崩壊世界のゴミ漁り~ウジ虫からの成り上がり~ 作:Schuld
人間の上体は、割と柔軟に動くから、愚直に狙ってくれると最小限の姿勢制御で躱せることは、ガン・フーの初歩だ。
ただ、相手も軍用。その上、部隊で行動するのが当然の警備ロボットとなれば、弾幕の張り方は適当ではない。
ある個体は足を狙い、ある個体は頭を上げさせないよう制圧射撃を行い、そしてある個体は最大限の隙を晒した瞬間を待機する。
これはオッサンから教わったことだ。
数を揃えた警備ロボットには、生身の人間じゃ絶対に勝てないから、直ぐに逃げろ。大事な教えで、危機感をちゃんと養ってくれた。おかげで壊れかけの連中だからと余裕ぶっこいて突っ込むことはなく、今生きていられる。
ただ、皮肉なことに、今では距離を詰めることが最適解になっているとは、何か人生の皮肉を感じる。
ステップを踏み、時に立ち止まり、翻弄して距離を詰める。
向こうも一緒に歩いてきているから、相対距離は150mほどか。必中距離まではもう少し。
「マスター、心拍数が」
「こんだけ走り回りゃなぁ!!」
耳の奥で血流が五月蠅い。高鳴った心臓のせいで胸が痛く、息をする度に微かな血の味がした。張り付いた粘膜の味だ。
しかし、頭は嫌にスッキリしている。これがコンバット・ハイってヤツだろう。アドレナリンの過剰摂取で神経が高まり、ただただ殺すために体を動かすことに悦びを覚えている。
正に、この一瞬のために生きているかのような。
危害半径が重なり合い、刹那、ほとんどの安全域が潰れた。何処へ移動しても、弾が飛んでくる布陣。
まぁ、こうなることもある。というよりも、周到な機械達は計算して追い詰めてくるべく、弾丸が制圧できる面を計算して連携するものだ。
だが、ガン・フーの神髄は追い詰められてから。
俺は敢えて踏み込んだ足を大きく滑らせ、ずっこけて見せた。
すると、狙いが逸れて虚空を弾が掻き混ぜていく。
連中は好くも悪くも賢すぎるんだ。人体の可動域、それから今までの予測に従って攻撃するから、こうやって一見するとポカのようにしか見えない挙動への対応が遅れる。
肩から落ちて順に腰、膝と衝撃を逃しながら、地面を転がって間合いを詰める。
あと少し、いやもう危ない。
カンに従って回転を緩め、急停止し、腕の力で糸に吊られた玩具のように立ち上がった。
すると、後ろから前へと追っていた銃弾が、寝転がっていた胸や腹の辺りをなぞるように駆け抜けていく。
相対距離50m。向こうの小走りからして、敵は直ぐにこちらの射程に飛び込んでくる。
俺は安全位置へ飛びながら銃を突き出す。
そして、右側を発射。中央の個体、それが構えていた盾が大きく傾いた。
Type12-FSPは強力な義体犯罪者を取り締まることが目的に開発された銃であり、万一外れた時に建物の中にいる住民を傷付けないよう貫通力を抑えた低初速弾だ。大重量の弾頭が潰れながら発揮する威力は、貫徹せずとも浸透する衝撃で義体の内部機構を破壊するが、流石に20mmを一発は受け止めることを想定した盾には役者が足りない。
かといって、警備ロボットが構えているそれを大きくめくり上げることは可能だ。
姿勢が崩れると同時、左の銃を撃ち丸出しになった右膝を砕く。衝撃が浸透し、機体の脚部が弾けるように爆散した。
機体が倒れ、藻掻く。人体を模した構造そしている以上、当然の弱点だ。
警備ロボットが人間の形をしているのは、あくまで人間が利用する施設を効率的に巡回し、守るためであって、機械特有の可動部を可能な限り減らして弱点を削るメリットを捨てている。その代わりに得られる汎用性という利点は捨てがたいが、対人戦闘メソッドが通じるようになる時点で、ガン・フーの良い狙い目なのだ。
次は、左隣の個体にポイントし、同じくほとんど同時の着弾で右肩を粉砕。多分、余波で胸部ユニットも逝っただろう。
そしてバックステップしつつ、これ以上は間合いを詰めさせない。30mの支配領域。走り、転がり、この合理性を知らねば〝自分の考えた格好良いポーズ〟としか思えない姿勢で撃ち続ける。
決して欲張らず、削るように戦闘能力を奪う。
一撃で頭部を破壊できたとして、連中のそこに収まっているのは中枢ユニットではなく、あくまでセンサーの塊。胸部を粉砕できれば一撃必倒とお得だが、瞬間瞬間に壊せる場所だけを狙うのだ。
七体を足止めした後、マガジンリリースを押しながら体を大きく回転させつつ、胡座を組むようにしゃがんで軽くなった弾倉を遠心力を借りつつ排出。それから、ベルトに上を向くようにして装着した左右の弾倉へ垂直に銃把を叩き付けて再装填。
組んだ脚を一気に伸ばし、前転しつつスライドストップを押して初弾をチャンバーに。頭を軸にしながら、開いた両脚の間から腕を突き出して、膝を破壊されながらも上体を持ち上げて射撃しようとしていた個体をの胸部に二発叩き込み念入りに破壊した。
体を捻りつつ、肩から着地。フラウを潰すのは悪いが、仰向けに寝そべりながら右手で盾を引っ剥がし、左腕で右膝を破壊。これで戦闘力を削った個体は六、完全に沈黙させた個体は二。
だが、まだまだ油断できない。
「下手くそ共! 撃つの止めろ!! 危ねぇだろ!!」
起き上がるため脚を畳みつつ、腹筋の力で体を擡げれば、後頭部の辺りを弾が〝前後から〟抜けて行った。
下手くそな援護射撃が、懸念した通りに俺の聖域を汚しつつある。
ただ、敵も一応は撃たれると反応するのか、たまに後ろへ牽制射撃してくれるのでいたし痒しといったところだが。
しかし、結構流れ弾と牽制射でも逝ったなぁ。俺が派手に動いて、嵐風型がデカい弾をばら撒きすぎたからか? ちらっと見ただけでも四人は殺られてる。見えてない数を含めれば、もっとか? まぁ、全滅必至な状況と比べたら、まだマシなんだが。
「ヌル!! 動き、もうちょっと何とかなりませんが! 仰向けになると潰れてキツいです!」
「こっちは遮二無二やってんだよ!」
顔と髪が汚れたらしいフラウが文句を言うが、こればっかりはどうしようもない。マジでダイナミックに動き続けないと、敵が狙いを集束させてきてヤバいんだって。腕なら正直5.56mmくらい喰らったって何ともないが、胴体と足に貰ったら死ぬんだぞ。
右足を畳み左足を大きく伸ばしつつ、両腕を突き出しての射撃で、もう一体を擱座させる。しかし、人間と違ってガッツがあるから困るね。主武装の右腕を破壊しきっても、盾で味方を庇おうとしたり、身を挺して万全な個体を守ってくるから性質が悪い。
だが、大分減らした。
体を潜り込ませる隙間がある。
俺は二発残っていた弾倉を捨て、贅沢に装填しながら走り込む。盾で受け止められる前に大きく飛んで、その縁に着地。両脇の個体、その頭部を吹き飛ばし、余勢が生きている内に目の前の個体を蹴り飛ばしてたたらを踏ませる。
そして、体を右に開いて両手をコンパクトに伸ばし、シールドに一発、がら空きの背中に一発叩き込む。
ガン・フーの最も得手とする、ワン・インチの距離に入った。
突きつけられる銃口を手の甲で跳ね上げて当たらない位置に運んでやりながら、逆に手首の角度調整でがら空きの動体へ一発。逆の手は振り返ろうとしていた個体の膝にブチ込んで転倒させ、更に回転。
防御と回避、そして攻撃の一体化。これをガン・フーの使い手同士が行うと、互いの射線を外すための忙しない、そして優雅にして踊るような所作となる。
仲間に弾を当てることを避けるプロトコルでも組まれているのか、手首から射出した特殊警棒を伸ばして抜いて殴りかかってくるのは賢いが、命中する場所を反らすのは銃を弾き飛ばすのと一緒。
最後の三体。左に一体に蹴りを入れて射線を外した隙に、正面の個体の膝を打ち抜き、跪かせる。そして、右の個体が振り抜いた特殊警棒を潜るように躱して、胸部に銃口を接写して射撃し沈黙させる。
そして、それぞれの胸にポイントし、破壊。
これで終わり……と思った時、甲高い風切り音を立てて頬を弾丸が掠った。
警備ロボットが撃った弾ではない。
援護しよう、としたつもりなのだろう。
だが、弾丸が跳弾して頬を薄く割いていった。
「あーあ……」
「何処のド下手くそだ!! 止めろつったろゴラァ!!」
俺は丁度撃ち尽くしたType12-FSPを振りかざしながら、息が荒いのを我慢して思いっきり叫ぶ。
無傷で勝利と思ったが、飛んだところで水を差されちまった…………。
弾除けになってくれるのは有り難いけれど、下手な鉄砲のフレンドリーファイアーが怖いので雑魚が沢山いるからといって楽になる訳ではない。
その点、黙って肉壁をやってくれるTRPGのトループモブくん達は偉大である。