崩壊世界のゴミ漁り~ウジ虫からの成り上がり~ 作:Schuld
巨大な扉を見つけたと報告したところ、一旦そこで止まれという命令が来た。
まぁ、近藤のことだ。先に入ってポケットに高価そうな小さな物をしまわれるのが嫌なんだろう。
まったく、今回俺が欲しいものは市民IDだといっただろうに。信用がないよな。
とはいえ、背中を預け合う間柄だろうと信用も信頼もするな、というのがこの世界の鉄則らしいから、分からんでもないけど。
とはいえ、俺だって交渉を任せないといけない雇用主の期限を損ねるようなことはしねぇよ。そこまで短絡的でも馬鹿でもない。
「まぁ、ザァコにしちゃ頑張ったかもぇね~」
「そりゃどうも」
配下を率いてやって来た近藤を待っていたが、彼女はその臆病さの表れか、俺がクリアリングした道なのに、四方を配下に守られながらやってきた。露骨なまでに肉の壁過ぎて、ちょっと笑ってしまう。
「で、電子ロックされている扉ですけど、通用口と一緒に全開放もできますが、どうします?」
「数瀬ぇ~」
「はい」
言われて、数瀬が前に出てコンソールに取り付いた。小さなラップトップを取りだして自分と有線した後、思考入力でプログラムを立ち上げているのが分かる。
「待ってください。それでは自殺行為ですよ」
たまたま画面を見ていたらしいフラウが声を上げる。
「ハッカー殺しの上等な攻勢防壁を仕入れてる。軍設備にも通じるはずだ」
「デコーダーの質が悪すぎます! 灼かれますよ!」
「見えてないのぉ? ザァコ、身代わり防壁だって渡してるしぃ」
「そんな民間仕様のスクラップじゃ……」
しかし、フラウの静止も聞かずに皆瀬はコンソールパネルにコードを突き刺してしまった。
クソ、この馬鹿野郎共、俺達がここまでの脅威をきちん停止してきたことを分かってないのか? いや、むしろ分かったからこそ油断した?
ええい、フラウが仕事でトチって両手足をなくしたという偽装経歴が悪く働いたか?
それとも、難易度の高い扉を自分達で開いたという実績が欲しかったか?
どのみち馬鹿みたいな虚栄心で博打を打ちやがって。
「ヌル、警戒を」
「分かってるよ」
ホルスターからType12-FSPを抜いて安全装置を外す。
腰を上げ、傍目には服の起伏で分からない程度の僅かさで膝を撓める。
俺は金がなかったから、少しダボいサイズの合っていない野戦服ズボンを選んだが――あと、背が伸びることを期待して――構えていないように見える構えができるアドバンテージがあったとは。
深く呼吸をし、周りへと繊細に意識を飛ばす。皆瀬がハッキングを始めたが、今のところ大きな動きはなし。取り巻き共も、ここまでイージーゲームだったのもあってか、のんびりとしている。
「あっ、あれ?」
ただ、それはほんの数分しか保たなかった。
「おかしいな、デコーダーが……えっ、これ理論迷路防壁!?」
「どしたのぉ!?」
「つ、捕まった! クソッ、回線が誘導されてた!」
「一旦リブートして……」
「だっ、駄目だ! ロックされた!!」
あーあーあーあー、案の定こうなったか。そりゃお前、今までの防護設備見てたら分かるだろ。重要度はさして高くなかったとしても、ここはちゃんと軍の施設なんだよ。たとえ二百年以上ほったらかされていたって、中枢AIが生きてたら、発掘品のチープな電子戦装備でどうにかなるか。
「馬鹿野郎! 離脱しろ! 焼き殺されるぞ!!」
俺は慌てて駆け寄るが、数瀬は赤いサイバーサングラス越しにも慌てているのが分かる様子で振り向いた。
「ろ、ログアウトできない! 完全に捕捉されてる!」
「コード外すなりなんなりしろ!」
「電脳で直結してるんだぞ! そんなことしたら俺の脳に何があるか!」
「死ぬよりマシだろボケ!!」
俺は端子を引き抜くべく、右手の銃をホルスターにしまおうとしたら、急に数瀬の動きがとまった。
「手遅れですね」
覗き込んだラップトップの画面は、オレンジ色の表示がいつの間にか赤い枠線に切り替わっていた。
だめだ、完全に掌握されている。安っぽい端末一個挟んだくらいじゃ、ファイアウォールもへったくれもあったもんじゃない。
「あっ、あっ、いえっ、ああっ、あがっ!?」
「ザァコ! 引っこ抜きなさい!」
「もうどうにもならねぇよ……」
フリーにした右手でコードを引っこ抜く代わりに、少し乱れた髪を掻き上げた。流れ込んでくる情報で肉体が動いていると言うことは、もう神経系統に取り付かれてる。電脳の深いところに触られるのは秒読みだ。
今、端子を引っこ抜くのは、警備じゃくて俺がコイツを殺すことになる。
「あびっ、ぶぴっ……アバッ!!」
一際大きな奇声を上げて、数瀬の状態が反り返り血が迸り、首筋がスパークした。
体中のあらゆる穴から体液が漏れて、特に目と鼻と耳からは沸騰した血液が漏れ出している。桃色の泡は蒸発した脳細胞だろう。
見たことがあるよ。自分で自動人形を初期出荷状態に使用として、ブラックボックスの防御機能に灼かれたヤツと一緒だ。身代わり防壁は役に立たなかったようだな。
「数瀬!?」
「もう死んでる」
心配して肩を揺する辺見に冷たく言い捨て、俺はType12-FSPではなく、PDWを構えた。
通路の奥に動体反応多数。扉の向こうではなく、俺達が通らなかった経路で待機していた、生きている警備を送り込んできたのだ。
「戦うぞ! 準備しろ! 直ぐに敵が来る!!」
「えっ、ちょ、そんな!」
「転がってるタレットを遮蔽に使え! 言っとくけど、俺は助けてやれねぇからな!!」
もー、あーもー、だから嫌だったんだよ、ぶん殴ってでもフラウにやらせるべきだったか? いや、それをやったら、結局功績を独り占めしたいのかと難癖付けられて撃たれてただろうしなぁ。
ただ、この場がブラッドバスになることは確定したようだ。
「フラウ、敵は」
「接敵までおよそ三分。800m先、通用路先で再編中」
バラバラに襲いかかってきてはくれないわけね。賢いことで。地図見て分かってたけど、人間用の通路まで使ってくるのかよ連中。
「突っ込むか?」
「英雄ごっこがしたいのであれば」
フラウの冷徹な計算は、俺が考えていた通りの答えを出した。
つまり、ここで待ち受けて、他の取り巻きはターゲットを反らしてくれる〝弾除け〟として使い捨てる覚悟が必要か。
まぁ、俺だって流石に近接白兵を挑まれながら、上から撃たれて回避できるほどガン・フーの達人って訳じゃない。
運がよければ何人かは生き残ることを期待する他ないだろう。
「俺が前に出るが、言っとくが変にばら撒くなよ! 誤射したら戦闘中だろうがブッ放すからな!!」
しかし、コイツらが戦力かといえば微妙だ。恐慌状態に陥って、効くかも分からんジップガンをばら撒かれたら、俺が占位すべき安全地帯が削られる。戦闘中に報復している余裕なんて絶対にないが、一応の念押しとして脅しておいた。
「ボス! アンタも全身義体なら前衛張れるだろ! 早く!」
「なんで、なんでこんな……いや、いや……」
ちぃ、肝心な時に使えねぇな! 近藤は譫言を呟きながら、扉の前でしゃがみ込んでいやがる。なんだ、PTSDか!? なるほど、アイツが下請けを集めて、自分で遺構を潜ろうとしなくなった理由が分かった。
全身義体で安物とは言え、戦闘力が高そうなのに最下級なのは、アイツが何らかの理由で〝折れた〟からだ。そして、今日は本当に嫌々でてきたのだろう。
然もなくば、あんな弾除けと足手まといの中間的存在をかき集めてまで、周りを守らせる訳がない。
「来るな」
使えないと分かったなら、その場でほっとくしかないな。流れ弾で死なないことだけを祈ろう。死んだら死んだでその時だが、俺の市民ID割引がなくなってしまう。
ここまで来たら腹ぁ括るしかないんだ。
思いっきり暴れてやろうじゃないの…………。
人がやっている死にゲーほど「おや、存外簡単じゃね?」と感じる物はない。
少し遅くなり申し訳ない。