崩壊世界のゴミ漁り~ウジ虫からの成り上がり~   作:Schuld

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 前文明でも人間の手仕事というのは残っていたらしいが、大半は芸術品や民芸品を作るためであって、機械の修理は機械の仕事になっていたという。

 

 今、その意味が良く分かるよ。

 

「マスター、そのコードを23番の穴に。24番は別系列なんで、間違えないように」

 

「待て、ちょっと待て、このカメラアイに望遠機能なんてねぇんだよ」

 

 軽く行ってくれる相方の指示に若干キレそうになりながら、俺は工具を手にジャンクパーツと格闘していた。

 

 ランタンの灯りの下、分解されているのは50銭で買った視覚素子だ。潰れていた端子は取り外されて、大きく三つのパーツに分解されている。

 

 メインの素子部分、中核部分、そして端子部分。

 

 三つの義眼から、それぞれ生きている部分を取りだして、繋ぎ合わせて修理しようというのだ。いわゆるニコイチ、いや、これだとサンコイチか。

 

 髪の毛でも選り分けられる、ほっそいほっそいピンセットを掴み、目を糸のように眇めて何とかマイクロファイバーを繋ぐ。これが目と神系を酷使するせいで、義眼を直そうとしているのに、逆に目を痛めつけているような気がしてならなかった。

 

「っし! 入った!!」

 

 あー、やれやれと、やっとの思いで23本も繋いだ回線が外れないよう、そっと机にしていた椅子の背中において、うんと背を伸ばした。

 

 背骨が乾いた音を立て、長く開きっぱなしだった目から涙が滲む。いややっぱキツいってこれ。

 

「頑張ってくださいマスター。これが終わったら後は大分楽ですよ」

 

「しかし、これ大分綱渡りだなフラウ。右手が義手じゃなかったら絶対無理だぞ」

 

 俺の右手は不格好ながら義手なので、疲れると言うことを知らないし、無意識に震えることもない。だから、肘を突いて安定させ、ゆっくり動かせば髪の毛より細い繊維を引きちぎらないでポートに差し込むことも何とかできた。

 

 ただ、もしも両手が生身だったら、この作業は絶対に完遂できなかっただろう。

 

「勿論、マスターの性能を勘案して提案したプランですよ。もしマスターがウェットだったら、もっと別の買い物をしています」

 

「でもコレ、マジで軍用なのか? 普通、そういうのって簡単に手に入らないんじゃ……」

 

 作業を監督していたフラウに問う。家に帰ってから、彼女はこれを統合軍が使っていた普及型軍用義体向け光学素子だと言うではないか。普通に驚いたね、軍用グレードの部品なんて、中々手に入るもんじゃない。それこそ皇国軍の完全義体兵は、単身で五十人の賊を薙ぎ払うというのだから。

 

「マスター、軍用製品とは常に大量に予備を用意しておく物なのですよ。特に大和共栄経済圏のような、企業連合的な国家は」

 

「その心は?」

 

「使えるだけ使って、型落ちになったら二線級部隊や警察組織に流したり、第三国に売れば良いからです。あと、そもそも軍需物資、特に兵器の部品は損耗することを前提に作るんですよ」

 

 祖国ェ……と思わないでもないが、経済的に考えれば妥当か。特にカメラアイなんて装甲も薄いし、どうしたって壊れやすいもんな。そりゃ沢山作るか。

 

「しかし、これ本当に俺の目に規格が合うのか? 元はチープなドローンのカメラなんだろ?」

 

「軍の備品は冗長性を重んじます。マスターの左目は型落ちどころではありませんが、幸いにも軍に採用された実績のあるメーカーのカメラアイですから、端子の形は同じなんですよ」

 

「じゃあ信じるけどよ」

 

 慎重に部品を組み合わせ、噛み合った音がした後で半回転。軽く引っ張っても外れないことを確認してから、俺はしげしげと新しい眼球を眺めた。

 

 見た目は資格素子とファインダー丸出しの非偽装型機械式眼球だが、心持ち元の品より格好良い。色が暗い赤色なのがちょいと威圧的だが、これは反射率を計算してこうなっているそうだ。気に食わないなら、個人で外装を交換しなさいってこったね。

 

「っし、じゃあ腹括るかぁ」

 

「マスター、直結してください。サポートします」

 

「頼む」

 

 俺はフラウと直結して、バイタルを確認して貰いながら、右手に消毒用アルコールを振りかけた。これ高かったんだよ、五円もした。いや、大瓶で買った方がお得なのは分かるし、医療物資って正に寿命を買うようなモンだから当然だけど、だとしても相当阿漕だぜコレ。

 

 ともあれ、消毒した指をじいっと眺めた後、思い切って左目の縁にねじ込んだ。

 

「あだだだだだだだ!!」

 

「躊躇うと余計痛いですよ! ガッツです!」

 

「他人事だからってなぁ!!」

 

 何か自動人形に熱血と勢いを説かれると微妙な気分になるなぁ!!

 

 激痛に耐えながら親指と人差し指を眼球の裏側まで突っ込み、思いっきりオンボロカメラアイを引っこ抜いた。滑った嫌な音と共に、半年ほど居座っていた低性能な義眼が生身の右目に映り、左側の視界がブラックアウトする。

 

 左の視覚野に映る、緑色の文字でのNOシグナル。異常を知らせるアラートは灯っていない。

 

 痛みのあまり結構勢いよく引っこ抜いたが、麻酔なしで手術するクソ医者の癖して施術はしっかりしていたようだ。幸いにも、コネクタを傷付けず済んだようだ。

 

 しかし、潰れた時も思ったけど、片目でも思ったより広い範囲見えるんだな。まぁ、この重なっている両目の部分で遠近感を図ってるらしいから、片目でも大丈夫とはいかんけど。

 

「がー……くっそー……いってぇぇぇぇぇ……」

 

「入れる方は大分マシですよ。私が指示するんで、角度を守って挿入してください」

 

「麻酔、麻酔が欲しい……」

 

 けど、10円は高い……しかも、流石にフラウもパッケージ越しに薬効が生きてるかは確認できないとかで、そんなモンに大金を使いたくなかったから諦めたんだけど、ちょっとマジで後悔している。

 

 なくなったはずの視神経がジンジンする。というか、引っこ抜いたはずの眼球自体が痛い気がする。今はがらんどうのはずのそこが、熱を持っていた。

 

 これが噂に聞く幻肢痛ってヤツ?

 

「マスター、早く覚悟を決めてください。そうでないと細菌感染が起こりますよ」

 

「分かったよ、覚悟する……やるのは一瞬、やるのは一瞬……」

 

 粘膜に指の腹が触れると、アルコール刺激で灼けるような痛みが伝わってくる。しかし、かっ開かないと入らないのだから仕方ない。俺は消毒液の痛みに悶えつつも視覚素子をねじ込み、端子を眼窩深くへ導く。

 

 しかし、刺さらない。骨を擦る感覚が脳を揺らし、気持ち悪くなった。

 

「いっ……!?」

 

「マスター、もう少し下です! それと力を込めすぎて回っています! 十五度右に回し、斜め下に!!」

 

 ファック!! 細けぇよ! この痛みの中でんな繊細な作業ができるわけあるか!

 

 俺は指示を処理できる自信がなかったので、眼底骨を引っ掻く覚悟で素子を動かした。

 

「ぐうううううううう!!」

 

「ああ、もう! 見ていられません! 私に重力制御ユニットがあれば! いえ、せめて作業用アームの一本!」

 

 俺は自棄になっていたのもあって動きを止めず、手探りの危うい感覚で端子接続口を探る。そして、ようやく引っかかりを見つけて、それを頼りに押し込めば涙が潤滑剤となって、念願の正しい場所へと滑り込んだ。

 

 すると、脳幹を直撃して尻に抜けて行く、対人テーザー・ガンを喰らった時のような衝撃が走った。いや、この衝撃は一撃だけの分、それ以上かもしれない。

 

 棒を呑んだように天を仰ぎ、腰を中心に体が反る。痛みを堪えるために噛んだ歯が軋みを上げ、血の味が滲んだ。どうやら、無意識に口腔の一部を巻き込んで、奥歯でかみちぎってしまったらしい。

 

 左目の視界が揺らぐ、世界が、まわって、廻って、回る。

 

「ぐぇ、ぎ、ぎぼぢわる……」

 

「ああ、施術が雑過ぎたんですね!? 端子側のドライバが干渉しています! 少し力を抜いて!」

 

「あー……あが、あががが……」

 

「ニューロンの硬化がこう働くなんて! マスター、細いですがルートが通っていますので、ジャンクデータを除去します! 嘔吐は何があっても堪えてください!! 下手すると窒息死しますよ!!」

 

 手前のゲロに溺れて死ぬ? 俺を売り払ったクソみてぇな両親の下に生まれて、脳味噌を弄くり倒さてた挙げ句、ニューロンをバッキバキにされて記憶を失った上、終いはゲロまみれでフラウに自分を看取らせる?

 

 そんな死に方して堪るか。俺は必死に蠕動する喉を押さえ込み、体を丸めて目を閉じても回転している感覚に耐えた。

 

 必死に呼びかけてくるフラウの声。それが遠くに響く中、意識はゆっくりと、排水される水のように円を描いて闇に沈んでいった…………。




 自分の体でDIYをしてはいけない(戒め)

 実際、機械化できたからといって眼球には触れたくないですわね。
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