崩壊世界のゴミ漁り~ウジ虫からの成り上がり~ 作:Schuld
ガン・フーの神髄は統計と予測。ビビったヤツと、熱くなったヤツからトチって死ぬ。
敵は三人、二人は多分5.56mm口径の小銃が武器で、変わったアクセサリはなし。トリガーに指を掛けているが、俺に声をかけてきたまとめ役らしい男はボッ立ち。
距離は30m、素人なら当てられやしないが習熟したいたら当たる絶妙な間合い。
相手が服で隠せる自然なクロームを入れていたり、電脳化していたならば、必中といってもいいだろう。それに、ド下手くそでも、ばら撒きゃラッキーヒットの確率も上がる。
で、ライオットシールドの男は殴り合い向け武装。ちったぁ義体化してるだろうな。けど、流石にこの距離を一歩で詰められるほどの上物をつけてたら、もっと良い格好をして、ちゃんとした部下を連れているのが普通だ。
となると、俺の最善手は敵の狙いを逸らすこと。素早く右にツーステップ、一回目は瞬発力重視で小さく、二回目は被照準までの時間を取るため大きく。
危害予想範囲が銃口の移動と共に伴って計算され、赤く染まる。これを避けるのは散々やった。なんなら、起きてから〝目の慣らし〟とアップをかねて一時間復習している。
避けるのは容易い。
銃声が弾け、凄まじい轟音が虚空を弾が掻き混ぜた後に響く。
それに続く軽い音は、俺の新しい愛銃が初めて上げる小さな咆哮。
リコイルは銃自体が結構デカいのと減衰機構のおかげで想定よりマイルドではあったが、義腕で支えて尚も銃口が5cmほど跳ね上がった。多分、元の設計思想はもっとガッチリした性能で支えるんだろうな。
声もなく、向かって左側の小銃を構えていた男の背中が〝爆ぜた〟。
着地と同時、軽い右半身になって腰溜に構えての銃撃が胸に突き刺さったのだ。照準は跳躍の間、ほんの刹那の空中にいた時間で済まされている。
あとは着地して、自分が静止した最も狙いが上手く行く刹那に引き金を引くだけ。この姿は、まるで腰に添えて拳を構えているように見えたことだろう。
「なんやぁ!?」
目を覆いたくなる凄惨な死に方だが、そこまで意外な結果でもないな。
本来は要人護衛用だが、12.7×55mmもの大口径と低初速弾による破壊力は、もともと35発をフルオート2秒でブチ込んで、全身を豪勢なクロームで固めていたり、皮下防弾装備などで防御していたりが当たり前の要人を〝確実に殺す〟べく設計された
そりゃ多少の防弾装備を付けていようが、生身なんて貫通する時に中身が全部持って行かれるレベルで爆ぜるさ。
「ひっ!?」
飛び散った血が頬に付いたからだろう。横に跳んだ俺を追おうとしていたライフル持ちの動きが濁った。
おいおい、そこでビビっちゃ駄目だろ。撃ち合いなんて気が付いたら、隣のヤツの脳漿が頬にへばり付いてるのが普通の行為。俺は同時期に入った同期共四人が次々くたばったおかげで、三ヶ月もしない内に慣れたぜ。
大きく避ける必要はないな。手首を動かし、最低限の動きで照準。しかし、統計的にはライオットシールドの男が武器を投げてくる可能性があるから、右足を大きく引きながら片膝を突いて射撃。
再びリコイルが体を襲い、それからほとんど認知不可能な間を置いて馬鹿二匹目の背中に、スイカ並みのクレーターを拵えた。
まぁ、言っちゃなんだが、たしかに格好好いポーズを取ったら人が死んだ、みたいな光景だよな。俺だって合理性を知らず、端から見たら何やってんだって思ってたかもしれん。
だが、やっぱ使えるわガン・フー。今日帰ったら、絶対に中級をやりこもう。
「あっ、あ……」
盾で身を守りながら、左右の死んだ配下を眺める男。うん、意外な動きをしてこなくてよかった。
まぁ、普通30mつったら、一瞬で詰められる距離じゃないしな。
「悪いがな、そんな粗末な合板シールドじゃコイツは防げねぇよ。何つったって12.7×55mmだ。50口径って分かるかい?」
「そ、その、ナリで50口径!? ど、どんな馬鹿が作った銃やねん!?」
「俺もそう思うが、火力は実演したよな? お前の盾を五枚重ねたって軽く貫通するぜ。そのオマケに頭を粉々にしながらな」
額をポイントしつつ、両脇で悲惨な死に方をしている死体を順番に眺めて顔色を悪くする男を値踏みする。まぁ、俺みたいに目と腕以外は分かりやすい義体化をしていないヤツなら、簡単に撃ち殺して終わりだと思って余裕ぶっこいてたな?
だが、残念ながら積んでるソフトが違うんだよ。能力的な意味でも、覚悟もな。
さて、まずはどこのどなたさんが聞いてみようか。場合によっちゃ殺したら報復が怖い相手ってこともあるだろうしな。
「で、誰がケツモチだ。場合によっちゃ見逃してやるぜ」
「ご、五級の藤ノ瀬サンや! 知っとるやろ!? 地元で有名や!!」
藤ノ瀬、藤ノ瀬……あー、ミヤモト町の方に塒持ってるヤツね。知ってる知ってる。何なら別の下請けと組んだことある。荒っぽいし直ぐ殺すけど、まぁ仁義通す人だったはずだ。
「わ、悪かったわ! 俺達ぁアガリが悪かったんで、ちょっと金を入れてご機嫌を取りたかっただけなんや!!」
「ほぉ、じゃあ俺の命ってのは、藤ノ瀬サンのご機嫌未満か」
「あっ、あっ……いや、ちゃうくて……」
素直なのは結構だがね、言葉選びは大事だぜアンタ。相手のご機嫌次第じゃ50口径の特殊軟質合金弾頭で頭を木っ端微塵にされる状況じゃ特にな。
それに、藤ノ瀬程度の名前じゃマジでキレてる相手が止まるわけねぇだろ。港湾労働者組合の重鎮か、三級以上の凄腕でもなきゃ泣き寝入りなんてしねぇよ。
「まぁいいや、武器置いて回れ右だ」
「え、ええんか?」
「コイツの弾は高ぇんだよ。少なくともテメェの命よりな」
「わっ、分かった! すんまへん! すんまへん!!」
ライオットシールドとハンマーを放り出して走り出す馬鹿。
俺は無言でその背中を見つめ……腰の裏から45口径を抜いて頭部を吹っ飛ばした。
「お、当たった」
まぁ、ちっと一発で当てる自信なかったけど、存外当たるな。FCSの補正なしでも、二挺拳銃がベースのガン・フーで訓練しまくったのもあって、前より腕が良くなった気がする。
「マスター、流石に今のは品がないのでは……?」
どこかジトッとした声だが、俺は間違ってない。こういうことをするヤツは、殺せる時に殺しといた方が世のため人のためになるんだ。
「同じことを、狙われたのが俺じゃなかった駆け出しにも言えるか? こういうのを間引いとかないと、回り回って自分が損すんだ」
それに俺は何も嘘は言ってないじゃないか。見逃してやるとはいったが、場合によってはと前置きしている。
普通に殺されても文句言えねぇ理由だっただろ。何だよ、ご機嫌取りの小銭稼ぎで殺されて堪るか。第一、それでもまだ殺せって言うまでにこう……ワンクッションあんだろ。自分で置いてきゃ見逃してやるとか、身ぐるみ代わりに命は見逃してやるとか。
俺、そういう様式美を守らないヤツは嫌いなんだよ。
「それに、45口径の弾はアイツの命より安いってのはガチだぜ。ファクトリーロードの弾は一発5銭だ。でも、こんな特殊な弾、下手すりゃ一発50銭は行くだろ?」
「だとしても、藤ノ瀬とやらが報復に出る可能性は?」
「俺が直接言いに行かなかったら、誰がチクるんですかね? 一本道、誰もいねぇ、その上、こんなところまで警邏兵が、ましてや調査に憲兵が来るかよ。藤ノ瀬もデキの悪いのが三人消えたところで、そんなもんかと気にもしねぇさ」
「末法過ぎますね……いえ、理屈には賛同しますが。ただ、倫理基底コードがちょっと」
「お堅いね自動人形さんは。前文明の法律は忘れろよ」
「そういう風に創られているんですよ。任務以外の、三下というのも烏滸がましいチンピラの手で主の手が汚れるのを厭う程度には」
何を今更。二年もやってりゃ人の一人二人殺したことあるに決まってんだろ。とっくに俺の手は真っ黒さ。ただ、乾いた血の黒を悔やむつもりはない。
殺されても仕方ない相手しか殺してきたことはない。
むしろ、枕元に文句を言いに立ってきたら、もっぺんぶっ殺してやるってクズしか殺してこなかったさ。
手前のアガリを増やすために人数減らそうとしたボケ同僚、ヤク買う金欲しさに髪の毛引きちぎって首絞めようとしてきたヤク中、そして今みたいなゴミ。
どいつもこいつも、掃除してやったんだから感謝しろとまでは言わねぇけど、文句を言われる筋合いはないと思うね。
俺は45口径のジップガンをホルスターにねじ込みつつ、死体の懐を漁る。
財布にゃ小銭が少し入っていて、3円80銭の副収入。マジで金ないのな、コイツら。
アサルトライフルは……こりゃヒデぇな、新人の習作か? レシーバーがガッタガタじゃねぇか。よく撃てたな。弾とマガジンだけ貰って捨ててこう。流石にこんなゴミ買い取ってくれるヤツいねぇよ。
「さって、帰って祝勝会と、戦略会議だ」
「会議ですか?」
「まぁね。ちょっと考えがあるんで聞いてくれるか? 前文明人は、AI相手に思考整理していたってよく聞くぜ」
「壁打ちですね。相談でしたら幾らでも」
よし、じゃあさっさと帰ろう。しかし、人生最高の稼ぎを手に入れた日を、後味悪くしてくれちゃってまぁ…………。
予約投稿に失敗しておりました。
歩く貯金箱という言葉がありますが、人を襲うほど困窮しているヤツは大体大した物を持っていないという法則。