崩壊世界のゴミ漁り~ウジ虫からの成り上がり~ 作:Schuld
前文明の列島は、一度民営化とかで鉄道会社の経営が傾いたことがあるそうだけど、リニアの登場と自動運行能力による人件費の削減、経済圏発展による膨大なペイロードを誇る輸送列車需要の更なる高騰になって変わったそうだ。
都市圏を跨ぐ長大な列車網を近代化と共に再整備し、今までは困難だった地盤整備をマイクロマシンの発展によって克服させた後は、メガコーポ達が挙って鉄道に力を入れた。
そして、全土に行き渡った、それこそ海を跨いで他国にまで通じるようになった列車網に目を付けたのは軍だ。
容易に遠隔地へ重装備を輸送せしめるのみならず、緊急時の都市防衛用兵装を作り、それで人口密集地への弾道弾や衛星質量攻撃を防ごうとしていた。
「それが、このくそでかい列車か」
「はい。東亜軌条は大東亜重工傘下の列車製造と鉄道会社系列企業で、大和共栄経済圏の第三位シェア。ですが、軍事分野では頭一つ抜けていますね」
親会社が親会社だけにという通り、滑らかな都市迷彩の車両は、大した軍事知識がない俺からしても、中々どうして頼もしい。
「こいつは何ができるんだ?」
「最大のウリは四両目の超大型電磁投射砲です。艦載砲並の威力で弾道弾迎撃は勿論、純粋な質量攻撃さえ弾き飛ばす迎撃用弾道計算装置が搭載されています。やろうと思えば、同型砲でビリヤードができる代物ですよ」
「ん? ってことは……」
空からそんな物が飛んで来る予定が当面ないだろう、皇国にとってはそこまでの価値がない物なのでは?
「お気づきになられましたか」
「いや、だってこれアレだろ? 戦術兵器ってヤツだろ? じゃあ持て余すんじゃ?」
「兵員輸送には使えますから」
何だか虚しい慰めだなと思いつつ、それよりも目を惹く物に俺は歩み寄った。
車だ。
トラック、高機動車、それから作業車までなんでもござれだ。俺は近藤が乗ってきたのと同型の、オープン型高機動車に乗り込んでみれば、なんと驚くべきことにバッテリーが健在だった。
どうやら、ここは無線給電設備が生きているようで、ご丁寧に充電状態を保って全固体電池が死なないよう見守っていたようだ。しかも、見れば遠くをドローンが飛んでいる。こちらを襲ってこないということは、整備用であろう。
凄いな。軍は整備用ドローンを持っていて、その整備用は同型機を整備できるように作られているから、部品さえあれば何世紀でもメンテを続けるというが、本当にその光景を見ることになろうとは。
「フラウ、これ動くかな?」
「車両は大抵、スタンドアロンですから、軍用でもAIを騙すことは簡単です。有線を」
回線を繋いでやると、数秒してからエンジンが動き出した。凄いな、もう制圧したのか。
「よし、負傷者もいるし、コイツで凱旋と行こう」
「じゃあ、他の車にも接続してください。AIを制圧した後、追随するように命令します」
スタンドアロンなんじゃ? と問えば、緊急車両走行時に道を譲らない不届き者がでないよう、AIに優先度の高い命令を下すシグナルを出すことができるようだ。それを使えば運転手が一人でも車列の綺麗な維持ができらしい。
前文明じゃ運転免許は一応あったそうだが、AI制御の方が千倍安全だし安定しているからな。それこそ、手でハンドルを握るのはAIがイカれた時か、余程の緊急時、それ以外は相当の趣味人だけだったという。
高機動車一台とトラックを掌握し、車列を組んだ俺達は負傷者と戦死者を詰め込み、道々でスクラップや戦利品を載せながら引き揚げた。
後部座席では近藤がびくびくとこちらを窺っているが、もうお前は何もしないで良い。ただ、そうやって座って、組合の人間に口利きだけしてりゃいいんだ。
最後にバッテリーを抜いた、生きているドローンを拾って引き揚げている途中、静かなエンジンのモーター音に交じって声がした。
「何だって?」
「本当に死なない?」
……一瞬、喧嘩を売られたのかな? と思ったが、多分幼児退行の一環だろう。さっきの会話、少なくともお前より先に死ぬつもりはない。そう吐き捨てた言葉の確認であったようだ。
「なんで俺がお前より先に死んでやる必要がある。ざっけんな」
「……そっか」
そこから、近藤は妙に落ち着いて静かになった。
そして、放棄された駐車場に出ると、驚くことに協会の兵隊が表に立っているではないか。
「潜っていた五級共か」
「あー、お疲れ様です?」
おっかなびっくり挨拶してみると、彼は俺を正規のスカヴェンジャーだと勘違いしたらしい。報告書を出せと行ってきた。
「あー、えーと……」
「ヌル、首のチップを」
「え?」
言われて、押せばフラウのスロットからチップが出て来た。塗料が掠れていることからして、ガン・フーのチップを手に入れた夜、クリーンアップしておいた物だろう。
「報告書フォーマットは協会からの依頼文に入っていたので。それと、外部記憶代わりに前から一枚さしておいたじゃないですか」
「そういやそうだった」
それを手渡せば、組合の兵士は中身を見たのだろう。まるで何かに睨まれたかの如く、動きが止まった。
「これは……本当にお前がやったのか?」
「はい? ええ、まぁ……」
「軍用の警備ロボット、普通は五級じゃ手も足もでないぞ。それを21機だと……?」
驚愕の声の後、しばらくそこで待てと言われて、どうしたものかと思いつつ、とりあえず脇に避けてエンジンを止めた。
すると、近藤が言う。
「大きな遺構がね、ある程度捜査されたら、組合から専門の人員が来るんだ」
「専門の人員? 何をするんだ?」
「アタシ達じゃ持ち帰れないような物を持っていって、査定してくれるの」
「……えらく真面目な仕事ぶりだな」
軍用の特別なコードがないと動かせないと聞いたので、列車は駄目かと思ったが、どうやら組合的には、俺達が発掘したという扱いにしてくれるらしい。そして、後日評定を行い、金をくれるそうだ。
そりゃまた豪勢だな。
ただ、これには理由があるそうだ。極めて単純かつ合理的な。
「だって、国をひっくり返せるような物を反体制派が手に入れたら大変だし……」
「ご尤もで」
そういや出会った頃、フラウがなんかおっかねーこと言ってたな。惑星粉砕機構がどうのこうのと。惑星の未来を左右できるほどのブツが発掘されて、それに指を掛けた過激派が交渉してきたら、皇国もそう簡単に制圧できまい。
いや、地侍や野盗共が多脚戦車やエグゾスケルトンを大量に手に入れるだけで十分ヤベーんだから、そりゃ変なところに横流しされねぇよう、率先して正当な値付けをすることで流出を防ぐのは当たり前か。
「そうだ、ボス……いや、近藤」
「な、何? ……ヌル」
何だろう、コイツに名付けられた時以外に初めて名前を呼ばれた気がする。どいつもこいつもザァコザァコと区別も付けずに呼び捨てする女が急になんだ。
「生き残りにゃちゃんと分け前やれよ。元は幾らで集めた」
「……借金棒引きと50円」
「やっす!!」
下請けのスカヴェンジャーが命懸けるにゃ十分な額だが、挑ませるヤマのデカさが違うだろ。こいつ、ホントに……。
「儲けによっちゃ、せめて千円くらいはくれてやれよ。少なくとも弾除けって意味でお前より役に立ったぞ」
「……うん」
「それから、くたばったヤツにも墓くらい建ててやれ」
「……うん」
「何か急にしおらしくなったな?」
大丈夫かと思って振り返ると、近藤は膝を抱えてこちらを見ていた。いつもどおりの酷い外斜視。青い義眼とピントを合わせるため、かなり傾いた顔でこちらを見ている。
「ヌルは死なないんだよね」
「だから何だよさっきから。アオリか? 喧嘩売ってんのか?」
「そうじゃなくて……なんでもないよ……」
膝に顔を埋めて黙る近藤。本当になんだ。気色悪いぞここまでくるぞ。
胡乱な物を見るような目で見ていると、組合の職員が後日沙汰を出すので、今日はそのまま帰れと言われ、トラックと車は買い取って欲しいというと、その場で引き受けて査定に入れてくれることになる。
いや、便利さから手放しがたかったけどさ。こんなもんキシワダ・ベイサイドに停めといたら五分後には盗まれるか、バラされて部品盗まれまくるかのどっちかだし。
近藤から解散の指示が出て、組合の査定は平均五日で終わるそうなので、五日後以降に塒に来るようにと予定が決められた…………。
昼寝がガチ寝に化けました……。
協会はシビアですが金払いは悪くありません。
特に兵器に関しては。
余所に流されるくらいなら金出した方が安全保障になるという話。