崩壊世界のゴミ漁り~ウジ虫からの成り上がり~ 作:Schuld
スカヴェンジャーの仕事は歩くことだと言われことがある。
現地まで到達するのもそうだが、遺構に潜ってからも、ただ歩く。特に大規模なアーコロジー遺構だと、三日歩き通しでも底に到達できないことがあるそうだ。
特に俺が住んでるオオサカ。その北部。スカヴェンジャーのメッカとも呼ばれる第二アーコロジー……の暴走した成れの果て、通称ウメキタ・ダンジョン。
噂ではあまりにの広大さ、数時間で道が変わる構造、斜めに走る道や、よく測らないと分からない傾斜のせいで階層が変わったことにすら気付かない経路といった、悪辣極まる構造のせいで一ヶ月さまよい歩いて、やっと帰ってきた一級スカヴェンジャー達がいたそうだ。
あと、真しやかに二度と出られなくなった連中が、中で部族的な生活をしているとも聞いたことがある。おっかないね。
まぁ、それと比べれば地下鉄は遠目に見れば編み目のようでも、歩いていれば直線が多い。いつもの仕事だと割切れば、たかだが5kmなんてあっと言う間さ。
「お、配電室だ」
「ロックを解除しますか?」
「頼む。工具があるかも。あと、配電盤の基盤とかプラグって結構売れるんだよ」
遠隔操作で扉が開くあたり、この辺は非常電源の予備系統が生きているようだ。ただ、誘導灯が切れているのは何でだろうか。
そんなことを考えつつ中に入ると、俺の背よりも高い機械の筐体が密集して伸びていた。
灰色で記号が振られている機材の群れは墓石のようだ。静かに佇むその中で、自分が異物になったように感じる。
たしかに、ここは前文明の亡骸。それを食んで生きようとする様は、正しくスカヴェンジャーとしかいいようがあるまい。
「おお、これ全部送電用設備?」
「ですね。常温超電動には凄まじい電力と繊細な制御が必要なので、こういったのが点々とあるんです。幸いにも電気は止まっているので、開けて大丈夫ですよマスター」
鼻歌を歌いながら配電盤を開けば、色々な基盤とコードが犇めいている。以前の俺なら、何かデカけりゃ価値があるとカンで引っ剥がしていただろう。たとえば、何の仕事をしているかもよく分からない基盤とか。
だが、今は心強い市場価格の生き字引があるのだ。
「国御用達の日河製ですね、癖がなくて安価、使いやすさに定評があります」
「ラッキー、状態もいいじゃん、錆もカビもきてねぇ。フラウ、テクノ通りの連中が色めき立ちそうな、色っぽいのはどれだ?」
言うと視界の中で部品がピカピカ光り出した。彼女はテクノ通りを歩いた時、きちんと高級店もスキャンして、高品質部品をピックアップしてくれた。
今の俺はデカイ背嚢がないから、急遽布を縛って作った背負い袋にしまえる物を選別してくれたようだ。気が利いて有り難いよ。これのアガリが上手くいったら、立派なバックパックを買おう。やっぱ動きやすさと行動半径の増加、それから持ち帰れる量が正義だ。
「これは何だ?」
「継電器です。超伝導ソリッドステート・リレー。要するに発電システムの制御系部品で、電装系の関節みたいなものです。なので、何処にでも需要がありますよ。これは特に可動部がなくて頑丈なので、誰でも欲しがるかと。一個5円で売られていました」
なるほど、俺なら無視しちまうだろうな、こんな小っこい硬質樹脂パーツ。そんな重要な物だとは、機械工学の知識がないと需要も分からないんだし。ただ、この配電盤、デカイから同じ部品が沢山付いてる。
えーと、一個5円が店頭価格だろ? ってことは、仕入は
それでも一個1円50銭の儲け? おいおいマジか。近藤のところでセコセコやってたのが馬鹿みたいじゃねーか!
「コイツはたまんねぇな。おいおい相棒、今晩は久し振りにいい飯食えるぜ」
「マスターは年齢の割に体重が軽いですからね、今からでも一杯食べてください。健康状態の改善は急務ですよ」
「ふへへ、合成ハムとか一本買いしちゃおうかな」
「ハムですか、いいですね、高タンパク、脂質も多くビタミンも豊富です。あら汁も悪くないですが、たまには肉も食べた方が良いかと」
壊さないようにケーブルを外し、丁寧に袋へ放り込んでいく。一つ外す度に1円50銭の儲けだと思うと、気分が良いな。
「よし、大体取れた。次は……」
「高集積MOSFETです」
「も、も?」
「金属酸化膜半導体電界効果トランジスタの略です」
略称も本名も早口言葉みたいだった。
ただ、これはかなり良い物で、配電盤では電気の流れをオン・オフするために使われているが、原理的にモーターの制御や、クロームの電圧制御に使えるとかで用途が多岐に渡るらしい。
こんな小指の爪ほどしかない四角いチップが、一枚20円で流通してるのには、そんな意味があったのか。
「気を付けて剥がしてください。力を入れると割れますよ」
「おう、あの目を組み立てたんだから、今なら指先の制御に失敗する気がしないぜ」
マイクロマシン含有の溶接剤で貼り付けられていた部品をひっぺがし――これの発明によって、はんだ付けという技術は死んだらしい――何かに使えるかもと思って取っていた、小さなビニールの袋に詰め込んだ。元々はネジが入っていた他愛のない物だが、壊れ物を持って帰るのに使えるかと思って貯め込んでおいたのだ。
「物持ちが良いと、意外なところで役に立つよな」
「見た目もスッキリするので、買い手にも印象が良いかと」
「よぉし、お次は何だ?」
「では、本体中央近く、制御盤のサーキット・ブレーカーを」
「コイツは元々何のためにくっついてる部品なんだ?」
「予想外の大電流が流れた時、機械が壊れないよう回路を遮断する安全装置です。この型番、EMP対策がされていますね。公共交通機関が採用するだけあります」
へぇ、そんな機能が配電盤にあったのか。トグルスイッチがついていたので、念のためにオフにしておいて、それからドライバーでネジを外し本体を取り外す。
待てよ? 大電流に対する制御……ってことはコレ、電脳戦で欲しい高圧電流攻撃に対する身代わり防壁の部品か!
「マジかよ! ってことは、これで身代わり防壁作れたりしねぇか!? 安物でも千円はするんだぜ!」
「身代わり防壁ですか? ああ、残念ですが、あれは電脳の通信経路に割り込ませる必要があるので、それだけでは組めませんね。もっと色々な回線やOSが必要になります。精密機器なんで、高価なんですよ」
「なんだ……じゃあコレ、普通に電気部品としてしか売れねぇわけか」
「それでも、部品自体に価値がありますから。接点部分が銀やプラチナなんで、他の触媒に加工したりもできる点から需要は高いですよ。一つ30円は硬いかと」
「うひょぉ! ってこたぁ……解体一つで100円近い儲け!?」
おいおい、テンション上がってきたじゃねーか。他にも剥げそうな機械はあるし、まだ光ってる部品も一個ある。
「これは!?」
「分配器です。ファイバーを束ねて信号を分岐する部品で、義体の整備に使えます。これ自体は義体専用の部品ではないので5円ほどの価値にしかなりませんが、しかし、ジャンクパーツを買ってきて修理に使えますよ」
「おっ、じゃあ、コイツを使えばお前の腕とか足を付ける時に使える?」
「その膨大なパーツの一つ、ですね」
ふーむ、信号を分配する機械ってんなら、沢山いるのかな。じゃあ、一個5円程度なら大事に取っといてもいいか。
あ、いや、待てよ、安全に保管できる場所なんてねぇしな。正規のスカヴェンジャーになれれば、管理が行き届いた倉庫が協会から借りられるんだけど、俺みたいな無戸籍民はそうもいかねぇ。
一応、キシワダ・ベイサイドにも貸倉庫はあるが、倉庫番が盗人に何が入っているかを教えるクソにも程がある施設なので、とてもじゃないが利用しようとは思えない。
市民IDがなきゃ銀行口座も作れないから、大金を常に持ち歩くのも心配がある。
どうする? フラウに部品を選ばせて、どっかの店で積み立て購入契約でもするか? いや、一括で買っても分割で買っても〝羽振りがいい〟ところを見せると〝蠅〟が寄って来やがる。
ちょっとでも金を持っていると思われれば、タタキに合うのが怖い。どれだけ慎重に動いたってヤサ掴まれちゃ終わりだし、幾らガン・フーの初歩を覚えたって、十人以上に囲まれたら、俺の回避力じゃ多分どっかに当たる。
そうなりゃ痛みと出血で動きが鈍ってジリ貧。
「マスター?」
「いや、まだ皮算用だな。とりあえず、スカヴェンジに集中しよう」
俺は頬を一つ張って、他の配電盤も開くのだった…………。
当たり前のサービスは極めて高度な理性と倫理観によって成立する。
なので、お金を貯めておくのも大変なのです。