崩壊世界のゴミ漁り~ウジ虫からの成り上がり~ 作:Schuld
矢鱈と足音が反響する地下道は、その背の高さと幅からして、何か巨大なものの通行を考慮しているようだった。
「コイツは期待できるな、フラウ」
「どうでしょう。避難用経路という可能性もありますよ」
少しテンションが上がっていると感知したのか、彼女は冷静になれと言わんばかりの冷や水を浴びせてくる。
まぁ、たしかに最近、フラウが道行きを確保しきってくれているおかげで、ちょっと気が抜けているところがあるかもしれない。気を入れねば。
「って、二股か」
そのまま降りていけば、道は緩やかな弧を描いて左右に分かれていた。
ここまでは罠らしい罠はない。ただ、壁の中に機能していない敵味方識別装置が埋まっていたらしいので、きちんと警備体制は敷かれているのだろう。
「左から微妙に塩っ辛い臭いがする」
「多分浸水してますね」
「右に行くって伝えといてくれ」
「ここ、電波吸収素材使ってますね。有効通信半径200ないですよ」
「チッ、安物寄越しやがって」
一応はカナリアが鳴いたかどうか分からないと困るため、小型通信機を貸し出してきたが、低出力なのか電波が吸われて通信が不安定らしい。こういう時くらいちゃんと金使えよ。旧軍の施設だって分かってるなら、電子戦に対応して何かしてることくらい分かるだろ。
視界に映るフラウのセンサー情報を慎重に探りつつ、歩くよりは速く、小走りよりはゆっくりと進む。
「こういう時、歩くのはやっぱ中央だな」
施設が稼働していたら、いつ列車や小型レールカーが通りか分からんから危なくてしょうがないが、流石に敵味方識別装置付きの地雷やタレットをここに埋設するわけにゃいかんのは分かる。
「マスター、止まって」
「ん? 何を見つけた」
答えより先に、120m先の壁がピックアップされた。偽装された壁の中に戦闘用ドローンが左右で四機ずつ、大人しくしまわれていた。
「なになに? 自制研の
「旧文明じゃ官公庁シェア最大のドローン企業の普及型警備ドローンです。センサー設備に接続して待機中」
「やれるか?」
「お任せを」
言うが早いか、壁が開いて箱形のドローンが飛び出してきた。大きさは大型のキャリーケースくらいで、両脇が展開してダクトファン型の飛翔ユニットで飛んでいる。機体の下部には大型の機関銃が装備されていた。
明らかに都市警備用じゃない、軍用であることが分かる威圧的な外見。これがほとんど無音に近く飛んでいるのが凄まじく怖ろしかった。
「げ、7.62mmチェインガンに60mm自動擲弾? こりゃ俺ら下請けで相手すんのはキツいぞ。上取られながら制圧射撃されたら一瞬で挽肉の山だ」
何とかできんこともないが、こりゃガン・フーで戦うには相当難易度が高い。なんつったって、空を飛んでいるということは、俺と違って地べたを這っているわけじゃないから回避可能方向が単純計算で倍以上なのだ。
一応、ファンの向きから移動方向を読むことはできるが、相手せずに済んで良かった。
「一時的に制御をオーバーライドしているだけなんで、放っておいたらそうなりますよ。システムをクリーンアップして、完全に自分達の物にするのには一手間要ります」
「無力化するか……下ろしてくれ。電源引っこ抜いときゃいいだろ」
フラウの命令に従って地面に降りたドローン達は、翼を畳んだかと思うと、大きく前後に割れた。その中には整備しやすいよう給弾機構やバッテリーパックが収まっているのが見える。
「このコードを引っこ抜くだけと」
「それで後から警報システムがどれだけ呼んでも、物理的に動けません」
もうこれだけで結構な稼ぎになるな。高性能なドローンは何処ででも引く手数多だ。特に俺みたいに電子戦闘要員と組んでいるのならば、純粋に手数が増えるのみならず、命を持たない斥候としても使える。
軍用モデルなので頑丈性も整備性も高いし、パッと見、テクノ通りで売ってる部品だけでも整備はできそうだ。これなら高値が付くだろうけど、流石に相場が読めんな。
「近藤はなんて?」
「続行だそうです」
「どうせビビったのザァコとか言ってきたんだろ」
まったく、もうこの時点で五級と下請けの遠足で何とかならないレベルなのは分かっただろ。どんだけ博打がしたいんだ。
「にしても、軍の設備だけあって物々しいな……」
「マスター、流石に軍のIFFを騙しきるのは難しいですよ。乱数化されたものが分刻みで警備中枢から送られてきますから、ここのシステムが生きてたら到底太刀打ちできません」
「お前でも?」
「人工知能としての性能で負けるつもりはありませんが、使える処理領域が違いすぎます。平押しでやりあったら話になりません」
となると、相方の電脳戦パワーで安心安全とはいかんわけだ。これから先、同じような形で待機していて、有線接続の系統からしか命令を受け取らないスタンドアロンの警備ユニットもいるだろうし。
参ったね、後ろの有象無象にまで気を使ってやる余裕がなくなった。こりゃ場合によった俺一人でもケツ捲る方が賢いまであるぞ。
「まぁ、いよいよとなったら撤退だな」
「まだ行けるは、もう危険でもありますけどね」
「オッサンの言葉は沁みるね……」
自嘲っぽく笑いながら先を進む。
1kmばかしの道程で、躱した危険は三つ。
敵味方識別装置付きの跳躍式地雷が複雑に埋まっていたので――恐らくレールを傷付けない対人型だろう――センサーを騙しながらすり抜けた。流石のフラウも一個一個停止命令を出す必要があったので、結構時間を食った。
次はドローンと同じような形で埋設されていた警備ロボットの分隊。こちらは経年劣化で扉がイカれているようなので放置したが、虫の居所が悪かったらぶち破って来かねないので、騒ぐなと警告を送っておく。
そして、三つ目の脅威は停止した警備ロボットが横たわっていたことだが、熱源が生きているそうなので、なんの弾みで起き上がるか分からないし、有線して完全に電脳を灼いておいた。未起動状態ならまだしも、起動した形跡があったら乗っ取りは難しいのだ。
特に軍籍コードを与えられている物は、警官より頑固だというので、事後報告になるが近藤には諦めさせた。まぁ、ほとんど無傷なんだから、価値自体はあるだろ。
そして、通路の奥。巨大な鉄扉。そこには壁体に収納された筒型のタレットが待ち構えていた。
「あれはどうにもならないんだな? フラウ」
「はい。施設直結型で……生きています」
回線は有線のみ。これは電子戦が発達した前文明ではスタンドアロン構造に次ぐ、そもそも無線接続によるクラッキングをさせないという強い対抗策だ。
よって、フラウから働きかけて黙らせることはできない。
ならば、俺の出番だろう。
彼女を下ろし、銃を構える。
「認識距離は150mだな? 数は六で間違いなしと」
「はい。軍設備の奥なので、警告なしで射撃してきますよ」
「上等」
濃い時間になりそうだ。
そう思いつつ、思いっきり地面を蹴る。銃をブラつかせないため両腕を下ろしての全力疾走なので、前に出るため前傾姿勢でバランスを取る。
トップスピードに乗った瞬間に、センサーの警戒距離を割った。
すると、壁と天井に切り込みが入ったかと思えば、滑らかな動作でドラム缶ほどもある警備タレットが伸びてくる。
そして、真っ赤に染まる視界を置き去りにするように走り続け、右へ、左へ軌道を変える。
連続した発砲音が、トンネルを反響して埋め尽くした。鼓膜が乱打され、ゼロコンマ数秒前まで自分がいた場所が5.56mm高初速弾に切り刻まれるのが分かる。
怖いが、足を動かせ。皮下プレートで止められる弾じゃないが、当たらないならないのと同じ! 今はただ、有効射程に飛び込むことだけ考えろ。
あと5mでオジギ野郎でもきちんと当たる距離に踏み込んだ。そして、俺は大きく飛び上がる。
空中で両腕を伸ばし、体を畳むことで弾丸を潜り、天井から生えていた二機に弾丸を叩き込んだ。飾り気のない筐体が拉げ、漏電した光が迸る。
弾丸に追われながらもつま先から着地し、膝を畳みつつ前転。左肩と肘で体を跳ね上げさせ、義腕の力任せな変則的前転跳躍から射撃姿勢に移ってもう一撃。壁から垂直に生えていた一対に命中し、更に沈黙。
弾幕の間を縫うように着地し、右側に飛びつつ銃を前に突き出して、地面から映えた一対に照準。
ただ、回避が遅れたのか、弾が何発かジャケットを掠った。
ファック!! ただでさえボロボロだってのに!
悪態の代わりに弾丸をぶつければ、タレットは接近していたこともあって威力が上がり、片方が基部からもげて吹き飛んでいった。もう一方は深々と陥没し、最後っ屁の一発を放ってから、静かになる。
最後に側転し、勢いを殺して着地。右手は肩まで引き、左手は突き出す基本形にて残心。吐き出された大量の薬莢以外に音が止んで静寂が訪れるまで待つ。
追加はなし。タレットの起動を感知して作動するギミックなし。
勝った。
「ふいー……いや、何度もシミュレーションで死んでるけど、流石にコエー」
終わったと認識すると同時、背中に脂汗がブワッと浮かんだ。
背後に刻まれた大量の弾痕。自信はあったが、しくじればここで蜂の巣より酷いことになっていた。
ガン・フーが合理的でも、あんまり流行しなかった理由が分かる。
度胸が要りすぎる。
でもまぁ、俺程度の腕前で何とかなる規模だからよかった。流石にもう一対あったら死んでたな。あと、通路がもう10m狭くて弾幕の密度が濃かったらダメだったかもしれん。
とりあえず、今日は運と実力に救われた…………。
胴体と頭部を機械化できないと脆いところはどうやっても解決できないので悩み所。
注射してマイクロマシンに電気刺激で命令を送って構築する皮下プレートを導入していますが、安物なのでお守り程度の代物です。