崩壊世界のゴミ漁り~ウジ虫からの成り上がり~ 作:Schuld
話を聞くよりも、実際に見た方が早いだろうとフラウにチップを挿入すると、彼女は少し目を眇めた後、俺に直結を要求した。
「ザァコってさぁ、羞恥心ないのぉ? 人前でイチャコラ~……」
「電子戦担当と荒事担当分けるのは普通でしょう?」
まぁ、直結つったら電脳内で肉体の限界を超越した性行為のイメージがあるらしい。俺は色っぽいことに無縁で二年間の人生を生きてきたが、たしかにそういう店もある。
けど、高いし安全性がもへったくれもねぇから、行ったことはない。嫌だろ、変な
同じ理屈で、街娼とも縁がないし、娼館にも行ったことはない。後者は安心安全を歌っている半官営なんだが――お国もギャングの儲けにするくらいなら、自分達で管理しようとしているのだ――その分お高い。30分5円とか、カツカツで生きてきた俺にとっちゃ何かのギャグだ。
それでも、女に金をツッパりすぎて弾けるヤツがいるんだから、分からねぇ世の中だよな。
「等級不明遺構調査?」
「はい。要するに下級スカヴェンジャーをカナリアにしようとしているのでしょう」
組合のチップに入っていたのは、公募の依頼だ。
スカヴェンジャーを纏めるだけではなく、遺構が万が一危険な物であった場合の封じ込め作業をするため、組織はちゃんとそれらを管理している。不用意に子飼いが入り込まないよう見張りを置いてみたり、重要な所だったら態々囲ってみたりまでしているそうだ。
「サカイ出島に新しい地下引き込み線……軍事施設の可能性大か」
「そぉ、要するに五級じゃ下調べでもなきゃ、中々入らせて貰えない大きな大きな仕事ってことぉ~ザァコには普通、一生縁がないよ~?」
なるほど、戦力をかき集めて挑みたいのが分かった。
五級のスカヴェンジャーだと、入って良いと言われる遺跡の質もよくないのだろう。このクソアマが直接仕事をしているところは見たことがないが、デカい案件に目が眩んだか。
実際、等級不明の遺構となれば待ち受ける防御設備の危険性は未知数だが、眠っている物次第によっては凄まじい儲けになる。
前文明の軍用エグゾスケルトンが小隊丸々一個分とか、多脚戦車が分隊規模で発掘されたとあれば報酬は万……いや、六桁は堅いな。それも、払い渋りのない組合がキッチリ査定した上でだ。
「何か持って帰れれば儲けはデカいですね」
「そゆことぉ。で、乗る? 乗らない? 見立てじゃ本土決戦用の小さな倉庫の一つなんだけど」
チラッとフラウを見れば、彼女は頷いた。
前文明、大和共栄経済圏ってぇのは大陸沿岸部と島国の連合体で、その生存戦略は「余所の国に戦争をさせる」であったらしい。
要するに代理戦争で留めて、どっかで痛み分けする代わり、経済圏の内側には戦争を持ち込ませないというドクトリンであった。
それでも万が一を考え、国防軍は全体で五百万人、無人兵器総数は億を数え、総所有艦艇数は千を超えていたという。
これにともなって、敵が先制攻撃で戦力を減らすことが難しいよう、アーコロジーを作るついでに、大量の物資備蓄倉庫を設けてそこら中に埋めてあるのだ。そして、いざとなれば移動可能な拠点に部隊を集め、水際迎撃という考えだったのだろう。
「何か、埋めた木の実を忘れるリスみてぇだなぁ」
「ザァコが文句言わない~それが飯の種~」
まぁ、それもそうか。前文明が几帳面だったら、一々俺らに掘りになんて行かせず、ちゃんと軍隊使って何とかしてるわな。幾ら通貨を発行しているのが国だからって、無限に刷ったら価値も落ちるだろうし。
「でぇ、行くぅ? 行かない?」
「ボス、流石に報酬も聞かずに答えられませんて」
「ん~とねぇ……報酬の1%はぁ?」
「はぁ? どうせ俺ら露払いで前に突っ込まされるんでしょ? せめて10%くださいよ」
「脳味噌ザァコだと計算できない~? ちゃんと人集めてんの~それともなに~? ちょっとクローム入れ替えたからって、一端気分~?」
まぁ、最初から歩合で塩っぱい数字を言ってくるのは分かっていた。むしろ、コイツはムカつく言動とガキみたいなナリをしているが、この辺の巷で燻ってる方じゃ、かなり計算高い方だ。
いきなり高い数字や前払いの金をチラつかせて、体の良い使いっ走りとしてどうこうする意図が透けてくることはするまいて。そんだけ分かりやすいヤツだった、俺はもっと早くに縁を切れてる。
「じゃあ、俺は最前線を切りますよ。アガリの規模によっちゃ無茶も言いません」
「でぇ~? 代わりにザァコくんは何が欲しいのかな~?」
「市民ID」
ぴくりとフェイスプレートの眉が上がった。おいおい、そこで顔色変えちゃ駄目だよボス。悩んじゃったのが丸わかりじゃん。
こういう時はクレバーにいかないと。映画の悪役達はみぃんなポーカーフェイスが上手かったぜ。
「相場知ってんのぉ~?」
「貢献度で変わるって聞きましたよ。等級不明の遺構探索で良い働きして、ボスが紹介してくれたら、かなり安くなるんでしょ?」
彼女は少し悩んで腕を組み、体の割りに太い足を組んでこちらを品定めしてくる。
いや、視線は左側の車椅子、フラウに向いている。
俺に要らん入れ知恵をしたことを察し、苛立っているのだろう。まぁね、俺の知恵袋というよりも、完全な外付け頭脳に近いんだ。俺が今、ここまで装備を充実させられたのは全てフラウのおかげに他ならないからな。
悩め悩め。俺としちゃ別に他の手札がないでもないんだ。アンタが俺を使わないなら、別口でヤマを探す。
でも、アンタは噂を聞いて、態々出待ちまでさせて俺を使いたいんだろ? そこの割り切りをどうするかだ。
ま、ここで何と言おうと、アンタがどうする心算か、俺はもう読んでるんだけどな。
「ザァコのくせに高望み~」
「これ以上だったら俺は別の賭場を探しに行きますが? 恩義にも限界がありますし」
でも、と前置きしたあと、彼女は鬱陶しそうに机の上を漁って煙草のパックを引っ掴んだ。合成樹脂に薬品を染み込ませた電脳用の娯楽ドラッグで、俺はニューロンの関係で効果がないどころか、何が起こるか分かったもんじゃないから買ったことはない。
「火ぃ!」
「はい!」
辺見が慌てて身を屈め、ポケットから使い捨てライターを取りだして火を付けた。先端が火花を散らしながら愉快に弾け、桃色の煙が広がった。見るからに健康に悪そうだけど、甘くて良い匂いがするし、あんまり煙たくはないな。
ただ、副流煙で反応が起こったら困るので、一歩引いて鼻を覆った。このアマ、俺が煙草がニューロン硬化症でヤバイって分かっててやってやがるな。
先端、四分の一ほどが燃え尽きるほど勢いよく吸った後、近藤は肺に数秒、いや十秒近く煙を貯め込んだあとで勢いよく吐いた。
「いいよぉ、ただぁ、こっちもザァコにそこまで譲歩するなら条件~」
「チップに見合う物ならなんなりと」
「儲けが六桁あったらねぇ。それかぁ、ザァコが一万円以上の発掘をしたらぁ、分け前の代わりね~」
「では、それで」
一つ頷いて、俺はヤマに乗ると頷いた。回線を通じて懸念がフラウより幾パターンか伝わってくるが、分かってる分かってる。
あと、お前さんの計算能力はたしかに上等だけども、そんなに陽電子頭脳をかっかさせんでも答えは一つだ。
コイツは絶対に裏切る。俺や、他に集めた子飼いも含めて全部。
なんなら、隣の辺見も、もう一人の数瀬もだ。
覚えてるか? 俺にイロハを叩き込んでくれたオッサンは、コイツに唆されて、身の丈に合わない遺構に潜って爆死したんだぜ。
丁度、今みたいなカナリアの斥候とされてよ。
だから、コイツの行動は一つだ。今回は尻に火ぃでも着いてるのか現場にゃ出るが、土壇場で裏切るか、部が悪くなったら逃げる。
そして、上首尾に運んだら分け前を寄越すことを厭うて間引く。
しょせん、俺達ゃ下請けのウジ虫だ。幾らでも替えが効く。小銭と見た目だけはピカピカの銃を貰って喜ぶヤツが、どれくらいいるか。一声かけりゃ正に文字通り、一山幾らの連中がドカッと買えるだろう。
だから俺は構わない。罠なんてのはあると分かりゃ踏み越えてきゃいいし、裏切ってくると分かってりゃ後ろ弾も怖くはない。
逆に俺が殺して、アガリを全部貰ったって良いんだ。組合斡旋の仕事なら、コイツの血に濡れたID引っ張ってって、戦死報告と一緒に成果を報告したって良いんだからな。
仕事は明後日、現地集合。
さて、じゃあ賭場にチップを放りに行きますかね…………。
最初から騙して悪いが案件だと知っていたら、出待ちしてパイルをブチ込むこともできる。
そして、貧民がゴツいクロームを入れたことを知った瞬間に鉄砲玉にしてこようとするクソ倫理観。