崩壊世界のゴミ漁り~ウジ虫からの成り上がり~ 作:Schuld
ホルスターにType12-FSPをしまい、思ったより深く肉を削ったのか、結構な血が出ている傷口を親指でなぞった。
勢いよく血を弾き飛ばしてみるも、まだジワジワ垂れている気がする。こりゃちゃんと手当せんといかんな。
「ファック、これで医療キットの中身使うとか普通に業腹なんだが?」
「マスター、無精しないで治療してください。顔の出血は普通に長く続きます」
へーへーと頷きつつ、遮蔽物の向こうに向かうと、思ったよりも死屍累々だった。
何がありゃこうなるのか分からないが、八人も倒れてやがる。腕や足を抑えているヤツは、大方跳弾でも貰ったのだろう。
大半は制圧射撃の巻き添えだが、ビビって神経がイカれて、身を寄せ合って弾が飛んでこないようになるまで待っていられなかったか。
とはいえ、無理はないか。実際、前を張っていたのは先月まで自分と同じ立場の下請けが一匹。信用して足音が迫ってくるのに耐えられないわな。
そして、そうなった人間の行動は一つ。効く効かないを無視して銃を撃つのだ。
極限のストレスに追い込まれた人間は、基本的に銃を撃ちたがる。
何人目だっけか? 組まされた馬鹿が警備ロボットが通り過ぎるまで待ってろと隠れていたが、その緊張に耐えきれず叫びながら飛び出して、ぐっちゃぐちゃにされたことがある。
しかしまぁ、大損害だな。
「あーあ、逝ったか辺見。お前も運がなかったな」
仰向けに斃れている辺見。その胸には数発の弾痕がある。入射角からして、俺が派手に動き回ったせいでばら撒かれた嵐風型の7.62mmだろう。
「な、なぁ、医療キットをくれ!!」
「あ?」
腰の収納から取りだした救急パッケージから、使い捨ての消毒綿で傷口を拭いていると一人の下請けが声をかけてきた。見れば、後ろで背嚢を枕に一人が浅い息を繰り返している。
「血が止まらねぇ! なんか、なんか、凄いの持ってるんだろ!? あんだけ無茶なやりかたしたってことは、スティムとか……」
ああ、なるほど、コイツら、俺が無茶してるのに保険があると思ってたのか。
スティムパック。マイクロマシンを詰め込んだ緊急医療薬で、一発ブチ込めば内臓が破裂していようが、心臓に傷が入ろうが治療してくれる神の薬。前文明はコイツを大量に作ってはいたが、流石に常備薬の如く配っていたわけではなく、救急救命部署や軍が確保していたため存在こそ有名だが、お手軽に手に入る訳ではない。
「悪いけど、俺が持ってるのはこれっきりだ。知ってるだろ? 一個10円。ただのメディキット限りだ」
「それで、あんな……」
がくりと力を落とす戦友には悪いけれど、俺もあんな一本100円、しかも中身が本物かも分からん物に手ぇ出す財力ねぇよ。
「腹か」
「ああ、苦しんでて……」
「ここはまずいな……フラウ?」
聞いてみれば、後ろで相方が首を振った。
「肝臓が破裂しています。もって、数十分」
「だそうだ」
「そんな! なぁ、頼むよ! 俺が仕事を始めた時から組み始めた相棒なんだ!!」
涙を流して縋られても、どうしようもできんよ。スティムパックがあれば高値で貸し付けてやってもいいが、如何せん持っていない物はどうしようもない。
「おい、おい、意識はあるか?」
「あ、ああ……」
「苦しいか?」
問えば、横たわる男は無言で頷いた。腸が掻き混ぜられてるんだ。苦しくないわけがない。アドレナリンで痛みがある程度抑えられていたとしても、限度って物がある。
「一個貸しだ。楽に死なせてやる」
言って、俺はメディキットをソイツの胸に放り投げた。
「中に鎮痛用コンバット・ドラッグが入ってる。オートインジェクター型だ。ソイツを二本ブチ込めば、楽に逝けるだろ」
「お前!!」
襟首を掴まれたが、俺が赤い目のファインダーを絞ると、ソイツは息を飲んだ。多分、自分でも冷たい目をしているのだと思う。
けど、仕方ないだろ。俺にできるのは殺すことだけだ。結果的に助かったヤツも何人かいるが、死の縁にいるヤツを引き揚げることなんてできやしない。これが手足が吹っ飛んでの大量出血なら、喜んで手を貸してやったが、臓器破裂は手の付けようもないのだ。
第一、スティムパックがあっても、肝臓なんてところがやられちゃ、早晩機械化しなきゃ死ぬ場所だ。
「無駄に苦しませてどうするよ」
「けど……」
「ドタマに銃弾ブチ込むのとドッチがいい?」
「う……うぅ……」
「無駄に苦しませるな。金は取らねぇよ」
力の抜けた手を払いのけ、代わりに言う。
「そんかわし、どっかで俺がくたばり損なってたら同じのを奢ってくれ」
俺達はああならないよう、全力を出して鉄火場に挑んでいる。しかし、どうなるかは分からない。今回もどっかでトチッていたら、俺が同じ目に遭っていた可能性もあるのだ。
いや、俺が失敗して死んでたら、警備ロボに蜂の巣にされてるから、むしろ痛みはなかったか。
ただ、どっかで刺されて無様を冷ますことはあるだろうな。なら、一度仕事を共にした相手だ。後ろ弾やらで邪魔してくれたが、殺したいほど恨んでるわけじゃない。
そして、恨みをぶつける相手がいるとしたら。
「ボス」
「ひっ……」
まだガタガタ震えている、言い出しっぺのボケだろうよ。
「死亡8……ああ、数瀬を含めりゃ9か。あと負傷3、健全5」
情けねぇ。トラウマだかなんだか知らないが、子飼いが殺され、テメェも危なくなっても戦えないたぁ。その全身義体は飾りかよ。
「ボス?」
「あた、アタシ、アタシは……」
「ボケてんじゃねぇよ」
思いっきり尻を蹴り上げてやったら、俺の足の方が痛かった。クッソ、情けなさ過ぎてイメージだだ下がりだったが、やっぱナメてかかるもんじゃないな全身義体。特殊合金の塊だけあって遠慮なく蹴ったらコッチのがイテェよ。
「アンタが頭だろ。最後までケツ持てよ」
「で、でも、ちが、血が沢山……」
「ナメてんのか。テメーの小銭稼ぎで今まで何人死なせてきた? 目の前でちょっと死んでなからってぴぃぴぃ喚くな。中身までガキんなったか」
イライラして思わず銃を抜いてしまった。空の弾倉を抜き、ポケットにバラで突っ込んでいた弾を一発装填し、スライドを引く。
そして、ケツを踏みつけながら脳天に押しつけた。
この女に何があったかは知らん。ご大層な過去があったのかもしれんし、なかったのかもしれん。
だが、俺達を嗾けて、ここまで来た責任だけは死んでも取って貰う。
むしろ、くたばってても取らせる。
「だが、近頃はガキでさえテメェでも尻を拭くぞ。なぁ、言えよ、どうすんだ、進むか、帰るか」
「こっ、怖い……怖い……」
「使えねぇ……まぁいい。フラウ、せめて扉は開けてこう。コイツはケツ蹴りながらでも地上に連れてくぞ。最悪、お前がオーバーライドさせてでも歩かせてくれ」
「足手まといでは?」
「協会との繋ぎがないと面倒臭ぇ」
俺と直結していたケーブルを外し、数瀬の死体を退かしてコンソールを触ろうとした時だ。蹲っていた近藤が起き上がって縋り付いてきた。クソッ、生身を機械の力で掴むな、痛い痛い。
「やめっ、やめよ!? 死んじゃうよぉ!!」
「フラウ、扉の向こうに動体反応は?」
「かなりのプロテクトでセンサーが通りません」
ふむ、なら結構博打だな。俺は弾をほとんど撃ち尽くしたし、戦死者多数で使い物になる奴は、もう残ってない。
ただ、ここで帰ったらアガリは幾らだ? 死んでいったヤツに、お前は大した稼ぎを出したよと言ってやれる額か。
答えは否だと思う。
「何か伏せてたら、自分から開けて出してきてるだろ。フラウ、開けてくれ」
「あぶないよぉ!!」
「黙って見てろ」
銃を額に押しつけ、涙目の斜視を睨み返す。
「俺は死なねぇよ。それより、ここでイモ引いて半端に終わる方が御免だ」
「しな、ない……?」
「ああ。死んで堪るかってんだ。少なくとも、俺は何があってもお前より先に死んでやる予定はない」
「開きます」
軋む音を立てて、大きな隔壁が開いていく。
そして、その向こうに広大な空間が口を開けていた。
そこは車両倉庫だったのだろう。大量の車が停まっており、バイクもある。
そして、その中央。レールの上に鎮座しているのは、巨大な鋼の箱が連結した姿。
「……電車?」
「驚きました。東亜軌条のホ778型……! 多目的迎撃装甲列車!!」
どうやら、俺達は賭けに勝った上、かなりの物を掘り出したらしい…………。
さぁお楽しみ、宝箱発掘タイム。
苦労が報われるかどうか。