何かがおかしいブルーアーカイブ   作:千ノ宮チノ

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第47話:小鳥遊ホシノの失踪

 

 子鳥のさえずりが聞こえた。

 私は雲一つない青空の中、教室にいた。

 

 それは──アビドス本館。

 

 今では砂に呑まれてしまった、元アビドス高等学校であった。

 

「見て見て! ()()()()()()!」

 

 否。ここは教室ではなかったらしい。

 

 ──ここは、アビドス本館の()()()()

 

 その机で突っ伏していた私──ホシノに、()()()()()が聞こえてきた。

 

「ねぇ、聞いてる? ホシノちゃん! 昔の生徒会が、アビドスの『大オアシス』に、すっごいものを埋めたらしいの!」

 

 私は机の上から顔を上げる。

 

「すごいもの、ですか?」

「そう! 花火なんだけど、希少鉱物が入った花火らしくて……! これに刺激を与えると、プラズマになった火花が発生して空を彩る──っていう技術が使われているんだって!」

 

 顔を上げた先には、()()()()()がいた。

 

「こ〜んな形の花火もあるんだよっ! かわいいよね〜!」

 

 ──髪は膝ほどまであるロングヘアーで緑がかった薄い水色。

 

「元々はお祭りの時に使う予定だったらしいんだけど、何故かうまく動かなくて余ったのを湖に捨てたんだって」

「……なるほど」

「すごいよね、100gで100万円以上もする鉱物が入ったものを捨てちゃうんだよ?」

 

 ──服装はチェックのスカートに入れた白シャツと、髪色と同じ色のネクタイ。

 

「さすがはアビドス生徒会……羽毛の体操マットを使う方々なだけあるよね……」

 

 ──身長はホシノよりも高くて、胸も大きい。

 

「その100分の1でいいから、私たちに残してくれても良かったのに……ひぃん」

 

 ──その少女の名前は、『梔子(くちなし) ユメ』。

 

 あぁ、本当に懐かしい。

 懐かしい()()だ。

 

 ──(アビドス)の生徒会長だ。

 

 ──私のユメ先輩だ。

 

「……つまり、ユメ先輩。『大オアシス』の下に希少鉱物が埋まっている、ということですか?」

「そっ!」

「……ユメ先輩は、自分が何を言っているのか分かっていますか?」

「えっ……その……?」

 

 ユメ先輩が私の言葉に、冷や汗を流して戸惑っている。

 そんなユメ先輩を見ながら、私は少しだけ笑みを浮かべる。

 

「こうしてる場合じゃないですよ! 今すぐに探しに行きますよ!!」

 

 私は目を輝かせながら、ユメ先輩へと抱き着く。

 

「そう!! 私もそれが言いたかったの! ……お宝探し、スタートっ!」

「うへへ、行きましょう。先輩!!」

「うん! これで私たちも大富豪だよ、ホシノちゃん!」

 

 ユメ先輩が嬉しそうに飛び跳ねながら、生徒会室を真っ先に出ていく。

 そんな先輩の後ろ姿を見て、私もついて行く。

 

 ──こんな事もあったねぇ。

 

 私はその()()()に耽る。

 

 この後、ピッケルを持ちながら、大オアシスへと二人で()()姿()で行くんだよね。

 

 何で水着姿なのかと言うと、ユメ先輩が掘っていたら、地下水が湧き出るかもって言って。

 そんな確率、アビドスで存在するのって私は笑っちゃって。

 ユメ先輩はいつも通り『ひぃん』って肩を縮めて。

 

「ひぃん……希少鉱物、見つからなかったね。反省として今日の出来事は書いておかないと」

「ちょ、ちょっと! 先輩、何を書いて……こんな失態の記録とか止めてくださいよ!」

「でも、生徒会長としての義務というかさぁ……後々ホシノちゃんの役にも立つと思うの……!」

 

 ──そんな当たり前の日常があった。

 

「それ、失敗の記録しかないでしょ! というか、そんな()()()()()、誰が貰うか! 私は新しいヤツ買いますからね!」

「ひぃぃん……!」

 

 私にとっては、何でもない日々だった。

 

 ユメ先輩と一緒に生徒会をして。

 学校で借金の返済をどうしようか語り合って。

 ユメ先輩と一緒に笑って。

 

 そんな暖かい日々が、私にはあった。

 それが日常だったから。

 

 ユメ先輩がずっと隣に居てくれたから。

 私の前を歩いてくれていたから。

 

 明日も、きっと同じような日が来る。 

 私は、そう思っていた。

 

 ……うん。

 あの頃の私は、本当にそう思っていたんだ。 

 

 けれど、それと同時に──、

 当時の私は、何もかもに()()を感じていた。

 

 ──アビドスの状況。

 それは息をつく暇もなくやってくる砂嵐に、止まらない砂漠化。

 

 ──無気力な市民。無責任な生徒。無能な前生徒会。

 その皺寄せを、私やユメ先輩がずっとしていた。

 

 ──自分の利益だけを考えて、悪事を働く大人。

 気を抜くことはできず、悪意に晒され続けてきた。

 

 そして──、

 毎日毎日、失敗ばかりのユメ先輩と。

 

 理想だけは一丁前で、何も解決できない無力な自分(ホシノ)に。

 

 ただただ悪くなる世界へ、怒りに身を任せるしかなかったんだ。

 

 ──それで、全ての問題を解決できると信じて。

 

 あぁ、これは私の()()()()()

 

 最近は見なくなってきたんだけどな、()()()を。

 

「じゃーん! ホシノちゃん、見て見てー! アビドス砂祭りの昔のポスター! やっと手に入れたよー!」

 

 ある日、ユメ先輩は生徒会室にやってきて、笑顔で私にポスターを見せつけてきた。

 

「この時はまだ、オアシスが湖みたいに広がってたんだよねー。あっ、このポスターは記念にあげる!」

 

 ユメ先輩が私にポスターを手渡してくる。

 

「えへへ、すっごく素敵でしょー? もし何かの奇跡が起きたら、またこの頃みたいに人がたっくさん集まって──」

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 私がユメ先輩の笑顔を曇らせる。

 

「そんなもの、あるわけないじゃないですか。それよりも現実を見てください!」

「は、はう……!」

「こんな砂漠のド真ん中に、もう大勢の人なんて来るはずがないでしょう!? 夢物語もいい加減にしてください!」

 

 ──私は本当に何をしているんだろうか。

 

「うぇぇ、だってホシノちゃーん……ご、ごめんね?」 

「っ……そうやって、ふわふわと、奇跡だの幸せだの何だの……!」

 

 私はユメ先輩を強く睨みつける。

 

「もっとしっかりしてください! あなたはアビドスの生徒会長なんですよ!? もう少し、その肩に乗った責任を自覚したらどうなんですか!!!」

 

 ──ビリビリッ。

 

 そして──、 

 私はユメ先輩から貰った()()()()()()()()()()

 

 その時のユメ先輩の表情は、どんな表情だったんだろうか。

 私にはもう、()()()()()()

 

 その後も、ユメ先輩はチンピラに絡まれたり、トラブルに巻き込まれ続けた。

 

 当時の私はそんな状況に、イライラしていた。

 

 だからある日──、

 私はユメ先輩に怒りをぶつけて先に帰った。

 

 すぐに謝るつもりだった。

 けれど──、 

 

「ユメ先輩、戻りましたよ。次は気を付ければいいですから……ユメ、先輩……?」

 

 その日を境に、()()()()()()()()()

 

 その日から私は、行方不明になったユメ先輩を探し回った。

 荒廃した砂漠だらけのアビドス自治区を、くまなく探し回った。

 

『ごめんね、ホシノちゃん。電波がうまく@#$%』

 

 ユメ先輩からはスマホのトークアプリに、メッセージは来ていた。

 

『砂漠にいたら@#$%砂嵐に遭って@%#』

『ホシノちゃん……ごめんね』

『またコンパス忘れちゃった』

『メモも残したけど、ここでも送るね。私の手帳は、あそこにあるから』

『ホシノちゃんもよく知ってる@#%@%#』

『目立つ場所に置いたから、すぐに分かると思う』

『ホシノちゃん。私は──』

 

 それから何日、何週間、何ヶ月と探したけれど、ユメ先輩は()()()()()()()()

 

 砂漠の砂に埋もれて、死んでしまったんじゃないかって。

 そんな心無い事を言う人だっていた。

 

「……違う」

 

 私は、何度もそう言い聞かせた。

 

「ユメ先輩は……生きてる」

 

 そうじゃなきゃ、駄目だった。

 だって──、

 最後に会った時、私は、ユメ先輩に酷いことを言った。

 

「……ごめんなさい。ごめん、なさい……ユメ先輩……!」

 

 私は砂漠を歩き続けた。

 

 ──まだ、謝ってない。顔を見たい。会いたい。

 

 砂嵐が吹き荒れても。

 足が痛くなっても。

 喉が渇いても。

 それでも私は、ユメ先輩を探し続けた。  

 

「……ユメ先輩」

 

 声が震えた。

 

「私……まだ、謝ってないんですよ」

 

 返事はない。

 

「この前は……言い過ぎたって」

「本当は……そんなこと思ってなかったって」

「先輩が馬鹿だから怒ったんじゃなくて……」

 

 私は唇を噛む。

 

「……私がただ怖かっただけなんだって」

 

 ──アビドスが壊れていくのが。

 ──何もできない自分が。

 ──先輩まで失ってしまうことが。

 

「だから……」

 

 涙が頬を伝う。

 

「帰ってきてくださいよ……!」

 

 

 ユメ先輩は()()()()()()()()

 

 

 それから──、

 私は、()()()()()()()()()()()()()

 

 そうしなければ──、

 私は、壊れてしまいそうだったから。

 

 私は、アビドス廃校対策委員会を作った。

 

 ──ユメ先輩の代わりに。

 

 ユメ先輩が大好きだったアビドスを守るために。

 借金を返すために。

 ノアちゃん達を守るために。

 

 そして──、

 もう二度と、()()()()()()()()()に。

 

 

 □■□■□■□■□■□■□

 

 

 夜の病室で、ホシノは目を覚ます。

 

「……っ! はぁ、はぁ……夢……?」

 

 目を開けた瞬間──、

 ホシノは、自分がどこにいるのか分からなかった。

 

「……ここ……どこ……?」

 

 暗い天井。

 窓から差し込む、月明かり。

 そして、規則正しく響く医療機器の音。

 

 ようやく、ホシノは自分がミレニアムの医療施設にいることを思い出した。

 

「……あぁ。そういえば、病院にいるんだったねぇ」

 

 ホシノは小さく息を吐く。

 身体を起こそうとするが、脇腹に走った痛みに、顔を顰める。

 

「……いたた」

 

 すぐに身体を横たえる。

 まだ、身体は思うように動かない。

 

 けれど──、

 ホシノは痛みを感じることで、逆に()()()()()()

 

(……夢、だったんだね)

 

 先ほどまで見ていた光景と記憶。

 それが今でも鮮明に思い出せる。

 

「最近は、あの夢も頻度が減ってきた筈なんだけどねぇ……」

 

 そんな時、ホシノはベッド横の小テーブルに、()()()()()が置かれていることに気が付いた。

 

「ん? おじさんに手紙? ……誰からかな?」

 

 ホシノは、ゆっくりと身体を起こす。

 小さなテーブルの上に置かれていたのは、白い封筒だった。

 

 宛名には──、

 

()()()()()

 

 そう、丁寧な文字で書かれている。

 

「……暁の、ホルス?」

 

 ホシノは、その文字をしばらく眺めていた。

 

 妙だった。

 

 その文字は、どこかで()()()()()()()()()()に思えた。

 

「誰からなんだろうねぇ」

 

 ホシノは封筒を開ける。

 

 その中には、()()()便()()()()()が入っていた。

 

 ホシノはまず裏向きだった写真をひっくり返す。

 

「……え?」

 

 その写真には──、

 ホシノが()()()()()()の生徒を抱き寄せる()()()の写真があった。

 

 否。違う。

 

 ──()()()()()()()()()()

 

 ──その四人をホシノは知っていたはず。

 

「セリカちゃんと、ノノミちゃん……? それに、この子はゲヘナ風紀委員会にいた子だよね? 狼っぽい子は見たことがないけど……」

 

 そして──、

 その写真の中央で満面の笑みを浮かべるのは、紛れもなく自分(ホシノ)だった。

 

(これって、()()()()()()()()()()()()……セリカちゃんやノノミちゃん達と同じアビドス高等学校に通っていたら、と……皆には、出会った時から何故か()()()を感じていた、と……)

 

 けれど、そんな()()()()()

 

 アビドス高等学校に通うのは、ノアちゃんやアズサちゃん達なのだから。

 

 それに、アビドスを助けようとしてくれる()()だって、初めて出会った時に──、

 

 無意識のうちに、指先が写真の中のホシノに触れる。

 

 その瞬間──ズキッ──。

 

「──っ!?」

 

 ホシノの頭の奥に、鋭い痛みが走った。

 

「いた……っ!」

 

 ホシノの視界が揺れ、思わず頭を押さえる。

 

 そして──、

 ほんの一瞬だけ、知らない光景が脳裏を駆け抜けた。

 

「……今の光景は、何?」

 

 ホシノの息が荒くなる。

 手に持っていた写真は、小さく震えている。

 

「……知らない」

 

 ホシノは呟く。

 

「私は……こんな()()、知らない」

 

 けれど、胸の奥では、何かが叫んでいた。

 

 ──知っている。

 ──ずっと昔から。

 ──この子達を知っている。

 

「……変だねぇ」

 

 ホシノは苦笑する。

 

「最近のおじさん、どうかしちゃったのかな」

 

 そう言いながらも、ホシノは写真の中の五人を指先で撫で続ける。

 

 そんな時──、

 視界の端に、便箋に書かれていた文字がホシノの目に入った。

 

 そこには、短い文章だけが記されていた。

 

「……え?」

 

 ホシノの目が、大きく見開かれる。

 

 便箋に書かれていたのは──、

 

 

 この日、小鳥遊(たかなし) ホシノは病室から()()()()

 





ヒヒッ……ヒヒヒッ……準備が整ったな。先生、早く起きないと、どうなっても知らないぞ。

先生が未来をことごとく変えてしまうというのなら、過去を利用すればいいだけのこと。

例え先生であっても、赴任前の過去を変えることは不可能でしょう。

つまり暁のホルスへの攻略の鍵は──『過去』にあるのです。

攻略法その3──『既に起きた出来事は変えられない』


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