崩壊世界のゴミ漁り~ウジ虫からの成り上がり~   作:Schuld

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 俺は処置台の上に浅く座るような形で仰向けに転がりながら、右手に45口径を持ちつつ、自分の左腕にマジックで書かれた〝切り取り線〟見ていた。

 

「部分麻酔で良いんだな? ウチはいい痛覚ブロッカー使ってるが、中々ショッキングな光景だぞ。てか、お前電脳入ってんのになんで痛覚の選別削除できねぇのよ」

 

「黙ってやってくれ。全身麻酔で眠った後、バラされて終わりなんて話が街中にどんだけ転がってると思ってんだ」

 

 これは本当に良くある事件で、だからこそよっぽど信頼が置ける病院か、仲間が見張ってくれでもしない限り、クローム置換手術は起きたままやるのが安パイだ。高額な義肢に目が眩んだ医者に殺されたくないから、銃も忘れずにな。

 

「信用しろよ……お前の右腕だってちゃんと付けてやったろ」

 

 呆れつつ、本当に医療従事者かお前はと言いたくなるパンクな格好をした医者が、マイクロマシン入りの注射器を指で叩いてから少し噴出させ、気泡を追い出していた。

 

 革のズボン、なんの役割があるのか分からない鋲だらけの斜めに通したぶっといベルト。更には上裸の肉体は両腕が分割パネルだらけのクロームに置換されていて、目は真っ黒なサングラスで見えないが、多分視覚補助デバイスだろう。あるいは、本当にただのグラサンで、目を機械化しているか。

 

 極めつけは、どぎつい緑色の天を突くモヒカン。

 

 俺の腐りかけた右前腕をぶった切って、今の不格好な警備ロボットの腕を無理くりくっつけたパンクな医者、夏越(なごし)はあろうことか煙草を咥えて火を付けやがった。義体向けの合成煙草で、薬品を浸透させた繊維を燃やしている品だが、副流煙が俺の脳には怖い。

 

「おいおいおいおい、流石にヤニは止めろよ! 俺の電脳状況知ってんだろ!?」

 

「安心しろって、滅茶苦茶軽いヤツだ。影響はねぇよ」

 

 今、小さく「ほぼな」って言わなかったか、このクソヤブ!!

 

「手術中にラリられたら洒落になんねぇんだよ!!」

 

「俺の肺と心臓はクロームだ。腕も合わせて、呼吸が乱れて手が狂ったりしねぇよ」

 

「そういう問題じゃねぇ! あと汚ぇよ!! 感染症になったらどうしてくれんだ!!」

 

「ちゃんと抗生物質も入ってるての。はい、チクッとしますよっと」

 

 軽い言葉と共に注射器がブスブスと肩口に何カ所かブチ込まれた。クソ、この針も新品のパックを取りだしているところを見てなきゃ、再利用品かと疑うところだ。

 

「お……なんか痺れてきた」

 

「効いてるな。あと何十秒かで何にも感じなくなるぜ」

 

 まぁ、一応100円という高額な手術費を物々交換ながら言い値で払ったんだ。ちゃんとして貰わないと困る。流石に近藤が金をケチって、左目を麻酔なしで手術されたのはトラウマなんだ。

 

「これ分かる?」

 

「わふぁらない」

 

 ペンで肩の付け根を突っつかれて答えれば、舌が上手く回らなかった。多分、痛みを止めるため麻酔が広範囲に効いてきて、左顎の辺りまで感覚がボケてきているからだろう。

 

「じゃ、これは?」

 

「おふぁー!?」

 

 今の叫び声は、普通にビックリしたからだ。野郎! 掌にメス突き立てやがった!!

 

「ふぁふぃふぃふぁがる!!」

 

「はーい、ちゃんと効いてますねーっと」

 

 ざっけんな! ここまでしなくても分かるだろうが!! クソッ、反射的に撃ち殺すところだったぞ!!

 

「じゃ、左腕義肢置換施術、始めるぜ。しかしお前、去年はそのボロ腕くっつけたのに、今回はスゲーの持って来たな」

 

 キャスターが回転する音を引き連れ、機械に吊されて現れたのは、修理を終えた黒川技研製の庚弐式。

 

 いやぁ、大変だったよ。店のオヤジが言う通りマジで難物だった。

 

 なんせ修理に二昼夜かかったからな。

 

 構造はシンプルなんだけど、うっかり神経系にピンセットが触れるだけで人工筋肉が反射を起こして暴れるから、マジで全部品を解体しなきゃなんもできなかったんだ。バラすだけで一日使った時は、あの忠告が本当だったと心から理解した。

 

 下手な野郎が触ったら、2000kgを持ち上げる出力の人工筋肉にぶん殴られて、大怪我をしていただろう。

 

 これ、一応構造を分かっているフラウから支援を受けて、しかも彼女が疑似停止信号を送ってくれてもこのザマだからな? そりゃ歳食うまであの仕事で食ってきた店主が部品取りを試みなかったのも分かるわ。

 

 まぁ、そのおかげで、不良を起こしていた部分を丸っと入れ替えた腕は、相方が疑似接続して正常に動くことを確認済みだ。三日前まで持ち主を殴り殺した曰く付きが、今や箸で卵の黄身を摘まめる精密アームに様変わりである。

 

 それに、イカれてた神系系統を置換したら、嘘のように良い子になりやがんの。組み立ては楽だったから、メンテナンス性が高いってのはマジなんだろう。この個体が最悪の壊れ方をしてたってだけで。

 

 ということで、どうせヤブだらけだし、二回やって貰った相手で良いかと夏越を頼ってきた訳だ。

 

「えーと、電脳化は済みで、ドライバは本体内蔵式。あ、言っとくけど旧いドライバと脳が干渉して動かなくてもオレッチは責任とらんよ」

 

「おふぁふぇのふふぃふぁふいふぁいふぇ、ふぉんふふぃふぁふぇぇふぉ」

 

「名医を信じなさーい。じゃ、音楽かけるぜー」

 

 無線で音響機器の電源を入れたのだろう。次の瞬間、俺の耳は劈くようなギターのイントロに凄まじい勢いで揺さぶられた。

 

 クソッ、前の施術ん時もそうだったけど、手術してる時のBGMにサイケデリックは勘弁してくれよ! しかも爆音! 普通手術室の四隅に大型スピーカー持ち込むか!?

 

「結構ゴリゴリするぞー。痛くなくても気持ち悪いだろうから我慢しろー」

 

 電気メスで皮膚が切り裂かれ、灼かれた表面から焦げ付く嫌な臭いがした。止血と切開を同時にできて便利なのは分かるが、こればっかりは好きになれない。

 

 皮膚が剥がれ、肉を切り分け、筋に至る。夏越は嘘を吐いていなかったのか、麻酔用の神経ブロッカーはちゃんと機能していて、痛くはなかった。

 

 ただ、妙なことをしたらすぐ止められるよう見ていたのだが、あまり気持ちの良い光景でないのは事実だ。

 

「これ分かる? 筋。これ適切な長さで残すのが医者の腕前よ。ほれ、引っ張ったら腕動くだろ? 短過ぎても長すぎても、胸の動きと干渉すんの」

 

「ふぁふぉふな」

 

「いや、一応自分の腕が最後に動くとこ見たいかなと思って」

 

 どんな変態な要望だ。俺の望みはサッサと新しい腕が収まることだよ。

 

「ほい、神経はピン留めして、筋を切断。ほんで軟骨、これの外し方は鳥と同じーと言いたいけど、もぎ取ると大量出血どころじゃないから、ヘラ突っ込んで削ってと」

 

 足でリズムを取りながら施術されるのは三回目でも怖いが、手際がいいのはムカつく。最後に軟骨が引き剥がされる音を立てて、俺の左腕は第二肩関節から先が無事に取り外された。

 

「ほい、綺麗に取れましたっと。安心しろよ、ここまで来て、急に気分変わったから倍額寄越せとかは言わんからよ」

 

 当たり前だ。そういったことをさせないために拳銃を握っている。とはいえ、こうなったらもう医者の手がないとどうにもならんので、拳銃に怯まず脅してくるヤツもいるらしいから最後まで油断ならないんだよ。

 

「えーと、黒川技研の手引き書っと……はいはい、こうね、流石は大手、野戦医療でも付けやすいよう作ってあるわ」

 

 鉗子で引き摺り出されていた神経系と胸に繋がる筋が基部ユニットの端子が繋がれ、作業が終わるとそのまま蓋をするように医療用接着剤で傷口を覆った。ただ、俺には少し大きいから、ここは手直しが必要だったんだよな。削るのに難儀したぜ。

 

「ヌル、お前さん、傷口とか気にするタイプじゃないよな? 接続面滑らかにするのは、術前に言った通り別費用だから文句言うなよ」

 

 医療用の鋲が打たれて、基部が固定される。骨に食い込みガッチリと体に食い込むそれは、凄まじい振動で脳が揺れて一瞬気持ち悪くなった。DIYで整備されている壁とかの気分だ。

 

「ほい、できた。後は腕を接続して、表皮ユニットでカバー。うーん我ながら良い出来映え。出血量も少なめですんだぜ」

 

 お椀型に凹んだユニットが俺の新しい肩関節となり、そこに新しい灰色の腕が収まった。これにて手術は完了だ。

 

「疑似信号送って稼働テスト……あ、そっか、お前ニューロン硬化症だからデキねぇんだった」

 

「ふぁいふぉうふ」

 

 既に神経との接続が済み、本体に内蔵されたドライバが腕を認識した。これは術前にフラウを介してやって貰っているので、俺の持病は問題ない。

 

 今だ痛覚ブロッカーが根元から痛みを殺しているので触覚再現は無理だが、腕はゆるゆると思った通りに動く。

 

 そして、綺麗に中指を立てた。

 

「フゥゥゥー! イェア! 手術完了! どうせならメロイックサインにしようぜ!!」

 

 リクエストに応えて親指と人差し指に小指を立てると、夏越はテンションが上がったのか、踊りながら俺の左手をバイオハザードマークの書かれているゴミ箱にブチ込んだ。

 

 おい、別に思い入れとかないけど、一応患者の元部品だぞ。流石にもうちょっと丁寧に扱ってくれよ!!

 

 まぁ、言いたいことは色々とあるが、腕はキッチリ繋がった。

 

 電脳のドライバを介して行うチェックリストは全てグリーン。これで麻酔が切れたら、腕はもっとスムーズに動かせる。

 

「一応、ダウンタイムで半日は無理に動くなよ。あと、痛み止め処方しとくから今日一日は二時間おきに飲めな。忘れたら激痛で悶えるぞ。抗生物質は三日ほど効果あるけど、膿んだり血が滲み出したら直ぐ来いよ。で、施術中の出血と腕一本分の血ぃなくなってから、レバーとかたっぷり食えな」

 

 何でこういうところはちゃんと医者っぽいかねぇと思いつつ、俺は両手の親指を立てて了解の意思を示した…………。




落ち着いて全身麻酔すら受けられない世界。

そのせいで骨格系、電脳系、内臓系の置換施術は相当に保険をかけておかないと危険。

尚、気合いが入ったヤツは意識を保ったまま痛覚選別削除で腹を開かせ、医者を見張りながらでもやる模様。ヌルは今のところそれができないので色々と我慢だ!
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