崩壊世界のゴミ漁り~ウジ虫からの成り上がり~   作:Schuld

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 久し振りもなにも、一昨日来たでしょうというと、四面のPCモニタを前に座っている女はへらへら笑いながら椅子を回してこちらを向いた。

 

「アンタみたいなザァコ、何時死んでもおかしくないからねぇ~。借金返す前に死なれちゃ困るからさぁ」

 

 言っちゃなんだが、ガキっぽい奇っ怪な女だった。

 

 その姿を一言で言うなら、安物のキメラといったところか。

 

 顔立ちはフェイスプレートのおかげで幼げに整っているが、つり目気味の綺麗な青い右目に比べて、生身の褐色をした左目は外斜視が酷い。その上、シアンカラーのサイドポニーにしたファイバーケーブルのユニットは、艶がないバサバサでケバケバしい。

 

 そして、上だけピンク色のジャケットを羽織った、身長140cmほどの体は全身義体……というより、有り物を寄せ集めた人形のようだった。

 

 ガタイに似合わない豊胸ユニットを金属板のニプレスで隠しているが、胴部はオレンジ色でメンテナンスパネルがやけに目立つから、自動人形用の部品を無理矢理使っているのだろう。

 

 両腕は人間用だから形は普通だが、背に比べると長すぎるのと右がマットな黒と銀、左がオレンジとパープルのモザイク模様で、明らかに左右でメーカーが違う。

 

 そして、股関節は前貼りみたいな金属片で隠しているが、太股の継ぎ目が丸出し。これも人形用の部品だろう。

 

 両脚だけはメーカーが揃っているが、人工皮膚がハゲていて少し見窄らしい。

 

 人によってはこのチグハグな、携行オレンジのコートだけを羽織った小生意気でガキめいたナリが〝セクシー〟だというのだろうが、俺には何とも安っぽく映る。

 

 しかし、腹立たしいことにコイツが俺の飼い主。五級スカヴェンジャーの近藤・(すず)だ。

 

「で~、何掘ってきたの~? 何か背中に背負ってるけど、人形なら要らないよ~」

 

 金になんないからねと嗤う近藤に、俺はフラウを下ろして顔をしっかり見せてやった。

 

「人間だよ。昨日助けた。ドジって両手足を喪ったが、ハッカーとしては良い腕してたぜ」

 

「トチって手足なくすザァコが~? まぁ、ザァコがザァコを拾うのはお似合い~」

 

 ケラケラ笑うクソアマに従って、彼女の護衛が皆笑った。

 

 室内に子飼いは三人。それぞれ割とマシな扱いを受けている、俺より格上の下請け。ったく、ちょっと気に入られているからって、それだけで俺を下に見るのは普通にムカつくな。

 

 まぁ、コイツら殴っても一銭にもならんし、喧嘩するだけ損だから無視するがよ。

 

「コイツを見ても言えるか?」

 

 俺は雇用主の前のテーブルの上、飲みさしのビール缶や食いかけのピザ、あと山盛りの灰皿を腕でザッと払い退け、保管用ハードケースを置いた。

 

 そして、ボタンを押して開き、中身を見せ付けながら言う。

 

「東レの名作、KS-M4000だぜ。新品未使用、開封履歴はボックスに記録済みで製造IDも合致してる。電気伸縮、形状記憶、色彩変更何でも御座れ。アーコロジーやギガフロートのお偉方も喉から手が出る逸品だ」

 

 カツラを見て近藤の目が変わった。斜視の左目でよく見るためか、顔を傾けてじっと睨むように品定めをしている。目聡い女だから、俺が新品のケースだけ見つけて、別のカツラを入れていないか確認しているのだろう。

 

「うわ、本当に東レ製、しかも本物~? ザァコが生意気~」

 

「だろ? で、幾ら出してくれるんだい?」

 

「まぁ、ザァコにしちゃ大したもんだけど、精々40円ってところだね~前髪スカスカのおじさんにしか売れなさそ~」

 

 来た。やっぱりケチつけて、かなりボッて来てやがる。

 

 これまでは持ってきた物が高級か安物か、薄い知識しかなかったので抵抗できなかったが、今日は違うんだぜ。

 

 まぁ、俺が調べた訳じゃなくて、フラウのおかげだから、調子に乗りすぎないよう自分を諫めとかないとな。

 

「おいおい、流石にボスでもそりゃないぜ。肉屋通りで売ってるショートカットの女性用プリシラ・ドールでも40円だぜ? 需要が高い男性用で、東レ製と比べりゃあんまりだろ」

 

「……ザァコなのに周到だねぇ。頭カチコチなのに~」

 

「左目の調子がおかしいんだよ。メンテがてらちょっと通った時に見かけただけさ」

 

 それっぽい理屈を立てて、小生意気さを少しでも薄める。

 

 俺はコイツが大嫌いだが、近藤を通さないと価値の高いブツが捌けないのも事実だ。ちょっとした部品ならいいんだが、完品となればこの女は見逃しちゃくれない。

 

 闇市に持ち込むのはリスクがデカ過ぎるし、バレた時にどんなペナルティを言われるか分かったもんじゃないからな。前はちょっと口答えしただけで、借金の利息を2%も上げられた。

 

 最悪、マジで怒らせて、報復でヒットマンなんて送り込まれちゃ堪ったもんじゃない。

 

 そりゃ無戸籍人の俺と同じヤツを撃ち殺したって、皇国軍の憲兵隊は何も言わんしな。

 

 けれど、一応近藤は市民ID持ちで、正規のスカヴェンジャーだ。俺が癇癪起こして報復で撃ち殺したら、向こうが阿漕なことをしてたってコッチが公権力から目を付けられる。

 

 理不尽だけど、それがこの界隈だから仕方ない。

 

 ただ、今日は俺の話の方が道理も通ってる。流石にお気に入りで忠誠心がある部下の前とはいえ、あんまりケチ臭い姿は晒したくないだろ?

 

 何つったって、面子商売だもんな。

 

「俺の見立てじゃ千円は硬いぜ。上級市民様が奪い合いだろ」

 

「ちょっと囓ったザァコが賢しらぁ……それはね、市場価格~。アンタは何~? 下請けのザァコ。アタシから借金して初期投資も受けてやってる商売で、その値が付くわけないでしょ~? ヨワヨワなアンタが~誰のおかげで目が見えて~物が持てると思ってるわけぇ~?」

 

 見下げ果てた馬鹿を見るような目で見られたが、これも計算内だ。

 

 それに、千円は軽く言ってる。実際に富裕層の手元に渡るには、スカヴェンジャーの協会を通して卸しに行き、バイヤーを通すことになるので手間賃を含めれば三倍が妥当ってところというのがフラウの見込みだ。

 

 まぁ、戦前の値段と、キシワダ・ベイサイドの物価を対照して弾き出した物だから、下手すると希少性で更に高値かもしれないけど。

 

 ただ、ここで相手にこっちを物の価値を完全には知らない馬鹿だと思わせた方が、この後の交渉がやりやすくなる。

 

 何も俺だって、フラウを仲間にして、ガン・フーの初歩も初歩を覚えたからって、いきなり全力で買い主に噛みつくほど無謀でも馬鹿でもない。手順と段階があるってことは分かってるさ。

 

 ここで狭量な雇い主の勘気を買って、サイバネの塊に襲われないようにするのが無難。コイツは五級だが、全身が兵器なのは事実なんだから。

 

 復讐は冷ましてから食うのが一番だつってたのは、誰だったかね。

 

「勿論、ボスだって利益を上げなきゃいけないことは分かってる。だから200でどうだい」

 

「ザァコがさぁ~誰に向かって物言ってるの~? 100が精々~引き算できない人ぉ~?」

 

「協会にゃ600くらいで売れるだろ? 飼い犬が今までで一番デカい肉咥えて来たんだ。多少は侠気ってもんを見せてくれよ。190」

 

「駄目駄目~協会ってのはアンタが思ってるより渋ちぃん。それに、ザァコなのに投資した分が全然ペイできてな~い。その右手と左目、誰のおかげでくっついてんのか、ちゃんと覚えてる~?」

 

 よし、欲しい言葉が出て来た。

 

 分かってんだよ俺だって。そりゃ屍肉喰らいに飼われてるウジ虫の価値が低いことは当たり前だが、五級なんて見方を変えたら同じ底辺。この寄せ集めのボディを見ての通り、近藤だって大した金持ってる訳じゃねぇ。第一、俺が二年間も商売してる中、昇格してねぇんだ。儲けはチンケなもんだってのは俺みたいな浅学にも想像できる。

 

 つまり、持ってる金は大したもんじゃない。三桁はあるだろうが、キャッシュでの貯蓄は300、あっても精々400くらいだろ。

 

 だから、俺は立ち上がるための金を手に入れるために、無理をしない。

 

「分かったよ、じゃあ最初にボスが言った40円で我慢する。代わりに目と左腕の借金、棒引きしてくれよ。どっちも合わせて、コツコツ真面目に返してきたんだ。合わせて100円いかねぇだろ?」

 

 ここで一気に引き下がる。分かってるよ、フラウが教えてくれた。手術費は分からないが、俺の右腕も、左目も、肉屋通りに行けば手術費抜きで合わせて30円が相場だってな。

 

 なんつったって左目は光の順応もトロいポンコツで、右手に至っちゃ違法改造した、元は人間にくっつけることを考えてない部品だ。そりゃ安上がりだろうよ。

 

 だから、コイツは利子も含めて利益は十分得ているはずだ。それを考えれば、引き下がった俺に譲歩しなければ周りがどう思うか。

 

 少なくとも、餌貰ってるから尻尾振ってる連中は、揃って信頼を落とすだろうね。

 

 俺を馬鹿にして溜飲を下げたあとで、我が身のことと考えるわけだ。連中もそれくらいの想像力はあるだろ。

 

 実際、彼女のフェイスプレートは歪んでいた。悩んでいる。俺の誘いに乗るか、突っぱねるか。滲む表情は悔しさか? 見下してた飼い犬に初期投資と借金まで交渉のテーブルに引っ張り出されちゃ、そりゃ面白くないだろうよ。

 

「どうだいボス。俺はアンタに尽くしてきたじゃないか。ちったぁ褒めてくれたってバチは当たらない。だろ?」

 

 けどねボス、そこで顔を歪めちゃ駄目だぜ。ずっと笑ってなきゃ。映画の人物も言ってた。冷や汗一滴掻いたら負けよと。なら、顔を歪めるのはもっとやっちゃいかんこったろ。

 

「チッ、ザァコのくせに。……いいよぉ、それで~」

 

 せめてもの意趣返しか、威厳を保つポーズなのか。拾ったら~? そういって10円素子をばら撒いた近藤だが、俺はちっとも気にしない。

 

 コイツを安い金と見るのは結構だがね、こっちには手札があるんだよ。伏せて、大事に見せていない切り札が。

 

 腰を屈め、決して跪いてなんてやらない。余裕をもって、ゆっくりと金を拾った。そして、不自由なはずの右手で纏めてに弾き、全てを一気にキャッチしてみせる。

 

 驚いたかい? 箸を握るのにも苦労していた手で、器用な真似ができたのが。

 

 もう、その面のおかげで、触覚を取り戻した掌の中にある、軽いはずの金が少し重い。

 

 この40円を元手に稼いで、強くなって、いつかその頭を踏みつけにしてやる。

 

 で、俺の見立てなら、それはそう遠くない未来じゃないぜ。

 

 何せお前は、俺から出資金と借金という首輪を外したんだ。つまり、俺がもう、誰と連もうが、何を買おうが「先に借金を返せと」難癖付けて奪っていく権利はないわけだ。

 

 ちょっと金臭い素子からは、細やかながら勝利の臭いがする気がした…………。




 派手髪豊胸斜視露出狂メスガキ。属性化積載。

 尚、コンセプトは土下座させて頭を踏みつけてやりたい女です。
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