崩壊世界のゴミ漁り~ウジ虫からの成り上がり~ 作:Schuld
仕事を探すために朝早くからキシワダ・ベイサイドを訪れた。今日も朝靄がすごく、カメラアイが古かった頃は難儀していたのが、たった一ヶ月前のなのに懐かしくすら感じられる。
定期的に往き来しているバスを使う贅沢にも慣れ、バス亭で降りると嫌な面を見てしまう。
「ヌル、テメェ全然面出さないじゃないか」
「辺見」
両腕、特に肩が不必要なまでにパンプアップさせたパラミリ仕様外骨格。その嫌味なまでにピカピカなシルバーを輝かせ、体も義体化ではなく薬品で膨れ上がらせた筋肉ダルマ。
威圧効果は認めるが、八月でも16度前後と肌寒い中、タンクトップというのには些か非合理性を感じざるを得ない。流れ弾が跳んできた時のため、タクティカルベストでも着りゃいいのに。
「道ぃ塞がないでくれ。相方を降ろしてやんなきゃなんねぇんだ」
言って俺は電動車椅子をステップから持ち上げて下ろす。一つの軸に二対六輪の車輪が組み合わさったコレは、クズ山で拾って修理したお値打ち品だ。買えば500円はするだろうが、元手はほとんどタダである。
「両腕といい、車椅子といい、羽振りが良いじゃねぇか」
「どれもジャンク品の物々交換だ。近藤サンに提供するほどのモンじゃなかったんだよ」
それに、何時までも背負ってたら不便だろ。
合理的に物を言っているつもりでも、辺見は納得していないようだった。
しかし、思ったより痺れを切らすのが早かったな。一月か、ま、最後に俺が持ってったデカイ儲けがあれだけなら、他の飼い犬が真面目にやってなかったら、そろそろお財布事情が寂しくなってきても無理はないか。
そこで急に高級な軍用クロームを入れまくった、借金も初期出資も返しきったヤツがいたら突っついてみたくもなるわな。
「物々交換ね……その割にデカいチャカ買ったらしいじゃないか」
「コイツかい?」
最近は前を空けるようにしているジャケットを開いて、両脇に吊した13×35mm対義体拳銃を見せ付ける。本当は抜き打ちし易いように腰裏に装備したかったんだが、如何せん重すぎてコッチじゃないと真面に歩けないんだ。
なんつったって、一挺で弾薬込み重量3.25kgだもんでね。
「前文明の警察強行班御用達、時雨沢精鋼の12式強行制圧拳銃だ。アンタのクロームでも持て余すだろ?」
「……なんて化物買ってやがる」
「でも市場価格はゴミなのは知ってんだろ? 生身じゃ間違いなく手首が砕けるし、FCSも電子戦テロ対策でトリガロックだけ。挙げ句、狙って当てるのは30mが限界、通称オジギ野郎だもんな」
この拳銃、Type12-FSPは、今言ったとおり警察が重サイバネ化した犯罪者を確実に撃破するために特注されたものなのもあって、製造数は多いんだが、真面に使いこなせるスペックをした人間は少ない。
その上、跳弾や流れ弾の危険性を下げるため、重量級の弾頭を亜音速で撃ち出す仕様もあって、すーぐ弾道が〝下に垂れる〟んだ。そのせいで頭を狙ったのに、砕けたのは股間だった、なんてこともよくあるくらい扱いが難しい。
警察関係の遺構でよく見つかるが、残念ながら手前の手首を犠牲にして一発撃てる、それも当たるとも限らないなんて代物は完品でも美品でも高額にはならない。要するに需要と供給の問題だ。
代わりと言っちゃなんだが、貫通力が皆無な代わりに衝撃力は凄まじく、当たれば装甲から伝わった衝撃が内部機構を滅茶苦茶にするほど強い。
中~遠距離はJXのPDWで、ガン・フーはコイツで。まぁ、使い分けとしちゃ妥当だと思っている。
それに、威圧感もバッチリだったようだ。辺見は銃と俺の腕を見て、明らかに体が引けていた。
今まで散々いびって来たのもあって、ブッ放されたら防ぎようがないことを分かっているのだろう。
自分の雇用主を含めて。
「テメェ、そんなもんで何するつもりだ」
「何って、デカいヤマに挑むなら欲しいだろ、警備ロボットとか、イカれ自動人形を一発で黙らせる閉所戦闘用装備。折角ガラクタから直した腕なんだし、今更45口径じゃ勿体なくないか?」
安心しろよと言うように俺はジャケットの前を閉めて、ジッパーを上げた。
この街でドンパチやる気はない。幾ら邏卒が仕事する気がねぇつったって、苛立ったら簡単に人をハジく狂犬として名が通っちゃやりづらいだろ。
「アンタだって50口径をベルトにぶっ刺してるじゃないか。それと一緒さ」
「……そうか」
交戦の意志がないことを示して、ようやく安心したらしい辺見の体から力が抜けるのが分かった。拳の間合いだからな、俺が銃を抜く前にヤバそうなら義腕の膂力で頭部を砕くつもりだったのだろう。
けど、そんな体に力を入れてちゃ動きの起こりが丸わかりだぜ。先に股間を蹴り上げて動きを止め、カニを解体するみたいに、ご自慢の両腕をもぎ取れる。
ま、やらんけど。港湾部で荒事起こすと、怖い船乗りのオジキやお兄さん方に超叱られるからな。
誰がこのオイル汚れを落とすんだ! って。
「で、態々バス亭で待ってた理由は?」
「ボスがお呼びだ」
「飯くらい食わせてくれよ。奢るぜ」
行こう、フラウと返事を聞かずにいつものあら汁屋へ。
「オヤジ、いつもの。追加で根菜入れてくれ。それと何か滋養がつきそうなの」
「今日はワタリガニが安いぜ」
「じゃ、それも丸々似てくれ。二杯分、味噌濃いめで」
諸々含めて55銭。一食に使うには豪勢だが、俺はまだ生身部分が多いから良い物を食えとフラウが五月蠅いんだ。まぁ、腹一杯になるには悪くない。
「本当に羽振りが良いな」
「体が資本だから、ケチるところを変えただけさ」
根菜は基本的にお高い。葉物は水耕栽培で26毛作とかいう狂った速度で量産されるが、バイオビーズ土壌じゃないと育てられない根菜類は、最大でも8毛作が限界だという。だから健康には良いんだが、葉物と比べると随分高い。
ただ、ミネラルとかビタミンとか、整腸作用がどうこうで食べるよう推奨された。まぁ、腹下したら下手すると死ぬ界隈だから、納得ではあるんだが。
「歯もクロームにしようかな。でも、やっぱ全身麻酔が要る施術はなぁ……オヤジぃ、思ったより食うとこねぇぞ、このカニ!」
「そういうもんなんだよ! 腹割ってミソとか卵啜れ!」
クソ、手間の割りに思ったよか食い出がないな。思えば蟹って重みの大半が殻だよな。出汁はきいてて美味いけど、今度から普通に魚を足して貰おう。
「ごっそさん。行こうぜ」
取りあえず腹は満ちたので歩き出すと、辺見が三歩後ろをついてくる。
「どした。いつも前歩いてたろ。急にナデシコでも意識しだしたか?」
「……道案内が今更必要か?」
「後ろから撃ったりしねぇよ……」
何でこう、どいつもこいつも体を強化したら途端にビビり出すかね。俺はちょっとイジメこかれたからって、それを一々覚えて隙ありゃぶっ殺したりしねぇよ。弾代がもったいないだろ。
てくてく歩いて一ヶ月ぶりに近藤の塒に来た。
「っと、フラウ、四段目が死んでる。持ち上げるから気を付けろ」
危ない、忘れるところだった。ここの階段、二階から三階に上がる部分が一部死んでるんだ。ホイールを入れ替えるように踏ませることで階段を上れる車椅子でも、重量は結構なもんだから普通に大事故だ。
片腕で持ち上げると、辺見が露骨に体を引いた。
多分、庚弐式の出力に驚いたのだろう。つっても、これもコツ要るんだぜ。俺、胴体は生身だから変に力を入れると接合部を痛めるから、全身に過重が分散しつつ、一番は肘に寄るよう気を使わないと危ないのだ。
「ありがとうございます」
「落ちたらえらいことだからな」
ドン引きされながらも塒に迎え入れられると、近藤の護衛が一人減っていた。
「お久しぶりです」
「一ヶ月も顔出さないザァコのわりにはぁ、羽振りぃ~」
「クズみたいな儲けの積み重ねですよ。腕も銃も物々交換で手に入れた、ジャンク品のニコイチやサンコイチです」
不気味な外斜視で睨まれながらも、辺見に言われたのと同じいなしを繰り返す。えーと、なんつったっけ、いねぇやつ。そうだ、見川だ。
「見川は? 買い物ですか?」
「死んだぁ~ザァコだから~」
「はぁ……そりゃご愁傷様で」
なんだ、死んだかアイツ。側に置いてる子飼いで死人とは珍しいな。二年も飼われてたが初めてだ。
「で、態々遣いまで寄越して俺を呼んだ理由を聞いても?」
暇じゃねぇんだが、との悪態は呑み込んで問えば、彼女はこちらにチップを寄越した。協会の紋章が入っており、管理している遺構関連の情報が収まっていると思われる。
それでも、不用心のこの女が寄越した物を首にねじ込むほど馬鹿じゃないが。
「デカいヤマがあるんだけど……乗らなぁい?」
怪しいが、今まさに欲しい情報が飛び込んできた。さて、コレは奇貨か、罠か。
まぁ、どっちでもいいか。
命張らなきゃ、リターンが少ないのがこの界隈だしな…………。
ゴツいクロームを入れていたら、そりゃ普通に見た目だけで威圧効果もある。
そう考えると全身高級クロームまみれのVに喧嘩売ってくるストリートの連中凄くない……?