崩壊世界のゴミ漁り~ウジ虫からの成り上がり~   作:Schuld

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 頭の側面で銃弾が弾けた。

 

 鼓膜が痺れて痛いが、もう少し下で撃たれていたら破けていたのでマシだ。

 

 一方で、俺は引き金を引かない。右手に持った銃は、相手の左手に押し出されて腹への狙いが完全に逸れている。今撃っても弾を無駄遣いするだけで、アドバンテージを喪うからだ。

 

 ガン・フー使い同士の白兵戦は、幾何学と立ち位置の取り合いであると同時、ほんの数cmのズレが物を言う読み合い。

 

 銃を持つ手、こちらを見る目、立ち位置、姿勢、全てが有機的に組み合わさって危害半径予測は役に立たないほど、死地と安全地帯が目まぐるしく入れ替える。

 

 端から見ていれば、お互いの銃をペチペチ弾き合っている間抜けな様相に見えるやもしれないが、これは死のダンスだ。

 

 選択を誤れば0.1秒後に弾丸が体にめり込む踊り。

 

 いわば、互いにガン・フーを用いる戦闘というのは、それぞれの拳一発が致命傷となり得る殴り合いをワン・インチの間合いで絶えず乱打しあっているのに近い。

 

 それ故、互いの睫の数でも数えられそうな間合いを取りながら、少しずつ優位な位置を取れるように動きつつ銃を突きつけ合う。

 

 もちろん、馬鹿正直に受け止めちゃいけない。

 

 銃にはリコイルってもんがある。特に義体化によって大口径の銃が扱えるような相手は、その反動を利用して跳ね上がる銃身で、弾きに来た腕を逆に逸らしにくることもあるからだ。

 

 上から抑え付けるように下げられていた右手の手首を返し、拘束から脱しつつ動かす。一撃で殺せるのが理想だが、銃ってのは体のどっかに当たれば激痛と出血で動きを止められる。 

 

 だから無理に頭部に固執する必要はない。

 

 腕の高さからして最も近いのは腹だが、ここは動きの基点だけあって半身に開くなどで簡単に回避される。

 

 だから足だ。左足の太股に銃口を向けて引き金を引いたが……弾は虚空を掻き混ぜた。

 

「なっ!?」

 

「インストラクションだ。重心は達人なら簡単に偽装できる」

 

 言いつつ額にポイントしようとする銃口を手の甲で左に払い、同時に首を傾げることで弾を回避する。クソッ、インナーマッスルの操作と微妙な体重移動で、左に重心を置いていると見せかけて軸は右か!

 

 回避のために持ち上げた膝が、そのまま俺の右手を叩く。

 

 ガン・フーは何も銃だけが全てではない。インファイト、お互いの手が届く間合いにいるということは、五体全てが武器であり防具。クソッ、迂闊に膝を自由にさせすぎた!!

 

 銃が弾き飛ばされ、体が泳いで半歩後ろに。突きつけられた銃はしゃがみながら足払いを放つことで辛うじて逃れたが、向こうも一歩飛んでしまった。

 

 間合いが二歩分。手は届かない。向けられた銃は、俺の好きなところを狙える。

 

「悪くない。C評価だ」

 

「ファック」

 

 弾け飛ぶ頭。まぁ、仕方ない。こちらは無理な回避からの一か八かにかけた攻撃で体勢は崩れきっており、大きく回避することは不可能。

 

 即ちゲームオーバー。

 

「君の順応は驚嘆に値する。熟達したガン・フーの使い手、その中でも特級のクラリック相手でなければ、最早何が起こったかも分からず殺傷する、あるいは無力化することができるだろう」

 

 死亡判定を喰らった俺の周りを、態とらしい拍手をしながら彷徨くインストラクターNPC。ただ、かなりいい疑似感情系を使っているのか、肯定感と同時に屈辱を与えてくるのがマジで腹立つ。

 

 何かなぁ、顔か? それとも声か? どっちも純粋に褒めているようなのに、どこか小馬鹿にした雰囲気が混じっているのがマジで苛つく。

 

「ただ、格闘メソッドがお粗末だ。とはいえ、無理もない。ガン・フーは究極の白兵戦複合技能。ただ愚直にガン・フー練習をすればいいわけではない」

 

 何じゃそりゃ! と怒鳴りたくなったが、死体に文句を言う権利はない。

 

 それと、たしかにパラミリ仕様のエグゾスケルトンや重装型の警備ロボットであれば、一対一、調子がよければ一対三くらいまでなら捌けるようになってきた。

 

 だが、俺はこのインストラクターに一発とて掠らせることができていない。牽制で放った蹴りの一発、フェイントの一度ですらだ。

 

 つまり、コイツの言う通り地力の不足……。

 

「だからこそ、私は君にC判定を出したクラリック。君はもう、十分な求道者だ」

 

 じゃあなんだ、そのニヤケ笑いが似合う面にも、小太りで全く強そうに見えない偽装の体にも一発ブチ込まずカリキュラムは修了だってのかよ。

 

「そこで、君に補講を提案する。ガン・フー、その更なる高みに登る、最強に至る道筋の横道でありながらにして、最短距離」

 

 横道なのに最短距離って何だよと思っていると、視界が白んできた。強制ログアウトさせられる時の気配だ。

 

 ああ、これはあれだ、中級インストラクションをクリアした時と同じ。

 

 俺が何かの条件を達成して、イベントが始まるんだ。

 

「また君に会えることを待っているよ、クラリック」

 

 そうして弾き出されると、啾々と雨が降る塒に意識が戻ってきていた。

 

 天を仰ぐようにハンモックに寝転がっていた俺は、いつも通り直結したフラウを腕枕してプログラムに潜っていたのだ。

 

「フラウ、何だ今の」

 

「……マスター、やはり貴方は運が良い」

 

 どういうことだと顔を向ければ、整った顔と青い目がこちらを見返してくる。

 

「ガン・フーは総合白兵メソッド。その上、前文明においては全環境に適応できる達人を育成することを目的に構築されました」

 

「そりゃ分かってるよ。現にそのおかげで、俺は五日前のヤバイ山を生き延びられた」

 

「ですので、極めるための他のカリキュラムが組まれています」

 

 ガン・フーだけだとしたら、妙にデータ容量が重いと思っていましたというフラウに真意を問えば、これから俺はガン・フーだけではなく、様々なテクニックを習得する必要があるという。

 

 そして、そのためのプログラムも既に叩き込まれているわけだ。

 

「基本的な白兵戦、ナイフ戦、中~遠距離射撃基礎、それと隠行からパルクール。ガン・フーのレベルが一定に達したら一気に解放されました」

 

「……じゃあ、なんだ、これお得詰め合わせセットだったって訳か?」

 

「いえ、そういう訳でもありません」

 

 前文明に詳しい彼女の言うところによれば、こういった一つのチップに複数の能力強化プログラムがインストールされているのは、特段珍しいことではないらしい。

 

 軍隊は一つの道具で多くの問題を解決したがる。これはガン・フーが本来の意味で活躍する、閉所強襲などが多い対テロ戦闘を担っていた特殊部隊や官憲でも同じで、彼等としては〝ただのガン・フーが使えるだけの人材〟では不足。

 

 それ故、敢えてガン・フーそのものの難易度を極めて高くした上、基礎を固め終わったあとで、様々な状況に対応できる人材に育成する方針を採るそうだ。

 

「勿論、安物のチップでは、ここまでの機能を抱き合わせにすることはありませんよ。特に隠行やパルクール。これは恐らく外務省のパラミリ(準軍事)エージェント(工作員)向けに構築されたのでしょう」

 

「パラミリ要員? 何でそんなヤツにガン・フーが要るんだ? ドンパチするかもしれない、情報仕入れ要員とかだろ?」

 

「マスター、大和共栄経済圏は大規模な企業連合国家ですよ。むしろ、外務省が秘密裏に行う国外の非対照、非合法戦闘にこそ力を入れる必要があったのです」

 

 あー、そういえばフラウが教えてくれたな。戦前のこの国は、代理戦争をやらせて需要を促進し、経済圏を拡大すると同時、余所が燃えることで増えた需要を食っていたと。

 

 ってことは、都合の良い誰かが死んでくれたり、死なれちゃ困る誰かを守る必要がある。それが外務省とかいう、他の国と連携する組織の仕事だったのだろう。

 

 ならば、ガン・フーは正に最適だ。

 

 単騎で凄まじい戦闘能力を発揮できると同時、大仰な仕掛けは要らない。それこそ最新型の反動軽減機構搭載の火力が伴った銃を使えば、生身でもガン・フー自体は理論上、あらゆる敵の撃破が可能だ。

 

 まぁ、俺にはどうあっても、素の計算でアレができるとは思えないけど……インストラクターは生身の設定だったんだよな。化物もいるんだろうなぁ、多分。

 

「じゃあ、アレか、不死身で最強のガン・フー遣いを育成するのが、本来の趣旨なのか」

 

「それが蓋然性が高いです。というよりも、通常の技能インストーラーなら、ここまでみっちりやることは希かと」

 

「でもさ、ただ型を覚えただけじゃボクシングの達人になれないのと同じで、基礎を叩き込むため仮想空間で体動かすのは一緒じゃ?」

 

「民間用で、普通に軍事規格の敵を倒せるようにはしませんよ」

 

 あ、そっか、言われてみれば納得だ。元から前文明はサイボーグ犯罪が増えていて、それがモチーフのドラマシリーズだってあったくらいだ。となると、そんな連中が基礎だけでもガン・フーを修めたら統治機構としちゃ悪夢だろう。

 

 おいおいマジか、運が悪いと思っていた俺だけど、まさか色々取りこぼしてるだけだったなんて。

 

 ははっ、幸せの青い鳥は近くにいるって、映画でも言ってたモンな。なんで鳥が青くて幸せなのかは分からんが。

 

「よし! じゃあ他のカリキュラムを……」

 

「いえ、マスター。そろそろお約束の時間です」

 

「っとぉ」

 

 俺はこの五日間、近藤から報酬を貰えると聞いた阿呆が寄ってこないよう、敢えてキシワダ・ベイサイドに行っていない。そして、五日間、三桁近く殺されながら延々と技能インストーラーを熟していた。

 

 くそ、興味が勝つが約束の時間に遅れるのもよくない。

 

 俺は少し後ろ髪を引かれながらも、フラウとの直結を解除した…………。




キャラの元ネタが分かる人がいると嬉しい。はい、例の映画で全く強そうに見えなかったのに激強だったギャップで驚いた総裁です。
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