崩壊世界のゴミ漁り~ウジ虫からの成り上がり~ 作:Schuld
オオサカ湾、サカイ方面には出島と呼ばれる前文明の埋め立て地が多い。
ただフラウいわく正確には海底に頑丈な支柱を築き、厚さ数kmのメガストラクチャーを浮かせたものなので、どちらかといえば海上浮遊施設なのだそうだけど、誰もが島と呼ぶ。
だって、傍目には違いなんて分からないもの。
それが都合、四つ現存しており、かつては経済特区であった姿を偲ぶのは、墓標のように突っ立っているビル群の名残だ。
このオオサカの海に隔離されるように作られた島々は、かつて出入りを厳しく監視することによって情報秘匿を尊ぶ、ネット的にもスタンドアロンの孤島。多くのメガテクノロジーコーポの社員がここに住まい、新たなる技術を生み出していったという。
故に、日本の内海には、こういった施設が多いのだ。
まぁ、地続きだと警備も難しいしな。金が掛かっても先端技術を奪われないよう開発する環境を作るのは、当時の面子としちゃ合理的だったんだろう。
「これも兵共が夢の跡か」
「前文明のデータを知る者としては、感慨深いですね」
第四出島、その橋の両脇には十人前後の子飼いが屯していた。ほとんどは俺の知らない、会ったこともない近藤の子飼いで、皆かつての俺のように初期出資金やらクロームを入れて生き延びる借金で縛られているのだろう。
装備はまちまち、練度もバラバラ、キシワダからちょっと離れた所から来たヤツもいる。
まぁ、アイツ、あんなのでも変なところで知恵は回るからな。結託して反抗されるのが嫌だったんだろうな、組ませても二人か三人で動かすのは。
だからか? 俺ん所にはオッサンが死んで以降、碌なのが来なかったのは。
まぁいいや、どうせコイツらの面を見る機会も、ともすりゃ今日で最期ってことも多い。あんまり深く考える方が良くないだろ。
「遅ぇな」
フラウの車椅子に腰を預けて待っているが、近藤が中々来ない。まぁ、時計なんて持ってないヤツもいる中で、しかもあの高慢が形になったようなアマが五分前行動なんてするわけないか。
ただなぁ、こうやって協会……正式名称なんだっけ。
「フラウ」
「前経済圏遺構統括管理協会、です」
「……今有線してないよな?」
「だから、しててもヌルの思考は読めませんよ。天然のブラックウォールで」
流石に考えていることくらい読めるようになりますよと言われ、俺は肩を竦めた。
そうそう、その早口言葉みたいな協会。いや面の皮が凄いよな、まだ皇国は列島をやっとこ――しかも全部分じゃないのに――掌握した程度に過ぎないのに、それより更に前に発足した組織が「大和共栄経済圏の技術は全部ウチのだから」ってブチ上げてるんだぜ。恐れ入ったよ。
まぁ、必要性は分かるけどね。ヤベー遺構からヤベー物が溢れてヤベーことになったら、こっちは巻き添えで酷いことになる。コツコツ調べて、分類して、管理してくれる連中は有り難いとも。
ただ、軍事力まで持ってるのって流石に怖くね?
「兵隊さん、めっちゃこっち見てるな」
「それはまぁ、武装した男達が自分達の五倍いれば」
出島への橋は分厚いレール式の柵で封鎖されており、その前に待機所兼操作部屋が一つ。
そして、そこに都市迷彩服の職員が一人座り、二人の強化外骨格を着込んだ兵士が12.7mmを抱えて立っていた。
「あのゴツい装備してて、警戒する必要ある?」
出雲重工の汎用軍事外骨格。稲佐M6C型。最前線を張ることはないが、流れ弾くらいは飛んで来る後方支援用機体で、全環境適応の密閉型エグゾスケルトン。電脳化してなくても、お手軽に運動不足の中年を支援兵に変身させる装備として、前文明でも正規採用された物の一つだった。
フラウいわく、C型は警備用にセンサー類が強化された型番で、最新型でもなきゃ熱光学迷彩すらも見抜く不寝番だ。運動能力もそこそこ、装甲板も軽量展性合金が最厚部で10mmだそうだから、何とかできるのは俺のType12-FSPくらいだろう。
だから、もうちょっと愛想よくしてくれてもよくないかな? 最新のFCS導入して、12.7mmなんてぶら下げた怪物にジロジロ見られてたら怖ーよ。
それに昨日、ガン・フーの上級コースで、アレと同型じゃないけどエグゾスケルトンに殺されたんだ。怖いんだよな、関節とかの脆弱部じゃないと基本的に弾ぁ抜けないから。
ヘッドショット決めてもセンサー類の破損くらいで、予備系統に切り替えて戦闘続行してくるとかズルだろ。
「おまたせぇ、ザァコのみんな~」
とか思ってたら、ようやく近藤が重役出勤してきた。ガタガタの放出品軍用オープンカーで、運転は直結した数瀬がやっていた。首には馬蹄型の補助具を装備しているから分かったんだけど、アイツ電子戦要員だったんか。
ってことは、あの車は内臓AIが死んでるな。アナログにハンドル握るか、AI代わりに人間が電子制御するかか。
「連絡していた五級の近藤です。探索許可、願います」
「区画 あ-24の9ね。指示した道以外に侵入したら、未許可遺構侵入で警備路ドローンに吹っ飛ばされても文句言われへんで」
IDを待機所の職員に提出して、手続きしている近藤を見て驚いた。アイツ、ちゃんとした言葉遣いができたのかよ。
……いやまぁ、そりゃ誰彼構わずザァコなんて言ってたら殺されるか。
「じゃ、そういうわけで、徐行するから着いてきて~ザァコは当然走ることー」
ゲートが開くと、小走り程度であればついて行ける速度で近藤が走り出した。ったく、準備時間くらいくれよ。
「フラウ、ロックかけとけ」
「はい。テーザーをバラして作った警報器も起こしておきます」
流石に車椅子の速度じゃ追随できないし、危なっかしいから俺はフラウを担ぎ上げ、その背中を追った。
クソッタレ、しかし重いな。両腕だけで重量が合計5.5kg増加だろ? 拳銃二挺が7kg近く、そんでフラウにPDWに各種物資でトータル幾らだ。
「足と心肺系の置換とかも考えてーな!」
「効率を考えると腰回りから全置換しないと意味ないですよ」
「上級のスカヴェンジャーは、贅沢してる余裕をどっから捻り出してんだ?」
上等なクロームを次々入れていくことを考えると、金なんて幾らあっても足りねぇんじゃねぇか? ダウンタイムの仕事できない時間の生活費とか考えたら、上に上に行く度にとんでもねぇ出費で、都度都度ぴぃぴぃ言うことになりそうだが。
ああ、そうか、そこで出費にビビってちょっとした贅沢と、下っ端からのピンハネを覚えたから近藤は五級止まりなのか。
それが嫌んなったか、シンプルに財布が焦げ付きかけたか。
まぁ、どっちでもいいや。アイツの事情なんて。
「さぁて、到着~」
十五分ほど早足で追いかけ続けると、とある崩壊しかかった三階建ての立体駐車場に到着した。
そして、その地下二階、北側の壁面が崩れていた。廃車が押し潰された先に、列車の引き込み線がある。
なるほど、偽装しておいて、いざとなればここからゾロゾロ出てくるって仕組みね。
「じゃあ、偉そうなこと言ったザァコに前衛たのんじゃおっかな」
「任されましたよっと」
俺は言われるまでもなくジャケットの前を開き、銃を抜いた。寄せ集め連中が〝
「本日初見の諸君、俺と連携とか考えるなよ。危ない罠の場所は教えてやるが、トチって死んでもしらねぇからな」
だらりと銃を下げて砕けたコンクリートに上り、暗所補正がかかってノッペリした地下への道を見る。畳んだ上体で錆び付いたレールは、搬出時に駐車場を破壊して即興の道にする設計なんだろう。
「ああ、それと、ライト鬱陶しいから距離は150ほど開けといてくれ。ヤベーのは対処しとくから」
流石にEisen-眼が高性能でも、後ろからライトがチラチラして補正が頻繁に切り替わったら、目にノイズが入る。
マジかよとか、死ぬ気か? とざわめく雇われ達を置いて、フラウと直結して地図を表示しつつ一人で急勾配の線路へと足を踏み込んだ…………。
弾除けは多ければ多いほどいいの精神。
実際、一山幾らの生きたデコイと割切って運用すれば、この時代に人命の安さもあって更に安価!