……! いいのか?」

「もちろんです! アズサさん!」

 

 ノノミは柔らかく微笑む。

 

「私もホシノ先輩たちが一緒に居てくれたら……その、何故かは分からないですが、頼もしい気がします」

「……そっかぁ」

 

 ホシノは小さく笑った。

 

「じゃあ……お願いしようかな」

「はい!」

 

 ノノミが扉を開ける。

 

 ──カチャリ。

 

 静かな音が廊下に響いた。

 

「……」

 

 ホシノの足が止まった。

 

 開いた扉の向こう側には、一つのベッドが置かれる静かな病室があった。

 

 そして──、

 

「……()()

 

 ベッドの上で眠る先生の姿が見えた。

 

 身体にはいくつもの包帯。

 腕には点滴。

 顔には治療の痕。

 規則正しく上下する胸。

 

 医療機器から聞こえる一定の電子音だけが、部屋に響く。

 

 ──ピッ。ピッ。ピッ。

 

 ただ、それだけ。

 

 ホシノは、しばらく動かなかった。

 アズサも、隣で息を呑む。

 

 ノノミは、そっとアビドスの二人を先に通した。

 

「ホシノ先輩……入るぞ」

「……うん」

 

 ホシノは、一歩踏み出した。

 しかし──、

 

「……っ」

 

 ホシノの身体がふらつく。

 

「──ホシノ先輩っ!」

 

 アズサが慌てて支える。

 

「大丈夫か?」

「あーうん。大丈夫、大丈夫」

 

 ホシノは苦笑する。

 

「ちょっと、先生を見て、力が抜けちゃっただけだよぉ」

「っ……無理はしちゃ駄目だからな」

「うん……」

 

 ホシノは頷く。

 それでも、先生から目を逸らさない。

 

 ──ゆっくり。

 ──本当にゆっくりと。

 

 ベッドの傍まで歩いていく。

 

「……()()

 

 ホシノが、ベッドの脇に立つ。

 眠っている先生の顔を見る。

 いつもなら──、

 

『ホシノ、またサボってるでしょ?』

『セリカから聞いたよ! ホシノ、毎日ラーメン屋に通ってるんだってね! もっと栄養バランスも考えないとだよ!』

『ホシノの為なら、先生は頑張れちゃうよ!』

 

 私に笑顔を向けて、話しかけてくれていた。

 

 けれど──、

 先生を呼んでも、何も返ってこない。 

 

 ホシノは、先生の顔をじっと見つめる。

 

「本当に、寝てるんだねぇ……二日も、ずっと」

 

 アズサに支えられながら、ホシノはゆっくり椅子へ腰を下ろす。

 

「……ふぅ」

 

 小さく息を吐く。

 それから、先生の手へ視線を向けた。

 

「……触っても、いいかな?」

「もちろん、大丈夫だと思いますよ」

 

 ノノミが後ろから近づき、答える。

 

「……そっか」

 

 ホシノは恐る恐る手を伸ばす。

 

 そして──、

 先生の手を握った。

 

「……」

 

 ──温かい。

 ──ちゃんと、生きている。

 

 それだけで、ホシノの胸の奥に張り詰めていたものが、ほんの少しだけ緩んだ気がした。

 

「……()()()()

 

 ホシノの口から小さな声が漏れる。

 

「温かい……ちゃんと、温かいよぉ」

 

 ホシノは先生の手を両手で包む。

 

()()……」

 

 声が震え始める。

 

「おじさん、来たよ」

「……」

「二日も寝てるんだからさぁ……先生、私よりもサボりすぎじゃないかなぁ。そろそろ起きてよ」

 

 いつものように、軽い口調で話しかける。

 

「みんな、先生のこと待ってるよぉ」

 

 返事はない。

 

「アビドスのみんなも」

「……」

「ミレニアムのみんなも」

「……」

「セリカちゃんや便利屋の子たちも……」

「……」

「たぶん、ゲヘナの子たちだって……」

 

 ホシノはそこで言葉を止めた。

 

「いっぱい、心配してるんだから」

 

 先生の手を握る力が、少しだけ強くなる。

 

「だからさぁ……」

 

 ホシノは俯いた。

 

「……早く起きてよ」

 

 その声は、震えて、ホシノの瞳から涙が零れる。

 

「おじさんさぁ……」

 

 一度、言葉を飲み込む。

 

「もう、()()がいなくなるのは嫌なんだよ」

 

 アズサが静かに目を伏せる。

 ノノミも、胸元に手を添えた。

 

 その言葉が、静かな病室に落ちる。

 

「……」

 

 返事はない。

 ただ、人工呼吸器が規則正しく空気を送り込む音と、心拍モニターの電子音だけが響いている。

 

「……ホシノ先輩」

 

 アズサが、静かに声を掛ける。

 

「先生は、大丈夫だ」

「……」

「チナツが言っていた。先生の容体は安定している。命に別状はないって」

「……うん」

「だから……きっと目を覚ます!」

 

 アズサは、そう言い切った。

 それは、根拠のある言葉ではなかった。

 

 アズサは医者でもない。

 先生の身体を診察できるわけでもない。

 

 それでも──、

 

「たとえ今は違くても、私はそう信じてる。そう信じることこそが、()()()()()()()()()()だと思うから……だから、ホシノ先輩も信じてくれ!」

「……」

 

 ホシノは、しばらく黙っていた。

 そして──、

 

「……うへぇ」

 

 ホシノは、小さく笑った。

 

「アズサちゃんって、たまにすごいこと言うよねぇ」

「たまにじゃない。私はいつだって真剣だ」

「うへへ……そうだったねぇ。ありがとねぇ、アズサちゃん。そうだよね、おじさんが信じないと」

 

 ホシノは、握った先生の手を見る。

 自分の手の中にある温もり。

 

 その温もりにホシノは縋り、信じる。

 

「……先生、信じてるから。待ってるからね」

 

 ホシノは、ゆっくりと口を開く。

 

「おじさんねぇ……」

 

 少しだけ息を吸う。

 

「昔、()()()()()()()()()があるんだ」

「……」

「何であの時、あんな言葉を言ってしまったんだって……もっと早く気付いてればよかったって……だから……!」

 

 ホシノの指が、先生の手を包み込む。

 

「今度こそ、守りたいんだよ」

「……」

「先生が、私たちを助けてくれたみたいに」

 

 涙が、一滴。

 先生の手の甲へ落ちた。

 

「今度は、私たちが先生を守る番だから」

「……」

「だから、勝手にいなくならないでよ」

 

 ホシノは、涙を拭おうとする。

 しかし、傷だらけの腕では上手く拭うことができない。

 すると──、

 

「っ……私が拭きます」

 

 ノノミが、そっとハンカチを差し出して、ホシノの涙を拭う。

 

「ありがとねぇ、ノノミちゃん」

 

 ホシノは涙を拭かれながらも、少しだけ笑った。

 

「ねぇ、二人とも、先生が起きたらさぁ」

「うん?」

「ミレニアムのみんなも誘ってさぁ、どこか行きたいねぇ〜! 例えばさ、海とかさぁ〜」

 

 その言葉に、ノノミとアズサが嬉しそうに頷く。

 

「そこには、ノノミちゃんもだし……やっぱりセリカちゃんも外せないなぁ〜。あと、ゲヘナの子とかも仲直りしたいねぇ」

「ホシノ先輩は、一旦、セリカに対して、ストーカーしすぎだ!」

 

 アズサが真顔で言った。

 

「うへぇ!? ストーカーじゃないよぉ。おじさんはただ、セリカちゃんのことをちょっと気にかけてるだけで……」

「それを世間ではストーカーと言うんじゃないのか?」

「そんなぁ……」

 

 ホシノはわざとらしく肩を落とす。

 その様子を見て、ノノミも思わず小さく笑った。

 

「ふふっ。そうですね〜。そのセリカちゃんも、きっと喜ぶと思いますよ」

「でしょ〜? ノノミちゃん、分かってるねぇ〜。セリカちゃんは外せないよぉ〜!」

「先生が起きたら、ちょっとお時間をいただいて……どこへ行くかの相談をしないとですね! そして、行先は安全なところにしないと」

「うへぇ……」

 

 ホシノの表情が、一気に曇る。

 

「危ない所に行くと、先生は絶対に無茶するもんねぇ」

「……それは否定できないな」

 

 アズサが頷く。

 

「先生は、自分が傷つくことより、生徒が傷つくことを嫌がるからな」

「そうなんですね……」

 

 ノノミも、眠る先生を見る。

 

「うん。だからこそ……今度は私たちが、先生に無茶をさせないようにしないといけない」

「……だね」

 

 ホシノも静かに頷いた。

 その時だった。

 

「……あれ?」

 

 ノノミが、ふと先生の手元を見る。

 

「どうしたんだ、ノノミ?」

 

 アズサが尋ねる。

 

「いえ……今、先生の指が……」

「え?」

 

 三人の視線が、先生の手へ集まる。

 

「……」

 

 何も起こらない。

 先生は、相変わらず動かずに眠ったままだ。

 

「う、動いた気がしたんですけど……気のせい、ですかね?」

「……気のせい、か」

 

 ホシノは少し残念そうに笑う。

 

「先生、ほんと寝るの長すぎだよぉ」

 

 そう言いながら、ホシノは先生の手を握り続ける。

 

「もうちょっとだけ、ここにいるねぇ……」

 

 ホシノは、目を閉じる。

 

「……ああ、私も付き添うぞ」

「私もご一緒しますね」

 

 ノノミも椅子を引き寄せる。

 三人は、先生を囲むように静かに座った。

 

 病室には、穏やかな時間が流れていた。

 

 

 この日も、先生は目を覚まさなかった。

 

 

 しかし──この日の夜。

 

 ()()()の病室に、()()()()()が届いたのだった。

 

 





ん。なんか手紙が届いたみたいだけど、どうでもいい。

ノノミは私を仲間外れにしてる。
一刻も早く、私も誘うべき。

こっちには銀行強盗できなくて寂しがってるヒフミもいるし、海に行きたい。

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