崩壊世界のゴミ漁り~ウジ虫からの成り上がり~ 作:Schuld
念のために自閉モードにしておけと言っておけば、フラウは言われるまでもなく、とっくにセンサーはパッシヴ系列にだけ切り替えていると言った。
この辺、高性能なAIを積んだ、枝の端っこじゃない独立型自動人形の強さだよな。
「マスターこそ、準備は」
「暖機はバッチリ、後は命をチップに放るだけ」
左目の光学素子は、暗所を照らすために方々から伸びる可視光の干渉に順応を終えている。本当は灯りを消して欲しいが、ナイトヴィジョンなんて持ってない下請け共に、命綱である灯りを消させることは不可能だからな。
この辺、独立AIを積んで、最適解を叩き出してくれる軍用製品の信頼感ったらないぜ。
「来ます」
「おう」
生身の耳では拾えないノイズを感じ取ったフラウが警告をした。
それと同時、角を曲がって800m先、一気に敵の軍勢が溢れ出してきた。
「おうおう、豪勢だな!?」
通用路からまずやって来たのは、大型の防楯を構えた警備ロボットだ。丸っこいどこか愛嬌のあるデザインながら、ヘルメットのシールドのような視覚素子保護装甲が軍用であることを教えてくれる。多分、あの丸みは避弾経始を計算しているのだろう。余計な飾りが一切ない、オリーヴドラヴの色合いが益々それっぽい。
フラウがカタログのデータを送ってくれたが、経済圏の何処ででも使われていた出雲重工の
装備は今見ているとおり、テストゥドめいた盾の列を作る大型シールド。それも、フラウから送られてくるデータからするに、軍事衝突に備えての前衛を熟せるよう、二層構造で間に衝撃吸収ゲルをたっぷりと蓄えた、一発なら20mm機関砲にも耐えてみせる代物。
それを左腕で構え、右前腕に装備した内蔵兵器を凹んだ一部分から覗かせて攻撃してくると言う。
幸いにも、こちらは内蔵兵器ということもあって、口径はデカくない。ただ、5.56mm自動機関銃を内蔵し、バックパックの給弾機構と接続しているため脅威としては十分だ。俺の皮下プレートは5m離れた9mmを止めるのだ限界だから、当たれば間違いなくハラワタを掻き混ぜられて死ぬ。頭部が耐えられないのは言うまでもない。
そして、七機三列の横陣を組んだ後、入り口から飛び出してきた八機の嵐風型が上を固める。
こっちは拙い、かなり拙い。
7.62mmチェインガンの威力と有効射程は言うまでもなく、60mmグレネードなんて有効範囲的に、俺の生身そのまんまに過ぎない足じゃ絶対に回避できん。
想定していた重装の、それこそ貫徹が絶対に不可能な重警備ロボットや多脚戦車を引っ張り出してこなかったのは有り難いが、状況は結構シビアだ。
「軍の平時制圧ドクトリンならば、距離300で交戦を始めるはずです」
「なら、それまでにドローンを叩き落とさないと、グレの釣瓶打ちで全滅だな」
有効危害半径を示す領域は、淡い桃色に染まっている。ガン・フーで言うならば、まぐれ当たりがあるかもしれないから気を付けろくらいの意味だけど、これが通路全域に広がっているのがヤバイ。
「火器管制、任す」
「了解。マスター、オーバーライドできないので当てるのは貴方の仕事ですよ」
分かってるよ。内心で呟き、左目を絞りに絞りピンポイントで上空防御を担いつつ、メイン火力である嵐風型をポイントした。
この距離だと弾がかなり〝垂れる〟ので、銃口をかなり上げる。ピンポイントで無力化できる箇所は狭い。針の穴を縫うような射撃をすれば、忙しく動き回り、狙いを逸らそうと幻惑しているローターを破壊できるが、そうもいかん。
となると、比較的デカくて狙いやすい場所。
タレットの基部だ。
電子トリガを引き発砲。大口径だが銃弾が重く、低初速の弾は大きく加工しながらも中央の嵐風型に命中し、その物騒な火器類を束ねている基部をへし折った。
ついてる。俺は目以外のセンサー類が生身だし、高精度な距離計も積んでいないし、PDWの照準器も基本的には近~中距離用。フラウが補助してくれたからこそ、集中して計算した弾道がぴたりと当たった。
しかし、ゆっくりできない。敵は間抜けじゃないんだ、遠距離から狙撃されると分かっていれば、距離を詰める速度を上げて狙撃の時間をくれないはずだ。
ポンコツな右腕だった時の大きな跳ね上がりはなく、左へなぞるように照準をずらす。そしてもう一発、タレットの基部がもげて、二機目が大きくふらついた。
敵が増速する。もう距離は600を割る。攻撃機会はあと二回くらい……と思っていると、嵐風型が前に出てチェンイガンをばら撒き始めた。
危害半径が広く、安全な場所は極めて少ない。俺は腰だめに銃を構えつつ、そこへ前転で飛び込み起き上がり様に膝立ちで一発。間合いが狭まっていたおかげでしっかりと命中し、残りは五機。
左足を跳ねさせて辛うじて危険域から脱し、右手を突き出して照準しつつ、次の布石として左手は地面に。四機目を撃破した直後、修正される照準が全て俺に突き立った。
やっぱなぁ、軍用だもんなぁ、そりゃ脅威度判定くらいしてヤバい俺を狙ってくるわな。
地面に添えていた左腕を力強く突き出し、そのまま真後ろへと滑る。足を開けば股の間を割るように追随する弾幕が弾痕を刻んでいき、一瞬股間がヒヤッとした。
そして、垂直な運動のおかげで容易になった照準で、嵐風を二機撃破……したところ、後ろから弾が飛んできた。
クソッ、ヘタレの根性なし共! 全然有効射程じゃねぇだろ! こっちの邪魔だからパンパカやり始めるな! 本当に後ろ弾しやがったら、首根っこ引っこ抜いてやるから覚悟しとけよ!!
勢いが減じ始める前にPDWを抱いて横に転がる。そのまま射線が追いつくまでの数秒間を更に転がって稼ぎ、つけた勢いを借りて跳ね上がる。
流石に空中で完璧な狙いは不可能なので、セレクターをフルオートへ。どっかに当たれと祈りながら引き金を絞れば、少し逸れて嵐風型の前方感覚素子に突き刺さったのだろう。飛行がフラフラ覚束なくなり、そのまま後方へ下がっていく。
なるほど、戦闘能力を失ったら、撤退か、賢いな。
残りは一機。弾幕は薄くなる……かと思いきや、安全域がゴッソリと削れた。
警備ロボットがドクトリンを変えて、牽制でも良いからと弾をばら撒き始めたのだ。
クソッタレ、まだ距離は500ほどあるはずなのに!
前衛七機の射撃は横薙ぎの苛烈な雨となって降り注ぐ。俺は腰を下げ、体を左に捻って回避しつつ、敵に背を向ける一瞬で左手に銃を持ち替え、正面に最も早く向けながら残りの弾倉を空にする勢いで乱射。
すると、その内の一発が運良くクリティカルな所に当たったのだろう。最後の飛行ドローンはふらついて、地面に落ちビープ音を立てた。
だが、代わりにPDWの50口径は売り切れ。小走りで近づいてくる敵との距離は450を切って、照準の精度がどんどん上がる。
このままだと厳しいなと思いつつ、ひたすらに弾が来ない所へと身を置き続ける。その最中に再装填している余裕はないとPDWを放り投げ、拳銃を抜く。
しかし、このオジギ野郎をキッチリ当てるにゃ間合いが足りん。じゃあ、どうするか。
一旦下がって遮蔽に潜み、距離が埋まるまで待つ?
「冗談」
それは負け筋、ビビりの考えだ。
ガン・フーを使うなら、クラリックなら違う。
距離の壁は安心を生むが、それは虚飾の装甲。まぐれ当たり、精密狙撃、爆弾などの面制圧。そんなもので簡単に潰れる薄氷のような物。
本当に安全なのは、敵が銃の扱いにすら困る至近距離に他ならない。
銃口を無闇に揺らさないため、地面に向けたまま前傾状態で走り出す。右に向かって体を振り、しかし左足を軸に駆け出す方向は左。肩に重心を置いて無理矢理起動を修正し、体が嫌な軋みを上げる勢いで有効射程まで近づく。
その間、無駄玉は撃たない。装填数は7発、全部で14発しかなく、どう計算しても途中でリロードを一回挟む。となると、人間と違ってビビらねぇ警備ロボット相手に威圧効果を狙っての無駄玉は厳禁。
何より、連中は盾の凹みから手首を出す、斜角の狭い攻撃を取っているのだ。
これくらい走り抜けなくて、上級インストラクションをクリアできるかよ。
俺は命を捨てる覚悟が最も命を拾うのだと手前に言い聞かせながら、まるで飛び石のように分散した弾が飛んでこない領域に身を投げた…………。
小難しいこと考えないで防御力高いユニット並べて圧殺すれば閉所警備は十分という、素っ気も何もない最適解。
本日は手術でございます。
といっても日帰りなので、きちんと夜も更新いたしますよ。
FANBOXでは30話まで先行公開しておりますので、続きが我慢できないという方はどうぞ。