崩壊世界のゴミ漁り~ウジ虫からの成り上がり~ 作:Schuld
金が入るんだしええやろ、と強気でバスを使ってキシワダ・ベイサイドに来た俺は、早歩きでテクノ通りを訪れた。
途中で強盗に遭わないよう、45口径は直ぐ抜けるようホルスターではなくベルトに突き刺して、荷物入れは少し背中が痛かったがフラウと挟むようにしてカバーしたんだけど、杞憂だったようでなんの被害にも遭遇せずに辿り着けたよ。
まぁ、あれだな、フラウが言ったとおり、思ったより人って自分のことを見てないんだな。
「さて、どの店が良いか」
「ヌル、おすすめはアッチです。前に来た時、掘り出し物を見つけました」
マップに示してくれたフラウに従い、言われたままの店に入った。
何と言うか、中々凄い店だ。古着屋の義肢版とでも言おうか。
店舗名は豪儀にもネオンサインでNoClaim NoReturn。正にジャンク屋の精神を現したようだ。ここまでド直球なのも珍しい。
内部はラックが幾つも並べてあって、そこにフックで義肢が統一感なく吊されていて、中には人工皮膚が残っている物もあるのでスラッシュホラーの舞台めいている。
「数は多いな。期待できそうだ」
「ヌルの希望は頑丈で、メンテナンス性が高くて、余計な機能がない物ですよね」
「ああ、バスで言ったとおりだ」
世の中には金メッキが良いとか、華麗な模様がどうとか言うヤツも言うが、俺はその辺は使えれば良いのでマジでどうでもいい。むしろ隠密性を下げた上、本人確認もしやすくするとか気でも狂ってんのかと思う。ヒットマンに要らん目印くれてやってどうすんだよ。
それと、内蔵兵器の類いは信用してない。だって結構見るぜ、いざという時に整備不良で展開しなかったり、ハックされて自分を傷付けたり。それなら余計な機能一切なし、整備性と頑丈さ、それとパワーだよパワー。
圧倒的なタフさを源に振るわれる暴力は、大体の問題を解決するんだ。俺は映画でそれを爽快感と共に学んださ。
主人公達のように至近距離の爆発に吹っ飛ばされようが、ビルの上から投げ落とされようが、車に轢かれようが戦い続けられる頑強性。これこそが最強の武器だ。
……あれ? そういやオールドムービーのリメイク作で、完全ウェットなヤツが結構な数で混じってるな。まぁいいか、たまにはそういう外れ値もいるだろ。
「となると、個人的にはオススメしたかったのですが、出雲重工製は除外ですね」
「何でだ? 良い物は大体、出雲か東亜って言うくらいだろ」
「大東亜重工……には思うところがありますが、出雲の製品は拡張性がウリなんです。それこそ、ヌルが要らないと言った内蔵兵器とかのような」
ああ、そうなんだ、知らんかった。
いやまぁ、根本から否定はしないさ。武器を持ってないように見えて持っている奇襲性は、相手を油断させるのに十分だろう。メインアームが弾切れした時のサブウェポンとしての選択肢も悪くない。
けど思うんだよ。
殴り倒せばよくね? ってさ。
だから俺の好みはパワーと頑丈さ、そして整備性なんだ。
「……でしたら、それを」
「これか?」
言われて手に取ったのは、思ったよりも重い腕だった。形状は人間のフォルムを真似ており、マットな灰色の樹脂に覆われている。諸所がプレートに置き換わっているのは、後からの改造と言うより、元からの仕様だろう。メンテナンスパネルの役割も果たしているようだ。
そして、節くれ立った指関節部分は銀色の金属が剥き出しになっており、殴ったら如何にも痛そうな威圧感がある。デザイン性とナックルダスターを兼ねているのだろう。
なるほど、格好良いし悪くないじゃないの。今の腕よりちょい長いけど、背が伸びれば何とかなるだろ。男は18くらいまで背が伸びるっていうしな!
「大東亜重工の黒川技研製、庚型弐式です。ヌルのお望み通り、ひたすら頑丈、パワーがあり、整備性は最高。最大可搬重量は固定状態で2000kgです。完全な軍事用ですね」
「マジ? 両腕コレにしたら車ひっくり返せるじゃん」
「いえ、流石に骨格置換までしないと関節部が耐えられなくて腕がもげますよ」
あ、そっか、腕の出力が凄くても、根元の生身が耐えられねぇのは道理だな。地盤がゆるゆるの場所にデッカいクレーンを立てても、重い物を持ち上げるのが危ないのと同じ理屈だ。
「それでも片手で人間の頭を捻り潰して、大体の扉を殴り壊せる力があります」
「なんでそんなスゲーモンがこんなジャンク屋に……」
「神系系統が死んでんだ」
店の奥からの声に反応して振り向けば、小柄な店主がパイプ椅子に腰掛けて、弱い灯りを放っている電熱ヒーターを前に手を炙っていた。しかし、両手両脚共に民生用らしい、疑似皮膚の張っていない角張った義肢なのに、それやる意味あるのか?
「見た目は綺麗だろ? だがな、大事なパーツが幾つもイカれてる。発掘品だと喜んだヤツは移植した後どうなったと思う?」
「その導入ってことは、聞いてて楽しいことにはならなかったんだろうな?」
「顔を触ろうとして、ソイツのスペックでテメェを殴っちまったのさ」
考えるだに怖ろしいことをどうも。中古品なのは分かってたけど、大事故引き起こしたブツなんて知りたくなかったよ。
てか、そんな状態になってる物をなんで医者は気付かず移植したんだ。ヤブしかいねーのか、この街は。
「……直せるんだよな?」
「スキャンした限り、リレーや神経系の問題です。今持っている部品と、他の店で売っているサードパーティー品の神経束があれば確実に」
小声で聞けば、フラウは今持っているスカヴェンジした品がクリティカルに修理部品だと教えてくれた。おいおいマジか、配電盤漁って手に入れた道具で治っちまうのかよコレ。
となると、俄然欲しくなってきた。ただ、お値段が書いてない。
「オヤジ、こいつ幾らだ? 相方の両手足が逝ってよ」
「部品取りか? 止めときな小僧。黒川技研のは頑固だぞ。テメェみたいなトーシロに扱えるもんじゃねぇ。だから何年もそこに釣ってあんだ」
「じゃあ安く譲ってくれよ」
「直して使おうてんなら、尚更止めとけ。神系系統の故障はモーターとかの故障とはレベルが違ぇ」
言うと老爺はこちらに顔を向け、鼻に引っ掛けるように身に付けていたAR眼鏡の下から、睨め付けるように俺を観察した。左目は若干白内障気味だが、右目は綺麗だな。なんでジャンク屋やってんのに目をサイバネ化してないんだろう。
「でも、賑やかにしとくのも何だろ? 幾らかくらい教えてくれよ」
「400」
「冗談! オヤジが部品取りしねぇで、何年も吊してるのが上物の光学素子と同じ値段で堪るかよ! デッドストックなの加味しても精々50ってとこだろ!?」
「350。稼働品なら三千、いや三千五百円はするもんだぜ」
「御店主、お言葉ですが弐式は生産数も多いし、結構な型落ちですよ。庚型の最新バージョンは陸式ではありませんか。稼働品でも、その半分か、よくて三分の二では?」
舌打ちは、やりづらい客が来たと露骨に語っているような物だった。
「……150。ギリもギリ、これ以上はびた一文負けねぇぞ。イジれる人間なら、それの高密度人工筋肉は大した使い道があるんだ。ほぼ仕入れ値にちけぇ」
「何でこんな曰く付きに、そんな金出したかわからんが乗った! で、交渉なんだけどさ……今、現金の手持ちがねぇんだ」
「舐めてんのか! 失せろガキ!!」
唾を飛ばしながら、矢鱈綺麗な歯を見せて――あ、こっちはクローム置換してら――怒鳴るオヤジに、まぁまぁ焦りなさんなと、俺は物入れの中身を取り出しながら交渉した。
「ほら、これ見てくれよ。遺構で発掘してきた日河製の部品! オヤジさんよ、見たとこ修理もやって、ちゃんとしたのは別の店に卸してんだろ? ならさ、これの価値分かるだろ?」
「物々交換か……現金のがありがてぇが、修理部品の在庫がな……それを思えば、まぁ悪くねぇか」
仕方ねぇ、九掛けでよけりゃ考えてやるというので、俺は部品を出して、足りない分は残り少ない現金で補った。ああ、それと俺も馬鹿じゃないから、コイツを直すのに使えるだろうリレーとかMOSFETは出さなかった。相手も玄人だ、修理部品が手に入ったら、そりゃ自分で直して稼働品として売ることを考えて、今の取引をナシにするだろう。
というわけで、俺は持ち主を殺しているが、直せば百人力の軍事グレード左腕を手に入れた。
あとは他の店で神系束を買い込んで、家に一旦帰るのが面倒だから宿を取り、そこで修理してしまおう。
なに、すぐ作業にかかれるのを考えれば素泊まり30銭なんて安い安い…………。
楽しいお買い物タイム。
しかし、それでもまったく油断ならないのが故買屋の、しかも年老いた知識と経験のある店主である。